14話。位置情報の確認も大事
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「大雑把ではありますが、この大陸の形と、それぞれの勢力圏に関しては大体このような形となっております」
「ほうほう。……これはあくまで国境ではなく、勢力圏を表したものなんですね?」
「えぇ。かなり大雑把ではありますが」
「そうですか。(んん、なんだこれ? 黒塗りなのは、細かい地形や街の位置を隠すためだろうし、細かい国境とかを書いていないのは俺に見せる情報として適当なラインがわからなかったからだとしても、だ。……おかしくね?)」
「何か?」
「……いや、この地図だと魔王軍の勢力圏にある島まで記されていますけど、これは誰かが確認したのですか?」
ルイーザが元々持っていた大雑把な地図に、サラサラと書き足した結果出来上がった大雑把な勢力図を見て、それに書かれた魔王軍の勢力図の中心部にブリテン島が記されていたことに驚いた神城は、思わず内容の信憑性を疑う発言をしてしまうが、それに対する返事はなんとも曖昧なものであった。
「実際に確認したというわけではありませんね。ただこの地図は、昔『測量』というスキルを持った勇者が遺したものです。そして過去、各国の担当者が実際に測量した結果、海岸線などにも齟齬がなかったとのことですので、信憑性に疑いはありません。よってこの位置にこの島が実在する可能性は極めて高い。と言われております」
「……そうですか(細かいことは気にしたら負けだな)」
大陸の形を確認した神城は、とりあえずそう決断を下し、これのことについてはこれ以上考えることを放棄した。
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女神曰くナーロッパ大陸は、神城が知るヨーロッパとほぼ一致する形であった。
細かく言えば、国連に於いてヨーロッパ州と言われる地帯だった。と言うべきだろうか。
南を地中海・黒海・ボスポラス海峡・コーカサス山脈で区切り、東をカスピ海とウラル川・ウラル山脈で分断した形で、トルコが入っておらず、ロシアの一部やカザフスタンの一部が入っている感じである。
その中で、神城たちが召喚されたフェイル=アスト王国は、完全に後方に位置する国家であった。
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「後方とは聞いていましたが、これは……流石に予想外ですよ」
(おいおい。確かに国王は最初『今、この国は、いや、この世界は魔王の手によって未曾有の危機に陥っている!』とか言ってたけど、言い直したのは話の規模を大きくして俺たちを煙に巻くのが目的じゃなく、あとでバレても『嘘じゃない』と言い張るためかよ)
なんともセコい話だが、実際外交は言葉一つで覆されることもあるのだから、国を背負う国王としては間違ったことはしていないのが、神城としてもなんとも言えないところであるが、今の問題はそこではない。
「そうかい? けど、これで男爵サマもアタシの言いたいことはわかっただろう?」
「えぇ。……確かにこれなら、軍人以外には直接的な被害は無いのもわかりますし、国民感情として魔族に恨みがないと言うのも納得できます」
日本で言えば、自衛隊を紛争地域に派遣しているようなものだ。これでは兵士の身内はともかく、戦とはほぼ無関係な国民が魔族に強い恨みを持つのは難しい。
「だろう? 一般の国民は遠く離れた前線で戦をしている魔王軍よりも、近くのダンジョンから出てくる魔物だの野良の獣に殺される確率のほうが高いんだ。それに『専業の軍人は死ぬことも当然任務に含まれているから、殺されても恨まない』……なんてことは流石に言えないけど、それでも戦場に出る以上、本人も家族も一定の覚悟はしているからね」
「……そうですか。まぁ本人や家族がそういった覚悟をしているのなら、私からとやかく言うことではありませんね(覚悟、覚悟ねぇ)」
