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閑話休題1「ユリコとアスカ様の異世界海浜リゾートなう」②

「そっかー。あ、でもでも! そう言う事ならむしろ、海に潜ってお魚捕まえたりとかしたくない? 市場にだって色々売ってたし、こう見えて、惑星エスクロンでサバイバル生活だってやったことあるから、海に潜ってお魚ゲットくらいたぶん出来るよ! やろうっ! そして、ワイルドに生で丸かじる! 絶対美味しいって!」


 ……まるで根拠のない自信なのだが。

 さすがに、ワイルドが過ぎるというものだった。


「いやいやいや、そんな簡単なことではないだろうし、そもそも海棲生物に限らず、食べ物をそんな生で食べて良いものではないだろう?」


「ちっちっち、解ってないねぇ……。食の伝道師……永友提督が昔、高級天然ツナ用の養殖冷凍マグロを熟成解凍ってスゴ技使って溶かした上で、刺し身料理って古代料理を披露してくれたんだけど、めちゃくちゃ美味しかったのよ。VRグルメダイブで何回かそのお刺身をVR再現して食べてみたんだけど、あの本物には全然及ばなくてねぇ……。ここなら、もしかしたら、もしかしたりとかしない?」


 31世紀の銀河世界において、基本的に食べ物は生では食べないというのが常識ではあった。

 

 ここはユリコ達の27世紀の頃からあまり変わっておらず、肉についても奥までガッツリ火を通したウェルダンで食べるのが基本で、表面だけ焼いたレア焼きですら、調理AI達は衛生的に問題があると称して、まったく推奨していなかった。


 それでも、永友提督の啓蒙活動が功を制して、一時期は肉の焼き加減の追求をする料理人もいたのだが。

 

 永友提督が表舞台から去ってしまうと、徐々に元に戻ってしまい、31世紀の肉料理はがっつりこんがりウェルダンが基本となってしまったのだ。


「なるほど、新鮮な魚介類ならば、種類によっては生でも食せるのか……確かに、ギャロップの串焼きも表面だけを炙ることであの素晴らしい味を実現していたのも事実であるからな。鮮度が命故に、現地の生産者くらいしか食べる機会もない……だからこそ、知られざるグルメ……そう言うことなのか。エルレイン市長殿、どうだろう? 生魚……刺し身料理とやらをご用意いただくことは可能かな?」


 そう言って、アスカは傍らに控えていて、ここまで案内役を務めてくれていたエルレイン市長に尋ねる。


 なお、彼女は港湾都市ルペハマの市長であり、代表者でもあった。

 

 アスカの表敬訪問に対し、まさか本人が直接来るなどとは思ってもいなかったのだが。

 その知らせを聞くなり、自ら案内役と歓待をすると言って、案内役を買って出て、二人と共にルペハマ各地を巡り、ルペハマ最大の目玉と言うことで、ルペハマ港に隣接する砂浜へと案内したところだった。


 まぁ、アスカ以上にユリコに振り回されっぱなしだったのだが。

 その程度のことでは怯まず、疲れ一つ見せない程度にはタフな女性で、今も終始ニコニコ笑顔を絶やしていなかった。


「はいっ! アスカ様……本日はお日柄もよく……えっと? さ、刺し身料理ですか? そ、そうですね……漁師たちの船上のまかない食でそう言う料理が確かにあるにはあるんですが。あまり一般的ではないので……。でもでもっ! ご要望とあれば、ご用意させますよ! 何と言っても、アスカ様のご要望ですからね!」


 メガネを掛けた団子結びの才女といった知的な雰囲気のエルレイン女史だったが、今回のアスカの訪問については、諸手を挙げての歓迎の姿勢を見せ、アスカが提唱した「神樹を崇め、その恵みを享受し感謝の祈りを捧げる都市国家同盟」……略して「神樹同盟」についても、即答での参入を決めていた。


 なお、都市国家同盟とか言ってはいるのだが。

 要するに、都市ごとアスカの配下としてその庇護下に下ると言う意味であり、すでに旧ホドロイ子爵領のオーカス市、旧バーソロミュー伯爵領のアイゼンブルグ城下町は、その同盟に参入しており、オズワルド子爵領の最大都市ブラカリス市や、カザリエ男爵領のスワロウ市なども同様に傘下入りを表明しており、この時点で神樹の森に接する最北端のすべての街がアスカの勢力下に下っていた。

