第四十一話「茶道ティーパーティ」⑥
「うんうん、ここまで一人でよく頑張ったね! まぁ、色々と聞きたいこともあるんだけど、あんなナイトボーダーに匹敵する巨大人型兵器を用意して、例の猫耳ちゃんを更に鍛えるって事は、あのレベルの兵器とパイロットが必要な状況ってことだね! しっかし、神樹ちゃんから、これくらいなら実物作れるよって事で、想定スペックデータ見たけど……。何アレ? 地上歩行型のプロト機の時点で、ジェネレーター出力振り切ってるし、自己修復機能どころか、機体再生機能とかそんなレベルじゃないの……アレってまじ?」
「う、うむ……マジのマジなのだ。巨神兵と名付けたのだが……皆まで言われんでも、あの時点で化物なのはよく解っておるぞ。文字通り、機体が自分の体同然になる……ゼロレスポンスを実現する……。こう言えば、その凄さも解ると思うのだが……」
「ゼロレスポンスって……。そんなのわたしの「白鳳」でも無理だし、この時代最新鋭の近衛専用機のブラックナイトでも、そんな反応速度は無理だったよね?」
まぁ、そんなものなのだ。
ちなみに、ブラックナイトと言うのは、各帝国の皇帝直属護衛隊……近衛隊に配属されていた帝国軍ナイトボーダーのハイエンドもハイエンドと言える最高性能機体のことだ。
なにせ、皇帝専用機ですらも、このブラックナイトがベース機なのだからな。
贅沢な素材を使い時代時代の最新鋭機器や武装を搭載することで、常に最高スペックを追い求めてきた……そんな機体系統だった。
銀河守護艦隊のチート戦闘機相手でも、唯一互角以上に戦えた最高スペックハイエンド機だったのだが。
まぁ、あれですら巨神兵の前ではおもちゃ同然だろうな……。
「そうだな……。ブラックナイトでも巨神兵には、互角の条件では敵うまい……。なにせ、あらゆるスペックで負けておるからのう……それに……恐らくは巨神兵に搭乗した時点でそのパイロットは死ぬことがなくなるのだ」
巨神兵の何がやばいって、その再生能力がヤバイ。
有人人型機動兵器の最大の弱点は言うまでもなく、その搭乗者……パイロットなのだ。
だが、巨神兵はその最大の弱点すらも克服している。
あまり試したくはないのだが……。
仮に、コクピットブロックへの被弾でパイロットが即死したとしても、その意識体は恐らく機体に保護され、機体同様パイロット自身も再生されることで、生還が可能となっている……。
私はそんな風に予想しているし、恐らくそうなる。
この時点で、もはや人類製の兵器とは根本的に次元が違うと言ってよかった。
「……マジですか……それ。え? コクピットブロック大破でパイロットがバラバラになってても、パイロットごと再生して、生還させるって……。た、確かに今のわたしでも機体が大破しても、意識体を緊急転送すれば、機体がバラバラになっても生き残るのは不可能じゃないけど……。それをわたしらみたいにデータ生命化せずに、普通のパイロットでも実現するって意味わかんない。ホント、ヴィルデフラウ文明ってヤッバぃなぁ……」
「うむ、マジのマジであるぞ。さっきから同じことを言ってる気もするのだが、なにせ、事実なのでな……。と言うか、あのリンカ機の動き……白鳳に余裕でついていってるのではないか? ユリコ殿……あれ、結構本気で行って押されていないか?」
双方、同じ未来予知能力者……。
となると、差が出てくるとすれば、経験値と機体性能。
リンカとユリコ殿では、経験値の差は圧倒的だと思われるのだが。
その経験差を埋めているのは、どう見ても機体性能だった。
帝国製のナイトボーダーも思念伝達制御や神経接続制御を使って、極限まで反応速度を高めていたが、見ている限りだとリンカは、ゼロレスポンス……つまり、即時反応で機体を制御しているようだった。
これはつまり、本気で機体を自分の体同様に動かせていると言うことだった。
まぁ、巨神兵の時点でそうだったから、もしかして……と思っていたが案の定だった。
どのみち、リンカについては私からは何も言うことはない。
ユリコ殿直々に鍛えてもらっているとなると、いずれ我が配下最強の兵として、これよる起こるであろう数多くの敵との戦いで活躍してくれるだろう。