転移する前に住んでいた日本の場合、紛争地帯に自衛隊を送ることはないので、神城にはマルレーンの言う兵士の覚悟とやらを正しく理解することはできない。よって神城は、この話題に関しての明言を避けつつ、考察に思慮を巡らせる。
(いや、もしかしたら死が身近にある世界だからこそ、病死よりも戦死を尊ぶ風習があるのかもしれん。遠征軍に参加すればそれなりの給金にもなるだろうし、ステイタスにもなる。もしも死んだとしても遺族年金のような補償があれば、残された家族もそれなりに暮らせるかもしれないし)
最前線で常に国土が荒らされているような国家ならともかく、ここまで戦場と離れているフェイル=アスト王国ならば、十分な補償も可能かもしれない。
実際のところはどうか分からないが、神城は門外漢である己の憶測よりも、現地人であり、兵士の心情を知るマルレーンの言葉を信じることにした。
「では次に魔族との交渉ですが、今のところ、私個人が行う分には問題にはならない。そう見ても良さそうですか?」
「うーん。それについては政治が絡むからねぇ。まぁ、大っぴらにしなきゃ良いとは思うよ?」
「政治、あぁ。教会や他国との兼ね合いもありますか」
「そういうことさね。ウチと違って、最前線の国家には魔族に恨みを持つ連中がたくさんいるだろうし。そいつらからしたら魔族との交渉なんざ、裏切り行為以外のなにものでもない。だから、それを大っぴらにしたら反発するのは必至ってわけさ」
「ふむ。少なくとも三大国家と呼ばれる国家のうち、フェイル=アスト王国以外の二国は魔族領と接しているうえに、現在進行形で戦争をしているようですからね。この状況では国内外からの反発を招くのは必至ですか。……と言うか、これ、両国とも連合軍を囮にして自分たちの領土を広げようとしてません? 具体的には神聖帝国が北上で、連邦が西進を狙ってますよね?」
「そうだね。だからこそ連合軍には私たちが多く参加することで、三大国の軍事的なバランスを取っているのさ」
「おぉう。では神聖帝国と連邦の狙いも織り込み済み、ですか」
「そりゃそうさ。連中が魔族と正面からぶつかってくれるからこそ、こっちだって余裕があるんだからね。下手に手を抜いて連中が負けたら、最終的に困るのはこっちだろ?」
「あぁ確かに。緩衝地帯がなくなると困りますもんね」
「そういうことだよ」
大国にとっては最前線で戦う連合軍が囮に過ぎないことや、フェイル=アスト王国の上層部もそれを認めていることを、あっさりと明かしていくマルレーン。
ある意味で情報を漏洩しまくっているマルレーンを止めようとしないルイーザを見て、神城はこれまでの話は王国内ではそれなりに知られていることなのだと理解する。
「ではこの度、我々を召喚したのは?」
「アタシは知らないけど、多分連合軍に勇者たちを派遣することで、他の部隊を引かせて、その分の軍事費を浮かそうとしたんじゃないかい?」
「……なるほど。異世界から召喚された勇者を一軍に匹敵する精鋭部隊とし、それを送る代わりに他の部隊を休ませる。わからなくはないですね」
「そんなところだろうね」
この場合、実際に勇者が一軍に匹敵するかどうかは重要ではない。
『異世界から召喚した勇者』というネームバリューと、彼らが死んだところで王国にはなんの痛手にもならないことが重要なのだ。
(そりゃ大事にするよな)
こういった事情があるなら、王家が【勇者】や【剣聖】といった戦闘特化の連中を手元におこうとしたのかも、意図が良くわかる事柄だった。
数千、数万の軍勢を数年間最前線に張り付けるのと、30人前後の勇者一行を前線に送り込むのでは、掛かる費用がまるで違うことは考えるまでもない。
どれだけ贅沢をさせてもお釣りが来るうえに彼らが戦場で長生きすればするほど、フェイル=アスト王国は軍事費を節約しながら、国家としての義務を果たしていることになるのだから。
……いずれ使い捨てるにしろ、使えるうちは大事にする。
