14.5話。王国最強の騎士の話
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突然だが、フェイル=アスト王国には、最強と謳われる騎士が三人いる。
「最強が三人っておかしくない?」と疑問符を抱く者もいるかもしれないが、これにはこれで理由があるのでまずは聞いてほしい。
まず最強の騎士と言われて最初に名を挙げられるのが【騎士団長】こと王国近衛騎士団の団長である。
王を守護する役目を持つ近衛騎士。それを統括する団長が弱いはずもなく、彼は個人の武力も指揮能力も極めて高い。
王国内には数多の領地持ちの貴族がおり、その殆どが多かれ少なかれ己の騎士団を抱えているが、その中で近衛騎士団を名乗れるのは王直属の騎士団だけであり、王国では一般に『騎士団長』と言えば彼のことを指す。ちなみに38歳の男性。
しかし、王が戦場に赴くこともなければ、王を狙う不届き者もそうそういないフェイル=アスト王国では、その職掌柄、近衛騎士団長が実際に戦闘をするケースはほとんどないのが実情である。
よって、彼は王国最強と謳われてはいるものの『強いことは知られているが、どれほど強いのかわからない』という切り札的な存在でもあり、実戦の成果という意味では、他の二人に劣るところがあるのも否めない事実だ。
次いで名が挙がるのが【魔導公妃】ことアンネ・フォン・ミュゼルシュヴァイクだ。
彼女は現軍務卿ローレン侯爵の姉であり、王の弟であるミュゼルシュヴァイク公の正室という、王国内の女性の中では王母や王妃に次ぐ貴人である。
よって、普通なら戦場に出して良いような存在ではない。ないのであるが、何を考えたか彼女は率先して『王の代理』として連合軍に参加し、フェイル=アスト王国が主導する戦域に於いて圧倒的な戦果を叩き出してしまう。
とは言っても、王国でのトップクラスの貴人である彼女が戦場で活躍してくれたおかげで、これまで最前線で魔族と戦ってきた国家や、他の二大国からも『後方にいるフェイル=アスト王国には本気で戦争をする気がない』などといった中傷や批難を寄せられることがなかったことは、王国としても素直にありがたいことであった。
……組織の管理能力も、兵の指揮能力も、そして個人の武も極めて高い彼女の、気高く、堂々と、それでいて獰猛な戦を行う姿を見た連合軍の者たちが、彼女のことを【女帝】と評していたり、その通り名が魔族にも伝わっていて武闘派の魔族に興味を持たれているとなると話は違ってくるのだが、このことに関してはこれからの話の進行具合によってはなんとでもできることでもある。
なにせ彼女は40を超える女性であり、今は後進へと譲るために戦場から距離を置いているのだから。
流石の魔族の武闘派とて、年齢を理由に戦場から身を引いた女性にちょっかいをかけるほど暇ではないはずだ。
え? 彼女が自分から戦場に出たら? 知らん。
国王は自分の代理として戦場に立ってもらっている立場なので、彼女の行動を止められないし、現場の兵士や国民も、国家の英雄である彼女が出陣することを喜ぶことはあっても止めることはないだろう。
旦那や軍務卿に至っては、有無を言わさず出陣の準備を整えさせられることが確定している。
このような背景を有しているが為、王国内に於いて唯一アンネを止めることができるとすれば、実母であるフリーデリンデだけ(実際アンネが前線から引き上げたのは彼女に「いい加減に公妃らしくなさい」と叱責されたからである)なのだが、フリーデリンデは軍事の専門家ではないので、アンネが純軍事的な理由で出陣を決意したら止めることはできない。
つまり彼女は、本人が戦場に出る気になればいつでも出られるということでもある。
このように、武力だけでなく権力や周囲への影響力を加味すれば、アンネ・フォン・ミュゼルシュヴァイクという女性は、確実に近衛騎士団長すら凌ぐ存在であった。
……ちなみに、年齢からもわかるように近衛騎士団長は彼女の後輩であり、新人時代から随分と可愛がられてきた経験があるので、彼女には逆らえないらしいという噂も無きにしも非ず。
とにかく、守りの騎士団長と攻めのアンネ。
この両者が長く王国最強の騎士として君臨してきたのだが、アンネの現役引退に伴い、三人目の騎士の名が噂に上がるようになってきたのである。
とは言っても、現時点ではその知名度は未だ低く、知る人ぞ知るという存在にすぎないのだが……
その三人目の騎士とは、アンネが前線から引く際に後任として任じた騎士であり、いわば王国最強の継承者であった。
◇◆◇◆◇
「なるほどなるほど。魔族の武闘派がアンネ先輩をご指名、ねぇ。それで俺をお呼び出しになったと?」
「……そうだ。流石に引退をした姉上、いや、ミュゼルシュヴァイク公妃殿下を軽々に戦場に出すわけにはいかんからな」
「そりゃそうでしょう。王国軍としてもいつまでも先輩……っと、殿下だけに頼るわけにもいきませんや。そう思っているのは俺だけじゃありませんぜ?」
「……うむ。頼もしい限りだ」
神城からの報告を受けて胃にダメージを受けたラインハルトに呼び出された三人目の騎士は、大貴族であり、軍のトップであるラインハルトを前にしてもふてぶてしい態度を崩すことなく、それどころか平然と『アンネ以外の騎士だって十分戦える』と嘯いた。
この肝が太い騎士の名は、アヴェ・ダメリーノ・アモー。爵位は男爵。
普段からブルーベリーのように蒼い丈夫な服を着込みつつ、鍛え込まれている肉体美を惜しげもなく衆目に晒す男であり、戦場に於いてエルフだろうがドワーフだろうが獣人だろうが構わず喰っちまうと豪語する男でもあり、王都では薔薇屋敷と呼ばれる屋敷を管理していると噂される男でもあり、青薔薇の騎士という意味深な異名を持ち、時には薔薇のように艶やかで、時には野獣のような獰猛さを周囲に見せつける伊達男でもある。
そんな彼を一言で言い表すなら、そう。彼は『いい男』であった。
悪乗り回
王国さいきょーはおねーちゃん一人じゃない! ってお話。
え? ラテン語? さて、なんのことやら?
ちなみに「ウホッ!いい男」と思わず口に出したのが道○君で、彼に「やらないか」と言ったのが○部さんですので、混同しないように気をつけましょう。
ちなみのちなみに「やらないか」に「疑問符」はつきません。
なぜなら! 俺や俺たちの仲間がその言葉を思い浮かべたときには、既にやることが決まっているからだ! (え?)
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