そして……このまま、ユリコ殿と心ゆくまで会話を楽しみたかったが。
いくら、仮想現実世界が時間を気にしなくていいと言っても、あまりゆっくりはしていられなかった。
「……ユリコ殿。貴女とはゆっくり心ゆくまで話をしたかったが。お互い、そうは言っていられん立場であろうからな。ここに至るまでの私の歩みを情報共有という形で提供する。恐らく、そちらで求めている情報は我が記憶にあると見ている。その代わり……私が死んだ後、どうなったかを教えてくれ」
「そだね。うん! 解った……じゃあ、相互接続情報共有……。あ、もちろん可能だよね?」
「誰に言っているのだ? 皇帝たるものその程度の装備は標準装備だ」
「じゃあ、お手を拝借……!」
そう言って、ユリコ卿が跪き手を差し伸べるので、その手を取ると、洪水のように情報が押し寄せてくる。
そして、私は向こうの銀河でのゼロ皇帝の再臨と、ユリコ卿率いる帝国永世守護騎士団が再起動するまでの経緯と……。
ハルカ・アマカゼがエインヘイリャル化している事や、彼女が率いる銀河守護艦隊との対決が迫りつつあることを知り、ユリコ殿も私がこの世界で収集したラースシンドロームの情報を余すところなく知った。
「……凄いっ! ラースシンドロームにここまで対抗できるなんて! しかも、こっちのって思いっきり進化してない? 潜伏化って時点で超ヤバいし、なに……その人間がイフリートとか言う巨大ロボ兵器みたいなのに進化するって……そりゃナイトボーダーも必要になるわぁ……」
どうやら、この世界での私の体験記憶を瞬時に追体験することで、共有出来たようだった。
「それに……。森から出るなり、なんかもうひたすら戦争の連続って感じだけど。先手必勝でガンガン勝ちまくって……とか。やっぱ、これ……わたしの影響?」
「……うむ! 一番強いやつを一番に殺れ! 戦とは拙速を尊ぶ。スピード第一、とにかくスピード、迷ってる暇があるなら、とにかく動け! どれもユリコ殿の提唱したドクトリンで、我が銀河帝国軍のドクトリンになっているのだぞ」
なにせ、帝国軍の兵器体系自体が陸戦車両兵器から宇宙戦艦まで徹底して、とにかく身軽で機動性重視な上に、エンジンも何から何まで基本双発で予備ジェネレーターも必須と冗長性重視……とまぁ、そんな調子が基本となってるのだからな。
この辺も後退機動戦術が基本戦術というのもあるのだが……。
300年前の帝国軍は言ってみれば、ユリコフォロー隊と言う一面があって、彼女はとにかく、サッササッサと敵陣へ敵を蹴散らしながら、その奥深くまで容赦なく突っ込んでいってしまうので、鈍臭い兵器では置いていかれてしまう上に、ユリコ殿が孤立無援になってしまいがちだったのだ。
だからこそ、それに追いすがり、援護する為に必然的に兵器についても機動力重視となった……そんな話もあるくらいなのだ。
「いや……まぁ、身に覚えがあるような。ないような……。けど、ラースシンドロームが本格的な知的生命体で、エネルギー生命体……。ヴィルゼットさんも仮説に過ぎないって言ってたけど、こっちじゃ精霊とか言われてて、アスカちゃんもマジに戦ってたんだ。あー、要するにネコミミちゃん……リンカちゃんもその精霊を殺せる兵士として……やっぱり、そう言うことだったのかぁ……」
「そうなのだ……エネルギーそのものに知性が宿り、人間の精神に寄生することで、その人間を精神から作り変えてしまう……それがラースシンドロームの正体なのだ。それに何よりも奴らは恐らく星間文明だ……。奴らは宇宙から来るようなのだ。故にこちらも早いところ、宇宙に進出して防衛体制を築かねばならん……。そうだ! 私の記憶している情報から、この惑星の相対位置座標を割り出せないだろうか? そうすれば……」
「まぁまぁ、焦らない……伝えたい情報が山盛りってのは解ってるし、細かいことは他の人にお任せする所存だよ。でも……神樹ちゃん……生命の樹がアスカちゃんの味方ってのは、実にいい情報だよね……。そして、この生命の樹……ヴィルデフラウ文明も星間文明なんだね……。誰? ……この宇宙に現存する星間文明は存在しないとか言ってたのは……」
……確か銀河連合諸国の天文学者か何かだったかな?
