7話。散策する神城が見つけたモノ
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聖女や賢者が王都を発ってから半月ほど経ったある日のこと。
大々的なお披露目式典の裏で密かに男爵へと陞爵していた神城は、マルレーンとマルグリットの母娘と数名の従者を護衛として伴い、王都の貴族街の中にある市場へと赴いていた。
流石の神城も毎日毎日訓練と製薬だけでは気が滅入るので、こうして外に出歩けるというのはありがたいことだし、マルグリットとしても神城と出歩けるのは嬉しいことである。よって護衛としてではあるが。神城と一緒に出歩くことに対する不満はない。
この中で不満があるとすれば、実質的に護衛を束ねる立場であるマルレーンだ。
「いやさ、アタシもね? 今更アンタに『護衛が面倒だから買い物に出るな!』なんてのは言えないってのはわかっているんだよ?」
しかしその不満の大元は『神城が外に出ること』ではない。
「いきなりですね。 何かありましたか?」
既存の化粧品の材料を買うだけならエレンやヘレナに任せれば良いが、新たな化粧品の素となる材料を見定めるのは神城にしかできないことである。
よって、秘薬を真っ先に試せる立場にあるルイーザや、主家の面々から『神城が万全の状態で秘薬を作れるようサポートをしてくれ』と念押しされているマルレーンには、神城が買い物に出ることを止めるという選択肢はない。
だからこそ、と言うべきだろうか。
「何かもナニも。アタシとしてはさ、どーせ外に出るなら、アンタとマルグリットの二人で買い物に勤しんでほしいんだよ。あ、疲れたならあそこの宿で休憩でもどうだい? アタシらも別のところで休憩してるからさ」
「宿って……お、お母様ッ?!」
そう言ってマルレーンが連れ込み宿を指差すと、彼女が指し示す宿がどのような用途で使われる宿かを思い出したマルグリットが、顔を真っ赤にしながら堂々と下ネタに走った母親に詰め寄る。
しかし、日頃からはっきりしない娘の態度を見て少なからず鬱憤を溜め込んでいるマルレーンも簡単には引かない。
「『お母様ッ?!』じゃないよ! 大体ねぇ、アンタもいい加減に覚悟を決めな! こんなんじゃいつまで経っても独り身だよッ!」
「ひ、独り身って、往来でなんてこと言うんですか!」
「やかましいっ! アタシと話してる暇があったらさっさと男爵殿とあそこにイってこい!」
今回、護衛対象が増えることを懸念したマルレーンの主張が通った結果、この場にはマルグリットにとっての友人でもあり競争相手でもあるトロスト姉妹や自己の戦闘能力が低いキョウコはいない。
故に、娘の将来を心配するマルレーンとしては、この機を利用して色々と距離を詰めてほしいと願っているのだ。
そんな彼女からすれば、ハニトラを警戒しているのか一向に娘に手を出そうとしない神城や、神城を憎からず思っているくせに一向に自分から距離を詰める様子がない娘に対して不満があるのも当然と言えよう。
「いや、護衛が離れてどうするんですか」
しかし、現状ですでに十分満たされている神城からすれば、娘の将来を心配する母の気持ちを慮って行動を起こす理由はない。
とは言っても、神城とてマルレーンから『娘の結婚相手を探してほしい』と頼まれれば探すくらいはするし、キョウコを通じて勇者一行の誰かに紹介するくらいのことはできる。
しかしマルレーンが想定する攻略対象が自分となれば話はまるで違ってくる。
そもそも神城という男は、小心者にして小物な思考の持ち主である。
そんな彼が、自分に楔が打ち込まれることを知りながらローレン侯爵家が用意した餌であるマルグリットに手を出すような真似をするだろうか?
