9話。エルフとの会談②
サブタイが思い浮かばない……
文章修正の可能性有り
(さて、問題はここからだな。相手の度量に恃むことになるが、どこまでいけるかねぇ?)
外交上の禁じ手とも言える『初手謝罪』を行うことによって、一手損の状態からフラットな状態に持ち込むことに成功した神城であったが、それで満足はしていなかった。
なにしろ相手は数百年を生きるエルフであり、長年、それこそ神城が生まれる数十年前からその利権代表者として活動してきた外交のプロフェッショナルなのだ。
本来であれば、なんちゃって外交官に過ぎない自分が渡り合える相手ではないということは、神城自身が一番良く理解していた。
だからこそ、と言うべきだろうか。
「閣下もご多忙のことでしょうから早速本題に入らせていただきたいと思いますが、何か不都合はございますでしょうか?」
この世界の外交官にとっては常識であろう外交儀礼も何も知らない神城は、敢えて己の都合を押し付けるかのような提案をすることにした。
「……えぇ。私としても早く話が済むのであれば否やはありません」
そんな、外交上の儀礼も何もあったものではない神城の発言を受けたヨースタインは、常識的に考えれば無礼に過ぎる発言に対して一瞬思わず眉を顰めるも、先だって神城が述べたやんごとなき事情に理解を示した以上、それを追及することもできず、素直に認めざるをえなかった。
「ありがとうございます。閣下の寛大なご配慮に感謝いたします(よし)」
「いやなに、異世界から来られたばかりの御身に当方の外交儀礼を押し付けるわけにもいきませんからな(……やってくれる)」
そう。外交官としての神城の強みはここにある。
たとえ外交の常識としてどれだけ無礼な振る舞いであっても、表立って礼を失した態度でない限り「自分は異世界から召喚されたばかりなのでこちらの常識をよく理解していない」と言われてしまえば大概のことは通ってしまう。否、通さざるを得ないのだ。
無論、ここでヨースタインが「知らぬというなら、学んでからにしろ」と言って席を立ち会談を終わらせるのは簡単だろう。
(だが、それはできん)
ヨースタインはフェイル=アスト王国に存在するエルフの利益代表者であるが故に、己の気分で勇者一行の一員である神城との会談を取りやめることができないのだ。
(未だ王家が秘匿している勇者との繋がりは断てん。さらにこやつは【薬師】だというではないか。異世界の薬師の持つ知恵を最優先で得る機会をここで失うわけにはいかん)
神城の強み、その2とでも言うべきだろうか。
もし神城が戦闘系の職業であったなら、たとえ王国の軍務卿であるラインハルトが何を言ったとしても、ヨースタインを始めとするエルフの面々が譲歩することは無かった。
だが神城の職業がエルフの主要産業である薬の製造と密接にかかわる職業であることが、彼らの行動を縛ることとなる。
基本的に回復魔法が存在するこの世界に於いて、薬の価値は『有ればあったで良いが、無ければないでなんとかなる』といった程度でしかない。
エルフが製造する『上質の薬』はそれなりの価値が認められているが、それだって一部の貴族や商人が万が一のために保管しておく程度のものでしかなく、現状ではそれ以上の存在ではないのだ。
そして、エルフが製造する薬の価値が認められないということは、エルフの価値が下がるということと同義である。
人間より魔法が使えることや、人間よりも長寿で老い難いこと?
