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12話。エルフとの会談を聞いた侯爵の講釈

文章修正の可能性あり


座王でし〇るの池田が面白かったので初投稿です

「……えぐいな」


神城邸で行われたヨースタインと神城の間で行われた会談。その内容を聞いたラインハルトが最初に抱いた感想がこれであった。


『えぐい、ですか?』


「うむ。それ以外に評価のしようがない。想定外と言えば想定外だが、まぁ理由を言われれば納得もできる」


当然ながらラインハルトは今回の会談をセッティングする前に、神城から会談の目的について簡単に話は聞いていた。その際、神城は『製薬という両者に共通する技術の話題を用いて相手と交渉をして、エルフの皆さんが上級の薬を製造するために使っている素材を得たい』と宣っていた。


それを聞いたラインハルトは、神城の狙いを、自身が製造している若返りの秘薬をネタにして何かしらの譲歩を得た後、共同制作と銘打ってエルフとの繋がりをもつつもりだろう。そう思っていた。


これを成すことができれば、神城は外交官としての実績も積むことができるうえに、エルフと共生関係になり、神城の地盤がより安定することになる。


加えて神城の目的が、地位や収入の向上よりも生活の安定に重きをおいていることを考えれば、そういった感じに話を纏めようとするのが自然と言える。


ましてラインハルトが見たところ、神城という人間は常識から外れた行動を取るタイプの人間ではない。(神城が造る薬の性能は自分たちの常識の埒外にあるが、薬師が薬を製造すること自体はある意味で当たり前の行為なので、ラインハルトとしては理解も納得もできている)


想定外だったのは、その『両者に共通する話題』とやらが、今まで造られていなかったタイプの毒と解毒薬についてであったということだ。


(……共通の人間の悪口で盛り上がるのと同じ原理なのだろうか? 神城からの提案を受けたヨースタインはまんざらでもないような態度で話し合いに応じていたらしいな。まぁわからんでもない)


それはそうだろう。彼らエルフにしてみれば、人間なんて自分たちが住んでいたところに勝手に進出してきた挙句、勝手に『ここは俺たちの領土だ!』などとほざく余所者なのだ。


まして、一応フェイル=アスト王国は彼らとの共生ができているが、神聖帝国や連邦はそうではない。あろうことか彼らは自分たちの同胞を奴隷として扱い、その存在を貶めているのだ。


勝手に自分たちの縄張りを侵し、同胞を奴隷として扱う人間という種族に対して彼らが隔意を抱くのは当然の話だし、それに対して毒を撒いて嫌がらせができるというのであれば、彼らが反対する理由はないだろう。


加えて新種の解毒薬を生産し、それを販売することができるようになれば、現在回復魔法や医術の発展によって扱いが軽くなりつつある薬剤の立場、ひいてはそれを製造するエルフの立場の向上にもなる。それらを提示されたヨースタインからすれば『その提案に反対するなんてとんでもない』といったところだろうか。


さらに神城が巧いところは、この提案がエルフだけでなく神城やフェイル=アスト王国にも利を齎すところだ。


(いやはや、やってくれる)


『納得、できるのですか?』


「ん?」


『……あの提案は人間に対する裏切り行為なのでは? 現段階では提案だけとはいえ、それでも王家や侯爵家と敵対する派閥に所属する貴族の耳に入ったらタダでは済まないと私は愚考いたします』


神城の狙いを考察し、内心で神城に対する評価を上げていたラインハルトであったが、通信機の向こうにいるルイーザは違う感想を抱いていたようだ。


(ルイーザはそう見るか。いや、それが普通なのかもしれんが……)


彼女が何か憂慮しているようなので水を向けてみたが、その懸念はかなり的が外れていると言わざるをえない。


「ルイーザは人間への裏切りと言うがな。神城は何一つ間違ったことは言っておらんよ」


『は?』


「魔族に味方するエルフが新たな毒を造り出さないとは言い切れんだろう? ならば先にそれをこちらで造り、解析をするという提案はなんら悪いものではないのだ」


『それはそうかもしれませんが……』


如何に優れた知性を持つとはいえ、侍女でしかないルイーザには理解が及ばない世界の話だ。


「考えてもみろ。突然『こちらが想定していない毒を撒かれたので被害が出ました。解析と解毒薬の開発に数年掛かります』などといった状況になるのと『こんなこともあろうかと準備していた』と事前に準備ができているのはどっちが良いと思う?」


