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閑話休題1「ユリコとアスカ様の異世界海浜リゾートなう」⑤

「え、えっと……お気に召していただけなかったのでしょうか?」


 二人揃って、難しい顔でこのイルケリオンの串焼きの価値について、思案にくれていると、恐る恐ると言った様子で、エルレイン女史が尋ねてくる。


 もっとも、アスカは大きく首を横に振って、全力でエルレインの言葉を否定する。


「まさかっ! 美味すぎると、感動していたのだ……。であるよな? ユリコ殿」


「うんうんっ! マジ最高だった! イカの塩焼き……古代地球のお祭りの定番メニューで、たこ焼きに並ぶ定番メニュー……なんだけど。わたしが食べたイカ焼きはイカ風味のなにかだった……それくらい言い切っていいよ!」


 確かに……アスカがかつて食したイカリングと称するリング状のイカのフライは、こんな風にプリップリな歯ごたえは無かったし、言ってみればスポンジのような食感だったのだ。


 例えるなら、イカ風味のハンペン。

 

 それがこの時代、流通していた代表的なイカと称する合成食材であり、ユリコの言うイカ焼きもそのイカ風味ハンペンを焼いただけの代物だった。


 そして、それをフライにしたものがイカフライと称して食されており、それを食べた者の多くは……美味いか、これ? と素朴な疑問を呈することとなり、アスカもその一人だったのだ。

 

 もちろん、別に食べられないほど不味くはなかったのだが、好き好んで食べるほどでもない。

 

 なにぶん、合成食材と言うのは、そのようなものばかりで、あくまで代用食材であり、天然食材には遠く及ばないのだ。


「そして、これが真なるイカ……いや、イルケリオンか。いやはや、これはもう銀河……いや宇宙最強レベルと言っても過言じゃないね! ううっ! うっまーっ!」


 そう、ここが銀河系の外側ということはすでにアスカもユリコも周知の事実であり、となるとこれはもう銀河どころか、宇宙規模……という事である。


 実際、少なくとも銀河を統べる立場だったアスカですら、ここまでのモノは食べたこともなく、そこはユリコも同様だった。


「……うん、これは……美味しいね! いや、本気でこれ最強かもしんない! うっまーいっ!」

 

 さらにもう一切れ口にして、改めてその美味しさを噛みしめるように、絶賛コメントを続けるユリコ……。

 

 元々食べ物には目がなく、復活後もなんだかんだ理由を付けて、アルヴェールの料理店巡りをやったり、各地の名産品を取り寄せた品評会の主賓として招待されて、今代の帝国の贅沢料理の数々を味わい、この時代の料理を見きった等とも言っていたのだが。


 ユリコは改めて、美味の可能性という物をしみじみと実感し、ここに来て本当に良かったと、感動の涙を流しそうにすらなっていた。


「……大絶賛であるな。いやはや、美味い馳走をいただき感謝するぞ。ところで、そこの船にはそのイカ……イルケリオンだけでなく、他の本日の獲物も積まれているのであろう? 少し見せて欲しいのだが、構わんか?」


 アスカの言葉に、ユリコもぱぁっと目を輝かせる。


 アスカも、むしろイルケリオン以外の食材が気になってしょうがなかった。

 漁民達が、仕事明けの一杯のつまみ代わりにする……イルケリオンの扱いはそんなもので、割りと日常的に食べられているものだと想像できたのだが。


 その時点でこれである。

 

 そうなると、まだ見ぬスーパーグルメ天然食材があるに違いないと、アスカもそう見ていたし、ユリコもそこはすぐに理解した。

 

 クローンとそのオリジナルだけに、その辺りはまさに以心伝心。


 いかんせん、帝国はまともな海のある惑星については、エスクロン以外は一つも所有しておらず、海産物の天然食材ともなると、屋内や無重力環境で、地球の海を再現した養殖環境の養殖物一本だったのだ。


 もっとも、そんな自然の海の一角を海産物の生産の為に専有するなどという贅沢な真似は銀河連合諸国の食料生産国でもやっていなかったし、海のある惑星と言ってもその海の成分組成は地球とかけ離れている事が多く、地球外生物にしても地球由来の人類が食べられるものではなかったのだ。


 それ故に三十一世紀の銀河人類が知る海産物については、二十一世紀の頃のような天然の海産物と比較すると、かなり見劣りすると言うのは事実だった。

 

 自然環境……それも地球由来ではない未知の海産資源……恐らく入門編であろうイルケリオンの時点で、この調子なのだから、他にもあるとなるともはや、アスカ達には予想もつかなかったし、まだ見ぬ至高のグルメの可能性を感じたことで、二人のテンションは嫌がおうにも跳ね上がっていた。


「そりゃ構わんが……。イルケリオン以外は、あんまり売り物になるようなのは網にかかってなくてなぁ……。このまま、まとめて海に捨てるつもりだったんだが。興味があるなら、好きに見ていってくれ」


 漁民達から許可もおりたので、二人共遠慮なく小舟の中身を見聞することにしたようだった。

 

 そこには、網からこぼれ出た様々な海産生物が転がっていたのだが。

 早速、ユリコが良いものをみつけたようで、網に引っかかっていた刺々しい物体を一つを掴み上げる。


「おおおっ! これは幻の食材……ウミウニーっ! 確か陸ウニの原種って話で、幻の生物なんだよ!」


 ……棘だらけの謎生物……アスカの認識では、そんな感じの代物だった。

 

