表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河帝国皇帝アスカ様、悪虐帝と呼ばれ潔く死を遂げるも、森の精霊に転生したので、ちょっとはのんびりスローに生きてみたい  作者: MITT
第二章「アスカ様の覇権国家建国道」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/312

第二十八話「炎の使徒」①

 一方、ホドロイはひたすらに街道を一人駆け続けていた。

 馬もそろそろ限界のようだったが、立ち止まる度に狙撃され、その度に逃げ出すように前に……敵地へと駆けていっていた。


 やがて、ホドロイは唐突に広場のような場所に出た。


 そこは100m四方ほどの広場で、エメラルドグリーンの砂のような物が至るところに撒かれた異様な空間で、周囲には異常なほど密接に生えた木々が壁のようになっていて、振り返ると来ていた道すらも無くなっていた。


「な……なんだここは……閉じ込められたのか?」


 体力の限界をとっくに超えていた馬が泡を吹いて倒れると、ホドロイも剣を抜いて、身構える。

 だが、その体躯は明らかに以前より大きくなっていて、手足の筋肉も異様に膨れ上がっていた。

 

 そして、広場の中央に生えた草が複雑に絡まると、人型を象っていくと、小柄な少女のような姿となる。


「……ホドロイ子爵殿。ようこそ、参られた。心より歓迎しようではないか」


 全身緑色で、木の葉を纏った異形なのだが。

 明らかに、知性を感じさせる存在だった。


「な、何者だ……貴様っ!」


「なんだ、この私に用があったのではないのか? 我こそ、神樹帝国皇帝……クスノキ・アスカである! まずは平伏せるが良い……さすれば、少しはマシな死に方が出来るかもしれんぞ?」


「まさか! 貴様が例の神樹の精霊か! なんと面妖な……この化け物が!」


「人のことが言えるか? なんだ、その醜い筋肉ダルマは……どうやら、貴様、いよいよ末期症状のようであるな!」


「な、何のことだ! 貴様、何を言っているのだ!」


「自分の身体を見るが良い。ちょっとした化け物のようであるぞ?」


「ば、化け物だと? な、なんだっ! この身体はいったい……何が起きているのだ!」


「ラースシンドロームの身体強化作用……まぁ、強化人間化と言ったところなのかのう。宿主を長生きさせるために強化させたのだろうが、付け焼き刃は否めないであろうし……言わば最後の力と言ったところだな」


「な、何を言っているのだ……貴様こそ、部下も連れずにノコノコ一人で来るとは……。貴様らの矢も大した威力のようだが、この私には効かぬぞ! 実際、ここに来るまでに何度も撃たれたが、一発も当たらなかった! この力……どうやら、我が神……炎神アグナスは私を見捨てていなかったようだな! これぞ神の力……今ならば何でも出来る気がするぞっ! どうだ? 今、降伏するなら悪いようにはせんぞ……その植物を操る異能……我ら貴族が有効活用してやろうではないか!」


 そう言って、ホドロイは巨躯となった身体を見せつけるように、一歩踏み出す。


「何を言っているのだ? 貴様は追い詰められている立場に過ぎん……。まったく、この国の貴族共はどいつもこいつも、我が力を自由に出来るなぞ……思い上がりも甚だしいな……。全く同じことをユーバッハも言っていて、軽く返り討ちにしてやったのだがな……」


「なんだと! やはり、ユーバッハ殿を殺したのは貴様だったのか!」


「まぁ、そうだな……。私はヤツの最期を看取り、その心臓を止めた……そう言う意味では私が殺したと言えるな……」


「許せん! 許せんぞ! 貴族を殺した罪を償わせてやる! ああ、生かして捕えるなど甘いことはもう言わん……貴様は私の手でくびり殺すっ! この神に与えられた圧倒的な力で、ユーバッハ殿の仇をとってくれようぞ! 貴族の力……思い知るが良いぞ!」


 そう言って、ジリジリとアスカの元へにじり寄るのだが。


 一歩歩む度に、皮膚が裂け血が吹き出し、赤い水晶のようなものがあちこちから、生えてきていたのだが……ホドロイはその事に気づいていないようだった。


「吠えるな……貴様一人で何が出来る? その力……炎神が貴様に与えた力だと言ったが、どう見てもそうは見えんぞ? 貴様は……確実に死に向かっておる……。いわば蝋燭が燃え尽きる前の最後の派手な輝き……その程度であるのだぞ? その様子ではもはや手遅れであろうが、せめて、安らかなる最期を迎えさせることくらいは出来るかもしれん……潔く降伏する気はないか?」


「ほざけ! 我が盟友たるユーバッハ殿を弑逆し……。我が部下たちを惨殺し……この私を愚弄して、伯爵様をもあざ笑い、いずれ、貴様はこの王国そのものを滅ぼすつもりなのであろう? 神樹の精霊……この世を滅ぼしかねない邪悪なる存在……炎神教団の者が言っていたとおりではないか! 炎神よ……この者を滅ぼす力を……! 神罰よ降れっ! 神の炎「メギド」ッ!」


