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銀河帝国皇帝アスカ様、悪虐帝と呼ばれ潔く死を遂げるも、森の精霊に転生したので、ちょっとはのんびりスローに生きてみたい  作者: MITT
第三章「銀河帝国の逆襲」

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第四十六話「帝国の逆襲」⑤

「畏まりました……では早速、アスカ様の捜索計画についての報告を始めさせていただきたいと思います」


 言いながら、空間投影モニター上に銀河系とその周辺系外銀河の位置関係図や、ユリコの視認データから再現された銀河系の外観図などが投影されていき、それらはたちまち膨大な数となった。


 それら、凄まじい数の資料データに囲まれながら、ヴィルゼットも何処からともなく、メガネを取り出し、スチャッとかけるとレーザーポインタ付きの指示棒を取り出す。


 まぁ、典型的な理系のプレゼンテーションと言った様相なのだが。

 ヴィルゼットは、れっきとした帝国の科学技術大学院卒の理系エリートでもあるのだ。


 この様式美は、もはや帝国科学者陣の代表者とも言える彼女のアイデンティティの一部となっており、当然の所業だった。


「まず先だって受領したユリコ様の視認記憶データの画像分析の結果、アンドロメダ銀河と天の川銀河の位置特定に成功しております」


 そう言って、星空の中でも特に密度が高い楕円形の雲のようなものを指し示す。

 そして、かなり広い範囲に渡って、赤線で囲いが表示され、同時にそこに銀河系を示す「Galaxy」と言うタグが表示された。


「……ふむ、この雲みたいなのが……天の川銀河だってことかな? 思ったよりもはっきり見えていたんだね。と言うか……こんな風に天の川銀河を外から見るって、前代未聞じゃないかな?」


「はい、前代未聞ですね……。予想外観図などは過去にも作成された事はありましたが、あくまで想像の産物で、リアル観測映像データとなると、前例もないです。実際、この映像の詳細分析の結果、イータカリーナに代表される銀河系の高照度恒星についても、複数観測出来ており、これが天の川銀河なのは間違いありません」


「そうなると、アスカくんも懸念していたようだけど、彼女のいる惑星は系外銀河の惑星だという事で間違いないんだね」


「はい、そう言うことですね。そして、その所属星系についても特定出来ており、天の川銀河の伴銀河の一つである大マゼラン雲の一角……タランチュラ星雲の一星系だと断定されています」


「大マゼラン雲……んっと、アレ……そうだよっ! 確か一番近くの系外銀河じゃなかったけ? それなら、すぐ近くだよね」


「そだよー。でもまぁ……ここは黙ってヴィル先生の講義を聞いてようね」


 なにぶん、帝国の序列で言うと、ユリコはゼロ皇帝の次くらいの発言力があり、本来ならば彼女が何かを言い出すと、ゼロ皇帝以外は止められないのだ。


 ヴィルゼットも、そこは解っているので、ユリコが何か言う度に丁寧に対応していたのだが。

 同時に話の腰を折りまくりで、話が進まない……ということにもなるのだ。


 なお、アキがユリコに、黙って聞けと言うのは、旧知の友人でもあるからで、あくまで友達からのお願いと言う事になるので、序列には抵触しない。


 まぁ、ユリコもそんな序列関係なぞ、微塵にも気にしないので、これもまで全く問題視もされていなかったのだが。


「あ、はいっ! ヴィルさんもどうか、外野のことなんて放っといて話し進めてください!」


「……はい、かしこまりました……ユリコ様。ええ、仰る通り、大マゼラン雲は地球から16万光年の距離にある、天の川銀河の伴銀河のひとつですね。もっとも、当然ながら銀河系の16万光年の彼方からの観測データなどという物は、銀河史上初のものと言えます。当然ながら、これまで何度かVRシュミレーションによる予想図などは、制作されていましたが。実際の観測データとなると、前代未聞ですね」


 まぁ、当然ながら、このデータを分析の為に提供された帝国天文学会の学者達は、その事実を前に我を忘れたように色めき立っていたのだが……。


 出どころが出どころだけに、帝国最高機密データ扱いとされ、研究者達にも箝口令が敷かれており、誰もがこの世紀の大発見を表立って公表できない事で、歯噛みする羽目になった。


 もっとも、その辺りは、ユリコのモニタリングにより得られたアスカのいる惑星の生態系についての情報や、神樹についての生物学的見地からの検証を命じられた生物学者なども同様ではあった……。

 

 もっともゼロ皇帝直々に、これら銀河系外情報の存在は、内輪だけに留めることと直々に言われては、誰もが従うしか無かった。


 その上で、彼らは彼らなりに各々に与えられた情報から専門家故に数多くの推論を導き出しており、中には銀河人類史がひっくり返るほどの仮説まで立てられていた程で、誰もがこれは簡単には公表できないと肌で理解する事となった。



