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第三十六話「奇襲」①

「ファリナ殿、状況に変わりないか? それと、前に出ると言っても、出すぎてはならんぞ。敵に勘付かれたら、向こうも対策を考えてくるはずだからな。敵にこちらに天空の目があると知られるのは、なるべく後が良いな」


 ファリナ殿の飛行船も我々と同時にオーカス近郊に進出し、上空索敵と情報収集に務めてもらっている。

 

 今のところ、夜間対空狙撃等と言う芸当をこなせるのは、エルフの狙撃兵程度で、そのエルフはまとめてこちらの味方なのだから、夜間の飛行船にとっては、敵地の上空だろうが脅威は皆無だった。


 事実、今のところ、上空1000mに対する対空攻撃手段は存在しないようで、そもそも向こうは飛行船の存在に気づいているかどうかも怪しいようなので、詳細な情報を収集すべく前線近くまで進出させても問題ないと判断している。


「こちらファリナです。はい、ゴーレムは後二時間ほどで到着する位置です。進軍経路も相変わらず、道なりで速度も変わらずです。飛行船も先程、雲の上に上がりましたので、下から見られる可能性は低いかと思います」


「そうか、こちらもまもなく所定の位置に着くところだ。何か状況に変化があり次第、改めて連絡をくれ」


「了解しました! ご武運をっ!」


 ファリナ殿との交信終了。

 ゴーレム共は、コースと時間……どちらも厳守しているようだった。

 律儀な相手は、罠にもかけやすい。

 

 これは、思ったよりも楽な仕事になりそうだった。

 

 ……やがて、会敵予想地域に到達する。

 

 ひとまず、ロックゴーレム八体の援軍の進路上に、各員を分散させた上で待ち伏せする。

 

 進路についても、ファリナ殿の索敵情報によると律儀に街道に沿って進軍しているとの事で、その進路予想も簡単だった。

 

 必然的に、待ち伏せポイントの制定も容易かった。

 

 森林地帯にほど近く、街道の近くに大きめの岩が点在するポイントがあるとのことだったので、こちらはすでに指定されたポイントで、隠蔽状態で待機中だった。


 まぁ、隠蔽状態と言ってもそこらの木の枝をあちこちに乗せた程度なのだが、元々が緑と茶色のアースカラーなので、動かなければ遠目には、まず解らない程度にはカモフラージュも出来ていた。


 本来、この手の待ち伏せに際しては、襲撃ポイントの選定に相応に苦労するのだ……。


 なにせ、待ち伏せしやすいポイントと言うのは、待ち伏せされる側も解りやすいのだ。


 だからこそ、そう言うポイントは敢えて迂回したり、事前に偵察を送り込んで安全を確保しておくと言うのがセオリーであり、それ故に理想的な待ち伏せは、なかなか成立しないものなのだ。


 だが……この様子だと、初撃の不意打ちは確実に決まる。

 いずれにせよ、この完璧な伏撃体制が整えられた時点で、我が方圧倒的に有利だった。


 初手はイースの『茨の監獄』で先頭を足止めし、続いて正面からソルヴァ殿の奇襲近接白兵を仕掛ける。 そして、行き足を止めた所で、両サイドからアークとリンカ、後背からモヒート殿で挟撃する。


 私は……予備兵力で構わんだろう。

 と言うか、皆にこの場は後ろの方で見守っていて欲しいと言う事で、やんわりと止められてしまった。

 

 まぁ、仕方あるまい。

 私が、皆の立場でも全力で止める。

 

『銀河帝国の皇帝というものは、最前線にて皆と並び立つだけで十分なのだ。いざ戦闘が始まったら、私は司令室の置物でも一向に構わない』


 ……そんなゼロ皇帝の残した言葉もあるのだ。

 本音を言うと、たまには思い切りひと暴れくらいしたいものなのだが。


 ゼロ皇帝の言葉にもあるように、皇帝は最前線に立つまでが仕事であり、要らない手出しをして配下の手柄を横取りしてしまうようでは、それは大人気ないというものであり、誰も得しないのだ。


 だから、ここは手出ししたくとも、ぐっと我慢するのだ!


