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21.毒

―― 6日目 2回目食事時間 ――



 リエルと二人で処刑場に勾留されてから二度目の食事を取った時、他のみんなはリビングで食事前の会議をしていたことだろう。

 俺とリエルはその場に呼ばれるようなはなく、勝手にその会議で俺達の処遇を決められているだろうことをジェイから聞いた。

 ジェイとニーナは俺達の処遇を不問にしてやろうと意気込んで会議に臨んでいったようだが、暫くしてから俺達のいる処刑場に戻ってきてこう叫んだ。


 「スレバラさんとウェリアさんが殺された」と。


 今リビングは大混乱しているので、事態の沈静化をするために力になって欲しいとジェイに連れられ、俺とリエルはジェイと共にリビングへ向かった。


 どういう状況で起こったことなのか、リビングへの移動中にザックリとジェイから話を聞いたんだが、どうやら出された料理の中に毒が入っていたらしくて、口をつけた二人はもがき苦しみながら亡くなってしまったという。

 ウェリアさんに対してあれだけ注意を促し、ルトヴェンドさんもずっと傍に付いているからその点は大丈夫だと言ったにも関わらず、ウェリアさんが狙われてしまった。

 ウェリアさんを狙ってくるのは間違いないと思ったが、犯人が暴力で来るとは限らなかったんだ。

 完全に見落としていた。

 ルトヴェンドさんもその辺りはノーマークだったんだろう。


 あれだけ仲の良かったルトヴェンドさんとウェリアさん。

 ウェリアさんが亡くなった今、ルトヴェンドさんがどういう状況なのか怖くて聞きたくないし見たくもない。

 でも、これは現実に起こったことなんだ。

 俺達は今からそれと戦わなくてはならない。



 リビングへ行くのは色々な意味で怖かったけれども、やるしかないと気を改めてリビングに足を踏み入れた。

 リビングの状況は思ったより悲惨だった。

 一部の席でテーブルがひっくり返って料理がめちゃくちゃに散乱していたり、ルトヴェンドさんは大きな叫び声を上げて泣き崩れていたり、オルロゼオはスレバラさんの名前を呼び続けていたり、トルネとニーナは恐怖に怯えて床にしゃがみこんで二人で動けなくなっていたり、散々だ。

 他のみんなもばらばらになって呆気にとられており、現段階ではこの場を収集させて話を始めることすら難しそうだ。

 とりあえず落ち着いているジェイに今分かっていることを詳細に聞いてみることにする。


 事件は食事前会議中に起こったらしい。

 食べながらでいいということで話を進めていると、突如スレバラさんが苦しみ始めてざわついている所に続けざまにウェリアさんが苦しみ始め、二人共そのまま倒れて吐血して動かなくなってしまったとのこと。

 ルトヴェンドさんの証言によるとウェリアさんはお吸い物を口にしてから様子が怪しくなったので、お吸い物に毒が混じっている可能性が高いと今見ているそうだ。

 スレバラさんの方はオルロゼオが同じテーブルだったらしいのだが、あまり確認していなかったそうで。

 それでもスレバラさんの食事の痕跡からお吸い物に口をつけているのは間違いないらしい。


 もちろんそのお吸い物を作ったのはニーナとトルネが中心なので、二人は今全員から怪しまれているようだ。

 それを受けて、トルネもニーナも絶望的な顔してガタガタ震えているのだろう。

 だが、ジェイはそのお吸い物を口にしたと言っていたが、何ともなっていない。

 俺もリエルもそのお吸い物は口にして完食したが、この通り何も起こっていない。

 故に俺はニーナやトルネが犯人だとは今の段階では断定できない。


 もちろん、ジェイや俺達が飲んでも平気だというのが根拠なんだが、そうなると毒の混入は鍋から個別の器に分けられた後ということになる。

 大まかに分けて、毒混入のチャンスは『器に盛り付けた時』『お吸い物を調理場からリビングへ運んでいる時』『テーブルに配膳されてから、被害者の口に運ばれるまでの間』の3つとなり、それぞれのチャンス時に誰が関わっていたのか、各々の状況をジェイから聞き出した。