それは脅威や興味の対象にはなってもエルフの立場を守ることにはつながらない。むしろエルフを排斥したり、エルフを奴隷のように扱おうとする勢力の主張に勢いを付けるだけだという程度の自覚はある。
こういった人間の欲深さや臆病さに加え、連邦や神聖帝国でのエルフの扱いを知るヨースタインをはじめとしたエルフたちの基本的なスタンスとしては『自分たちとて簡単に排斥されるつもりはないし、無条件で人間に迎合しようとも思わない。だが、無駄に意地を張って郷里を戦火に晒したいわけでもない』というものだ。
種族間戦争を望まず、従属も望まないと言うのであれば共生を目指すしかない。しかし今のエルフには人間と共生するだけの交渉材料に欠けている。いつ何時人間に牙を剥かれるかわからないのだから、できるだけ早いうちに交渉材料が欲しい。
そう考えていたところに急遽齎されていたのが、異世界からきた薬師こと神城との会談要請であった。
この世界はこれまで幾度となく召喚されてきた勇者によって、さまざまな恩恵を受けてきた。
その恩恵は、農業にはじまり、数学、化学、科学、医学、鍛冶、軍事、国政、司法、魔法の使用方法等々、本当に様々な分野に及ぶ。
だがしかし、その中に薬学は存在しなかった。
当たり前だ。
異世界から召喚されてきた者はほとんどが高校生であったせいで薬学の専門知識などなかったことに加え、この世界には回復魔法が存在するのだから。
故にこれまで召喚された者の中にいた薬師たちは、既存のポーションや高品質のエリクサーといった稀少で貴重な薬を作ることはできても、他の分野にあったような画期的な技術革新を起こすことはできなかったのだ。
(だがこやつは違う)
そこに現れた異色の薬師が神城だ。
最近になって王国上層部でまことしやかに囁かれている秘薬がある。
その名もずばり『若返りの秘薬』という。
最初その話を聞いた時、薬師としても名高いヨースタインは「何を馬鹿な」と鼻で笑ったものだ。
それはそうだろう。
時の流れは誰もが平等であり、老い難いと言われるエルフとて、老いることはあっても若返ることなどできはしないのだ。
もし例外があるとすれば時が止まったままのアンデッドか、精神が外見に反映されると言われる妖精種や幻想種と呼ばれる者たちだが、前者は若返るわけではないし、後者は肉体がない故に外見を変えられるのであって、薬など使わないし薬の材料になどなることもないのだから。
だが、とある行事に参加した際、ヨースタインは見てしまった。
何を? 40代の王妃の見た目が、明らかに若返っていたことを、だ。
若返ったのが王妃だけなら何かしらのスキルか特殊な魔法を疑うこともできた。
しかし、若返ったのは王妃だけではない。同じ行事に参加していた皇太后もそうだったし、社交界にアンテナを伸ばせば宰相の細君や軍務卿の細君に加えその母も同じように若返ったという情報を得てしまえば、ヨースタインも『若返りの秘薬』の存在を認めざるを得なかった。
そしてその存在を認めたうえでエルフの利益代表者であるヨースタインが考えるべきは、その製作者がだれなのか? ということだった。
普通に考えれば王室お抱えの薬師だろう。だがヨースタインが今まで構築した薬師のネットワークにそのような者は浮かんでこなかった。
そもそもの話だが、薬学にかかわらず、技術とは積み重ねによって発展するものだ。どんなに隠したとしても、その積み重ねている最中の情報が一切ないというのはあり得ない。
それが有り得るとすれば、その理由は一つ。
即ち『積み重ねることなく、いきなり発生した』ということだ。
(常識で考えればそんなことはあり得ない。まぁ、一応「事故で生まれた」という可能性もあるが、その場合どのような副作用があるかわかったものではないし、王妃に使用する前に行われたであろう治験の最中に何かしらの情報が流れるはず)
そういった情報が一切なく、それでいて極めて少量ではあるようだが一定の量が供給されている様子がある。ではその薬はどうやって、どこから生み出された?