 どのみち、この一戦はリスクも少ないと予想している。


 故に戦果にもこだわらないつもりだ。

 要はチュートリアル戦のようなものだな。


 皆の経験値稼ぎ程度と考えて良さそうで、そう言う事なら尚更、私は観戦役で一向に構わんのである。


 さて……状況は想定通りだ。


 遠目には緩慢な動きで、ノッシノッシと八体のロックゴーレムが街道に沿って一定間隔でズラッとならんで進軍しているのが見えるようになった。


 こちらに気付いて減速したり、立ち止まったりする様子もない。


 なにせ、生身の人間があれの進軍に立ちはだかるのは、相当な勇気の持ち主か……或いは、恐怖心が壊れているかのいずれかであろうからな。


 ある程度の自律行動は出来るとのことだったが、本来は近くに術師が居て、細かい命令を下す……そんな運用らしい。


 もっとも、それらしき者は遠目には見当たらなかった。

 その上で動作しているとなると、理屈はよく解らんが、初歩的な戦闘AIのようなもので動いているのだろう。


 律儀に街道沿いを進んでいる様子から、恐らく街道を目印に街道沿いを進んで、最終的に攻城軍と合流することを最優先命令としているのだろう。


 要するに、安全地帯を進軍させているつもりで、こちらが対抗兵器を用意して待ち伏せしているなど夢にも思っても居ないのだ。


「これは……楽に勝てる戦だな……総員、攻撃準備……」


 やがて、先頭が事前に地面に描いておいたキルラインを超えた。

 無言で、巨神兵の右腕を上げて振り下ろす。


 それが攻撃開始の合図だった。


「……「茨の監獄」! 強化スペシャルバージョン! いっけぇええええっ!」


 イースが作り出した茨の監獄に先頭のゴーレムが無造作に突っ込んでいく!

 

 それでも、何事もなかったかのように進もうとするのだが、イースもかなり念入りに強化したようで、しばらく歩みを進めていたのだが、次々と蔓が足に絡みついた事でガッツリ足止めに成功する。


 よく見るとただの茨ではなく、電磁草を使っているようだった。

 

 なるほど……電磁草ならば、そう簡単に千切れたりはしないし、その重量も硬度も植物の領域を軽く突破しているからな。


 迷わず、それを使う辺りさすが、イース!

 

 そして、その隙を逃さず、手近な岩陰に潜んでいたソルヴァ殿が正面からロックゴーレムの腰目掛けて、槍のように丸太を構えて、全力で突っ込んだ!


「喰らえっ! どりゃああああああっ!」


 ……一撃だった。

 轟音と共に腰の半分近くを粉砕されて、片足が外れた事でロックゴーレムが為すすべく地面に転がる。


 ほぼ上半身だけになって地面に倒れ伏しがながらも、腕だけでズリズリと前に進もうとしていたようだったが、ソルヴァ殿が何度も丸太で頭のあたりを叩きのめした結果、あっさり動かなくなった。


「おっしゃ! なんだよ……あっさりくたばっちまったよ! つか、この巨神兵……すげーパワーだな!」


 ちなみに、このロックゴーレム。

 弱点らしきものも特になく、体の各部のコアをいくつか破壊することで、無力化出来ると聞いている……そこだけ聞くとやたらとしぶとそうなのだが。

 

 人型機動兵器も人体同様、腰部と脚部は弱点なのだ。

 人間も戦場で足をやられたら、致命傷を負うようなものなのだが、そこは人体を模した人型機動兵器も同様なのだ。

 

 それでも飛行機能があるなら、足や腰が破損しても移動したり、戦闘を続ける事は可能なのだが。

 

 飛行機能を持たない地上戦用の二足歩行機ともなると、脚部や腰部の損傷は移動が出来なくなることで、文字通りの致命傷となる。

 

 故に狙い所は足の膝関節の部分か、腰と踏んでいたのだが、案の定だった。

 

 なにせ、図体が大きい割には腰に当たる部分がやけに細めで巨大な球形のパーツがあるだけで、見るからに弱点のように見えたのだが、やはり腰を砕かれたら一撃だった。

 

