11話。エルフとの会談④
文章修正の可能性有り
初稿っぽいものが終わったので初投稿です
「……敢えて繕わずに言わせていただきますが……正気ですか?」
猛毒を、それも人間にだけ通じる毒を作ってほしいなどという、人間が治める国で人間に敵対するような、いや、完全に人間を敵に回す提案をしてきた神城に対し、ヨースタインは普通に正気を疑ってしまう。
だってそうだろう。
この場の会話は間違いなく軍務卿である侯爵へと筒抜けなのだ。それを理解している自分が「喜んで」などというはずもないではないか。
(自分が王国の味方ではないと口にしたのも、私の立場を理解しているかのような態度を取ったのも全ては私から本音を引き出すための演技、か。その程度の釣りに引っ掛かると思われているならば業腹だし、そうでないなら……ただの阿呆だ)
ヨースタインは神城が口にした提案を一種の『踏み絵』であると認識していた。
(ここで調子にのって「自分も人間が嫌いだから喜んで毒を作る」などといえば、それを耳にした軍務卿が兵を興し、我々に対して圧力を掛けるのだろう? 我らが郷を守るために戦うか、それとも何かしらの妥協をするかは不明だが……あぁ、そう言えば青薔薇が王都に戻っていたな。つまり今の軍務卿が即座に動かせる駒は、女帝と青薔薇、そして勇者、か。なるほど。軍事力を背景に不平等条約を結ぶ。そのついでに『王国最強』に実績を、勇者に経験を与えるつもりだろう? 乗らんよ)
あまりに稚拙。あまりに明け透け。
陰謀というには全然陰に隠れていない謀を仕掛けてきた神城に向けるヨースタインの目は冷たい。
外交官とは言葉一つで相手を追い詰め、己の利益を勝ち取る存在である以上、彼がこのような態度を取るのは当然のことだ。
ルイーザでさえ内心で「エルフから失言を引き出し譲歩を迫る策なのでしょうけど……あまりに見え透いています」と溜息を吐いていたくらいなのだから。
結論から言えば、彼らは勘違いをしている。
神城は心からエルフに毒の作製を願っているのだから。
「正気を疑われるのは心外ですな。これでも私どもは勿論のこと、閣下にもフェイル=アスト王国にも利がある提案をしたつもりなのですがね」
「ほう? 人類種のみに通用する毒の作製がどう転がればこの国の利になるというのですかな? どうにも私には思いつきませんので、よろしければご教授願えますか?(見苦しい。策が破れたならば諦めれば良いモノを……)」
態度を崩さない神城に対し、挑発するかのような視線と口調を向けるヨースタイン。
利益代表者として様々なモノを背負っている以上、簡単に謝罪することができないということはヨースタインも理解している。しかし物事とは、時にさっさと謝罪したほうが良いこともある。というか、大半はそうだ。
それを知っているからといってヨースタインに容赦するつもりはなかった。目の前にいるのがハッタリを続ける未熟な交渉相手ならば、論破に論破を重ねてエルフにとっての利を得るのみ。
外交官として優秀であったからこそ毟れるだけ毟り取ろうとしたヨースタインだったが、その行為は神城が仕掛けた餌に喰いついたと同義であることを理解できていなかった。
(フィーッシュ!)
営業職にとっての至上命題の一つに『如何に相手に自分の話題に興味を持たせるか?』というのがある。その命題を解決するための技術として『アンチクライマックス法』と呼ばれる手法が存在する。
これは最初にインパクトのある提案をして興味を惹くという交渉術であり、今回神城が使用したのは、それに多少のアレンジを加えた手法であった。
「では僭越ながら閣下の疑問にお答えさせていただきましょう」
「是非」
言うまでもないことなのだが相手を論破するためには相手の主張を聞く必要がある。そうである以上、ヨースタインは神城の提案を遮ることはできない。
この時点で、神城とヨースタインの関係は対等の外交官ではなく、プレゼンをする営業と、プレゼンを聞く顧客という形に収まってしまう。
自覚のないまま神城の土俵に引き込まれたヨースタインに、神城は遠慮なく己の思惑を開示していく。
「まず、前提条件として、薬は転ずれば毒になります」
「そうですな」
「で、あれば、上質な薬を作ることが可能なエルフという種族は、上質な毒を作ることも可能ということになりますな?」
「……否定はしません、ですがそれは……」
エルフにとって、否、医学に携わる者にとっては常識以前の話なので、神城の意見の粗を探しそうとしているヨースタインも否定はできない。
ただし、その一事を以て「だからエルフが危険だ」という論法に持っていかれてはエルフという種を代表してこの場に居るヨースタインの立場がない。故に神城の主張に異議を唱えようとしたのだが、神城の話は終わってはいない。
「勘違いしてほしくないのですが、私が懸念しているのは閣下たち王国に住まうエルフの方々の脅威ではありません」
「と、言いますと?」
「簡単に言えば、魔族に与しているエルフの方々が、先ほど私が述べた毒薬を作成する可能性も皆無ではない。と考えております」
「……なるほど」
①エルフは優れた薬を作ることができる。
