20.言い分と連鎖
―― 6日目 1回目食事前後 ――
コーラスさんとサバトさんがこの処刑場に置き土産……壺と樽を残してこの部屋を去ってから程なくして、また新しい客人がやってきた。
今度はジェイとニーナだ。
俺もこの二人とは特に話をしたかったので丁度いい。
この二人ならリエルも仲良くなれそうだし、起こして会話に加えようかと思ったが、本当に気持ちよさそうに熟睡していたのでやめておいた。
「よぅ」
「…………」
「二人共、よく来てくれた……ありがとう。そして、本当に申し訳なかった」
俺は二人に対して深々と頭を下げて謝った。
これは全員に対してやるつもりだ。コスターさんやオルロゼオなんかには頭下げたくないのが本音なんだけれども、それでもやるつもりだ。
今みんなが俺のことをどう思っているか分からない。
もしかしたらコーラスさんのように思ってくれている人も中にはいるかもしれない。
でも、それが自分に対するあの暴挙のケジメってもんだ。
「何でお前さんが頭を下げるんだよ。こっちが頭を下げに来たってのに。本当に力になれてやれなくて、すまなかったな」
「本当にすみませんでした!!」
頭を下げっぱなしなのでジェイとニーナの声だけしか聞こえなかったが、二人も頭を下げているんだと思う。
互いに頭を下げている状態が暫く続いたあと、俺は二人を適当な場所に座らせて話を始める。
「その様子だと頭も冷えたみたいだな。どうだ? この部屋の居心地は?」
「気持ち悪い器具が置いてあるってだけで、他の部屋と何ら変わりはないよ。トイレ以外は……」
「トイレ?」
さっきコーラスさんから譲り受けた壺をジェイに見せてそれを説明してやった。
さすがのジェイもそれには苦笑いだ。
ニーナの方はそんなくだらない話なんて上の空で、凄いおどおどした様子で座っている。
「何にしろ、力になってやれなくて本当にすまなかったな。どうも俺はお前さんのように頭の回転が早くないんだ。言い訳になっちまうが、俺もどこかのタイミングで出て殺すなんて方向には反対しようと思ってたんだよ。お前さんとリエルちゃんが戻ってくるまではリエルちゃんが犯人だと思ってたんだけど、エドリックが強姦しようとしたって話を聞いた時には『ん? じゃあどうすんの?』ってなって、お前さんがクルフの証言に反論した時には『エドリックの事は忘れて、もう何もなかったでいいんじゃね?』とは思ってた。でも、あの場の話の展開が早すぎて、自分の頭の中で整理しきれなかったんだ。俺が出て行った所でどうにかなるような気がしてなかったっつーこともあって、お前さんの言う通り傍観して楽してた。お前さんばかりに頼ってしまって、本当にすまなかった」
「いや、こっちだってジェイが途中で助けてくれなかったら更に泥沼化してただろう。本当にお前には感謝しているよ。ありがとう。それよりも、俺の方こそひどいこと言ってまってすまなかった。あの場はリエルを助けてやりたい思いで必死だったんだ。俺も冷静じゃなかった。みんなには本当に申し訳ない事を言ったと思っている」
「ロクさんが謝ることなんて……ないです……。あの、私、ロクさんやリエルちゃんに何て言ったらいいか分からなくて……私……私……」
今までおろおろ気まずそうにしていたニーナがここで初めて言葉を発する。
目に涙を溜めて、今にも泣きだしてしまいそうだ。
ニーナはここにいた時からずっとそうだったよな。表に出るのが苦手で、ずっとトルネに代弁してもらうような形で意志を伝えていた。俺がリエルの代わりを務めたように。
そういう風に表に立つのが苦手な人だっているんだ。
ニーナがコスターさんの話をどう聞いていたのかは分からないが、この子だって恐らくあの人の意見には疑問を持っていたはずだ。
それなのにあんな事を言ってしまって申し訳ないと思う。
「何も言わなくていい。ニーナが何を思っていたのかはどことなく察する事ができる。俺の謝罪を受け入れてくれたらそれで俺も有り難いと思う。本当にすまなかった」
「ロクさん……すみません……本当に……ごめんなさい」
ニーナは何とか涙をこらえようとしているんだが、それでも涙をこらえきれずに泣いてしまった。
この子も思うことがあったんだろうな。
でも、それを前に出して発言することが出来なくて、それでもおかしな方向へ結論が進んでしまって聞いているのも辛かったのかもしれない。
ずっとずっとトルネに自分の気持ちを代弁してもらってきたんだ。
サバトさんの影に隠れていたコーラスさんのそれと同じような事を感じていたんだと思う。
だから、ニーナの言わんとすることが分かるような気がしてきた。
「リエルちゃんにも謝りたい……私……リエルちゃんの事を少しでも疑ってしまって……それが違うと分かっていても全然助けることができなくて……」
ニーナは涙を流してそう訴える。
リエルは今も眠ったままだ。
どうしようか。
今ならこの二人にリエルを受け入れてもらえるチャンスだし、リエルもちゃんとみんなに謝れるチャンスでもある。
そう思ったので、少しだけリエルを突いてみようと思った。
寝ているリエルの脇腹辺りをちょんと突いてやると、リエルは凄い勢いで起き上がって戦闘態勢に入るかのように構える。
こういう所は盗賊……というか、本当に立派な戦士体質なんだなぁと思う。