 

 そして、北方貴族の筆頭だったバーソロミュー伯爵が消えたことで、他の北方貴族達も続々と同盟への参加を希望し、その勢力拡大はもはや誰にも止められないほどの勢いとなりつつあった。


 アスカ自身は、ゆくゆくは実力で、王国所属の都市国家全てを自らの傘下に納めるつもりでいて、自らの国を神樹帝国と称していたのだが。


 帝国という単語に妙な反発を覚えるものが多く、そう言う事ならと、その公式名称自体はマイルドなものとし、緩やかな同盟という建前で傘下都市を増やしていく……アスカとしてはそう言う戦略で行くことにしたのだ。

 

 元々、神樹教会が水面下で地ならしを進めていたことや北部貴族の多くが、バーソロミューの顔色を伺って、日和見を決め込んでいたのは紛れもなく事実であり、北方貴族の中でもバーソロミューのライバル格でもあったオズワルド子爵がアスカに臣下の礼と共に迎え入れられたと言う話についても、オズワルドが意図した通り貴族の間で一気に広がり、例え王国貴族であってもアスカは臣下として受けれてくれるとの評判が立ち、続々と傘下入りを表明するようになっていたのだ。


 当然ながら、公爵、侯爵と言った大貴族や王家に連なる門閥貴族たちは、北方の王国貴族達が次々と貴族の爵位すらもかなぐり捨てる勢いで、アスカのもとに集い始めているという、この事実に猛烈に反発し、国王にアスカを王国の侵略者として、ライオソーネ条約の発令の上で連合軍を組織し、討伐すべく陳情を上げていたのだが。


 老い先短い国王は、アスカに逆らう事は神樹様に逆らうことと同義であり、そんな事をすれば、死後の安寧を得られないと、神樹教会の大司教から吹き込まれており、それらの陳情を完全に黙殺することで、現状を傍観し、アスカに敵対するものこそ、国賊であるとまで言い出したことで、大貴族たちの思惑は完全に空振りに終わってしまった。


 そして、ルペハマについても、大陸最大規模の港を擁することで、アスカはルペハマが今後、神樹同盟にとっても重要な戦略拠点となると想定しており、その事についても、すでにエルレインに伝えていた。


 アスカの意思を受けて、エルレインは港湾の無期限租借使用権をアスカに与えると公に宣言しており、それと共にアスカの配下入りを自ら公言し、早速忠臣っぷりのアピールに余念がなかった。


 なお本来は、エルレインの父親でもある前市長がこのルペハマを仕切っていたのだが、その裏ではバーソロミュー伯爵や大貴族たちとよろしくやっていて、ルペハマは腐敗と貧困の温床になっていたのだ。

 

 もっとも、その前市長はシュバリエ市にて神樹帝国の建国が宣言されてから、そう間もないうちに、何の前触れもなく突然死し、エルレインがその後を引き継ぐ事となった。

 

 前市長の死因は就寝中の心臓発作による突然死とはなっていたのだが……。

 

 元市長は恨みや敵意は盛大に買ってはいたが、それなりに自分の健康には気遣っており、「エリクシール」と呼ばれる炎国製の万能薬を愛飲しており、突然死するような心臓の病など兆候すらもなかったのだ。


 だが、実際に元市長は、眠るように息を引き取っており、その夜はもちろん、前日にも誰とも接触しておらず、間違いなく病死と認定される状況ではあったのだが……。


 ルペハマの住民たちは誰もが前市長の独裁と搾取、そして間接的なバーソロミューの横暴に苦しめられており、元市長の突然死はむしろ、朗報として喧伝される事態となった。


 その上でその実子たるエルレインの市長就任には、誰もが諸手を挙げて歓迎の意を示し、彼女もその辣腕と言える政治的手腕を駆使することで、元市長が築き上げてきた民衆から搾取する事ばかりしか考えていないような制度や税制を一度完全にぶち壊すことで、その支持に応えてみせたのだ。

 

 そして、それまでのバーソロミュー達とのお付き合いを全て絶って、その対抗勢力の筆頭格にして、お隣の貴族オズワルドと渡りをつけた上で、その庇護下に下る密約を交わし、正式に独立都市として王国同盟からの離脱を宣言した。