 そう言って、ホドロイは拳を天に突き出し、そしてそれを振り下ろすのだが……。

 ……何も起きなかった。


「何故だぁあああ! 何故、何も起きぬのだ! 炎神よ……神の奇跡をぉおおおおっ! 爆炎よ! 我が敵を滅ぼせぇえええっ!」


 ホドロイも必死で、爆炎の術式を構成し、放とうとしていたのだが……。

 一瞬、その頭上に炎が立ち上りかけるのだが、たちまち霧散するように消えていってしまう。


「すまんな、ここは我らが神樹様……お母様の領域なのだ。炎神の力はもはや届いておらぬ……。故にそのような火の元素魔法は一切使えん……残念であったな」


「馬鹿な……炎神の力が……火の力が全く感じられない……。まさか、神樹がそこまでの力を持つなぞ……聞いておらんぞ! あれはただの巨大樹ではなかったのか!」


「そんな訳がなかろう……。あれは、私から見ても底が見えない化け物であるぞ? しかし、ドゥーク殿……さすがであるな! まんまと貴様一人だけを、この処刑場にまで追いやってくれるとはな……。もっとも、部下に裏切られ、行き場を失い前に進む他無かったようではあるがな……なんとも、哀れな末路よの……」


「処刑……場……だと? まさか、貴様……初めから、この私だけを殺すつもりだったのか! 何故だ……何故、私が殺されなければならんのだ!」


「侵略者は殺す、簡単な話であろう? まぁ、貴様は炎神教の信徒でもあるようだからな……相容れぬ異教徒にして、侵略者……殺さない理由を探すほうが無理だな。こうなると炎神教徒共の始末もせねばならんか……一体どれほど殺すことになるのやら……。まぁ、今更、気にもせぬがな」


「な、な、な……。え、炎神教徒をも殺すというのか! き、貴様は何なのだ! 炎神を崇めるのがそんなに罪深いことだとでも言うのか!」


「では聞くが、貴様ら炎神教徒は改宗しろと言われて出来るのか? 狂信者というのは、いつの時代も実にしぶとく、タチが悪いからな……後腐れなく徹底弾圧し、一人残らず始末するか、その信仰の対象を消してしまうのが一番早いのだよ」


「き、貴様は……なんなのだ! いいか? この平原諸国の総人口の二割が炎神教徒なのだぞ……それを滅ぼすなど、ましてや神を滅ぼすなど、絵空事を……」


「ふむ、たった二割か……その程度はコラテラル・ダメージの範囲内だな。よいか? 銀河帝国の皇帝とはそう言うものなのだ……。より多くを生かす為なら、何の躊躇いなく少数を殺す……実際、私は10億の民を虐殺する時も、なんら躊躇いを覚えなかった……私はそのように作られているのだ。貴様らのような先祖の偉業に胡座をかいているような者達とは覚悟も気概も違う……。貴様ら……私にいわせれば、くだらなすぎて反吐が出るわ! 貴様らのような者が統治者面をしているのを見るだけで、怒りがこみ上げてくるのだよ……」


「……き、貴様の好きにはさせんぞ! 貴族の誇りにかけて! そして、王国の未来のために、貴様だけはっ!」


 猛り狂うホドロイだったが、アスカは至って冷淡だった。


「ああ、そう言うのは別に興味ないのだ。まぁ、安心しろ、後のことは私に任せておけ……貴族も王国も滅ぼすが、代わりに皆が笑って暮らせる……素晴らしい国を作ってみせようではないか!」


「わ、我々が何をした! なぜ、王国までも滅ぼすのだ! それに、貴族の何がそんなに憎いのだ! 一体、誰が貴様にそこまで恨みを買ったのだ!」


「話を聞いておらんかったのか? 言っておくが、別に貴様ら一人一人に恨みも憎しみもないぞ。強いて言えば、我が覇道を阻む邪魔者だから……その程度であるな。要するに路傍の石ころのようなものだ……ただそこにあったから、蹴り飛ばす。そのようなものだな。それに貴族と言っても恭順するなら悪いようにせんよ……もっとも、貴様らバーソロミュー伯爵の一派は駄目だ。炎神教団の息がかかっているのではなぁ……助命する理由を探すほうが難しいぞ」


「ふっざけるなぁあああああっ!」


 鬼の形相で、アスカに向かって、拳を振り下ろすホドロイ……。

 けれど、その拳は虚しく空を切った。


「遅いわ……その程度の力で何かできると思ったのか? 既に退路は断った……貴様はもう、終わりだ。炎神アグナスの信徒殿? なぁに、貴様の死後の魂の安寧は、貴様の神ではなく、この私が直々に神樹様に祈ってやるとしよう」


 前に居たはずなのに、背後に回り込み、コイルガンを突きつけながら、冷徹な一言を放つアスカ。

 動きも何も見きれず、相手はすぐにでも自分を殺せるとホドロイも瞬時に悟ると、もはや自分に一切の選択肢が与えられていないと知った……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