第四十二話「更なる力を求めて」②
この様子だと帝国側の技術開発系AIなどもユリコ殿に相乗りしてきているようだし、向こうがこちらの情報を引き出せるなら、逆もまた然りだろう。
だが……これまで私の知識だよりだったのが、本格的な帝国自体の技術情報ネットワークにアクセス出来るようになったと言うのは、恐らく今後……この世界でも隔世レベルでの技術進歩がなされることになるだろう。
なお、カテゴリーFクラスの原始文明でも、惑星統一国家建国の上で、帝国の技術支援を受けることで10年程度で帝国同様の文化水準にまで持っていけると言うのが解っている。
この場合のモデルケースとしては、エーテルロード接続星系から凡そ2光年ほど離れた星系国家トラバーンのケースがある。
2光年は、外宇宙航法としては帝国では標準的な30%亜光速航法で片道7年近い歳月がかかる距離の星系なのだが……。
本国からのリアルタイム支援なしで、遠征探査艦一隻と構成人員100人足らずの惑星降下戦闘中隊という貧弱な戦力で惑星統一国家の建国を実現し、その代表王族が帝国にまで同行した上で、正式に帝国の傘下に下る事を約束した。
そんな状況に至った好例でもあるのだが。
惑星トラバーンは、単一惑星国家の形態自体はそのままだったが。
往復で15年ほどかかるものの、帝国に加盟したことで、その統治機構や最新の技術情報、統治支援AIなどもそのままトラバーンへ流入することになった。
その地上世界は、幾多の勢力が入り乱れた混沌とした戦乱に満ちた世界だったのだが、50年ほど前に惑星規模の戦乱の末に、帝国遠征軍が支援した小国により統一されたのだが。
今や帝国の標準的な地上世界とほとんど変わりない技術水準に達しており、そこの住民も青白い肌で、酸素濃度25%……要するに高濃度酸素環境に適応している関係で、一般的な地球準拠環境だと酸欠になってしまう上に地球起源人類とは見た目がかなり異なっていたのだが……。
そこら辺は、環境適応ナノマシンの投与でなんとでもなってしまうし、帝国は身体改造の結果人間離れした見た目の者も珍しくなく、トラバーン星人も普通に受け入れる事が出来てしまった。
この辺りは、古来から来る者拒まずでスーパー多民族多文化国家となってしまった帝国ならではであるな。
事実トラバーン星人については、明らかに異星人ではあるのだが、何人かは完全に帰化していて、帝国内を自由に動ける身分となっている。
まぁ、本国との連絡が可能となったのであれば、トラバーン解放というモデルケースがあるのだから、あれと同じ戦略で惑星統一国家を建国するまでだった。
それはすなわち、もっとも付き合いやすい弱小勢力を最強に仕立て上げる……そんな戦略なのだ。
この惑星世界だと……我々が支援すべきなのは、神樹教会一択であろうからな。
少なくとも、我欲むき出しの愚鈍な貴族達が大きな顔をし、人々を虐げているような現状は全否定されて然るべきだろう。
(ユリコお母さん! こんなものでよいかなー? ワタシ、頑張ったぞ! 褒めるが良いぞ! とりあえず、これが今のワタシがそちらの設計データを元に作った最高クラスの機体なのだ……。まぁ、相当数の技術をワタシの持つ技術で置き換えた結果、まるで別物になってしまったと思うがな)
……ユリコ殿の眼前にスペックシートのようなものが並べられているのだが。
チラ見しただけで、色々とおかしい数値が並んでいるのが見えた。