 ちなみに、毒物なんていうのは言ってしまえば誰でも持っている可能性がある為、その辺りは考える必要はない。

 ここにくる道中に生えている植物からいくらでも取れるし、即効性のある毒物は対魔物用として俺も自分の荷物の中に入れてある。

 現にこの遺跡の魔物の中にもそれが効く魔物が居たからな。

 普段毒物なんて使わないしそんなもの持ち運ぶ方法が分からないなんて言っても、それを証明する方法がないので無駄だ。

 つまり、毒はみんな一律持っている可能性があるし、誰でも食べ物の中に混入することは可能だということだ。


 まずは器を盛りつけた時。

 調理場にいて料理を作っていたのはトルネ、ニーナ、それに加えてウェリアさんだそうで、この三人は配膳が終わるまで調理場にいたそうだ。

 お吸い物を鍋から器に盛り付ける時に毒を混入することができるので、トルネもニーナも残念ながら犯人候補から外すことはできない。


 次に料理の配膳を行っていた時。

 配膳していた人間について、ジェイはあまり見ていなかったらしいが、サバトさんとコーラスさん、後シドルツさんも手伝っていたと言っていた。

 サバトさん、コーラスさん、シドルツさんには毒を混入するチャンスがいくらでもあったということになる。


 最後にテーブルに配膳されてから、被害者の口に運ばれるまでの間。

 この間はリビングにいた全員にチャンスがある訳なので、リビングの様子を聞いてみた。

 ジェイはクルフとルトヴェンドさんと一緒に配膳が終わるまでずっと話をしていたそうだ。

 コスターさんは一人で座って自分で書いたメモを眺めている様子で、残るスレバラさんとオルロゼオはどこにいたのかも全然分からないと言っていた。

 ただ、配膳中に料理に近づいて毒を入れているような怪しい人間はいなかったとは証言してくれた。

 配膳完了後は全員適当に着席し、同じテーブルの人間ならまだしも、他のテーブルにあるお吸い物に毒を入れるようなチャンスはなかったとジェイは語る。

 ジェイの証言を聞く限りでは、テーブルに配膳されてから被害者の口に運ばれるまでの間に料理に近づいて毒を盛るのは難しいような感じだった。


 そんな仲でもジェイの証言で注目すべき点は、配膳完了後まで誰も着席しておらず、誰がどこに座るかも分からないような状況で配膳が行われたという点。

 誰がどこに座るか分からないのであれば、配膳中からみんなが着席するまでの間に毒が盛られたとなると、完全に無差別殺人となる。

 それではピンポイントにウェリアさんを殺すことができない為、着席完了後に毒が盛られたのかと考えて、被害者と同じテーブルの人間を聞いてみる。

 被害者のウェリアさんはルトヴェンドさんと同じテーブルに座っていたそうなので、着席が完了してから毒を入れたのであれば、犯人がルトヴェンドさんということになってしまう。

 また、スレバラさんも恐らく同じ毒で殺されているので、同じ席に座っていたオルロゼオも同時に犯人となり、かなり不自然な状況になる。


 ほぼ間違いなくこれはウェリアさんを狙った殺人だと俺は考える。

 スレバラさんはそれを誤魔化すために巻き添えになったと考えるのが妥当か。

 そうでないと、このタイミングの良さは説明がつかない。

 だとすれば今までの俺の考えでは、どこか抜け道がないとその目標は達成できない。


 どこかに抜け道がないかと考えていたのだが、ジェイとニーナは途中でリビングから出て俺とリエルに会いに来ていたのを思い出した。

 ジェイが俺達のいる処刑場に来ている間に何かがあったのかもしれない。

 そう考えた俺は、ジェイとニーナが俺達に料理を運んできた時のリビングの様子が知りたかったので、ひとまずジェイにお礼を言い、近くにいたシドルツさんに話を聞いてみることにする。


「いや、誰も席を立っていない。既に話し合いの導入が始まっていたので、誰かが席を立ったら絶対に気づく。だが、そんな様子は全くなかった」

「…………」

 シドルツさんが嘘を言っていないとするならば、毒の混入のタイミングが全くわからない。

 俺が犯人の立場だったらどう動けばいいんだ?

 配膳する時は誰がどこに座るか分からない。

 配膳してからは料理に近づいて毒を盛るような怪しい行動を起こした人間はいない。


 この状態で的確にウェリアさんを狙う方法なんてあるのか?

 色々と考えてみるんだが、もしかしたら着席する位置が慣例のように決まっていたんじゃないかなと思えてきた。

 だから一緒にシドルツさんの話を聞いていたジェイに、どんな感じの席の割り振りだったか聞いてみることにする。


 ちなみに、俺が食事会に参加していた時はチームでテーブルを囲っていた。

 リビングには4席1つのテーブルが5つ、サイコロの5の目のような形で置かれており、それはアングリシェイド襲撃後にめちゃくちゃになった後も変わっていない。

 前回の食事の時は丁度エドリックの遺体が発見された時で、リエルの弁護を頑張っていた時なのだが、俺とリエルは処刑場の中で冷めた料理を口にしていたので、席がどうだったのかは分からない。

 でも、あの様子だと既にチームとしての体をなしていないし、各自適当に座ったものだと予想できる。


 今回も割りとそれに近い感じだったらしく、ルトヴェンドさんとウェリアさんの二人、オルロゼオとスレバラさんの二人、コスターさんシドルツさんクルフの三人、トルネニーナジェイの三人、サバトさんコーラスさんの二人の五組が適当にテーブルに着席したとジェイは話してくれた。

 さらにそれが決まったのは本当に料理を食べ始める直前で、しかも何となくという流れの中で決まったのだという。

 これで全く分からなくなってしまった。

とりあえずみんなの話も聞いてみたいので、この場が落ち着くまでは焦らずに少し待ってみたいと思う。


 その間に俺はジェイにクルフの様子をさり気なく聞いてみることにした。

 今までの言動や行動から、今回もかなりの高確率でクルフが絡んでいるんじゃないかと予想した為だ。

 本当はクルフをマークしている事を知っているルトヴェンドさんに聞いたほうが手っ取り早いと思うんだが、今ルトヴェンドさんは悲しみのどん底にいて話ができるような状態ではなさそうだからな……。


「ジェイさ、配膳中はクルフとルトヴェンドさんと話をしていたっていってたけど、途中で席を立ったとかなかったか?」

「ん? いや、特には……」

「どれくらい話をしていたんだ? 料理を作っている間ずっとか?」

「あぁ……。そうだな……料理を作り始めてしばらくしてからずっとかな……。配膳が終わるまでずっとあそこら辺で椅子に座って話してたかな?」

 そう言ってジェイは今ルトヴェンドさんがウェリアさんを抱いて泣き叫んでいる所を指す。

 ということは、クルフのアリバイは完璧ということになるのか?