 なお、アスカにとってのウニとは、地面にばらまいて、キャベツの切れ端でも撒いておけば、勝手に育って、勝手に増える陸ウニと呼ばれる短く丸い棘状の触手を持つ生物の事だった。

 

 要するに、遺伝子改造生物の一種なのだが。


 過去の惑星エスクロンには「ウニファーム」と呼ばれる陸ウニ養殖専門の食材販売業者が存在し、それもユリコのお気に入りだったという理由で300年間老舗企業として生き残り、アスカもよく知っていたのだ。


 なお、本物のウニ同様、その殻の中身が食用になるのだが……。

 基本的に、すり潰してソースにした上でパスタに絡めたり、寿司ネタの風味付けに使うのが定番で、ウニ飯と言うウニソースを混ぜて炊いたご飯物などもあった。


 ただし、陸ウニは本来海洋生物であるウニを陸棲に改良したトンデモ生物であり、元々はスペースコロニーや、宇宙船と言った長期閉鎖環境での残飯処理用として、古代エスクロン人が開発したと言う経緯のある生物で、食用として開発されたものではないのだ。


 故に、本物を知るものが食せば、これ違うと絶句する……そんな怪しげな生物の一つであった。


 何故、そんなものが作られたのかと言う経緯については、よく解っていないのだが。

 元々ウニ自体が海が荒れても、なんでも食べて最後まで生き残るような強靭かつ悪食な生物であり、その生態故に遺伝子改造生物のベースに使われたのではないかと言われていた。


 ユリコの時代でもどちらかと言うとゲテモノ食材扱いされており、その辺りはアスカの時代でも同様で、むしろ残飯処理生物のイメージの方が強かったのだ。


「ああ、陸ウニの海バージョンか。私もそれなら解るぞ。ウニポーションの原材料だったかな」


 なお、ウニ味もシーフードの味としては定番のひとつで、ポテトチップスの味にもなっているほどには有名なのだが……。

 

 それが元は地球の海棲生物だということまで知っている者はそう居なかった。


「そそっ! それだよそれっ! けど、本物のウミウニを見れるなんて……これ絶対美味しいやつだよ!」

 

「うむ、陸ウニなら知っているいるが、ウミウニ等と言うものがいるとは知らなかった。そうなると、陸ウニの海中適応種と言ったところかな? さすが、地球外惑星であるな」


「逆だよ! 逆っ! ウニファームの陸ウニは水のないところでも育つようにした魔改造生物なんだけど、ウミウニは元祖! 本家本元! これが美味しくないはずがないよ!」


「えっと……それは、バンゲリクと呼ばれていて、棘だらけで硬い殻をまとっていて、何の利用価値もなく、むしろ勝手に網に絡んできて、撤去するのに苦労するような海の厄介者なのですが……。毒は無いみたいなんですが、食べることは……ないですね。そもそも、何処を食べるのです?」


 エルレイン女史や漁民達はそう言う認識だったようで、恐る恐るといった様子で逆に尋ねてきていた。


 よく見ると、網のあちこちに絡みついていて、砂浜にも無造作に放り投げられていたり、本当に邪魔者扱いされているのがよく解るのだが。


 ユリコに言わせれば、もったいないの一言だった。


「ふむ、この世界の贅沢食材には驚かされてばかりだったが。今度は我々が驚かすとしようか……」


 そう言って、いたずらっぽい笑みを浮かべるアスカ。

 確かに、今のところアスカの味わったこの世界の食べ物を帝国の食べ物を比較すると、全戦全敗と言った調子で、アスカもユリコで行く先々でカルチャーショックを受けっぱなしだったのだ。


 銀河文明も食の探究は負けていない……ここらで、その程度やってのけないといかんと、アスカも思っていたのだった。


「そこ見切ったーっ!」


 ウニと格闘していたユリコが唐突に腰に差していた剣を抜き、器用にその殻の頂点部分だけを切り開く。


 そして、手際よく目立った棘を切り落とすと、恭しい手付きでアスカに差し出す。


 毒とか大丈夫か? ともアスカも思ったのだが、ユリコは一瞬だけ考えて、一切ためらわずにその中身を指付けて、ペロッと一口。

 

 問題なしとでも言いたげに、バンバンと膝を叩いて、親指を立てて、美味しさを身体で表現した挙げ句に、ニッコリと微笑んだ。


 図らずも毒見役を押し付けたようになってしまったのだが、現地人が食べないものを敢えて食すというのは、なかなかの勇気だとさすがユリコ殿とアスカもその日何度目になるか解らないような賛辞を送る。


「どうぞ、アスカ様……毒見は済ませておりますので、遠慮なくペロっとやっちゃって! ちなみに、味はウニファームの陸ウニを軽く超えてるって保証するよ!」


 ……生ウニ。

 ウニポーションを使った陸ウニスープはなかなかに悪くなかったとアスカも覚えていたのだが……生のウニとなると、なかなかに微妙だった。


 なお、ウニファームは、生陸ウニの軍艦巻き寿司と言う古代日本の贅沢メニューを再現していたのだが、知る人ぞ知るゲテモノ料理扱いされていた。

 

 もっとも通販NG、現地限定メニュー、季節も旬があるとかで限定と、選ばれし者の特権……にしては、ゲテモノ扱いだった。


 アスカの立場なら、ひと声かけるだけで、向こうから産地直送で一流料理人付きで馳せ参じる……アスカにはその程度には権威があったのだが。

 

 そこまでして食べる価値があるようには思っておらず、ユリコゆかりの企業だとは知っていたが、そんな事で皇帝権限を使っていては、業者にも悪いと思っていたのだ。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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