「すまんな起こしてしまって。今、客人が来ているんだ」
「…………」
「リエルちゃん……本当にごめんなさい……ごめんなさい……」
ニーナとジェイは、揃ってリエルに対しても頭を下げる。
対するリエルは何が起きたのか全く分かっていない様子で、解説を求めるように俺のことを見てきた。
「ニーナもジェイも、リエルに謝りたいんだってさ。でも、お前からもみんなに謝る事があるだろう。自分の口でしっかり謝るんだ」
寝起きで頭が回っていないという事もあったのか、それを言ってもリエルは少しの間ぽかんとしていた。
でも、すぐに何かに気がついた様子で暗い顔になり、下を向き始めてしまった。
さっきまでリエルはあんなに饒舌だったのに、また以前の雰囲気に戻ってしまっている。
出来ればこんな空気にしたくはなかったのだが、これもちゃんとしたケジメだ。
どういう形であれ、エドリックを殺してしまったこと、そしてみんなを混乱させてしまったことはちゃんと謝らなくてはならない。
「私、リエルちゃんの事を犯人……グレハードさんにも手をかけた真犯人だと思って疑ってしまいました……。でも、ロクさんが説明してくれてそれは違うんだって……エドリックさんに手をかけてしまったのも、ちゃんと理由があったんだって……。それなのに、庇うことも出来ずにリエルちゃんが殺されてしまうかもしれないのに、黙ってずっと見ているだけで……。本当にごめんなさい……ごめんなさい……」
「リエルちゃん。俺もニーナと同じ気持だ。何も出来ずにいて本当に申し訳なかった。でも、リエルちゃんが死ねばいいなんてことは思ってなかったんだ。恨まれても仕方ないことだけど、それだけはどうかわかって欲しい」
二人はそう言って再びリエルに頭を下げる。
リエルはそれをただ黙ってじっと見ていた。
そんなリエルを横から脇腹ちょんをして、お前にもやる事があるんだろうと伝えてやる。
するとリエルは、以前の無表情と下を向いたままのぼそぼそとした声で言葉を発してくれる。
「……この人を……ロクを庇ってくれた。ありがとう」
「天然か!!」
リエルが思惑とは全く違うことを言い出したので、そう突っ込んでやった。
「違うだろ!! お前が二人に思っていることを素直に伝えろよ!! 俺関係ないから!!」
「今のが……素直な気持ちだから……」
「……もういいよ分かった。リエルは誰に何をした? そのせいでみんなは……この二人は疑心暗鬼になって混乱したんだぞ!? まぁ、半分は俺が混乱させたようなものかもしれないけど……。それについて、みんなに言うことがあるだろ?」
俺がそうリエルに促すと、リエルは下を向いたまま目を合わさずに「ごめんなさい」と小さく呟いた。
これでどういう形にしろ、ちゃんとリエルは二人に謝ったことにはなった。
その謝罪をジェイもニーナも受け入れてくれたみたいなので、とりあえずの所はこれで良しとする。
「よし、じゃあ、この話題おしまい!! 俺が言えた事じゃないけれども、いつまでもずるずるごめんなさい言い合っても面白く無い! せっかくだから楽しい話題しようぜ!」
「お、いいね! 俺もリエルちゃんと話したかったんだよ!」
俺のやや強引な話題転換にも、ジェイは後押しするように話をのっかってくれた。
二人とこうして和解できて本当に良かった。
俺もこの二人とは仲良くやっていきたいんだ。
リエルもきっと仲良くやれることだろうと思う。
「自己紹介……したよな? 俺はジェイ。役立たずのジェイだ! んで、この子は癒しのニーナでこいつは丸腰のロク! リエルちゃんもちゃんとあだ名あるんだぜ? 何だったっけか……」
「いきなり自虐かよ……」
「丸腰……丸腰」
「復唱すんな。でも、今はジェイお手製の剣があるから丸腰の二つ名は返上だ。こいつこう見えても器用な男なんだぜ?」
それからはちょっと無理矢理だが、楽しそうな話題を出して盛り上がろうと努めた。
最初はそんな気にはなれそうになかったニーナだったけれども、話しているうちに段々と積極的に会話に参加するようになってくれる。
リエルの方は俺と会話してた時の調子はどこかにいってしまったようで、ほとんど聞き手の方に回ってしまっている。
寝たことで全てが吹っ飛んでしまったのか、それともまだ他人の前では自分を出すのは難しいのかは分からない。
それでも、少しは喋るようになってくれたので、完全に逆戻りという訳ではなさそうだ。
ニーナに料理の事を聞いていたし、自分から話かけるような事も出てきた。
今は難しくても、このまま場数を踏んでいって徐々にみんなとコミュニケーション取れるようになってくれればそれでいい。
「え、何? っつー事はロクはロクで地元に帰ったらハーレム!? まじかよ……俺もそれに混じってヒンデ行ってみてぇなぁ」
「何だハーレムって……。お前は片思いの相手の所にまずはちゃんと帰れよ。ヒンデ来たいんだったらいつでも歓迎してやるからさ。っつうか、リエルは帰る場所がないみたいだし来るのは分かるんだけど、ニーナは帰る場所があるだろ。トルネが泣くぞ?」
「やっぱり許してくれないですよね……。あの……リエルちゃんはロクさんとヒンデに行くんですよね……?」
「うん」
「あの……お二人はもしかして……その……お付き合いしているとか……?」
「え!?」
ニーナが何か言いにくそうにしていると思ったらそれか!?