 結構な無茶だと思われるのだが。

 元々、先代市長は、王国最大規模の港湾都市を牛耳っていた大商人でもあり、国内に対抗出来るだけのライバル商人などもおらず、それでいてバーソロミューの支持者として貴族たちの間でも名を知られ、莫大な資金援助も行っていて、貴族と同等の権限を持つとされる「特別商人」の名誉称号と特権を得ていたのだ。


 もっとも、その資金を得るために民衆に高額な税を課したり、裏で高利貸しを営んで暴利を貪るなど、割りとやりたい放題やっていたのだが。


 シュバリエにてアスカが神樹帝国と言う独立国を立国したのを見て、エルレイン女史は機は来たれりと判断し、兼ねてから密かに計画していた前市長の暗殺計画を実行に移した。


 その手口は功名で、まず万能薬として知られるエリクシールは、元々栄養ドリンク程度の薬効しか無く、ラース因子を体内に蓄積し、最終的にエインヘイリアル化させると言う毒薬のようなものだったのだが。


 特定の植物由来の成分を混ぜることで、エインヘイリアル化するのではなく、心臓に過負荷を与え、心室細動と呼ばれる症状を誘発することで、確実に対象を殺す……遅効性の毒薬となることをエルレインは独自の研究で突き止めていたのだ。


 当然ながら、この方法は毎日のようにエリクシールを飲んでいなければ、何の意味もなかったのだが。


 前市長は炎神教団の司祭たちやバーソロミューから、無病息災長寿の薬などと勧められ、ぼったくりも良いところの暴利価格にも関わらず、せっせと買い付けて……。


 エルレインも、自ら炎国のエリクシールの買付業務を行い、飲み忘れがあると指摘して、一日たりとも欠かさずに飲ませ続けることで、前市長を確実に死の運命へと導いていた。


 そして、その上でエルクシールを毒薬に変貌させる薬草として知られている花の種を煎じた茶を少しづつエリクシールに混入し、静かに……そして気長にその日の訪れを待ち続けた。


 そして、ある日……彼女の父親にして元市長は、自らそう気づかないまま、蓄積性の毒を摂取し続けた事で、ある夜、眠ったまま突然死した。


 まごうことなき計画殺人ではあったのだが。

 エルレイン以外は、それが計画殺人だと誰も知る由もなく、何よりも証拠もなく、まさに完全犯罪が成立したのだった。

 

 その上で、傍目には肉親に死なれ涙ながらにその跡を受け継いだ悲運の娘を演じることで、誰からも疑われず、文句ひとつ言われる事なく、その実権と財産を全て引き継ぎ、特別商人の称号と特権までも受け継ぎ、シレッとバーソロミューを裏切り、そして、今や当然のようにアスカの配下入りを実現させてしまったのだ。


 要するに、恐ろしく狡猾な立ち回りで、その統治についても、オズワルドと言う近隣でも有数の軍事力という後ろ盾を得た上で、元々独立都市と言う建前だったのを良いことに、王国へ収めていた上納金をもスパッと打ち切り、それで浮いた資金を元手に大幅な減税を行った事で、市民たちから圧倒的な指示を得ることに成功していたのだ。


 その上、アスカ本人とも渡りを付けて、正式にその庇護下に入ったことで、エルレインにとっては、まさに計画通りと言え、この期に及んでアスカに敵対しようとしている者達がいることについては、風向きも読めないバカは皆、死ねばいいのに……とまで思っていた。


 要するに、若く可愛らしい見た目ながらも、実の父親を平然と毒殺し、魑魅魍魎の跋扈する王国貴族社会を平然と手玉に取ったスーパー腹黒女でもあるのだが。

 

 アスカも薄々彼女の狡猾そのものと言った本性に気が付きながらも、この手合は自らに利がある限り、決して裏切ることはなく、こう言う癖のある人材を活用してこそ、君主の器とも思っていたので、そこは全く問題にしていなかった。

パッと出キャラのエルレインさんですが。

今回の書き下ろしの為に作った即席キャラです。


本来、ルペハマ市長はもっと無個性で、おっさんなモブ市長になる予定でしたが……。

……なに、この女夜神月。(笑)

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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