 料理を作り始めてからずっとジェイとルトヴェンドさんと立ち上がることもなく椅子に座って話をしていて、配膳が終わったら解散して適当な場所に座った……と。

 これじゃあクルフが毒を入れるチャンスなんて全くない。

 クルフはコスターさんとシドルツさんと同じテーブルで、ウェリアさんやスレバラさんとは違うテーブルだ。

 ルトヴェンドさんにはクルフに気をつけてと言っておいたので、ルトヴェンドさんに聞いてみれば詳しく分かるかもしれない。

 クルフが怪しい行動をしていたらルトヴェンドさんが気づいてくれるはずなんだけれども……。


 クルフが犯人じゃないとした場合も、手法が分からない。

 着席してから毒を入れに行ったら明らかに怪しまれる。

 もしかして、あてずっぽうでウェリアさんの座る位置を予測して、当たればラッキーくらいの思いで毒を仕込んだのだろうか?

 配膳した人間ならそれが可能だろう。

 でも、それではクルフ以外の人間が仕込んだということになって、今までの俺の想像と矛盾する。

 クルフ以外の人間が犯人だったら、グレハードさん殺しの手法やウェリアさんの占いを阻止しなかった理由が分からない。


 考えれば考える程頭のなかがごちゃごちゃになっていく。

 もしかして俺は犯人に近づけているようで、実はむしろ遠ざかっているんじゃないのか?

 犯人の術中にハマってクルフを犯人だと予想してしまったとすら思えてきた。


 今絶対に犯人ではないと俺が言い切れるのはリエルとサバトさんだけだ。

 リエルに毒を仕込むチャンスなんてない。

 サバトさんはグレハードさん殺しの件で俺が直接アリバイを確認しているので絶対に犯人ではないはずだ。


 逆に言えばその二人以外は誰が犯人でもおかしくないとすら思えてきた。

 俺に意見を求めてきたルトヴェンドさん、謝罪をして来たジェイ、ニーナ、コーラスさん。

 この人達が犯人である可能性も十分にあると考えてしまうほど、この意味不明な状態が襲ってくる恐怖で俺の頭は混乱していた。



 場は一向に落ち着かず、痺れを切らしたコスターさんが少し強引な形でこの件に関する会議を始めた。

 ルトヴェンドさんは少しは落ち着いたもののまだ喋れる様子では全くないし、トルネとニーナも罪悪感からなのか放心してしまっていて話せる状態ではない。

 それでも記憶が曖昧になる前に証言を取っておきたいという意向もあって、強引に話し合いが開始された。


 コスターさんは例によってフェンスを確認しに行っていたが、結果はいつも通りフェンスはかかったままだったということを前置きとして、まずは状況の整理から入るのだが、さっきジェイから聞いた事でほぼ間違いはなかった。

 トルネ、ニーナ、ウェリアさんが作ったお吸い物の中に毒物が混入していると見てほぼ間違いないということ。

 料理を配膳したのは主にサバトさんとコーラスさんとシドルツさんで、ウェリアさん自身も配膳には少し参加していたということ。

 配膳時に着席している人はおらず、料理は誰の料理という訳ではなく適当に配膳されたということ。

 テーブルには二人分もしくは三人分料理が配膳されることとなるのだが、それも適当に配膳していったとシドルツさんが証言してくれた。


 配膳済みの席には誰がどこに座るというのも全く決まっておらず、現状のチームのメンバーを意識した人もいれば、仲の良い人と流れで適当にという人もいるようだ。

 誰かが誘導したとかそういうのは全くなかったというのが、現場に居た人全員で一致した意見だった。


「これは恐らく無差別殺人でしょう。ついに犯人もなりふり構わなくなってきたと言っていいと思います。ただ、毒を入れるチャンスが限られているので、そこからアリバイを調べれば犯人は絞れます。器によそう前に混入したのであれば、他のお吸い物に口をつけた人間が死なないのはおかしい。配膳が終わった後に怪しい行動を起こした人間はいなかった。つまり、器によそった人間と配膳した人間に犯人は絞られるわけですね」

 コスターさんはそうつらつらとみんなに向けて説明を始める。

 説明を始めるのはいいんだが、最初からきっちりツッコミ所を一々用意するのはやめて欲しい。

 俺が突っ込むとこの人、なんか知らんがキレるんだもん。

 でも、このまま変な方向に話が進んでいってしまうと困るので、ちゃんと突っ込んでおこうと思う。


「よそった人間はもしかしたら犯人ではないかもしれませんよ? だってほら、それがどこに配膳されるかわからない以上、自分に当たる可能性もある訳ですよね? まぁ、自分はそのお吸い物に口を付けなければいいだけの話なんですけれども……。トルネとニーナでしたっけ? 器によそったの。あ、あとウェリアさんか。トルネとニーナがお吸い物に口をつけていれば犯人という線は完全に消えると思いますが……」

