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6話。王国の動きを考察する者たち

文章修正の可能性有り

ローレン侯爵家に於いて、仁義無き女の戦いが繰り広げられてから数日後のこと。


王城より王国内の各所へ『アンデッドが活性化している地方へ向けて、勇者や騎士団の援軍を差し向けること』が大々的に布告された。


さらにその布告の中には、派遣する戦力や簡単なスケジュールなどの情報も含まれており、この布告によって現在アンデッドの動きが活発化している地域を治める貴族やその地域に住む住民たち。更には、今はアンデッドが活性化していないものの、今後に不安を抱く国民たちに対して王家の存在感を示す結果となった。


だが、その布告を聞いていたのは貴族や住民たちだけではない。当然と言うかなんと言うか、彼らの動きを見張る勢力の者たちにもその情報は齎されることとなっていた。



――フェイル=アスト王国・某所。


魔皇(お互いの上司)から威力偵察の任を受け『とりあえずお手並み拝見』と言わんばかりに王国の各地でアンデッドの活性化を促した不死者の王・ヴァリエールと、彼女を抱えて王国を回った鳥の王・アテナイスは、自分たちが行った威力偵察に対するフェイル=アスト王国の反応に対して論議を行なっていた。


「布告と同時に第一陣が出た、か。それに全国民に向けて布告する内容に軍事機密を混ぜるなんて予想外も良いところよ」


「確かに。それも住民と貴族に対する告知が微妙に違うのも中々に厭らしい手」


「えぇ。何も知らなければ私たちだって誤魔化されていたかもしれない」


「うん。これは今回のアンデッドの活発化が私たちの策だとわかったうえでの情報戦と見るべき」


「そっか。そうよね……」


「うん」


フェイル=アスト王国の政治体系は王侯貴族による専制政治である。よって住民たちに軍事行動の情報を明かす利点などない。


そのことに気付いたヴァリエールが、付近の貴族の屋敷に潜ませていた霊から情報を集めた結果。国民に向けて公開された布告の内容と、その布告の後に貴族に向けて発せられた命令には微妙な違いがあることに気付くことができたのだ。


今回王国が行なったことを具体的に言えば、王家は王国の庶民に対して『勇者と騎士団の派遣』と謳ったが、実際に王都から出たのは、聖女と賢者を主体とする魔法使いたちとその護衛の騎士だけだったり、庶民には明確な期間を告げなかったのに対し、貴族たちには滞在する日数を細かく限定するスケジュールを流していたり、と『嘘は吐いていないが詳細を伝えないことで、一つ一つの情報の差を作り出すこと』に成功していた。


この情報の差が生むのは、自分たち(策を仕掛けた者)が描いた絵図面の崩壊である。


「やってくれる。それに、この布告のせいで、貴族連中は自分たちに有利になるように勇者をコントロールすることができなくなった」


(命じられたのは威力偵察だけど、できることはやっておこう。そう考えて種を蒔いたけど、それが無駄になりそう)


ヴァリエールが、やや不満げな表情をしながら呟き、自分用に用意したお茶を飲むと、彼女の向かいに座るアテナイスも自分用に出されたお茶とお茶菓子をつまみながら、ヴァリエールの言った『貴族による勇者のコントロール』について考察する。


「ん? あぁそっか。この布告は連中による足の引っ張り合いを封じる意味もあるのね?」


「うん。狙ったかどうかはわからないけど……いや狙ったと見るべき」


神城が予想したのは『アンデッドを使って勇者の心を折る』という作戦だったが、実際にヴァリエールが狙ったのは『勇者の扱いを巡って貴族同士が仲違いすること』であった。


そもそもの話だが、自身もアンデッドである彼女にとって『アンデッドの臭いや見た目で心が折れる』などと言われたり、それを念頭に於いて作戦を練るなどといった行為は自身に対する侮辱以外の何物でもない。


故に、今回彼女に偵察の命令を下した魔皇の狙いや、彼女とともにフェイル=アスト王国での偵察任務に従事しているアテナイスの内心はともかくとしても、少なくともヴァリエールには『アンデッドとの戦いによる勇者の損耗』についての狙いは一切なかったのである。


まぁ彼女にそのつもりがないとは言え、実際に勇者たちが全員出動し、騎士による督戦の下でアンデッドとの戦闘を行なっていたら、戦闘後に心を病む者が出たであろうことは紛れもない事実なので、一概に神城の考えすぎとも言えないのだが、それはそれ。


話を戻して、今回ヴァリエールが狙った『貴族を仲違いさせる策』について簡単に解説をしよう。


通常、領地を持つ貴族にとって重要なのは『自分が治める土地』であって、他の領主が治める土地ではない。


隣街が自分が治める街よりも豊かな街であれば嫉妬するし、貧しければ見下すこともある。もっと言えば、隣街が豊かな街ならばその足を引っ張ってその財を自領に引っ張ろうとするくらいのことは画策するのが貴族という生き物だ。(派閥が同じ場合は露骨にはやらないが、それでもやらないわけではない)


よって、通常ならば今回の騒動でも貴族たちは『勇者一行が自分の領地に来たら彼らをもてなし、自分の手元に滞在させることで、自分の領地の治安の維持と余所の貴族の領地への移動を妨げる』といったように、自身の後に回された貴族に対しての嫌がらせをする可能性は大いにあった。


