第三十二話「お願い、お母様!」②
(そうだな……。ならば、いっそ人が乗って自在に動かすようには出来ぬか? 要するに神樹兵の鎧を大きくしたような感じなのだが……ちょうどいい、私の記憶情報をそっちで検索してみてくれ。人型機動兵器ナイトボーダーと言うのだ)
すでに、最適解は解っているのだ。
ヴィルデフラウテクノロジーを用いたパワードスーツ……神樹兵の鎧はすでに完成しているし、スタンドアロンの人型ドローンもウッドゴーレムという形で、一応は完成している。
武装などを抜きにすれば、二足歩行の10m級機動兵器程度を作り出すなら訳もないだろう。
なお、思考制御方式は譲れないのだが、それも恐らく十分可能だろう。
なにせ、神樹兵の鎧自体がパワードスーツとほとんど同様の仕組みで、操縦者の意思を読み取り、先読み制御でパワーアシストすることで、使用者の筋力や速度を増幅する……お母様の持つ技術はとっくに、その領域に到達しているのだ。
なお、使用者は誰もが身体強化魔法のようなものだと認識していて、ほとんど戸惑うこと無く、その恩恵を受理しているのだが。
……あれは、そんな程度のものではないのだ。
この思考制御コントロール自体がそもそも、帝国でも近年になってようやっとマトモに実用化出来た。
そのくらいには、高度な技術なのだ。
帝国のナイトボーダーも当初はパイロットが操縦桿を握って、間接操作するような兵器だったのだ。
もっとも、この間接操作については、始めの頃は特に問題なかったらしい。
なにせ、機体の反応速度をいくら引き上げても、その性能限界として、人間自体の耐久性の限界と言う問題が付きまとうのだ。
要するに、人間が耐えれる程度の性能に留める限りでは、さしたる反応速度などは要求されなかったのだ。
だが、機動兵器ドライバーが生身の人間ではなく、強化人間……人間を遥かに上回る耐久性を持つようになってきて、生物であるが故にゼロタイムの反応速度を持つドラゴンなどを相手にするとなると、些か事情が変わってきた。
と言うよりも、帰還者との戦いの時点で、特にユーリィ卿に代表される有力パイロット達の反応速度が機体の反応速度を余裕で上回るようになって来ており、その時点で間接操作方式ではもはや間に合わないと結論が出ていたのだ。
そして、現代の最新型ナイトボーダーはパワードスーツの技術流用により、神経接続の上で自分の体同然に操作できるようになり、特にハイエンド機と呼ばれるハイコスト機は、例外なく神経接続方式になっている。
なお、帝国軍のナイトボーダーは、基本的にハイエンド機とローエンド機の二種類が存在する。
ハイエンド機……これは、精鋭でもある強化人間が搭乗することで、前線の要となる……そう言う存在で、膨大なコストを投入し、強力な武装と圧倒的な機動力と反応速度を備えた強力な機体となっている。
もはや、生身の人間が乗りこなせる機体ではないのだが、最前線に人を送り込むとなるとそれくらいでなければ、とても生還は叶わないのだから、致し方ない。
そして、そのハイエンド機をフォローする完全無人制御のローエンド機。
こちらは、有人機のダウングレード版だったり、独自設計の簡易構造機などで、とにかくローコストで大量に作れるようになっていて、頭数の勝負の際や、ハイエンド機の盾となったり、時に道を作り、時に退路を確保する……そんな役割を想定している。
要するにハイローミックス構成と言う思想だな。
あまり、少数精鋭には頼りたくはないのだが。
ウッドゴーレムの無人制御については、まだまだ厳しい段階のようで現状、魔力供給役兼命令者の術師が付きっきりでないとまともに運用出来無いという問題点があった。
要するに、ウッドゴーレムの無人兵器としての運用は、時期尚早なのだ。
そのためには、この世界流の戦術統括AIのような存在を作り上げるなど、色々と超えるべきハードルがある。
もっとも、相手がせいぜい1ダース程度なら、今回は堅実に有人制御兵器とすべきであろうな。
つまり、初っ端ハイエンドを先行量産すると言う発想だな。
(して、どうだ? 要は人が中に入って動かせる思考制御型ウッドゴーレム……お母様の持つ技術ならば、この程度、造作もなかろう)