答えは否。断じて否である。
少なくとも今の流れのように、マルレーンや周囲に背中を押されて投げやりになったマルグリットに手を出すことはない。
まぁ、もしも彼女が一世一代の決意をして、エレンやヘレナと共に寝具の確認をしている最中のテンションが上がっているときに乗り込んだ場合はどうなるか不明だが、少なくとも素面の状態で連れ込み宿に入ったとしても『手を出すことはない』と断言できる程度の意思の強さはあるのだ。
「そ、そうですよねー。お買い物とは言え、お仕事ですもんねー!(……はぁ)」
さらに、マルレーンからその将来を心配されているマルグリットはマルグリットで『無骨な自分は女としての魅力が薄い』と劣等感のようなものを抱いており、現状では彼女のほうから積極的に距離を詰めることはできないだろう。
「はぁ……(そうやって溜め息を吐くくらいなら、一度は動いてほしいんだけどねぇ。もう少しヘレナ嬢ちゃんの厚かましさを見習ってほしいもんだよ)」
親の心子知らず。とでも言おうか。
娘の背中を押すために道化となってみたマルレーンだったが、いくら強引な彼女でもマルグリットが自分から引っ込んでしまってはどうしようもない。
「(それに、この様子じゃ二人きりにしても空気が悪くなるだけみたいだし、ここは引くとするかね)……冗談はこれくらいにして、だ。男爵殿、何かめぼしいものは見つかったかい?」
無理強いをして避けられては元も子もない。そう判断したマルレーンがさっさと話を切り替えるように話を振ると『この話題が長続きしても良いことはない』と判断した神城も彼女の思惑に便乗する。
「まだ来たばかりですからなんとも言えませんねぇ。あぁ、お二人の漫才が殊のほか面白かったのは予期せぬ収穫でしたよ」
「はっ。そりゃようござんした!」
「あうっ!」
これまでの会話を母娘漫才という扱いで流されたマルレーンは、神城の如才の無さに対して半分の頼もしさと、半分の苦々しさを感じて、鼻で笑い飛ばし、揶揄されたと判断したマルグリットは赤面して俯く。
そんな、なんだかんだで仲の良い一行が歩を進めること数分。一行の前になんとも言えない風景が飛び込んでくる。
「あれは……なぁ、当然気付いてるね?」
「えぇ、まぁ」
「え? 何かありまし……あ!」
騒がしさから一転して真顔になるマルレーン。彼女の問いに対してなんとも言えない表情を浮かべる神城と、両者の空気から異常を感じとり、周囲を警戒した結果、両者に遅れてそれを見つけたマルグリット。
三者視線の先にあるのは、貴族街に存在するとあるカフェ。正確にはその一角であった。
「……さすが王都。物価が高い」
「え? 気にするのそこなの? まぁ確かに『味と値段が釣り合ってるか?』って言われると微妙な感じだけどさ」
「うん。この味でこの価格は不自然。だけど、この価格に土地代も関係しているのなら暴利とまでは言えない」
「あ~。なんだかんだで王都の一等地だもんねぇ」
「うん。場所で味が変わるわけじゃないけど、維持費や経費が変わると考えれば多少値が張るのは当然とも言える」
「あ~。今時のお店は大変ねぇ」
「そう。大変。だから、たとえ味が自分が想定したのよりもアレであっても、頭ごなしに文句はつけてはいけない」
「私はそんなことしないわよぉ」
「「「……」」」
三人の視線の先に居たのは、カフェで注文したであろう飲み物と茶菓子に対する論評をしている二人組であった。
片や価格について真剣に考えているのか、無表情のまま紅い瞳でカップとお茶請けを見据える少女。
その外見は一言で言うなら『白』だろう。純白の肌に真っ白な髪をサイドテールにして結んでおり、服は黒のゴシックドレスっぽいものを着ているのだが、服の黒さが一層彼女の白さを際立たせていた。
もう片方は、白を基調とした感じのローブを羽織り、空色の髪を後ろに結んでいる女性である。
両者とも際立って整った外見をして、さらにどこか俗世から乖離したような雰囲気を放っているのが最大の特徴と言えるのかもしれない。
事実、白いほうの発言は明らかに店に喧嘩を売っているのだが、店長らしき男性も、店の店員も、ついでに客もなんとも言えない表情をしているだけで、彼女らに注意もなにもできていないのだ。
突如として現れた異質なモノを発見した神城は、スキルの向上のために日常的に使用しているスキルである『診断』で両者を観察し、そして次の瞬間後悔することになった。
「おぉう……」
何故か? 空色の髪をした女性の状態が【健康体】であったことに対し、白い少女の状態が【死亡】であったからだ。
(アイエエエエ! ナンデ?! ナンデ王都にアンデッド?! しかもこいつら、普通に店でお茶飲んでるんですけど!)
内心でU・R・Sを起こした神城は、思わず頭を抱えてしまう。
「ん? 何か視線を感じる」
「え、今更?」
「いや、これまでの情欲が篭った視線とか、近寄りがたい者を見るような視線とは違う感じ。なんていうか、愉悦? それができそうな感じがする」
「……なにそれ?」
面倒事に関わりたくなかったからこそ、上層部に『アンデッドの対処として聖女を派遣するべき』と提案した神城が、その決断の早さと判断内容を不思議に思ったアンデッドの王と接触するという状況に陥った。
これを自業自得と言うかどうかは微妙なところであるが、少なくともこの両者の出会いを『運命』と言うのなら、ただただ平穏な生活を望む神城に対して、あまりに非情に過ぎる『運命』であると言えよう。
なんだかんだで神城君も健全な青年ですからね。マルグリットが飛び込んできたらどうなるかは不明です。
ただまぁ、そういった飛び入りを許してしまうと自身の立場が危うくなるので、飛び入りに関してはとある姉妹が常に警戒しております。ってお話
突如として王都に現れた二人組。こいつらは一体何者なんだ(迫真)
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