(おおぅ……マジですか。何、このモンスター……マジで何これ? あ、技術開発支援AIのタタラ卿も基礎テクノロジーの時点で、未知の技術のオンパレードだって……。まぁ、そりゃそうだろね! と言うか、これが帰還者戦の時にあったらなぁ……。緒戦ワンパン返り討ちだったかもしんないわ……)
……タタラ卿。
確か帝国にも数ある技術開発支援系AIの中でも最古参に属する開発支援AIで、技術開発系AIの発展ツリーの根っこに属するビックネームAIだったはず。
どうやら、ユリコ殿に相乗りする形でくっついてきてるようで、適時ユリコ殿へ助言しつつ、ヴィルデフラウテクノロジーを盗む気満々のようだった。
まぁ、それについては別に悪く言うつもりもない。
帝国の軍事科学技術と言うのは、どれもこれも基本的にはパクリ発展の集大成と言っても良かった。
事実、エーテル空間戦闘艦の技術については、その出処の大半はスターシスターズ艦由来であるし、ナイトボーダーに至っては21世紀初頭の2Dアニメから着想を得た……等と言う話がまことしやかに囁かれているし、地上兵器にしても古代地球の陸戦兵器は大いに参考にしている。
帝国は、万事が万事そんな調子で、色んなところから様々な形で技術や物、人を引っ張ってきては、それを取り込んでちゃっかり自分の物としてしまう。
その繰り返しによる積み重ね。
その上で、独自の道を歩んで来たのだ。
もっとも、技術開発……特にエーテル空間戦闘技術については、比較対象と言っても、スターシスターズの艦隊随伴工作艦艇系や、今は無き「風林火山」の統括AIくらいだと言われているのだが、そこに大きく水を開けられてしまっているのが実情だった。
向こうも帝国の技術者のパクリ技術発展の能力はよくわかっているので、ある時期から技術情報を一切漏らさなくなり、その辺りから急激にエーテル空間戦闘技術の発展が停滞気味となっていたのも事実なのだ。
なにせ、帰還者との戦いから、銀河守護艦隊との戦いまでの300年間の間、エーテル空間での大規模な戦乱は起きていなかったのだ。
戦争の技術とは、戦争がなければ大きくは発展しない……これもまた歴史が証明しているのだが。
銀河守護艦隊は、その辺り抜け目なく独自の発展を遂げていた……それが現実だった。
……これは、我々も不徳とするべき話だった。
だからこそ、タタラ卿もこの機会にヴィルデフラウの超級先進技術を少しでも吸収し、続く銀河守護艦隊との戦いに備えてようとしているのだろう。
……むしろ、大いに見習って欲しいものだな。
(うむ! では、基礎設計データはこれでよいな? その上でユリコお母さんの為に、今持ってる技術の粋を集めてブラッシュアップしてみるのだ! ライブラリ接続……精霊結晶もタンデム乗せで……うん、この辺りで手を打つとするかな……。待っているがいいぞ……イフリートなど軽く蹴散らせる兵器にしてみせるぞ!)
(あ、ちょっち待って! そんな事が出来るなら、それはこうした方がいいって……)
(おおっ! それは確かに効率的だな! よし……それで行こう! なるほど……重力制御にしてもこんな制御式を使う方法もあるのだな……なかなかやるのう、タタラとやらも)
よく解らんが、お母様とユリコ殿達が本気出して、モンスターを作り上げる……そう言うことのようだった。
確かに、今も昔もユリコ殿は、ナイトボーダーの第一人者と言ってよく、ユリコ殿の戦闘データは今の時代になっても、ナイトボーダー乗り達の越えられない壁として、君臨し続けているのだ。
人類の持つ技術を超越したヴィルデフラウ文明の手によるナイトボーダー……それに対する遠慮のない現場視点でのアドバイス。
……今の銀河宇宙でも求められる最高の組み合わせではないだろうか?