 と、ちょっと下手に出るような感じでコスターさんに突っ込んでやった。

 するとコスターさんは言葉を探すような感じになったが、それよりも先にトルネが口を開いた。


「や、やめてよ……。こ、こ、この子が犯人だっていうの……? そ、そんな訳じゃない……。い、いくらロク君でも、やめて……」

 凄い震えたような声でトルネはそう言う。

 明らかにいつものトルネの様子と違う。

 今起こっていることが信じられなくてパニックを起こしている様子だ。


「落ち着いてくれトルネ。ニーナが犯人だと言ってる訳じゃない。逆に、よそった人がお吸い物に口を付けたのであれば犯人ではないと言っているだけだ。よそったのはニーナだけなのか? トルネはよそってないんだな?」

「わ、わ、私はお吸い物はよそってない……。口も付けた……。で、でも、ニーナは違う……。は、犯人じゃない……」

 どうやらニーナがよそって、なおかつニーナはまだ自分のお吸い物に口を着けていなかったようだ。

 当のニーナは姉の方よりひどい怯え方をしている。

 俺が来た時からずっと二人は身を寄せ合って床に座り、震えながら放心している状態だ。

 よほど目の前で起こったことが信じられなかったのだろう。


「何にしろ、どこに配膳されるかも分からないよそう側の人間が毒を混入したとは考えにくいということです」

「しかし、可能性は0ではありませんね。ニーナさんには十分に犯行を行える機会があったのはよく分かりました。後は配膳を行った者……シドルツさんとコーラスさんとサバトさんですか。この四人の中に犯人がいるというのは間違いないでしょう」


「ちょっと待ってくれ。コスターさんとオルロゼオさんは何していたんです? 配膳中、配膳後に。ジェイとクルフとルトヴェンドさんは三人で話をしていたということで、互いにアリバイを確認しているのは分かります。でも、コスターさんとオルロゼオさんのアリバイは不確かなんで、犯行のチャンスはあるように思えるんですけれども?」

「私ですか? 私は自分の推理メモを見直し、会議で話し合うことの確認をリビングでしていましたよ。誰か見ていた人はいるはずですが?」

 そう言ってコスターさんが周りの人にアリバイを確認してもらう。

 するとジェイがそれに応答するように言葉を発した。


「確認している。でも、正直言っちゃえばずっと見ていたわけじゃないので分からない。毒を入れるのなんて一瞬でできるだろうし、あんまり意味ない証言かな……?」

「私は入れてませんよ! 毒が入っていたのはウェリアさんとスレバラさんに配膳された料理の中なんですよね? スレバラさんの席はあそこ、ウェリアさんの席はあそこ。スレバラさんの席ならともかく、ウェリアさんの席はあなたがたが話をしていた場所のすぐ近くです。私が近づいたらすぐに気がつくはずですが!」

 コスターさんはそう言いながら位置関係を説明する。


 ウェリアさんの席は地図の正位置を基準に言えばリビングの右下に位置するテーブルの北側の席で、スレバラさんの席はリビングの左上南側の席だ。

 ジェイとクルフとルトヴェンドさんはそのウェリアさんが座っていたテーブルの近くで椅子を持ち寄って話をしていたと言っていた。

 それならばコスターさんの言うとおり、近くにコスターさんが来れば気づくはずではあるんだが、完璧とは言いにくいな。

 でも、こそこそ隠れながらウェリアさんの席に近づいて毒を入れるにしても、堂々と何食わぬ顔で近づいて入れるにしても、配膳中は配膳している人がいるのでそんなことをしていたら目立つはずだし、配膳後はその席に近づいた人を見かけたらすぐに分かるだろうしな……。

 ウェリアさんの席だけならまだしも、その位置とは対角線上にあるスレバラさんの席にも毒を仕掛けに行くのはリスクがあるし、勇気のいる行動な気がする。

 配膳中にしろ配膳後にしろ、離れた位置にあるスレバラさんとウェリアさんの席の両方に毒を仕掛けに行くには、両方の席に立って歩いて近づかなくては行けないわけだし、誰かしらに見られる可能性が非常に高いのでリスクが高い。


 でも、そういった証言が出てこないので配膳した人間が調理場から料理を持ってくる時に入れたと考えるのが一番自然だ。


「配膳してた人やリビングにいた人の中で、スレバラさんの席やウェリアさんの席に近づいた人を見た人はいませんか? スレバラさん、ウェリアさんの料理配膳中ではなく、配膳後に毒を入れられたのであれば誰かがそこに近づかなければ毒は入れられないんだが……」

 念のためそうみんなに聞いてみるが、そういった目撃証言は出てこなかった。

 見ていたらとっくにそんな証言が出てきてもいいはずではあるんだよな。

 オルロゼオやルトヴェンドさんも少しは落ち着いて俺達の話を聞いているようではあったが、彼らからの返答もない。


「というのであれば、コスターさんの言ってる通り配膳中に毒が入れられた可能性が非常に高いということになりますが、一応オルロゼオさんが配膳中に何をしていたのか聞かせてもらってもいいですか?」