ウェリアさんじゃないんだからそういう話はやめて欲しい。
っつか、リエルはいま本当に俺に密着するように横に座っているから、そう見られても仕方ないのかもしれないけれども……。
「い、いや、そんなことはない!! 今はそれどころじゃないだろ! まずはここから脱出しないと! ニーナもそういうのは脱出してからにしよう!!」
「何か慌ててない? 本当のこと言っていいんだぜ~? なぁ、リエルちゃん、本当の所はどうなのよ?」
と、ジェイが悪ノリを始める。
場を盛り上げようとしてくれているのは分からなくもないんだけれども、今その話はやめよう! ほら、困ってるじゃないか!! 俺が……。
「付き合って……ない? る? 分からない……。でも、一緒にいたい」
「…………」
「おぉーーー!!!」
ひぃーー!!
空気を読んでくれリエル!
素直さをこんな所で発揮しなくてもいいんだぞ!!
その気持ちは嬉しいけど、俺の変な気持ちが刺激されちゃうからやめよう! な!!
「やったじゃんロク!! おめでとう!!」
「おめでとうじゃねぇよ!! 空気読め!! 今俺たちの置かれている状況を考えろ!!」
「密室に二人きり?」
「ちげぇよ!! こんなへんぴな所に閉じ込められて、いつ犯人に殺されるかも分からないって状況を考えろと言ってるんだよ!! 不謹慎だろ!」
「でも、ロクも気があったから庇った訳なんだろ? じゃあもう成立っしょ! いいなぁ。俺も頑張らねぇと……」
「そうそう、お前も頑張れよちげぇよ!! 馬鹿じゃないの!? 俺はリエルじゃなくても庇ってたから! 真犯人でもない奴を進んで追い込むような事に反対しただけだ!」
「ほ~……。じゃあ、リエルちゃんとエドリック、立場が逆でもお前は庇ったのか?」
「…………」
エドリックがリエルを殺す……?
「許さん」
「ほら見ろーー!! 単にリエルちゃんに気があっただけじゃねぇか!!」
「ごめんごめん今の嘘!! 今の無し!! だいたいそれだとリエルがエドリックを襲おうとするってことになるだろ!! そんなあり得もしない仮定は想定できないから却下だ!!」
完全にジェイの奴にからかわれてしまっている。
今まで俺も散々ジェイをいじるようなこと言ってたから、そのせいかもしれない。自業自得か。
でも、何となくだけど、ジェイも無理やり会話を弾ませようとしている感じがするんだよな。
こいつもこいつで、俺やリエルと打ち解けて和解して、また馬鹿話したいと思っているんだと思う。
その気持ちは嬉しいんだけど、一旦この話題はやめよう。うん。
「よし分かった。この話題はやめよう! 違う話にしよう! 何がいいかな……そうだな……」
「あの……ロクさんはやっぱり、リエルちゃんのことが好き……なんですか?」
「全然変わってないからねそれ!! 同じ話題だよ!?」
「うん」
「え、うんじゃないよ? あなたロクさん? リエル=ロクとか、そんな名前?? 違うでしょ!! そうだ! ほら、ジェイ! お前実はトルネのことが……トルネに気移りとかしてんじゃ……あ、トルネはどうした?」
「はっはっは! すげぇ苦しいな! さすがのロクさんも、こういった話し合いには弱いっつーことか。まぁ後でじっくり聞いてやるからいいわ。お姉ちゃんの方は合わせる顔がないから保留だとよ。自分の言葉でどう謝罪とお礼を言おうか考えて、整理できたら行くっていってたぞ?」
「そっか……。トルネもリエルを殺そうなんて事には反対してた訳なんだな」
「ま、そうだろうな。その辺は見損なわないでやって欲しい。俺達はお前と違って、あんまりリエルちゃんと話したことがないからどういう人か分からなかったんだ。でも、こうして喋ると結構面白い子なんじゃないかなって気がしてきた。こんな風に喋ってくれる人だとは思わなかったよ。俺が話しかけても無視だったしさ……男ってのは女の子に無視されると、結構ショック受けるんだぜ……?」
まぁ、こんな風に喋るようになったのはついさっきからなんだけれどもな。
この子だって元々人一倍警戒心の強い生まれながらの個性と、それをスキルとして固めた盗賊ってキャリアがある。
ここに一人できて、どこの誰かもわからないような奴らといきなり一緒に生活しろなんてのは無茶な話だ。警戒されて当然だったのだろう。
でも、今はこうして俺を信用してくれているみたいだ。
一人信用できる人ができたことで、警戒心を解く大きな緒となったのかもな。
信頼できる人が誰も居ないのと、一人でもいるのとでは状況が全く違う。
「あの、お姉ちゃんも後で必ずお二人の元に来ますので、どうか許してあげて下さい。お願い致します」
そう言ってニーナはまた話を戻して頭を下げてくる。
「今はその話はやめよう!(後、変な話もな)原因を作ったのはリエル、混乱させたのは俺の方だ。むしろ、トルネがそう思っていると分かって良かったよ。これだけそういった意味不明な殺しに反対している人がいるというのは、大きな武器だ。今後それを生かして真犯人だけを追い詰めていこう! そして、これから一人も欠けることなくみんな一緒にここから出るんだ!」
「はい!」
「混乱させたのはお前っつーけど、あのコスターさんは謝ってくれるのかねぇ。別に謝って欲しいなんて思ってないけどさ、それこそ混乱させたのはあの人だろうに。ロクがこうして謝ってんなら、あの人も謝って欲しいところなんだけどなぁ」
「いや、それは全然求めてないよ。少なくとも俺は。あの人だってあの人なりにみんなのことを考えて頭を使ったんだろ?」