おまけに、お母様もライブラリとか言っている様子から、アストラルネットに存在する未知のネットワークデータベースから必要な技術を持ってくることも出来るようだった。
要するに、知らなきゃ知らないで他所から持ってくる事でテクノロジーのレベルアップ。
故に無茶振りだろうが、なんとでもして見せる……。
なんと言うか……真面目に技術開発とかやってたのが馬鹿らしくなるチートっぷりであるのう。
完成予定スペックを見てみたが、案の定ユリコ殿が色々注文付けたようで、ボードシールドに精密重力制御システムを内蔵し、パワージェネレーターのマナストーン結晶も本当に二個乗せとか、もう見るからに無茶やってる。
もはや、最初の巨神兵よりも明らかにヤバい代物になっているようだった。
どうやら、機体設計とフルアップデートが完了したようで、先程のリンカ機よりも更に細くなった白銀の機体が目の前に現れる。
どうやら、VR試作モデルが完成したようだった。
なお、このレベルまで完成しているとなると、実際の機体開発でもこの試作データをそのまま生産工程に回すだけで、実物がロールアウトされる……そう言うものなのだ。
今どきの自動工廠は、このVR設計データを投げ込んでおくだけで、工廠側で勝手に素材を揃えて、実機の組み立てから梱包まで全自動でやってくれる。
当然ながら、流石に初回はVRデータとリアルデータのすり合わせや生産工程の最適化が出来ていないので、それなりの時間がかかるのだが、
以降は製造効率も格段に上がり、数を多く作れば作るほど、その生産効率と完成度が右肩上がりに上がって、生産コストも大幅に下がることになる。
ちなみに、帝国宇宙軍のkm級通常型宇宙戦艦ジャスティスグレイ級は、帝国軍全土で万単位もの大量生産を行った事で、一隻辺りお値段2兆6000億クレジットまで下がっているのだが、はっきり言って、これは銀河宇宙でも超激安の部類に入る。
銀河連合諸国の通常宇宙空間の定期パトロールや惑星間連絡用に使われている銀河連合製250m級宇宙巡航艦パトリオット級と言うのがあるのだが。
そのお値段……なんと一隻約30兆クレジットもするらしい……。
帝国宇宙軍規格だと250m級は巡航艦どころか、駆逐艦クラスだ。
なお、同格の帝国宇宙軍200m級駆逐艦キグナス級のお値段は900億クレジットくらい。
使い勝手が良く、機動力も高い為、宇宙艦隊のワークホースとして、軽く50万隻くらいは生産されているおかげで、アホみたいに安くなっているのだ。
もっとも、これは、キグナス級を民生用に武装や装甲を簡略したペリカン級と言う派生艦種のおかげで、更に生産コストが下がっている関係もあるのだがな。
なんでも、たくさん作れば安くなる……そう言う事なのだ。
それを考えると、パトリオット級に関しては……。
我軍の宇宙駆逐艦程度の性能で宇宙戦艦の10倍以上の価格……この時点で色々ありえない。
なにせ、同じ予算でキグナス級なら300隻以上も揃えられるのだからな……この時点で、その格差が伺い知れるというものよ。
なんでも、帝国軍の型落ち宇宙駆逐艦を色々と研究した上で、ハンドメイドな職人芸一品物パーツを取り揃えて、大勢の人手を使って銀河連合全域で10年で1ー2隻くらいしか作られないそうなので、そんなボッタクリ価格になるらしいのだが。
要するに、驚異の手作り航宙艦……。
何かというとヒューマンパワーに頼りがちな銀河連合らしい話ではあるのだが。
だからと言って、高性能……と言うことはまったくない。
なにぶん、一隻一隻が細かい部分で仕様の違いがあって、部品共用化すらマトモに出来ていないらしいのだ。
技術レベルとしては100年くらいは遅れていて、間違いなく我軍のキグナス級にすら勝てないと言われていた。
昔はもう少しマシだったそうなのだが、そんな時代錯誤のガラクタしか作れないというのが、今の銀河連合諸国の現実だった。
この時点で、その技術力についてはもはや比較にならないと言えるだろう。
故に今どきの帝国の新型機開発は、実にお手軽なものになっているのだが……。
先程の巨神兵の生産プロセスを見る限りでは、次の瞬間には地面からこれが生えてくるのであろうな……。
要するに、上には上がいた……これはそう言う話だった。
「いいね! これ、マジで銀河最強レベルの機体に仕上がったわ! ……機体名は『白鳳Ⅱ』で決まり! なら、早速出陣だよっ! おーいっ! リンカちゃん、修行はここまで! あとは実戦でチュートリアルの続きやるよ! アスカちゃんも……そろそろ戻らないと、お仲間のソルヴァさん達がヤバそうな感じだよ! ごめん……ついっ! 無駄話が多くて!」
現実世界の情報が、こちらのUIウィンドウにも提示される。
体感では軽く数時間が経過しているのだが、向こうではほんの10分程度しか経っていないはず……だったのだが。
その短時間の間でどうやら森に集中砲火が叩き込まれたようで、ソルヴァ殿の巨神兵も被弾により、大破レベルの損傷を受けていて、エルフの狙撃隊も負傷者続出で、もはやイフリートを足止めするのも厳しい状況のようだった。