 オルロゼオの顔を見て聞いてみる。

 彼は動かないスレバラさんを前にして凄く沈んだ様子で座っていたが、一応目を合わせてくれたし話を聞いてくれてはいるんだろう。


「また……お前か……。俺がスレバラさんを殺したというのか……?」

 オルロゼオは静かに、不気味にそうぼそりと返事を返してくる。

 そう言えば、これでオルロゼオと仲の良かったグレハードさん達ジェスティアの王宮騎士一行は全員亡くなってしまったということになるんだよな……。

 オルロゼオ様子は魂の抜けたしまった屍のような様子で、見ているのも気の毒だ。

 気持ちは察するし、俺だって残念なんだがここは何とか頑張って俺達に協力して欲しい。


「そうは言ってないです。二人の席に近づいた人間がいない以上、配膳している人間にしかチャンスがいないわけですから、あなたを疑っている訳ではない。念のためあなたが犯人ではないことの証明として話をして欲しいと言ってるんです」

「……俺はスレバラさんと話していた。この辺りで……。どうせ誰も見ていないんだろ? 俺が犯人だと思っているんだろ……?」

「…………」

 まずいな。トルネもそうだったけれどもみんなの精神状態がやばい。

 特に事件や被害者に関わりのありそうな人は相当キテいる。

 でも、それも当然のことなのかもしれない。


 誰もが信じて疑うことなく食べていたセヴァンズ姉妹の料理ですらこの有り様だ。

 もう信じられるものは何もない状態だというのにも関わらず、犯人はこの状況を嘲笑っていて、次は誰を殺そうか企んでいるのだからな。

 自分が次にいつどんな手法で殺されるかを考えると、気が気でいられないのも分かる。

 でも、どうにか落ち着いて冷静になって欲しい。

 そうでないとまた犯人を逃してしまうことになる。


「オルロゼオさんのアリバイは確かに怪しいが、どちらにしろ配膳が終わったウェリアさんの料理に毒を入れにいかなくてはならない。それを目撃している人がいない以上、犯人の可能性は低いと感じた。それを確認したかった。コスターさん、話の腰を折ってすまなかった。続きを頼む」

「……今ので分かったと思いますが、私やオルロゼオさんは毒の混入が難しい。話を戻しましょう。犯人は配膳した人か器に料理をすくったニーナさんである可能性が非常に高いです。その人達に話を詳しく伺います。そのみなさんは何をどうやって配膳したのか、また、それを見ていた人がいるのかどうかを話して下さい」

 そうコスターさんが話すと、シドルツさん、コーラスさん、サバトさんの順番で話を始めてくれる。

 どの人も当然といえば当然なのだが、誰に何を配膳したのかなんて全く意識をしていなかった。

 配膳中は誰も席についていなかったので、ウェリアさんやスレバラさんをピンポイントで狙うというのは難しそうだ

 3人ともお吸い物を配膳した記憶はあったようだが、どの席に配膳したのかはあやふやで覚えていない様子だった。


 つまり、三人共条件は同じで、無差別に毒を盛ったとしても誰が盛ったのかはわからない状態になってしまっている。

 普通に考えれば配膳した毒入りの料理が入った席に自分が座ってしまう可能性も出てくるわけなんだが、それを回避するために着席する際に咄嗟に座る席を変えたりできないだろうか……。


 一旦状況を整理してみよう。

 テーブルは5つあって、左上のテーブルには毒の入った料理が配膳されたスレバラさんと、オルロゼオが、左下のテーブルにはトルネ、ニーナ、ジェイが、右上のテーブルにはサバトさんとコーラスさんが、右下のテーブルには毒の入った料理の配膳されたウェリアさんとルトヴェンドさんが、中央のテーブルにはコスターさん、シドルツさん、クルフの三人がそれぞれ座っていた。


 犯人の候補であるサバトさん、コーラスさん、シドルツさんはそれぞれ綺麗に毒入りの料理のあるテーブルは回避しているんだよな。

 犯人はこの中にいるとして、これは偶然なんだろうか。

 もしかして、席に座った順番が明確に分かれば、犯人も自ずと見えてくるんじゃないだろうか。

 犯人は毒入り料理の入ったテーブルには近づきたくないので、早く席を決めたい所だろう。

 もたもたして残された椅子が毒入り料理の席しかなかったらその時点でどうしよもなくなってしまう。

 その三人の中で、早めに着席した人間が犯人である可能性は高いか?