②つまり毒物も作れる。
③エルフは人間に味方する勢力だけではない。
上記の三点はそれぞれが紛れもない事実である。事実であるが故にヨースタインも否定できない。
「ここで私の提案です」
「……」
「相手が作る前に自分たちで該当するであろう毒を作る。その狙いは解毒薬を作ることにあります」
「毒を作らなければそれに対応した解毒薬の作製は不可能。故に毒を作る。確かに理屈はわかります」
「でしょう? 解毒薬を作成してそれを売ることでエルフの方々の収入になるし、フェイル=アスト王国としても未知の毒に備えることができます。そして私は両者に恩を売れます」
「……なるほど」
「場合によっては先に前線で使われてしまい、連邦や神聖帝国の面々に多少の被害が出るかもしれません」
「場合によっては、ですか」
「えぇ。奇跡的に向こうのエルフの方々が似たようなタイミングで似たような薬を開発してしまう可能性も皆無ではないでしょう?」
(コイツ……)
神城はシンクロニティのような偶発的な話をしているわけではない。わざとらしく強調された言葉を聞き取ったヨースタインは神城の狙いを正しく認識した。
「……毒と薬を売り歩く、さながら貴殿は死の商人といったところですかな?」
「何か誤解があるようですな。私が売るのは薬だけですよ」
「……そうですか」
いけしゃあしゃあと宣う神城に軽く殺意を覚えるヨースタインであったが、その提案自体を否定しているわけではない。
「薬を独占している時点で我々は他の国家に対してイニシアチブを握れます。またその値段も自在に設定できるのも良いですね」
(コイツ、悪魔か!)
「戦場で使われた毒に対する解毒薬ですからね。あまり高価な値段を付ければ恨まれますが、そのような真似をしなくとも莫大な量を必要とするでしょうから、軍事費としてどれだけの経費が掛かるか想像もできませんねぇ。あ、そうだ。なんなら代金として向こうで奴隷とされているエルフやドワーフの方々を指名するのも良いかもしれません」
「……」
「連中から金を巻き上げ、その金で同胞を救う。どう思います?」
「……それだけを聞けば痛快ですな」
「そうでしょうそうでしょう。そのうえ、彼らが使う毒が一種類とは限りませんよ。定期的に新しい毒が戦場に蔓延するかもしれませんねぇ。それもこの世界の方々は見たことも聞いたこともないような毒が」
その毒を作るのは誰か。
敢えて口にするまでもない。
「私としてはこんなところですね。ただまぁ現状ではどのような毒が作成される可能性があるかが不明なので、エルフの方々が使用している素材を見せていただきたいのですよ」
ヨースタインは、自己の利益のために何食わぬ顔で大量虐殺を容認するかのような提案をしてきた神城の精神性に怖れを抱く。
(それに、こやつは気付いているな)
神城はこの提案の中で自分に向けて重要なことを示唆してきた。それも何度も、だ。
即ち『フェイル=アスト王国のエルフは魔族に味方するエルフと繋がっている』ということを。
「……神城殿のご提案は確かに伺いました。返事については郷の者にも諮る必要がございますので、多少のお時間を頂けますか?(これが勇者。これが異世界から来た薬師っ!毟るだけ毟り取る? 馬鹿か私は!)」
自分を含め、王国にいる全てのエルフに対して太い釘を打たれたことを理解したヨースタインは、この場が自分を料理するために神城の用意した狩場であることをようやく理解したのである。
「無論、構いませんよ。ただ、我々は閣下と違い短命です。閣下にとって僅かな時間であっても我々にとってはそうではない。ということもご理解いただきたい」
「それは……えぇ。そうですな。気を付けましょう(期限まで切ってきたか! それでいて明確な時期を口にしないのが憎らしいッ! しかもそれが外交手腕としては正しいのが癪に障る!)」
神城からすれば『ちょっと待って。といわれて数年待たされても困る』という程度なのだが、神城を過大評価すること著しいヨースタインからすればこの一言は「返答にかける時間=君たちの誠意だ」と告知されたに等しい宣言であった。
――神城としては、あくまで薬剤のプレゼンをしたつもりだったのだが、周囲はそうは受け取らない。この日以降、長命種であり、経験豊富で知られるヨースタインに対し一方的な外交的勝利を収めた人物として神城の名はその業界に鳴り響くことになるのであった。
もしかして神城君も腹黒い……腹黒くない?
勘違い はさせるもの ってタグがあるから問題ないね!ってお話
―――
マロ〇エールTVをご覧の皆さん、ドーモ作者=デス。
いやぁ前に「ファイナル地上波ー!」とか言ってたから本当に終わったかと思っていましたけど普通に再開しましたね。R藤本=サンも元気そうで何よりです。
え? 二巻? 予約始まりましたね。
一応初稿っぽいものは終わりました。
色々な改稿に加えて二万字弱の加筆もありますので、気になった方は是非ご予約をよろしくお願いします!
―――
閲覧・ポイント評価・ブックマーク・誤字修正・書籍のご予約・活動報告へのコメントありがとうございます!