 身動きが取れなくなった飛び道具も持たぬ巨人など、ただの土塊に過ぎん。


 ああ、知っていたとも。

 思った通りの図体だけの雑魚……そう言うことだった。


 実際問題、足が弱点になるからこそ、それ故に地上戦専用の機動兵器は虫や蟹のようにいくつもの足を生やし冗長性を高めた多足歩行式になったりするのだ。

 

 いかんせん、戦闘になると足が二本しかなく、足の一本でもやられたら即擱座では兵器としては、話にもならんのだよ。

 

 そもそも、二足歩行の人間の形自体が戦闘には不向きなのだ。

 

 戦闘に特化するのであれば、多足歩行にした上で、高さも抑えて、正面投影面積も最小限とする。

 

 要するに、多くの昆虫の持つスタイルが本来、地上戦では最適だと考えられている。

 そこまで解っていながらも、銀河帝国軍は冗長性に劣る二足人型兵器に拘っていたのだが。


 この理由は簡単で、そりゃ、人間の感覚では8本足やら6本足でガサガサと腹ばいになって歩くとか、無理があるからに決まっているからであろう。


 そこら辺は、きっちりと試した上で有人人型機動兵器には二本足が最適解と言う結論に達しているのだ。

 

 ちなみに、帝国製ナイトボーダーは、脚部破損による擱座対策としては、姿勢制御スラスターを最大出力吹かすことで空を飛んで、逃げられるようになっている。


 もっとも、それでも逃げ切れそうもない時は、射出式のコクピットブロックを飛ばして、パイロットだけでも生き延びさせる。

 

 とまぁ、その手の冗長性と搭乗員の生存性の確保については、帝国軍は昔から非常に熱心で、それ故に紙装甲の機動力重視ドクトリン兵器でも、割りと高い生存率を誇っている。


 他足歩行兵器については、実際……かのユーリィ卿が甲虫のような多足歩行兵器の試作機に搭乗して、まともに歩かせることも出来ずに「こんなキモくて、ブサイクな巨大ゴキブリみたいもん乗ってられっかー!」と癇癪を起こしたとかなんとか、そんな話も伝わっているのだがな。


 ユーリィ卿といえば、勇猛果敢ながらも、物静かで厳粛な武人と言う事でその人物像が伝わっているのだが。

 

 たまに、こんな風に感情的に喚き散らしたり、こう言っては何だが、ものすごく頭の悪い発言がその発言記録として残っているのも事実なのだ。


 まぁ、歴史上の人物の人柄やエピソードなどは、後世の人々の願望や創作も入り交じって変質していくと言うのは、昔からよくあった事のようで、その真実については誰にも解らないと言えるのだが。


 私自身はユーリィ卿については、巷で言われているような厳格で物静かな人物ではなく、どこにでもいるような天真爛漫な少女だったのではないかと思っている。


 実際、私は帝国の機密ライブラリの過去の記録情報にて、女学生姿のユーリィ卿がスイーツの店に来店し、同年代の少女たちに囲まれながら、年相応に顔中生クリームだらけにして美味しそうにフルーツパフェを頬張っているムービーを見たことがある……。


 なんとなくだが、今でも帝国軍の式典などで、たまに流されるユーリィ卿の演説や人格再現プログラムの受け答えよりも、そっちの方が本人像に近いのではないかと思っている。


 実際、VRシュミレーター訓練の本人の人格再生プログラムで垣間見えた彼女の人柄は、終始なんとも軽いノリで、よく笑い、よく怒り……どうでもいいコトを延々と話していたり……伝え聞く人物像と割りとかけ離れていたのも事実なのだ。

 

 もっとも、それでいて満面の笑顔と共に、無茶振りや地獄の特訓をやらされるのだから、こちとらたまったものではなかったのだがな。


 まぁ、総評として、あれは悪くない時間だった……。

 あの時だけは、私は皇帝であることを忘れて、ユーリィ卿の教え子の一人となれていたし、ある意味、あれは、私にとっての母のようなものであったからな。


 今となっては、懐かしき良き思い出であるな。

 

 リンカの話だと、お母様はあれにほど近い再現VRプログラムを確立しているようだし、機会があればあの方にまた揉んでもらうのも手ではあるな。


 ……とにかく。

 まずは一体撃破っ! これは幸先が良いな。

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