 それ思ったので、その様子を出来るだけ詳しくみんなに聞いてみた。


「ちょっといいか? みんながどうやって席を決めて、どんな順序を追ってそれぞれの椅子に着席したのか、その様子を覚えている人はいないか? できれば詳細に……できるだけ詳しく説明して欲しいんだが……」

 俺がそう発言すると、周りのみんなは互いに色々話をして事件前の様子を話し合ってくれた。

 正確な順番は分からないにしても、元々リビングにいたメンバーが先に着席したのは間違いないようだ。


 料理の配膳がほぼほぼ終わってから、ルトヴェンドさんは話し合っていた席の近くにそのまま、クルフは何となくチームを意識していたようで、シドルツさんの本が積まれていた中央のテーブルへ、それと同じくしてシドルツさんとクルフと同じチームのコスターさんも何となく中央のテーブルへ着席。

 ジェイはその様子を見て、チームなのかなと考えて空いている左下のテーブルの席へと着席。

 オルロゼオとスレバラさんは近くの左上のテーブルへ何となく座った……と。


 その後はコーラスさんがサバトさんを連れて空いている席に行き、ウェリアさんがルトヴェンドさんの席へ行き、トルネとニーナが消去法的にジェイのいる席へと座った……と、大体はこんな感じだったという結論が出ていた。


 それを聞いてピンと来たのがシドルツさんだ。

 シドルツさんは予め本を置いて席を予約していたというようにも取れる。

 自分の席が予め決められているのであれば、そこを回避するように毒を配膳するのは容易だ。

 もちろん、単に本を置いていただけということもあるんだが、シドルツさんなら自分を回避して無差別殺人を行うことが出来そうだ。


 一方、サバトさんとコーラスさんは配膳が終わり、既に着席が半分以上済んだ後に席を決めたという流れだ。

 これだと自分でその席を回避するのは難しい気はする。

 どうにかして自分以外の所に毒を配膳する方法はないものかと考えてはみたんだが、もしかしたらという方法を思いついた。

 早速それが可能かどうか確かめて見るために、手法は明かさずにみんなに協力を頼んでみることにする。


「大体流れは分かったんだが、またお願いごとをして申し訳ない。ジェイ達が話していた場所、オルロゼオさんがスレバラさんと話していた場所を教えてくれないか? できれば正確に思い出して欲しい」

 そう言ってジェイ達やオルロゼオに話をしていた場所を聞く。

 結果、ジェイ達は右下のテーブルのほぼ真横、オルロゼオとスレバラさんは左上のテーブルと左下のテーブルの間より、左上のテーブル寄りの位置で話をしていたということが分かった。

 それを受けて俺は自分の考えていたことが実行可能なんじゃないかという思いを強めた。


 ジェイ達、オルロゼオ達、両方の話し合いはどちらもテーブルの近くで行われている。

 このまま流れればそこで話をしている人たちはそのテーブルに着席してもおかしくなないという位置だ。

 つまり、左上のテーブルと右下のテーブルはほぼ予約が終わってしまったも同然という形になる。

 それならばそこに毒を入れてしまえば自分が毒をもらう可能性は回避できる。

 こう考えると、シドルツさんは既に予約済みだったということで犯行が可能だとしても、サバトさんコーラスさんにも犯行を行うことができるということになる。


 コーラスさんかサバトさんが犯人であれば、その様子を見て自分が座る位置が大体予測できる。

 左上はスレバラさんとオルロゼオが、中央はシドルツさんとそれに親しい人が、右下はジェイ、クルフ、ルトヴェンドさんと親しい人がほぼ予約済みで、それのどれにも当てはまらない右上と左下のテーブルにコーラスさんとサバトさんなら座ることになるんだろうなぁと予測できるかもしれない。

 幸い二人共、話し合いをしていたオルロゼオ、スレバラさん、ジェイ、クルフ、ルトヴェンドさんとはそれほど仲が深いわけではない。


 何かの間違いで彼らのテーブルに呼ばれるような可能性はかなり低いと考えていいだろう。

 つまり、俺の中ではシドルツさんもサバトさんもコーラスさんも、誰もが犯行を行えるチャンスがあったということになった。


 となると導き出される結論はただ一つ。

 グレハードさん殺しも可能でウェリアさんとスレバラさん殺しも実行可能なコーラスさんが今一番怪しいということになる。


 でも、これはまだみんなには言わないでおこうと思う。

 あくまで想像でしかないわけだし、証拠がない。

 コーラスさんが犯人臭いなんて余計なことを言って混乱させてしまったらダメだ。


「話した場所を言ったけど、それ、何か関係有るのか?」

 ジェイが俺のみんなへの要請に対して疑問をぶつけてくる。

 ここはとりあえずの所は適当に濁しておく方がいいだろう。

 ここでコーラスさんが~とか言い始めたらこいつら100パーセントコーラスさんを殺そうとするだろう。


「いや、もしかしたら位置関係によっては話し合っている人たちに悟られずに毒を入れに行くことも可能なんじゃないかと思ったが、そこまでテーブルに近かったら難しいということが分かった。協力してくれてありがとう」

 と、適当な理由をつけておいた。

 それが終わると場は一旦止まってしまう。

 進行を続けていたコスターさんが何やら考えこんでしまったのが原因だろう。

 みんなはどうすればいいのか分からず、その場でおろおろしてしまっている。

 俺はコスターさんを中心にみんなの様子を探っていたのだが、そんな中でジェイが俺に近づいてきて話しかけてきた。


「なぁ……犯人は何で全員殺さなかったんだ……?前から思ってたけどさ、料理に毒を入れれば全員倒れてそれで犯人一人だけ勝てるんじゃないのか……?」

「遅効性の毒薬があればそれでいけたかもしれないな。でも、遅効性の毒薬なんて持っている人なんていないんじゃないのか?そんなの持ってても役に立たないし……」


「遅効性じゃなくたって、さっさと殺してしまえば……」

「毒の効き始めが早かったら最初に料理に手を付けた人に異変があれば他の人は警戒する。今回のように何人かは殺せたとしても、これだけの人数を全員殺すのは無理だ。今回もウェリアさんとスレバラさんに異変があった後、誰も料理に手を付けてないだろ? もしかしたら、手を付けてない料理の中にも毒薬はまだ入っているかもしれないな」