「みんなのことを考えて……か。自分が脱出したいから、同じ状況にあるみんなを利用したってのは下衆い想像か?」
「おいおい、それに流れを任せた人間の言うことでもないだろ。とにかく、みんなで仲良くだ。俺はせっかくコスターさんが中心になってみんなで決めた結論を壊すようなことについて詫びたいけど、別に彼からの謝罪は求めていない。結果的には俺の意見が通った形になった訳なんだしな。もちろん、詫びると言っても俺が間違いだったと認めるという意味ではないからな。今でも俺の言ったことは正しいと思ってるし」
本音を言えば一発殴りたい所だし、ここから出たら二度と口も聞きたくないような種類の人だけれども。
ここにいる間だけはせめて協力関係を築いていきたいと思っているのは本当だ。
「そうだな……。もうそれは俺達の間では互いに謝ったんだし、それで綺麗さっぱり忘れよ! そんなことよりもロクとリエルちゃんのやらしい話だ!」
「やらしいって何だやらしいって」
「あの、ロクさんにお聞きしたいんですけれども……」
「その話題になると積極的になるのは何でだ!!」
その後も、ジェイに散々リエルのことでいじられた。
リエルのことをどう思うかと聞かれても、考えないようにしているというのが俺の本音だ。
ニーナにはずるいと言われたけれども、考えてしまうと変なことになってしまいそうな気がしてならない。
故に、変なことにならないように、俺からの個人的な感情が入らないように、その場ではみんな同じと考えていると徹底的に言葉を濁しておいた。
そう。ジェイもニーナもリエルも、コスターさんだって同じ立場なんだ。
リエルだからとか犯人ではないとか、コスターさんだから犯人だとか、そんな暴論を吐いたら状況は不利になるばかりだ。
もちろん、リエルが犯人だってこともあるんだ。
だから俺はせめてここを出るまではそういった個人的な感情は考えないようにするとその場で誓った。
ジェイもニーナもリエルも何だか凄い不満そうだったので、俺ばかりの話題は嫌だったし、他の人の恋愛に話を投げた。
投げたのはいいんだけれども、どれも地雷ばかりで全く盛り上がらなかった。
この四人の会話は、リエルを弁護した時と違う意味で俺にとっては大変な会話だった。
ジェイとニーナの二人がこの部屋を出てからは、しばらくリエルと二人きりの状態が続いた。
なんかあんな話をした後だったので、意識したくないのに意識してしまう。
どうしようかと心のなかでは慌てていたんだが、リエルの方は至ってマイペースで、俺の話をもっと聞きたいと言ってくれたので、俺は自分の持っている話を全て出し切るつもりで自分語りをした。
思ったんだが、リエルも俺と二人の時と他の人が混じっている時とでは結構態度が違うんだよな。
何というか、積極性が違う。
他の人といる時は、以前のリエルのぼそぼそと俯き加減で無表情な状態からトゲを抜いたような感じなんだけれども、二人でいる時はちゃんと俺の顔を見てくるし、表情が微妙に変化するし、声のトーンも力強い。
以前のリエルからは劇的な進化を遂げたと思っているんだが、きっと本来のリエル……セイレンと話していた時のリエルはこんな感じだったんだろうなと思う。
元々はちゃんと喋れる子だったのに、セイレンと離れてしまってからはずっと一人だったから、人とのコミュニケーションの取り方とかも忘れてしまったんだろう。
もっともっと本来の自分を取り戻してくれたらいいなと思いつつ、リエルの反応が聞けるような質問なんかも混ぜて自分語りを行った。
話すと結構喉も渇くもので、途中で俺もリエルも樽の水を飲んだりしていたんだが、ついに来てしまった。
リエルがトイレ行きたい時はどうすればいいのか聞いてくるんだからさあ困った。
説明するのも嫌だったんだが、仕方なく、恐る恐るその壺の中にするしかないと言ったら、リエルが顔を真っ赤にして俺の事を例によって両手でドンをしてくる。
そしてリエルは「あっちへ行って。絶対にこっちを見ないで」と俺に伝えて、壺を持って部屋の本当に隅っこへ移動。
俺も本当に申し訳ないんだが、この部屋から出る事も不可能なので、リエルと部屋の対角線状の位置に座ってやり過ごそうとした。
この部屋は俺達の使っていたチームの個室よりも広いので、ここにいれば音も聞こえてこないだろうと思っていたのだが、本当に静かな空間なのでリエルが脱ぐ音すら聞こえてきてしまう。
この状況は俺に変な感情を抱かせようとしている悪魔が作った罠なんじゃないかと思えてきたのだが、俺もその罠に抗うように耳を両手で塞ぎ、目を思い切りつぶって亀のように伏せる体勢になってその悪魔に抗った。
そんな苦労も途中でありながら俺の話をリエルに聞かせ続けていくと、しばらくしてこの部屋にまた客人がやってきた。
ルトヴェンドさんとウェリアさんだった。
ウェリアさんはこれが噂の愛の巣とかほざいていたけれども、ルトヴェンドさんの方は神妙な面持ちだ。
部屋に通して座ってもらうと、まず始めにコーラスさんやジェイ達の時と同じように、互いに件の事で謝罪をした。
でもそれも比較的早く済ませて、ルトヴェンドさんは本題はそこじゃないと言わんばかりに俺に相談を持ちかけてくる。
「あの後、俺はウェリアと君達を助けようといろいろ考えたんだ。結果としてみんなにウェリアの能力のことについてばらしてしまった」
「本当ですか!?」
隣のリエルは頭の上にハテナマークを作っていたが、それも仕方ないことだろう。
