1話。プロローグのような何か
短め
文章修正の可能性有り
女神曰くナーロッパ風の異世界。その中で神城らが召喚されたフェイル=アスト王国が存在するこの大陸には、大きく分けて以下の5つの勢力が存在する。
大陸南東部に位置するフェイル=アスト王国。大陸北東部を治めるローレンシア連邦。大陸南西部を治めるレムルース神聖帝国。大陸中央部に緩衝国家の役割を持つ中立国家郡。そして大陸北西部と中央部を治める魔族である。
「前にも言ったけど、基本的にはこんな感じだね」
「ふむ」
魔族たちや王国上層部が今後の方針を協議する中、神城邸の執務室には勢力図を指し示しながら解説を行うマルレーンと、ノートを取りながら頷き、情報を精査する神城の姿があった。
これまで王国の政治や軍事に関わる気はなく、むしろそれ系の話題から意図的に距離を置いていたが故に、ラインハルトをはじめとした王国上層部から『無欲ではないが己の立場を弁えた若者』と判断されていた神城が、ここに至って周辺国家に関する知識や戦争に関する知識を得ようとしていることには当然理由がある。
それは、前日ヴァリエールとアテナイスという魔族の幹部と目される両名が、王都へ侵入を果たしただけではなく、貴族街という王都の中枢にまで足を伸ばしてきたことだ。
ただでさえ周囲に『異国の貴族であると同時に貴重な薬の製作者』と認識させ、王国側から戦場へ向かわせないように配慮させるよう動いてきた神城からすれば、王都の貴族街という考えうる限り最高の安全地帯と考えていた場所に敵の幹部が侵入してきたことは決して軽く見て良いことではない。
さらに問題なのが王都に侵入した両者の目的が『勇者を探ること』であったことだ。
(勇者の一員であり、王国にとっての重要人物としての立場を与えられている俺は、魔族の幹部からどう見えるだろうか?)
これまで徹底して自己の保身を何よりも優先してきた神城が『王都にいても決して安全ではない』と判断し、保身のために魔族との交渉を持とうとするのも当然の流れと言えよう。
加えて王国の思惑もある。
王都に魔族の幹部の侵入を許したことは紛れもない失態だ。自分たちと魔族の間にある距離の壁を過信していたことは否めない。
だが、ここで王国の上層部たる面々は1つの事実に気が付いた。
それは『魔族に侵入されたにも拘わらず被害がない』ということである。
彼女らは、その気になればいくらでも王都に被害を出すことができたにも拘わらず、そういったことは一切せず、誘われるままに神城の屋敷に赴き、出されたお茶とお菓子を食らい、土産を持って帰ったのだ。
この一連の流れが指し示すのは『魔族は王国に対して敵意を抱いていないのではないか?』という可能性だ。
仮想敵としていた相手が自分達に敵意を抱いていないうえ、距離があるため係争する土地も存在しない以上、両者に争う理由はないと言われればその通り。
強いて言えば種族の違いなのだが、そもそもフェイル=アスト王国は人間至上主義の神聖帝国とは違い、ドワーフやエルフ、または獣人などといった所謂『亜人』と呼ばれる種族を必要以上に差別していないし、穀倉地帯を求めて領土拡張戦争を行なっている連邦とも違い、彼らの土地を奪うような真似もしていない。
よって、種族の違う者たちとの付き合いもそれなりに長いので、そういった意味での種族間の摩擦は極めて少ないのである。
懸念があるとすれば他の大国から『人類を裏切った』と糾弾される可能性であるが、それだって魔族と手を組むことができれば大した問題には発展することはないと予想できる。
なにせフェイル=アスト王国を糾弾するであろう連邦や神聖帝国は、正面に魔族という大敵を抱えているからだ。
そのうえで両国に匹敵する国力を持つ王国を敵に回せば、待っているのは挟撃による敗北しかない。
経済的に制裁を加えようとしても、そもそも中世ヨーロッパ風なこの世界に於いては、国家(または勢力)を跨いだ経済活動などは極めて少ないし、穀倉地帯を抱える王国は生産から消費まで全てを内需で賄える状況のため経済的な制裁は無意味となる。
いや、無意味どころか、王国から食料を輸入している国が干上がることになるので、輸出入の規制は悪影響しか生まれないのだ。
デメリットがデメリットたり得ないと言うのであれば、残るはメリットのフォーカスとなる。
王国にとっての最大のメリットは、戦争にかかる経費の削減と安全保障にある。
ただでさえ得るものの少ない魔族との戦に莫大な軍事費を掛けることに対する王国上層部の忌避感は極めて強い。
軍事予算を削られることになるラインハルトにしても、外征に掛ける予算を減らして国内を固めることができるなら、多少の軍縮は望むところである。
何よりも、だ。
魔族との戦に勝ったとして、その後はどうなる?
神聖帝国や連邦は良い。彼らは魔族領と隣接しているが故に、勝利とは領土の拡張と同義であり、領土の拡張は将来的な国力の増大を見込めるからだ。
翻って王国はどうだろう?
魔族との戦争に勝利したとしても、元々距離があるために領土の拡張は難しい。実際王国が多大な損害を出して得た土地の大半は前線にある中小国家に割り当てられるだろう。
また、もし王国が領土を得たとしても、それが飛び地では維持をするだけでも予算が必要になってしまう。
しかも、多大な予算をかけて維持、発展させたその土地は、常に神聖帝国や連邦に奪われる可能性を孕むことになるのだ。
いくら軍事費を費やしても得るものがなく、むしろ仮想敵である神聖帝国や連邦を肥やすだけ。
政治的に見て間違いなく愚策である。
今まではこれを、ただ『人類が治める国のためなんだから、協力するのは当然だよなぁ?』という理由で強制されてきたのだ。
王国としてこのような状況が面白いはずもない。
故に勇者を召喚することで経費を抑えつつ、国力を蓄えようとしていたのである。
そんなところに現れたのが勇者の国の貴族である神城であり、その神城と接触をしてきた魔族の幹部と予想されるヴァリエールとアテナイスだ。
彼らの存在により、元々不可能と思われていた『魔族との交渉』という選択肢が生まれることになる。
これによって派生する出来事を考えれば、現状は人類史の転換期とも言える大事であるのだが、その鍵を握る人物の一人である神城はというと、
(とりあえず安全確保だ。……砂糖菓子で釣れるか?)
などと、人類の今後のことなど考えず、自己の保身を第一に考えていたという。
基本的に神城君の方針は『いのちだいじに』です。
その上で再度ヴァリエールやアテナイスが来たときの為に知識を蓄えているもよう。
次々と仕事が舞い込んで来ますが、化粧品の作成も外交官としての仕事も自分で主張して得た役職なんだからシカタナイね! ってお話。
ーーー
書籍版、普通に販売中でございます。
加筆分には一章に登場しないはずの人がいたり、勇者一行追加のオリキャラ(メタネタ担当)がいたりします。
期間限定購入者特典SSは二章の予告、になるのでしょうか? とりあえずこちらにも一章には登場しない人たちが出てきますので、よろしければお手に取っての確認を何卒よろしくお願いいたします。
Ps、書籍版を買って下さった読者様江。
作者は怖くてみれませんが、アマゾンとかにレビューしてくれても良いのよ? 作者は怖くてみれませんけど。
大事なことなんで(ry
ーーー
閲覧、ポイント投下、ブックマーク、誤字訂正、書籍の購入、活動報告へのコメント等、誠にありがとうございます!