『それは……』


誰がどう考えても後者のほうが良いに決まっている。


「そういうことだ。それにこれは我ら王国にとっても悪いことではない」


『?』


「わからんか? 重要なのは、その毒はエルフしか造れない毒であり、解毒薬もエルフにしか造れない、ということだ」


『エルフにしか……あぁ!』


「気付いたな?」


『は、はい。神聖帝国も連邦もエルフを奴隷として扱っています。無理やり彼らに奴隷とされたエルフが率先して毒を解析したり解毒薬を造ることはない。ならば……』


「そうだ」


フェイル=アスト王国に住むエルフが、同胞を奴隷としている神聖帝国や連邦のために解毒薬を開発することはないだろう。ならばどうする? 簡単だ。


「解毒薬が欲しいなら我々から買うしかない」


国内のエルフと交渉できる王国が仲介する形で解毒薬の製造を依頼し、それを神聖帝国や連邦に販売すればいい。


『ようやく理解できました。我々はエルフを介して解毒薬を販売することで利益を得るのですね?』


「そうだ。できるだけ利鞘と恩を上乗せしたうえで、な」


『それなら確かに。しかし回復魔法がある以上、それほどの利益になるとは思えませんが?』


「それはお前が戦場を知らんからそう思うだけだな」


たかだか毒と侮るなかれ。今の時点でエルフや神城がどのような毒を用意するのかは不明だが、そもそも人間は腹痛を起こすだけでも大幅にパフォーマンスが劣化する生き物である。


では単なる腹痛に回復魔法を使うか? 

数人ではなく数万に及ぶであろう全ての兵士に?

一度罹患した者が再度罹る可能性もあるのに? 


ありえない。というか、不可能だ。


回復魔法が間に合わないならば薬で回復するしかない。そうなると最終的に各国は数万人が何回か使用できる程度の量を備蓄する必要が出てくる。それに掛かる費用はいったい如何程のものか。


彼が神城の提案を聞いて真っ先に「えぐい」と評したのはここにある。


軍政家であるラインハルトは、前線から来るであろう膨大な陳情と、それに伴う必要経費の確保に走る諸国の役人の姿を幻視し、心の中で手を合わせた。 ……自分じゃなくて良かった。そう思ったのは彼だけの秘密だ。


「まぁこれを他の二国に対する裏切りといえばそうなのかも知れんが、我々にとって連中がどうなろうと知ったことではない。むしろ連中が無駄な攻勢を止めて現状維持に努めてくれることが、我々にとって最良の結果と言えるな」


『それは、まぁ。そうですね』


「わかるか? 前線で飛び地を貰っても迷惑でしかない以上、いくら王国の騎士が前線で魔族を倒してもフェイル=アスト王国の領土が拡張されることはない。故に何度戦に勝ったとしても、我らが得るのは名誉のみ、だ。まぁ、姉上あたりはそれでも良いのかもしれんが、この状態は軍務を預かる者として容認できるものではない」


一言で言えば、馬鹿げている。


当然、神聖帝国や連邦が負けてしまえば次は自分たちの番だということくらいは理解しているので、戦の邪魔はしないし自分たちが請け負う戦線では負けないように協力もしているが、結局のところ王国にとって魔族との戦争など迷惑以外のなにものでもないのである。


「そもそも今回王国が勇者を召喚したのは、一方的に浪費される戦費をどうにかして縮小するための窮余の策なのだぞ? それが神城の一手で浪費どころか収入になるというのなら、私は諸手を上げて歓迎するとも。……陛下も宰相も、内政を預かる内務卿も、財政を預かる財務卿も今回の件を耳にしたとて反対することはないはずだ」


人間という種に対する裏切り? その言葉は無駄に戦線を拡大させ、国家の余力を浪費している連中にこそ相応しい言葉だろうが。


これはラインハルトだけの考えではなく、王国上層部全体に共通する思いであった。


「そういうことだからな。今回の神城の提案は我らにとっては歓迎することはあっても反対することはないのだ。理解できたか?」


『はい』


毒が蔓延すれば戦線の拡大は防げる、少なくとも解毒薬ができるまでは侵攻よりも維持を優先するだろう。その後、自分たちが解毒薬を販売することで、表面上は他国に協力していると見せかけて財政的な負担を強いる。