ルトヴェンドさんの言うウェリアさんの能力というのは、相手の嘘を見抜ける能力で間違いないだろう。
不思議そうにしているリエルを見て、ルトヴェンドさんもリエルには説明しておいた方がいいと言ったので、例によってウェリアさんはリエルに質問を投げかけて自分の能力の証明を行った。
質問の内容については触れたくないのだが、実にウェリアさんらしい質問だった。
途中でルトヴェンドさんに呆れられていたし。
リエルもウェリアさんの能力を確認した所でルトヴェンドさんは話を進める。
「それで犯人を当てることができれば、君たちはもちろん、みんなでここから脱出できると考えた。ロク君のアドバイス通り、まずは全員の前でウェリアの能力を見せて証明し、100パーセント当てることができるからとりあえずここにいる全員でやろうと、提案したよ」
「どうなったんですか!?」
そう聞くも、ルトヴェンドさんの顔は芳しくない。
ついに切り札を切ってしまったのか。
このまま放っておかれたら、俺達はどうなってしまうのかというのも考えてくれたのかもしれないけど、出来ればやる前に少し話をして欲しかった。
というのも、前話してくれた時と今とでは状況が微妙に違う。
もう少しリスクを抑えられるようなやり方も見つけられたんじゃないかなと思ったが、とりあえず結果を聞いてみることにする。
「……失敗した」
「失敗!? 占いが外れてしまったんですか!?」
「外れた訳ではない。挑戦できなかった」
「どういうことか、詳しく説明してもらってもいいでしょうか?」
「…………」
詳しくルトヴェンドさんからその時の状況を詳細に教えてもらうことにする。
その発案をした時に、まずは実験としてジェイを使って自分の力をみんなに証明したらしい。
それも完璧に当たってみんなが驚いた所で、やってみようという雰囲気になるまでは良かった。
でも、いざやろうとトルネに対して魔核結晶に触れたかどうか等、核心に迫る質問を何度かした所で待ったがかかった。
クルフからの待っただったそうだが、100パーセント当たるというのがどうも信用出来ないらしくて、ここにいる全員をまずは適当な質問でズバリと当てて、その能力が100パーセントだということを証明して欲しいと言われたそうだ。
そんなことしなくても十分に証明されていると弁明したが、万が一外れた場合はどうなるんだと突っ込まれてしまい、ルトヴェンドさんは沈黙してしまったようだ。
クルフとしては、外れた場合に犯人にされるというのが納得いかなかったようで、石橋を叩こうとしたんだろう。
でも、ウェリアさんの能力は俺も知っている通り100パーセントではない。
このままみんなにテストをしてみた時に、万が一外れてしまったら状況が悪くなるとルトヴェンドさんは頭を悩ませてしまったようだ。
それで一気にクルフにまくし立てられ、その案はそこで止まってしまったとルトヴェンドさんは肩を落として話してくれた。
「……状況はまずいですね……」
「そうなんだ。そのせいでウェリアの嘘がバレ、今度は俺とウェリアに嫌疑が掛けられてしまっている」
「それだけならいいんですが、あの中に犯人がいるとするならば今ウェリアさんを脅威と感じてしまっています。今度はどんな手を使って犯人の嘘を暴いて来るのか身構えていることでしょう。ウェリアさんの能力は、100パーセント当たる訳ではないと自白したんですか?」
「……ウェリアが外れることもあるかもしれないと言ってしまった。万が一外れてしまった場合はクルフ君の言うとおり、言い訳のしようがない」
「いや、そういうことよりも問題なのはむしろ、犯人に嘘をつくチャンスを与えてしまったことですね……。100パーセント当たるわけではないと周りが分かってしまったら、占いをやったとして、犯人はズバリ当てられても『外れている』と言えます。つまり、もうこの方法で犯人を特定することは難しくなってしまった気がするんです。俺が余計なことを言ったせいで……すみません」
「いや、君は悪くない。もちろん俺とウェリアの責任でやろうと決めたことだ、君が意見を出してくれたことに感謝こそすれ、責めるようなことはしない。ただ、これから俺達はどうすればいいのか、君のアドバイスを貰いたいと思ってきたんだ。あの時に助けを出すことができなかった癖に何様のつもりかと怒るかもしれないが……」
最初からルトヴェンドさんの様子が暗かったのはそのせいか。
でも、ルトヴェンドさん達は俺達を助ける意味も込めてその切り札を切ってくれたんだ。
余計なアドバイスをしたのも俺のせいだし、俺にも責任は十分ある。
それを伝えてやると、ルトヴェンドさんは「そう言ってくれると助かる」と返してくれた。
「とりあえずウェリアさんが非常に危険な状態にあると思っておいた方がいいです。特にクルフには要注意して下さい。その話を聞いて思いましたが、クルフがうまいこと言って占いを回避したようにも取れました。ルトヴェンドさんとウェリアさんはどう感じましたか?」
「最初こそ反対してくる人は犯人の可能性が高いと様子を見ていたのだが、クルフ君の話を聞いているうちに、段々とクルフ君の言うことも最もだと思えてきた。占いを受ける側としても間違いで犯人扱いされるのは絶対に避けたい。占いの力が100パーセントだと確認しようとするのは当然のことだ。クルフ君がたまたまそれを言っただけだとは思うが……」