「……まじかよ……こえぇ……」

「状況が状況じゃなかったというのも考えられる。鍋の中に入れるのは難しい状況だったとかな。それに配膳中のドサクサに紛れて全部の料理に毒をもって、うまいこと全員殺せたとしても今回に限っては俺とリエルが生き残る。今犯人一人になっても二人に生き残られた負けるから、それもできなかったんだろう」

「…………」


「正直に俺が思っていることを話せば、今回の殺人は急ぎだったんだと思う」

「……急ぎ?」


「あくまで想像なんで鵜呑みにしないで欲しいんだけれども、恐らく犯人はウェリアさんをどうしても早く殺したかったから急いで犯行に出たんだ。だから今まで取らなかったような料理に毒を混ぜるなんてやり方を使ってまでして犯行に及んだんじゃないかと思っている」

 料理に毒を入れるという方法は、犯人にとってしてみれば一度使ったらもう二度と使えない手段だ。

 一度使えば誰もが警戒するのは目に見えている。

 携帯食がどれだけ残っていても、どれくらいここに滞在するか先が見えない状況の中で料理を自動的に提供してくれるのは有り難いことだろう。

 あんなにうまかったし。

 でも、料理に毒を入れてしまえばそれもストップする。

 犯人にとっては都合のいいことではないだろう。

 それをしてまでしてこの手段を取ったということは、つまりそういうことなんじゃないかなと俺は思っている。


「ウェリアさん? 何でだ? そりゃ、結果的にウェリアさんは死んじまったけど、これはウェリアさんを狙った訳じゃないんじゃないのか? というか、無差別殺人な気が……」

「ウェリアさんはみんなの前で嘘を見抜ける能力があると、実践してみせたんだよな?」


「あ……あぁ! なるほど! 犯人はそれが怖かった……と!」

「間違いないだろう。だから急いで考えた犯行なんだろうな。結果的にウェリアさんは亡くなってしまった。ウェリアさんをピンポイントに狙えるトリックがあるのか、適当に殺してその中にウェリアさんがいることに賭けたのかは分からんが……」


「……なぁ、一応聞くけどお前、犯人じゃないよな?」

「やめてくれ」


「……犯人は頭良い奴だと思うんだよ。俺だって、お前にそこまで言われてはじめて気がついたことが多い。俺じゃあバレずにこんなうまい方法なんて考えるからして無理だ。となると、お前くらい頭の良い奴が犯人なんじゃないかって……」

「…………」

 確かにジェイの言うことは外れていないだろう。

 グレハードさんの件もこの件も、自分だけしか疑われないという状況を作っていない。

 人を殺そうとするならばチャンスはいくらでもあるんだが、犯人は一人しかいないと推測できる犯行ではどちらもない。

 ちゃんと自分以外の人も疑われるように考えられた犯行なんだ。

 犯人がコーラスさんだとすればそうだけれども、万が一コーラスさんでなければそれを上回るかなりの知能犯だ。

 とても俺の手に追える相手ではないと思うほど、見事に自分は犯人候補から外れている。


 残っているメンバー全員をもう一度確認してみよう。

 俺はいいとして、リエルは今件で毒を盛ることは不可能なので犯人ではない。

 サバトさんはグレハードさんの件についてアリバイがあるのは俺が確認している。

 ジェイ、クルフ、ルトヴェンドさんは今回の件についてのアリバイが確かにある。

 コスターさんとオルロゼオは状況的に見て今回の犯行が難しい。

 オルロゼオはグレハードさんの件でアリバイがある訳だしな。


 残すはトルネ、ニーナ、シドルツさん、そしてコーラスさん。

 その四人はグレハードさん殺しのアリバイが全員ないが、トルネは今件でお吸い物に口をつけているので可能性は低い。

 ニーナは今回の犯行も行える機会があったが、着席が遅かった為に不確実なので可能性は低いと見ている。

 シドルツさんは今回も犯行が十分に行える上に、ジェイの言うとおり頭が良いいので奇天烈なトリックも巧妙な犯行も思いつくこともできるそうだが、犯人であればその頭の良さで最初からもっとうまく状況を運べたはずなので可能性は低いと思う。

 ……となると、犯人はコーラスさんしか思いつかない。


「ジェイ、お前は誰が犯人だと思ってるんだ……?」

「……お前? お前かコスターさん? 後、シドルツさんも頭いいんだったよな? 学者みたいな事聞いたし。いやだってよ、それくらいの人しか思いつかないだろこんなの! 他の奴が思いついて実行したとはとても思えない!」