「……太陽系を起点とした場合の距離はおよそ16万光年……かぁ。250万光年彼方のお隣のアンドロメダ銀河や、さんかく座銀河に比べたら、かなり近くって気がするし、エスクロンからなら、もう少し近いかもね」


 アキがため息とともに、そんな事実を告げる。

 

 なお、帝国の本星たるエスクロン星系は、本気で銀河系の渦の端っこも端っこ。

 具体的には、太陽系を含むペルセウス碗の最先端部に位置しており、その先には何もない空間が広がるだけだった。

 

 もっとも、マゼラン雲との位置関係的には、太陽系よりマゼラン星雲に近いと言えるのだが。

 それでも、軽く十万光年単位の距離が離れており、むしろ大差ないと言えた。


「そうだねぇ……。と言うか、十万光年って、30%亜光速航法でも30万年以上かかるんだよね……。銀河の端から端もそれくらいだけど、エーテルロード使わないで……となると、銀河系の時点でとんでもない広さだよね」


「何を今更……ってとこだけどね。まぁ、系外銀河とかってどのみち、通常の亜光速航法でたどり着けるような距離ではないからね……」


 アキとユリコが二人して、その途方もない距離について、あまり、現実感の無さそうな様子で、言い合っていた。

 

 なにせ、ユリコ達銀河人類は、エーテル空間経由で銀河各地を数日で行き来できるとは言え、実際の星々の距離感を実感するような機会は、あまり無いのだ。

 

 一万光年の時点で光の速さで一万年かかる距離と言う事なので、通常航法で進むとなると、例え光速で航行出来るだけの技術があったとしても、まるで非現実的な距離であり、もはや考えるだけ無駄と言って良かった。


 事実、マゼラン雲も確かに他の系外銀河と比較すると割と近いと言えるのだが、あくまで比較的と言う形容詞が付く。

 

 なお、その大きさは直径一万五千光年と銀河系に比べると、かなり小さい。

 実際、地球の南半球からだと、大マゼラン雲は、夜空に浮かんだ、ちぎれ雲のように見える。

 

 ……それに対して、銀河系は直径十万五千光年と、およそ七倍も大きい。

 

 マゼラン星雲から見た銀河系は、地球から見たマゼラン星雲のおよそ七倍……星空に一際大きな霞がかかっているように見えており、最初は誰もがそれが銀河系だと思っておらず、AIを動員した詳細な天文データの分析を続けるうちに、それが銀河系の外観なのだと気付いた……そんな調子だったのだ。


 そのマゼラン星雲からの銀河系の観測データは、天文学者から見れば、まさに宝の山、夢の世界の光景といったところで、誰もが我を忘れて、そのデータの分析に熱中し、話を聞きつけた帝国内の天文学者達が次から次へとプロジェクトに参加し、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていたのだった。

 

「でも、よくこの短時間で特定できたねぇ。こんなデータを見たら、天文学者さん達も狂喜乱舞して、位置特定も時間がかかったんじゃないかなぁ? と言うか……これが外から見た銀河系かぁ……確かによく見ると、銀河って感じの星の塊がちゃんと見えてたんだね。全然気が付かなかったし、もしかして、これ拡大したら太陽系やエスクロン星系なんかも見えたりするのかな?」


「さすがに、ユリコ殿の視認データを元に連想補完処理を行った上での再現データですので、そこまで詳細なデータは確認出来ませんし、仮に見つかったとしてもそれは最低でも十万年前の光ですからね……。でもまぁ、それでも学術的には得難いものになる事は容易に想像できますね」


「十万年前の地球をリアルタイムで観測する……かぁ……。なんと言うか、ロマンチックな話だよね。んで、アスカちゃんのいる惑星は、結局どこらへんなの? マゼラン星雲って事は解ったけど、この映像だけでピンポイントに何処かって解るようなものなの?」


「はい、アスカ様の所在については、およそ見当は付いています。これはひとえに、帝国の天文学者達の情熱と研究心の賜と言えるでしょう」


「なかなか、勿体ぶるねぇ……ヴィルゼット君。もっとも、学者連中は皆、そんな調子だから、別に文句は言わないけどね」


「申し訳ありません……なんと言うか、説明は段階を追ってと言うのは、我々学者の性分みたいでして……。ひとまず、このデータを見てください。この星空の一角に七色星団と呼ばれる七色の星団が極めて近くに存在するのが確認されています」


 そう言って、ひしめき合うように見える濃密な星空の一角をヴィルゼットが指し示すと、それが徐々にクローズアップされていく。


 情報支援AIによるリアルタイム画像処理の結果、赤、青、黄色、白、そして緑と紫色の恒星がマーキング付きで表示される。


 そして、その上でもう一つの画像……やや解像度の荒い明らかに配置が異なる同じようなカラフルな星団の映像が表示された。

 