「でも、トルネはそこまで辿り着くことなく、自然と占いを受け入れた。何故か。そんなことを疑うまでもなく自分が犯人でないことをこれで証明できると思ったから。俺はそっちの方に気が向くのが普通だと思います」
「君はクルフ君を疑っている……?」
「今の話を聞いて疑いが濃くなりました。彼はグレハードさんの件でリエルに合致する証言を後出ししてきましたが、それだけではちょっと弱いと思ってたんです。本当に記憶違いだったとか、この場でリエルが死んでも自分にデメリットがないどころか脱出の可能性も出てくるので、どうしてもそっちの方向に導きたいという理由で考えた嘘だったという可能性も考えられます。故意に嘘をついたとしても、あれでリエルが死んでも彼が犯人ならフェンスは解除されませんので、その後どう言い訳するかも簡単な問題ではありませんし……。でも、今回のウェリアさんの占いを中止させたのは立派な大義があっても怪しい。逆にリエルの件がなければそこまで疑わなかったかもしれません。何にしろ、彼には特に注意を払っておいたほうがいいと思います。また、俺がこう話したことは内緒でお願いしますね。本人にはもちろん、他の人にも話さないでくれるとありがたいです。想像の域を脱していませんし、無駄な不協和音を生みかねませんから……」
「分かった……。君の話は俺とウェリアの心の中で閉まっておくと約束しよう。ウェリアは常に俺が付いているのでそんなに問題はないと思っている。それよりも、俺達に向けられてしまった嫌疑を晴らすためにもどうにか逆転できないかと考えているんだが……」
「本当に注意願います。俺が犯人だったら、嘘がバレる要因になるウェリアさんを放っておくなんてことはまずしない。これからまだ何人もの人を殺さないと自分は出られないんです。それを犯す度にウェリアさんから尋問を受けるというのは、犯人は絶対避けたいと思っているはずです。対抗策は……すみません。パッとは思いつきません……。とりあえずの所は、地道にまたみんなの信頼を得られるように過ごしていくしかないかもしれません。現状でウェリアさんの能力は外れることもあるとみんなに伝わってしまった以上、ウェリアさんの能力を行使しての直接的な解決はみんなが納得しません。俺の方でも何かできないか色々考えてみますが、あまり期待しないで下さい。」
「いつも君にばかり頼ってしまってすまない。俺達の方でも色々と考えてみてはいるのだが、中々行き詰まってしまって……。また何か思いついたら相談しに来てもいいだろうか?」
「もちろんです。俺の方から行けないのは残念ですけれども……」
とにかく、今ウェリアさんがまずい状態にあるということ、そして個人的にはクルフが怪しいんじゃないかと思っていることを全面に二人に伝えた。
二人は俺の話に納得して、お礼を言ってこの場を出ていこうとする。
が、最後にルトヴェンドさんが俺達に向けて尋問してもいいか聞いてきた。
ルトヴェンドさん達からすれば、俺はともかく、リエルは立派な犯人候補だもんな。俺はもちろん快くOKを出し、リエルの方もそれに頷いてくれた。
「すまない。君たちを疑っている訳ではなくて、完全に味方であって欲しいという確信が欲しいだけなんだ。気を悪くしてしまったらすまないと思っている。知っている通り、外れることもあるから気楽に受けて欲しい」
「分かりました」
「それでは、手をお借りしますね」
ウェリアさんは俺の手を取って占いの準備に入る。
俺もそれに合わせて目を閉じ、ウェリアさんに触れている左手に意識を集中させた。
俺が犯人でないということは二人にはぜひともアピールしておきたいからな。
「……あなたは魔核結晶というものはご存知ですか?」
「はい。それに触れたらフェンスが発動し、魔核結晶は消えてなくなります」
正確には、魔核結晶を台座から外したら……だったかな?
もう、ほとんど触れるという言葉で通じてしまってはいるが。
「あなたはそれに触れましたか?」
「触れていません。シドルツさんが見せてくれた本の図を見ただけで、直接見たことすらないです」
「……あなたはグレハードさんを殺しましたか?」
「……やめて下さい。冗談でも絶対にそんな事はしません」
「あなたがここから脱出する方法を教えて下さい」
「魔核結晶に触れた犯人を特定し、犯人には申し訳ないですがみんなの犠牲になってもらうことです。それ以外の方法もなんとか探してはいますが……」
「……分かりました。最後の質問です。リエルさんのことはお好きですか?」
「……できれば今件と無関係なことはちょっと……」
「ふふふ。分かりました。やるまでもありませんでしたが、嘘はなかったです」
ウェリアさんがそう言ってくれたので、安心して俺は目を開けた。
「元々ロクさんは純粋な強い正義感を持っている方だと思っていました。一生懸命脱出に向けて私達を導いてくれている姿を見れば、ロクさんを疑うような人はいないと思います。ただ、ロクさんには影が一つ見当たるんです」
「影……?」
「私にもよく分かりません。三つの未来へ向かう道のうち、一つだけは間違った道であるという雰囲気です。他の一つは明るいですが途中ではっきりと途切れてしまっていて、残りの一つは不鮮明なので先がよく見えません……。それが少し気になったので、ルト様もロクさんへの尋問を提案したのだと思います。悪く思ってしまったら本当に申し訳ないです」
……三つの未来?
占い師が言うことはよく分からんな。
未来はいつだって一つだと思っているんだが、どこかで人生を左右するような重要な三択が出現するということだろうか?