 ジェイが演技をしているのでなければ、ジェイが犯人だったら初手で料理に毒をぶちまけて自滅するとか、そんなことを言いたいんだろう。


 シドルツさんは分かるにしてもコスターさんか。

 あの人はあの人なりに凄く頑張って考えてくれているんだろうけれども、どこかしらに突っ込みどころを残してくれる辺り、詰めが甘い気がするんだよな……。

 上から言わせてもらって大変恐縮だけれども。

 彼が犯行を行ったら簡単にボロが出てきそうなもんだけれども、それはひとまずおいておこう。


「……でも、人は見かけによらないからな……。もしかしたら表では馬鹿を装っていて、裏では物凄い色々考えているかもしれない……」

「そうか……? そうだとしたら、犯人はボロは全く出してないよな? そんな頭良さそうなが他にいるとは俺には思えない! ……頭が良いというか、ちゃんと犯行を考える頭があるという意味な。別に他のみんなを馬鹿にしている訳ではなくて……」


「わからないぞ? ジェイも犯人の立場になって、自分が生き延びるためには考えなきゃいけないってなったら必死に考えるだろ? そんな中で必死になってひねり出した案なのかもしれないしな」

「……そうかもな。そういうことだって俺には全然想像がつかね。お前、そんな真犯人に勝てる自信あるか……?」


「…………」

「本当に申し訳ないけれども、お前に頼るしか道がない……すまん。頼むから勝ってくれ! そうでないとみんな殺されちまう……。犯人は頭がいい。それに勝てる奴なんていないってくらいに。そうでないと、こんなに簡単に人は殺せないだろ! お前がいなくなったらきっと俺達は全滅だ。協力できることがあれば何でもする。だから頼む……犯人に勝ってくれよ……」


「…………」

 ジェイの言葉に段々と元気がなくなってきていた。

 そろそろ本気で俺達がやばい状況にあるというのを、ジェイも感じ取っているのだろう。

 俺も俺でこのまま能動的に動いて犯人を追い詰めていけば、今度は俺が狙われるだろうな。

 一対一なら犯人なんか返り討ちにしてやるとか意気込んでいたが、犯人の手法はグレハードさんの時も今回も、実力勝負じゃなくて頭を使った勝負で仕掛けてきている。

 力勝負ならなんとかなるなんて思っていると、本当に簡単に殺されてしまいそうだ。


 今俺は犯人がコーラスさんじゃないかという疑問を持っているのでまだ少し余裕がある。

 コーラスさんに気を配っていれば良いわけだし、証拠もこれから探していけば出てくるかもしれない。

 でも、万が一それが外れたとなったらいよいよ俺もお手上げ状態になってしまう。

 今はとにかく犯行の手がかりを見つけ、この場で事件を解決するくらいに思ってなければならない。


 コーラスさんが怪しいんだが、まずはクルフの線を完全に消しておきたかったので、クルフをマークしいたであろうルトヴェンドさんに話を聞きに行きたいんだが、まだあの様子では正確に事を思い出してしっかり話してくれそうにはない。

 仕方ないのでジェイにもう一度聞いてクルフの線を完全に消してしまおうと思う。


「ジェイ、出来ればしっかり思い出して欲しい。ジェイとクルフとルトヴェンドさんが話し合いをしていた時、料理の配膳は始まっていたのか。そして料理の配膳が終わるまで、確かに誰も怪しい行動は取らなかったのか。そして、着席する際に……特にクルフが料理に何かしていなかったかを」 

「…………」

 俺がそういうと、ジェイは思い出す間を置いた。

 その間もすぐに終わり、しっかりと俺の目を見てその問いに答え始めた。


「俺達が話し合いを始めたのは、料理が始まってからだ。配膳は一切行われていなかった。間違いない。それから俺達は配膳が終わるまでずっとその場で話していて、途中で立ち上がるようなこともなかった。これも間違いない。配膳が終わった後、俺達は自分の席にそれぞれ戻っていったんだが、最初にクルフがその場を離れて、ルトさんは椅子を戻してそのままあのテーブルに居座り、最後まで俺がその場にいて、どこに座ろうか迷っていた。その間にルトさんとウェリアさんのテーブルにある料理に誰かが何かしたというのはない。俺もそのテーブルをずっと見ていた訳じゃなかったし、絶対とは言い切れないが、何かあればルトさんが気づいているはずだ。ルトさんがウェリアさんを殺したなんていうのが考えられないのであれば、クルフも、もちろん俺も料理に毒を盛ったなんてことはしてない」

「……そうか」

 ルトヴェンドさんがそういった行動をとっているのであれば、スレバラさんに毒を盛ることは不可能なので犯人ではないだろう。

 クルフもジェイの話している様子だとスレバラさんのほうに毒を盛ることは、隙を見ながらかろうじてできても、両方に盛るのは難しそうだ。


 ということはクルフが犯人という線は消えたと思うしかない。

 例のリエルについての証言の件で恐らく犯人はこいつなんじゃないかなと思ったが、本当に見間違えだったということか。

 その後もウェリアさんの占いを阻止したのも、万が一失敗があったら困るという一般論を出しただけだったということなのか……。


 俺はクルフが犯人だと思っていたんだが、その様子ではクルフが今回の犯行を行うのは無理だ。

 何かトリックがあるんじゃないかと思うくらい今でも疑ってはいるんだが、現実的に無理なものは無理なんだ。

 それよりも怪しい人がいる訳だしな……。


 俺はジェイにしっかりお礼を言い、コーラスさんの所へ詳しく事情を聞きに行こうとその場を後にした。

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