そうなった場合、その貴族が行なった嫌がらせを公表し、互いの不信感を煽るだけで王国の動きは停滞することになっただろう。


これは、霊や鳥を使った情報収集によって当の貴族しか知りえない情報を抜くことができる彼女たちだからこそできる、お手軽かつ高い効果が見込める策である。


事実、ヴァリエールもアテナイスも、貴族と庶民の間にある情報量の差に気付かなければこの策を実行してしまい、王国上層部に『この度のアンデッドの活性化の問題を使って、貴族間に不和を招こうと画策している存在が居る』と確信を持たれていたかもしれない。


「いや、別に策が不発になっても、それで私たちの存在が向こうにバレても、私としては痛くも痒くもないんだけどさ」


軽い口調で呟きながら肩を竦めるアテナイス。

しかし、ぶすっとした顔を隠しもしないヴァリエールは、彼女の意見に同意しなかった。


「痛くも痒くもないけど、面白くもない。……違う?」


「あぁ、それはあるかも」


なんだかんだで両者は、これまで数百年以上生きているうえに、その力でそれぞれの種族を統べる王である。そんな両者にしてみれば、たかだか百年も生きられない人間に自分の策が見破られるだけでも面白くはないのだ。


と言っても所詮は『ゲームで負けた』程度の気持ちなので、それがすぐに殺意や敵意に繋がることはないのが、フェイル=アスト王国にとっての救いと言えば救いだろうか。


ともかく、ヴァリエールとアテナイスが考えていた策が一つ潰されたことは事実である。さらにヴァリエールにとって、どうしても理解できない疑問があった。


「この国の中でも教会勢力の持つ力は他の国と大差ないはずなのに、この決断と行動、そして折衝を終わらせる早さは異常としか言い様がない。これは何故? 軍部が教会勢力を黙らせる力を持ってるから? それとも今代の王の力が強いから?」


「ん~。その辺はどうなんだろうね?」


通常フェイル=アスト王国ほどの規模の国家であれば、教会勢力との折衝や軍部内での部隊の割り振り、さらには派遣される土地を治める貴族からの要望や、彼らが所属する派閥などによって、援軍を派遣する順番や人員の数といった各種調整が必要となるため、準備の段階でかなりの時間を取られるものである。


しかし、今回はそういった段取りが全く無いかのような早さで王家は決断を下したし、その決断に対し、教会を始め王国の関係者たちも特に反論をしていない。


(段取りを組むにしても根回しをするにしても、考えられる限りほぼ最短で動いてる。ここの国王は、無能ではないけどそこまで優秀だとも聞いてない。となると、誰かが国王や貴族を動かしたってことになる。それは誰?)


人間社会をよく知るヴァリエールは、この一連の動きに違和感を覚え、自分たちが知らない何者かの存在を感じ、その調査の必要性を感じていた。


「……アテナイスが言う『その辺』を探るのが私たちの仕事だと思うけど?」


「あぁ、うん。そうね。そうだったわ」


「お仕事。忘れたら駄目だからね」


「はいはい。わかってますよー」


大人な見た目とは裏腹に存外軽いところがあるアテナイスを、見た目はお子様ながら思慮深いところがあるヴァリエールが窘める。この辺の性格については、これまでの人生経験と元の種族から来る価値観の差なのだろうか。


そんな両者の見た目と性格についてはともかくとして、元々彼女らに与えられた任務は『威力偵察』であり、その中には当然『王国の対応速度を見定めること』も含まれている。


しかしその報告とて、ただ「王国の対処は早かった」では意味がない。


上司や同僚に報告する以上『何故王国の対処が早かったのか?』だの『それは今回だけなのか?』だのといった検証を行う必要があるのは当然だし、さらに『今回の策に対処した相手は誰か?』とか『アンデッドに相対した聖女や賢者の能力はどうか?』といった情報の調査も必要だろう。


しかし、それを調べるには郊外で見張るだけでは不足。


「はぁ。面倒だけど、王都に行くしかなさそう」


そう判断したヴァリエールは、新たな行動に移ることを決意する。


「王都、ねぇ。ま、貴族から情報を集めるならそれが妥当かな? だけどさぁ」


「だけど、何?」


「いや、私は大丈夫だけど貴女は大丈夫なの? 王都クラスになれば、強力な対アンデッド用の結界があるんじゃないの?」


「あぁそれ? 大丈夫。問題ない」


「そう? まぁ貴女が良いって言うなら私はどうでも良いんだけどさ」


「うん。心配不要」


(……なんか駄目な気がする)


ふんすと小柄な胸を張って『私を誰だと思っている』と嘯くヴァリエールと、そんな彼女の態度に一抹の不安を覚えるアテナイス。


微妙な空気を醸し出しつつ、魔王軍が誇る二人の王が王都へと迫ろうとしていた。


??? 「アンデッドに対する誹謗中傷には断固抗議する」ってお話。


まぁ彼女以外の連中が神城の考察を聞いたら『あぁ、なるほど』と納得して、その対処を褒めますけどね。


―――


肩がー肩がー。

助けてトニオ=サン! 


ラジオ体操やエガヨガしてるんだけどなー。そろそろ病院行っても大丈夫かなー。と、色々不安になる今日この頃。


……書籍の予約数の確認する方法ってあるんですかねぇ?


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