「……な、なにこれ? めっちゃカラフル! こんなんあったの!」


「はい、実際の映像分析の結果確認されたものですので、間違いなく実在するということです。そして、この星団は銀河系からも観測されており、現時点でこのような特異な恒星団……七色星団と呼べる星団が確認されているのは、大マゼラン雲……タランチュラ星雲のみであり、スペクトル分布や推定質量などの特徴についても、全て一致しております」


「なるほど、銀河系からでも解るヘンテコな星団が、アスカくんのいる惑星の超近くで観測されたってことか。それなら、もう座標の特定も簡単だって事だね」


「はい。そして、この映像に映っていた星団の恒星群の配置と、銀河系からの光学観測データの差異から、アスカ様のいる星系座標の算出に成功いたしました。つまり、この星団の発見が、アスカ様の所在特定の決め手となったのです」


 銀河側から見た七色星団とアスカのいた惑星上空から視認された七色星団の配置は明らかに異なっており、要するに全く違うニ箇所の場所からの同じ星団の観測情報が得られたということになるのだ。


 そして、ヴィルゼット達はこの2つの画像データから、七色星団の配置を3Dモデル化し、その差異と2つの画像データにて、共通して確認が取れたいくつかの系外銀河や銀河系自体の相対座標データを組み合わせ、複数の観測点の10万年単位に及ぶ時差をも計算に入れた上で、銀河規模の超巨大3Dシミュレーションモデルを作成……。


 と……言葉にするのは、簡単だが。

 タランチュラ星雲だけでもその恒星の数は数百万はあったのだ……おまけに要求精度はセブンナインと言う極めて高い精度を要求されていた。

 

 銀河間を超えられる可能性……第三航路航法での16万光年の旅と言うのは、当然ながら前例など無く、極めて高い精度の座標情報が要求される事になると予想されたからだったのだが、その煽りを天文学者達はモロに被ることになった。


 七色星団にしても、300年ほど前に開発された連想補完補正技術の確立に伴い発見されたもので、実際の光学観測データ上では、それら恒星の色の違いなどは目視では確認出来ておらず、そもそもそんな不自然な色の恒星がある訳がないとと言う事で、本当に七色の星があるかどうかも怪しまれていたのだが。


 ユリコの持ち帰った映像記録には、七色と言えなくもないと言った様子の星団が確認されており「七色星団は本当に七色だった!」と言う何を言っているのか良く解らないトピックスで、帝国天文学会に波紋を呼び、300年に渡る論争に決着が付いた……そんなおまけも付いた。


 とにかく、要するに専門家ならではの複雑な計算式とVR実験などを重ねて、数多くの失敗やミス、迷走を重ねながらも、帝国天文学者会の学者達は、ゼロ皇帝直々の「とにかく急いで! これは人類の存亡すらかかっているのだ!」との叱咤激励を浴びた事で一同奮起し、終いには時間圧縮VRにまで手を出して、喩えるならば、砂漠の砂に隠された、一粒のダイアモンドを探すに等しい作業を成し遂げたのだった……。

 

 その苦行とも言える作業に時々付き合っていたことで、彼らの艱難辛苦を断片的ながら知るヴィルゼットは、彼らの健闘を称えて、静かに黙祷を捧げた。


「タランチュラ星雲の七色星団ねぇ……。どっかで聞いたことあるような……。確か、大昔のアニメの架空上の存在が本当に見つかったって、わたし達の時代に大騒ぎになってなかったっけ?」


「あはは、そいやそのニュース見て、ユリちゃんと一緒に西暦1970年代の古典アニメ見たんだっけ……銀河を離れー、なんちゃららん。そう言えば、あのアニメの舞台も大マゼラン星雲だったんだよね。お隣の一番近くの系外銀河ってことで大昔の古典SF作品なんかではよく出てきてたんだけど、今まで誰も行ったことなんてなかったんだよね……」


「そう考えると、なんとも感慨深いねぇ……。16万光年を行って帰ってきて銀河系外からの天体観測記録を持って帰ってきた人類とか、わたしも軽く銀河史に名前残っちゃいそうだね!」


 そう言って、お気楽に笑うユリコだったが。

 それは間違いなく、人類史に残る程度には快挙であった。


 このユリコが持ち帰った観測データは、人類最遠到達点の記録として、後日「ユーリィデータ」と名付けられ、宇宙天文学研究の指標の一つとされ、後世に永らく受け継がれるデータとなるのだが。


 まぁ、それは別の話だった。

このエピソードは、今は亡き松本零士先生へ捧げたいと思います。


余談ながら、この宇宙駆け宇宙では、現代のアニメなんかも古典作品として伝わっており、

松本零士先生も、1000年前の清少納言の名前が現代でも知られているように、古典作家としてその名が残ってたりします。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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