ただそれだけの話であった。
王国や周辺国の立ち位置を理解したところで、次の問題だ。
「普通に考えたら、私が魔族と内密に交渉を行うにしても、向こうが内密にしてくれる可能性は低いですよね?」
「そうだね。常識的に考えて『三大国の一角であるうちが連中と交渉をしている』なんて、連合の切り崩しに利用できる情報を活用しないわけがない」
そう。神城やフェイル=アスト王国の上層部が周辺国家に内密にして魔族との交渉を持ち掛けようとしても、魔族の側からすればそんな茶番に付き合う必要はない。
むしろ大々的に公表することで人類同士が戦ってくれれば、自分たちに掛かる圧力が減ることになるのだから、そう言った方向で活用するのが当然のことと言える。
当然のことと言えるのだが……
「彼女たち、完全に人間に興味ありませんでしたよね?」
「……あぁ。そうだね」
神城とマルレーンが思い出すのは、勇者を探りに来たはずなのに、甘味を味わうことに集中していたヴァリエールとアテナイスの姿だ。
あの、完全に人間に興味がない彼女らの様子を見れば、魔族が連合軍の結束を乱すために何かを画策するとは考え辛いというのが、神城とマルレーンの共通認識であった。
「……彼女たちにその気がなくとも、上層部は違う。そう考えるべきではありませんか?」
これまで専門外のことだったので敢えて口を噤んでいたルイーザが、楽観論に傾きつつある神城に注意を促す。政治が絡むことは慎重に事を運んでも『過ぎる』ということはない。
考える時間があるのなら無理に決断を急がず、情報の収集に努めるのが『正しい世の中の歩き方』と言える。
「まぁ、ルイーザ殿の言うことも確かなんですけどね」
結局は彼女らの地位の高さや、気分によって判断が分かれることになるので、急いで結論を出すことではないのは確かだ。
だが神城は、ルイーザほど時間に余裕があるとは思っていなかった。
彼は、彼女たちがそう遠くないうちに、再度来訪するような気がしてならなかったのである。
(それに備えるためにも最低限の方針は固めておきたい)
そもそも神城はアドリブを苦手とし、入念な下準備を必要とするタイプの人間である。
そんな神城からすれば、大概の人間もそうだろうと思うが、なんの方向性もないままに気分で自分を殺せる相手と会話することなど、真っ平御免なのだ。
(だからこそ最低限の備えはしておきたいんだが……あれ? そう言えば一つあったな)
ナニカ彼女たちの気を引くものはないか? そう考えた神城の脳裏に、一人の人間の名前が思い浮かぶ。
「……マルレーン殿」
「ん?」
「ヴァリエール殿が、と言うよりかは、武闘派の魔族の幹部とやらが興味を持っているという『【女帝】アンネ・フォン・ミュゼルシュヴァイク』殿とはどのような方なのでしょうか? いえ、侯爵閣下の姉君ということは存じ上げておりますし、その方の情報を売るつもりもないのですけどね? 流石に向こうが興味を示している人物と知っておきながら、なんの情報も持たないのはアレですし。……そもそも【王国】に【女帝】がいるっておかしくないですか?」
「「あぁ……」」
神城が『あくまで興味本位』というスタンスで問いかければ、その名を聞いたマルレーンとルイーザは、二人揃ってどこか遠い目をしながら溜息を吐く。
……王国最強の騎士の一人として名高いアンネ・フォン・ミュゼルシュヴァイク。
彼女の存在は、その名前を挙げるだけで国王を含めた王国上層部の頭を悩ませることとなる、特大の爆弾であった。
地図ではなく勢力図だから!
この勢力の中に細かい国家もあるんだから!
何も書かれてないところとかにも中小の国家があるんだから!
細かい地形はまだ秘密なんだからね!
……やっつけ仕事を後悔してますが、今のところ細かく修正するつもりはありません。
図形を観るのではなく、イメージを感じて下さいってお話
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