そのうちの一つは明らかにヤバそうな選択肢だと……。
「え、ちょっと気になるんで、もし良かったら詳しく教えてもらってもいいでしょうか?」
「すみません。私にもよくわからないんです。今までこんな分岐したような未来を人の中に見たのは初めてのことなんです。それに、まだ少し先の未来のようなので……。占い師に気にしないでと言われても中々難しいことかもしれませんが、お気になさらないで下さい。ロクさんは自分の明るい道をしっかりと自分の手で掴み取れる方だと、私はそう思っていますので!」
「……そうは言われても、気になっちゃいますよね」
三つの道というのも良くわからない。
二つに分岐する訳ではないんだな。
三つの道ねぇ……。
リエルルート、ニーナルート、まさかのトルネルートとか、そんなんじゃないだろうな。
まぁ、ウェリアさんも気にするなと言ってることだし、考えても結論が出てこないことなんで放っておくしかないか。
そう思ってもう今の占いのことについては考えないことにする。
ウェリアさんは続いてリエルにも同じ質問をして、最後に「ロクさんのことはお好きですか?」という質問を投げていた。
今までほとんどイエスノー形式で首を縦に振ったり横に振ったりするだけで、言葉に出して返答することなんてなかったリエルなんだが、その質問だけは「うん」と、言葉を付けて返して下さいました。
ありがとう、リエル。
それは今のところ友情的な意味合いで、一緒に外に出ようとしている同志としてリエルに認められたと受け取っておくよ。
そうしないと俺……。
「リエルさんは素直な方なんですね。もちろん、リエルさんも嘘はついていませんでした。最初からこのことがわかっていれば……本当にごめんなさい」
「そういえば、あのやりとりの中で、明らかに嘘をついている人とか信用できる人っていうのは分からなかったのですか?」
「ロクさんもコスターさんも、自分なりの正義を持って接していらっしゃるようでした。お二人共意見の違いはありますが、己の正義を真っ直ぐにぶつけているように、私には見えました」
「クルフの証言……グレハードさんの件の時、リエルらしき人を見たという証言は信用できそうですか?」
「……分かりません。あまり滅多なことは言えませんが、あの方は嘘をついているかもしれないと私は思いました。リエルさんはグレハードさんの件に関与していないと、今は私の中では確信を持って言えることです。そういうのもあって、今ではあまり良いイメージを持てていません……」
「その証言を最初に聞いた時の印象がそれなんですよね? ルトヴェンドさんにはそのことを伝えなかったんですか?」
「伝えませんでした。確信を持って言えることではありませんでしたので……。その時に私が何か言っていれば……本当にお二人には申し訳ないことをしてしまいました」
「ウェリアをどうか責めないでやってくれ。彼女もこういう立場である以上、その予感が外れてしまった時のリスクは非常に大きい。分かっていることでも、彼女は慎重に慎重を重ねて、言葉に出さない事も多いんだ」
「あ、いえ、すいません! 結果的にこうして助かっているので全然気にしないで下さい。でも、そうならクルフには本当に気をつけて下さいね。俺達はここにいるので安全と言えば安全ですが、クルフでないにしろみんなの中に犯人がまだいるのは明らかなので、そのことを言ってしまった以上、ウェリアさんは危険な状況にあると言っていいです。どうか、細心の注意を払って下さい」
「お気遣い有難うございます。ロクさんも色々と頑張って下さいね!」
「え?」
ウェリアさんはそう俺に告げてからルトヴェンドさんと二人で俺達にお礼を言って、この部屋から出て行ってしまった。
その顔が何か含み笑いをしているような顔だったので、何を言わんとしているのかは何となく想像がついた。
「…………」
「……私が犯人じゃないって分かってくれた」
「……そうだな」
二人になった途端、今まで散々言葉を発しなかったリエルが急に言葉を発した。
そのリエルの表情が少し嬉そうだ。
これ、当分リエルと二人きりなんだよな……。
ジェイにもウェリアさんにも、果てには本人からも俺を動揺させるような言葉をいろいろ浴びせられたので、なんかこのまま何の感情も抱くことなくこの空間を乗り切るのは難しい気がしてきたぞ……。
よし、ここはリエルのことをウルーニだと思おう。
ウルーニというのは俺と同じ拠点で活動する同業の傭兵のことで、俺が大嫌いな女だ。
ブッサイクの癖に自分の事を可愛いと思っている節が有って、本当に一言一言うっとおしいんだよな。
コスターさんよりもうっとおしいし、コスターさんよりも嫌いだ。
よし、今からリエルはウルーニだ!