(なるほど、聞いた限りだとウッドゴーレムを大きくして、少しいじる程度でよさそうであるな。それなら直ぐに出来ると思うのだ。走って、飛んで棍棒でも振り回せる程度でよいのか? この短時間ではテストもままならんので、そんなものになってしまうぞ。一週間ほど時間をもらって、テストパイロットなどをよこしてもらえば、武器などももう少しマシなものになるのだがなぁ……)
(一週間もかけられては、さすがに間に合わん。だが、さすがお母様……話が早いな。戦時急造、大いに結構……それで良いから、ひとまず6体ほど作っておいてくれ。ああ、今回は私も出るぞ……これでも、人型機動兵器の訓練は一通り受けているのでな。ここは教官役程度、やってのけねばなるまい)
まぁ、新規設計の人型機動兵器を一週間で完成とか言ってる時点で、十分おかしいのだがな。
それに、訓練時間の問題も、イザとなれば時間圧縮VRでの訓練でもやればいいのだ。
リンカの件で、お母様は帝国で使用されていた時間圧縮VRの再現程度なら無造作にやってのけると言うことが判明している。
出来れば、飛び道具くらい欲しかったが、相手も飛び道具を持っていないのなら、そこは妥協してもいいだろうが……一応、何が作れるのかくらいは聞いておこう。
(そう言えば、武器も作る事が出来るのか? 確かに電磁草や水晶花を応用すれば、レールガンやレーザー砲くらいなら作れそうだが……)
ちなみに、水晶花と言うのは、惑星表土が二酸化ケイ素……要するに細かいガラス片に覆われた惑星「クリスタル・スフィア」の原生植物で、クリスタルやら水晶柱が惑星の至る所に転がっている……そんな美しくも不毛の惑星に育つ惑星固有植物だった。
その惑星大気には、粉塵化した二酸化ケイ素がふんだんに混ざっており、酸素もそれなりにあるのだが、生身で降り立つと一呼吸で肺がズタズタになって死ぬとかそんな調子で、そもそも二酸化ケイ素自体が宇宙ではありふれている物質なので、利用価値なしとされていた惑星だったのだが。
例によってのヴィルゼットの現地調査で、ケイ素系植物と言うトンデモ植物の宝庫だと言うことが判明している。
なお、これらの植物は二酸化ケイ素を光合成分解した上で、ケイ素と酸素と再結合させることで、酸化還元反応を起こし、その際に発生するエネルギーを生存エネルギーとしている……なんとも珍妙な生態の植物だった。
二酸化炭素の光合成反応で炭素合成する炭素系植物とは、明らかに異質な代謝を行う植物で、恐らく存在するだろうとされていたケイ素生物の走りのようなものだとされていた。
なお、例によって惑星調査も見るからにダメそうと言う理由で、上陸探査もいい加減に済まされていて、水晶花に代表されるクリスタル・スフィア原生植物は、それが植物だったとは誰も気付いていなかったと言うオチだった。
なお、この惑星はいわゆるハズレ星系であり、その所属についても、帝国黎明期に片っ端から買い漁っていた資源星系の一つだった為、我が帝国の領土でもあった。
もっとも、ケイ素植物の発見で、将来的にも利用価値が増したと言う事で、「クリスタル・スフィア」の衛星軌道上には研究施設が建造され多くの研究者が常駐し、その星系にも機密保護の為、1000隻規模の一個艦隊が常駐し、かなり大掛かりな調査研究が行われているのだ。
まぁ、今はまだ基礎研究の段階なので、成果が出るのは100年かそこらはかかるだろうがな。
そして、水晶花と言うケイ素植物は、氷柱のような枝とガラス板のような葉を付け、成熟すると水晶細工の薔薇のような花を咲かせ、最後に丸い水晶玉のような極めて透明度の高いクリスタルで出来た実を付ける。
どうもこれは、水晶体の真ん中にある中心核……種に周囲を囲んだ水晶体により効率よく光を集中し、発芽エネルギーを与える……そんな仕組みらしいのだが。
その水晶玉のような実が、この植物のキモで、それに簡単な加工を加えるだけで、兵器級レーザーにもそのまま流用出来る程の超高精度レンズになるという事が解っている。
この時点で恐ろしく有用なのだが。
今のところ「クリスタル・スフィア」以外の環境で、実を付けるまで育成できた試しもなく、何より実が付くまで、軽く十年以上はかかると言う問題があった。
つまるところ、物はいいのだが。
生産効率はお察し。
この時点で、帝国では既存技術に成り変わることは無かったが。
この惑星でなら、話は別だ。