財政が圧迫された他国が取る手段は通常二通りしかない。

それは、より一層激しい攻勢に出るか、もしくは戦線を縮小するか、だ。


ただし、その『通常』はあくまで現地での略奪による特需を見込める対人間の国家間戦争の場合に適用されるものであって、略奪による劇的な特需を見込めない魔族との戦争に当てはめることはできない。


(今後予想されるのは、財政に不安がある国が攻勢を控えるようになり、全体としても戦線の維持に傾くことになる)


そうなってくれれば、魔族との交渉を見据えているフェイル=アスト王国としては非常に都合が良い。


(……いや、都合が良いではない。そういう状況になるように我々が動かすのだ)


懸念すべきは解毒薬を出すタイミングだろうか。これがあまりにもワザとらし過ぎれば、他の国に違和感を抱かせてしまうので、それなりに機を読む必要があるだろう。


(神城に毒と解毒薬を造るタイミングを確認する必要がある。それに毒の種類も指定できるならするべき、だな)


『坊ちゃんの言いたいことは理解できたと思います。ですが大丈夫なのでしょうか?』


「ん? 何かあるのか?」


『いえ、前線の兵士が毒で弱ってしまえば、魔族との戦が大変なことになるのでは?』


「あぁ、それな。心配する必要はないぞ」


とりあえずの方針を定めたところに、ルイーザが注意喚起を促す。しかし、ラインハルトにすればそれも杞憂である。


『しかし……』


「向こうにそのつもりはないよ。なにせ向こうがその気になれば、我々などとうに滅んでいるのだからな」


『は?』


軍権を預かる軍務卿であるラインハルトからの暴露を耳にし、その意味を理解したルイーザは文字通り固まってしまう。


「なんだ、知らなかったか?」


『は、はい』


「普通に考えてみろ。もしも王都に龍を10、では足りんかもしれんが、30でも派遣されたら王都は灰燼と帰すだろう。向こうは空を飛べるのだから決して荒唐無稽な話ではない」


制空権という概念はなくとも、空から襲撃されることの怖さは知っている。そしてラインハルトや王国上層部の面々に『相手がそれをしてきたとき、どうすれば良いか?』という問いに対する答えを持ち合わせている者はいない。それは王国最強の騎士と謳われる近衛騎士団長やアモー、そしてアンネも同様である。


『……そうですね』


「だろう? それをしないということは、向こうにそのつもりがない。ということだ。では向こうは何を企んでいるのか? と問われても今の私には分らんがな」


『……』


これが防衛力がある王都ではなく、穀倉地帯なら話はさらに簡単だ。


向こうが好きなタイミングで好きな場所を狙えるのに、王国には防ぐ手段がない。それはつまり相手はいつでも自分たちを滅ぼせるということだ。にもかかわらず、向こうはその手を取ってこないということこそ、王国上層部が魔族との交渉が不可能ではないと考えている根拠の一つである。


(だからこそ神城が魔族と伝手を作ってくれたのはありがたい。まぁ、それもこれも私があの時、神城を迎え入れる判断をしたからこそ得られたモノだがな!)


王都ですら決して安全ではないのだと理解し呆然とするルイーザを余所に、ラインハルトは神城が齎したモノの大きさと、彼を懐中に入れることを決めた過去の自分の判断に喝采を送っていたという。



――異世界に転移してからというもの、短期間で様々な勢力に影響を与え、自身が思っている以上に地盤を築きつつある男、神城大輔。


彼自身が望む生活を送れる日は、まだまだ遠い。


穀倉地帯を空爆されたら負けるよねってお話。

もしくは夜中、穀倉地帯でゾンビに匍匐前進させて腐肉をまき散らすのも有りですね。


―――


ドーモ。二巻分の追加分、合計23000文字を書き終わった作者=デス


これでweb版を読んで下さっている方もきっと満足して頂ける……と思いたい。


イイ男? 薔薇? さて、ナンノコトヤラ。



―――


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