そう思ってリエルを見たんだが、少しうるうるした上目遣いで微かに微笑んでいるの姿が本当に愛らしかった。
「ファーッキン!!! そんな訳ねぇだろふっざけんな!!」
「?」
「何一つ共通点ねぇよ何一つ!! 馬鹿じゃねぇの!! 死ね!! 俺死ね!!」
そして勝手にキレた。
もういい。
「俺、疲れたから少し寝ていいか?」
「うん。私は起きてる。誰か来たら起こす……」
「あぁ、頼む」
これ以上色々考えたら深目にハマってしまいそうだったので、俺はあえてそれ以外のことを考えながらその場に横になって寝る体勢に入る。
色んな人と話したが、やっぱりクルフの言動も気になるし、ウェリアさんの身の安全も気になる。
これからみんなはどうして行くんだろうか。
次に事件が起こるとしたらここではなく、間違いなく今みんながいる場所だ。
俺はそれを何とか起こさせないように、何とか早く潔白を証明してここから出なくては行けない。
何も起こらず、みんな無事に過ごして欲しいと思いながら眠りに落ちていった。
―― 6日目 2回目食事前 ――
俺が目を覚ましたのは食事時だった。
リエルに体を揺さぶられて目が覚めると、美味しそうな匂いがした。
体を起こすとニーナが俺達の前に料理を並べてくれていた。
ジェイもニーナの付き添いとしてここにやってきていた。
「おはようございます、料理できましたので召し上がって下さい」
「お、ありがと! いつも任せっきりですまんな。ここを無事に出ることができたら食事当番ちゃんと手伝わないとな……」
「いやぁ、そのことなんだけどさぁ、ロク、お前何かリエルちゃんの潔白を証明できたりしない? 潔白って、もちろん結晶犯のことね。何か雲行きが怪しいんだけど……」
「え!?」
ジェイは料理を並べるのを手伝いながらも、少し怪訝そうな顔でそう話してくる。
どういうことかと聞いてはみるんだが、要はめんどくさいから疑わしい奴から殺していこうなんて話もまた懲りずに出ていてて、その筆頭候補がリエルなんだとか。
俺があれだけ否定したにも関わらず、懲りずにまだそれを提案しているようで、コスターさんとクルフが中心となって話を展開しているらしい。
ジェイもその話を小耳に挟んだ程度で、全体でその話が出されたわけではないので正式に反論はしていないようだが、これから行われる食事会議の時にまずそれを話されることは間違いないので、どうにかリエルの潔白を証明する手段を教えて欲しいと、そういうことだった。
「何一つ懲りてねぇんだなあの人達は……」
危うく犯人はクルフ臭いと言いそうになったのだが、これは今のところルトヴェンドさんとウェリアさんだけに話している内容だ。
ジェイに話した所でその秘密が漏れていらん不協和音が生まれるなんてことはないと思うけれども、ジェイはクルフとも仲が良いし、軽々しく口に出す事ではないと思って自重した。
「まぁ、でも俺はあんまり心配していない。なんてったって、ジェイがいるからな!」
「俺かよ!」
「もちろん、あの二人の暴走を今度は俺に代わってジェイが止めてくれるんだろ?」
「ん~……。まぁ、やるしかあるめぇな。じゃあ男ジェイ=クロニトス、ここは命はって、リエルちゃんの謀殺を止めることが出来なかったら俺が先に死んでやることを宣言しておくよ。そしたらリエルちゃん、俺の事も見なおしてくれよな?」
「…………」
「それでも見なおしてくれねぇのかよ!!」
「いやいや、無理するなって。でも、多分大丈夫だ。俺の所にコスターさんとサバトさん、ルトヴェンドさんとウェリアさんも来たけれども、みんな部屋に入るなり、お前と同じ理由で頭下げてくれたよ。それだけ味方がいるんだ、誰かがその流れを止めてくれると信じてるよ。その為にもニーナ、少しは自分の正義を表に出したっていいんだぞ?」
「は、はい! 頑張ります!!」
「あれ、リエルちゃんは俺のこと無視……?」
「……無視はしない。頑張って欲しい」
そんな会話をしながら、早速床に並べられた料理に手をつけ始める。
二人は早く戻って食事前会議に出ないと行けないような空気だったのだが、どうしてもこれから行われる会議のことが不安なようで、俺に何か案がないか聞いてきた。
正直言ってしまえば、リエルが魔核結晶に触れていないということを、何かの証拠を持って証明するのは恐らく無理だ。
だから、そうではなくて『殺す』という行為をやめさせるような違うアプローチで攻めていくしかないんじゃないかと、二人にアドバイスを送ったのだが、二人共全然いい顔はしなかった。
結局早く行かないと怪しまれそうだとか言って、二人は時期にこの処刑場から出て行ったのだが、出て行く時の二人共顔は晴れていなかったし、緊張しているような感じだった。
リエルの為ということではあるんだが、是非とも自分を信じて戦ってきて欲しい。
リエルが犯人である確率が高いという訳ではないことを散々説明したし、また自分だけは安全だなんていう策を取るつもりなのかと責める武器も手渡した。
多分この言葉にサバトさんなら反応してくれそうだしな。
正義感が強いって話なんで、そんな卑怯なことは賛成しないだろう。
現にサバトさんが俺達をあの場から守ってくれたようなものだしな。
加えて、まずはグレハードさんの件について、犯人の動機と殺人の手法から解明していくのはどうかという提案も、ジェイにはしておいた。
魔核結晶に触れた犯人よりかは探す難易度は下がるので、そっちの方が攻めやすいだろうと思ってだ。
もちろん、クルフの怪しい証言にだけは惑わされないで欲しいとも付け加えておいた。
それでも二人はかなり不安な様子だが、俺はさっき言った通りあまり心配していない。
俺が寝ている間にトルネもこの部屋にやってきたということもリエルから聞いたので、実質確定している味方はサバトさんコーラスさんジェイニーナ、ルトヴェンドさんにウェリアさんとトルネの六人。
あの場にいるのは俺とリエルを除けば十二人だ。
多数決で負けることはないし、その六人全員が今の時点でリエルを殺すことを許容するとは絶対に思えない。
コスターさんやクルフがどんなうまいこと言ってみんなを黙らせたとしても、それを受け入れてジェイ達が殺しに来る図が想像できない。
だから、俺は安心している。
リエルは不安そうではあったが、俺が大丈夫だと言うとそれを完全に信用してくれたようで、彼女から不安そうな表情は一切消え失せた。
二人でニーナの料理はうまいね~なんて言いながら料理を食べ進めていると、凄い勢いでジェイがこの部屋にすっ飛んできた。
部屋を出てから時間は経っていたのだが、早すぎるジェイの戻りに少し驚く。
また、戻ってくるジェイの勢いが尋常じゃなかったので少し嫌な予感がしつつも、ジェイの言葉を待つ。
するとジェイは真っ青な顔して俺達にこう告げたのだった。
「スレバラさんとウェリアさんが……死んだ……こ、殺された!!」