(考えるまでもない。そんなことができるのは数か月前にお披露目された勇者しかいないではないか)
『薬学にブレイクスルーを起こすことのできる勇者が現れた』
この一報は王国内に存在するエルフ社会を震撼させた。
その勇者がエルフに友好的であれば、まだいい。
だがもしも考えなしにエルフの既得権益を侵すようなら……
見極めのためにもなんとかしてその勇者との接触を図ろうとしていたヨースタインであったが、さすがの彼であっても王家が秘匿する勇者との接触は簡単にはいかなかった。
接触もできず、さりとて『若返りの秘薬』の生産が途切れたという話は聞かない。
徒に時を費やす中、個人的に関係がある貴族からも「エルフで造れないか?」という問い合わせが入り、焦りを覚えはじめる。
ここで正直に「できない」というのは簡単だったが、ヨースタインは「薬を見たことがないからなんとも言えない」と、返答を保留した。
何故か? ヨースタインが「できない」と答えてしまったが最後。エルフは『薬学』という専売特許とも言える分野で勇者の後塵を拝すことを認めたことになってしまうからだ。
かと言って一時的な誤魔化しのためにできないことを「可能だ」とも言うわけにもいかない。
エルフの矜持、存在意義、郷里の安全、そして新たな薬に対する個人的な好奇心。
ヨースタインは悩みに悩み『最後にもう一度だけ接触を試みてみよう。無理ならできないと正直に言おう』そう考えた。
そんな彼の目の前に『件の勇者から会談要請』という名の糸が垂らされたのはつい先日のことである。
あまりのタイミングの良さに怪しさを覚えながらも、ヨースタインは神城との会談に臨むことになるのであった。
――そして現在。
神城と対峙し、彼が若さに見合わぬ狡猾さを備えていることを確信したヨースタインであったが、エルフの未来を背負う形となっている以上、神城の態度を理由に中座するという選択肢はない。
(こやつも我らがあらゆるコネを用いて接触を目論んでいたことくらいは知っていたはず。にもかかわらず、重ねて「無礼があるかもしれないが許してほしい」と言い募ってくるのは何が狙いなのだ? もしやそれを理由にして私が中座することを狙っているのか? 軍務卿絡みだとすれば、その狙いは……)
ラインハルトが軍務卿として優秀であることを知るが故に、ヨースタインはその庇護下にある神城の狙いがラインハルト絡みであろうと予想し、更なる警戒をする。
それはそれで利益代表者としては正しい態度だし、神城としても『侮られるよりは警戒されたほうが良い』と考えているのだが、必要以上に警戒されて本来の目的を達成できないのは困るわけで。
「(妙に緊張してるな。別に取って喰う気もないんだが……あぁ、もしかして軍務卿絡みで無理を言われるかもしれんと警戒しているのか? そんなつもりはないんだがなぁ)それは重畳。とりあえずお茶でも如何ですか? エルフの方が好む茶葉やブレンドの配合がわからないのでストレートになりますが」
価値観の把握と交渉による取引を望む神城は、OMOTENASHIの心で以てお茶を準備させることにした。しかし、初対面の相手に神城のOMOTENASHIの心が通じるはずもなく。
「……いただきましょう。(この言い様。もしや、わざと好みに合わぬ茶を出すつもりか? はっ! わかったぞ! こやつ、ここで私を怒らせることで『エルフが無礼を働いた』という口実を作るつもりだな! その無礼を鳴らして我らが持つ薬に関係する権益に口を挟むつもりか。……侮れぬ)」
結局、ヨースタインをリラックスさせようとした神城のOMOTENASHIの心が籠った提案は、しかして「リラックスさせてボロを出させるのが狙いだな!」と彼の警戒心を促す結果に終わってしまう。
(なんだ? さらに緊張した? なんで? エルフは茶が苦手なのか? しかしルイーザはそんなこと一言もいってなかったよな? もしかして毒を警戒している? それならわか……らん。なんでそんな警戒をするんだ? さすがはエルフ。どこに地雷があるかわからんな)
(茶は……うむ、普通だな。普通に考えてこれに好きも嫌いもない。ではやはり先ほどの配合云々は揺さぶりか。ふっ。この私がそう簡単に貴様如き小僧に乗せられると思うなよ)
ルイーザが用意した来客用の茶を飲みながら困惑する神城と、警戒に警戒を重ねるヨースタイン。
すれ違う両者の駆け引きは、実質始まってすらいないのであった。
おまたせ! (アイス)ティーしかなかったんだけどいいかな? ってお話。
なお睡眠薬は入っていないもよう。
神城くんの交渉はまだ続きます
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ドーモ。タマーヨ・シ・マダ=姉サンが叫んだパンティテックスについて一週間考えましたが答えが見つからなかった作者=デス(相席)
聞くところによると、本当に拙作をコミカライズするらしいですよ?
作画を担当してくださる方のお名前も教えて貰いました。
作者はてっきり「コミカライズ企画進行中!(コミカライズするとは言っていない)」ってパティーンかなぁと思っていたんですけどねぇ。(失礼)
……たまげたなあ。
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