先史文明の存在は認めるが、現存する星間文明は全て滅んでしまっている。
故に今の人類に何一つ脅威は無く、武器も捨てて、静かに大人しく暮らしていけば、人は永遠の平和を享受出来るとかなんとか言ってたのだが……。
まぁ、帝国に言わせれば、惑星文明はエーテルロード接続星系から外れているだけで、探せば割りとあちこちにあって、異種星間文明も先史文明も現在進行系の脅威であり、事実過去に思い切り戦ったはずなのだが、今更何を言ってるのだ……となるのだが。
何故か、この手の論客は銀河連合諸国のみならず、帝国内部にも定期的に現れるのだ。
なお、前者の場合は「知るか馬鹿野郎」の一言で終わり、後者は治安維持局にしょっぴかれて、有害思想矯正施設送りとなる。
ちなみに、後者は別に痛い思いなどはさせずに、過去の記録をVRにてたっぷり追体験していただき、当時実際にドラゴン族と戦った兵士や、蹂躙され奇跡的に生き残ったスペースコロニーの住民の記憶を追体験させられたり、如何に宇宙が脅威に満ちているかを徹底教育される。
矯正施設から出る頃には、帝国を思い民の為にその命すら惜しまない立派な国士となっている……まぁ、そんな調子だ。
「まぁ、そうだな……。結局、人類以外の星間文明は潜在的な敵と思うべきだろうからな」
星々の世界と言うステージに立つ者同士、互いの生存領域を広げていくとなると、いつか必ず星間文明同士は激突を余儀なくされるのだ。
もちろん、妥協や共存の余地もあるかもしれないが、敵対する事を前提に、いつの世も科学技術と文明の発展を止めること無く、邁進せねばならんのだ。
「……帰還者は、人類の祖先であり、驕り高ぶった人類を断罪すべくやってきた……。そんな話もあったし、向こうも元々自分達のものだから、取り返すのが当然とか言ってたね……。でも、例外もあるんだよね?」
「ああ、お母様……ヴィルデフラウ文明は恐らく我々と競合はしないと見ていいだろう。なにせ、ヴィルデフラウ文明はヴィルゼットの話だと、人類よりも古い歴史を持つようだからな……。そして、この世界の人類種と地球人類とは類似点も多い……地球人類種自体がヴィルデフラウ文明の副産物の可能性もあるのだ」
この宇宙の銀河近辺の星間文明については、恐らく二系統以上はあると見ていた。
一つはエーテル空間を作り出した帰還者と、それに連なる古代先史文明。
エネルギー生命体やドラゴン文明がここにカテゴライズされるのだが。
ヴィルデフラウ文明は明らかにそれらとは別口だとしか思えない。
そして、地球人類種については、恐らくヴィルデフラウ文明の系譜なのだと私は見ていた。
なにせ、共通項があまりに多いのだ。
炭素生命体と言う点もだが、植物に依存している点もだ。
そして、先程明らかになった精神世界ネットワークという概念。
これも案外、帰還者文明には概念すら存在しない可能性がある。
つまるところ、精神世界文明。
それが我々地球由来人類種が属する文明なのではないか……私はそう言う仮説を立てていた。
「確かにね……。私も似たような話をヴィルゼットさんから聞いてるよ。なんと言うか、文明として格が違うって気がするけど、別に人類に敵意は持ってないし、何よりもラースシンドロームを撲滅する可能性がある……アスカちゃんは事実、感染者を完治させたりもしている……これって、マジ情報?」
「うむ! 実際、ラースシンドロームに感染し、正気を失っていた者達がいたのだが。今では至って正気に戻っているし、再発の様子もない。どうも、神樹の生み出すマナストーンにはラースシンドローム感染者のラース因子を転換させる……そんな力があるようなのだ」
「いやはや、理論上は可能って聞いてたけど、治癒成功例が出てるってなると俄然、希望が湧いてくるね。確かに、ここはマナストーンは大量にあるみたいだし、その源泉の生命の樹も健在……こうなると、わたし達がアスカちゃんを見つけ出せれば、話が早いんだけど。さすがに又聞き情報じゃ、位置座標の特定はキツイなぁ……。ちゃんと自分の目で成層圏あたりからの天体観測データを記憶して、映像データ化した上で、専門家に分析してもらわないと……。ねぇ、ちょっと相談なんだけど……今、仮想データ化して煮詰めてるヴィルデフラウ製ナイトボーダーって、もう一機くらい作れない?」
「……可能だと思うが、どうするのだ?」
「いやぁ、ゼロ陛下とヴィルさんから、こっちの惑星と星系内の情報をできるだけ多く持ち帰れって言われててさ。ついでに、目前の危機もわたしが介入して、軽く片付けるってのはどうかなーって! 実は、今しがた結構ヤバい未来が見えてね……これはむしろ介入しないといけないと思う……」
「ヤバい未来って……。それはどう言う事なのだ?」
「まぁ、このままだと君の作り上げつつある神樹帝国? 核の炎で焼き払われかねないんだよ……。どうも、敵さん……アスカちゃんにコテンパンにやられた事で、何もかもをひっくり返すべく……本気で君らを潰すつもりみたいなんだよね……」
「か、核の炎? ぐ、具体的には……何が起きるというのだ!」
「……空を埋めるような超巨大な火の玉? これを火の精霊の拠点から撃ち出す……その威力は軽く戦略核兵器級だろうね……。多分、あの感じだと恒星を縮めて投げつけるようなもので……恒星爆弾とでも言うべきものかな。要するに対地用の核融合兵器……なんだろうね」
……核融合兵器。
なるほどな……お母様の記録やこの世界の伝承に残る神樹の森の北半分を焼き払った……炎の厄災。
……炎国の軍勢は、当面脅威にもならんと思っていたが、そうか……。
奴らには、巨大精霊と言う秘密兵器があったのだ。




