The Wedge Behind Walkers ~暁光のリリア~ 前章①
The Wedge Behind Walkers には、以下の要素が含まれます。
1.物語の描写上、一部暴力的な表現があります。
2.物語の描写上、一部差別的な表現があります。
3.物語の都合上、用語や地理的内容、勢力関係及び人物の関係などが読み取りにくいことがあります。あらかじめ硬派な内容であることをご了承ください。
以上について苦手な方は、ご注意ください。
魅惑の星ティファシ―の大陸、その北東部に位置する氷雪地帯の軍事国家インファンスは、長い間その歴史を隠している。そして今かつてない岐路に立たされている。国内で起こる氷蝕罹患者への弾圧、王家を陥れる強硬派の貴族、神の復活を渇望する信仰者たち。陰謀と策略はインファンス国家そのものを揺らがしている。これは隠された歴史の代価なのか、それとも国家の傲慢なのか。
I.N.387 2/10 a.m.0:30 location 王家管轄鉱区ウェル湖
繰り返される放送:
「これから夜間業務を開始します。従業員は規定に従い、持ち場についてください」
王都西部に広がるウェル湖では、その湖底から魔蝕石油が取れることが判明している。魔蝕石油は近代から現代にかけて重量な資源であり、国内では暖を取る燃料になり、船を動かし、加工すればあらゆる素材に使える。国外でもその需要は高く、輸入品としても期待されている。
氷蝕罹患者の多くが国家を経由し、この湖で働いている。
不思議に思う鉱員:
「なぁ、なんで王家管轄のこの鉱区だけは夜も運営してんだ? 魔蝕石油が足らないってわけでもないだろ。」
気だるげな鉱員:
「さぁな、俺たち罹患者は働く場所があるだけで十分ありがたい。昼か夜か、そんなに重要か?」
不思議に思う鉱員:
「そうじゃねぇよ。たしかにありがたいけどよ、昼と夜とではやってる作業もまるで違うじゃないか……、それに夜間業務なんて他貴族でさえやってないだろ?」
気だるげな鉱員:
「当然だ、やってるわけないだろう。法に違反する。国家管轄のこの地区はその特例とかいうもので、対応が違うようだがな」
不思議に思う鉱員:
「……つまり、ここだけが特別なんだよな、そう思うとなんだか妙に感じないか?」
気だるげな鉱員:
「どうだっていいさ。金がもらえて寝るとこがあって、凍え死ぬ心配がない。これさえ揃っていれば、もうなんだっていい」
不思議に思う鉱員:
「詰まんねぇな、ちょっとぐらい乗ってくれてもいいだろ?」
気だるげな鉱員:
「……おい、監督者が来ている。さぼりたいのもわかるがいい加減仕事を始めるぞ」
不思議に思う鉱員:
「はいよ」
鉱員たちは作業用の船に乗ると作業服に取り付けられたフックにワイヤーをかけた。風は冷たく手には分厚い手袋を、目にはゴーグルをつけている。
船は湖の真ん中まで向かい、そこでホースを湖に入れ、吸引を始めた。船内のタンクが満ちれば係留所に戻り、備え付けられた巨大タンクに移し、これを繰り返す。これが彼らの今の仕事だ。
不思議に思う鉱員:
「俺らが採ってんのは、本当に石油の類なのかな、おい、お前もちょっとは考えろよ。これはどう見たって液体じゃないし、そもそも見えてもないけどさ」
気だるげな鉱員:
「自分で言っておかしいと思わないのか? 見えないのに考えたって仕方がない。そうだろ? それに、真相がわかったところで俺たちに何ができるっていうんだ? 何も考えずに、言われたことやれよ。それだけで、平穏に死ねるんだ」
不思議に思う鉱員:
「平穏に死ねるか……、いつから俺たち、死ぬことばっか考えるようになったんだろうな? 今も街じゃ、俺らの知らないところで同胞が……」
気だるげな鉱員:
「ちょっとは黙ってくれ、あいつらはあいつらの道を選んだんだろ? 国家に歯向かったところで死に急ぐだけだと思うけどな。あいつらの人生だ。知ったことか」
不思議に思う鉱員:
「だけど、お前の娘は、レジスタンスに行ったんだろ……? あっ、すまない、無神経だったな」
気だるげな鉱員:
「いいさ。今思い返せば、ずいぶん経ったものだな。あの時のテロだって、俺たちは鉱区にいたから追放されず済んだだけだ。きっと同じ場所にいれば、結末は一緒だっただろう」
不思議に思う鉱員:
「いつか、また家族に会えたらいいな。あれだぞ、からかってるんじゃない。本当に願ってんだよ、お前のために」
気だるげな鉱員:
「願うか……、願うばかりなら、俺たちもあの信者どもと一緒かもな……それも違うか。少なくとも俺たちは、神なんて信じちゃいない。神がいるなら、いや、こんな不幸を与える神ならいらないってもんだ」
不思議に思う鉱員:
「お前声がでかいぞ! 俺たちのいるここは信仰国家だって忘れたのか?」
気だるげな鉱員:
「……そうだったな。今のはなかったことにしてもらおう。神様だろ、これぐらい寛容なその心で許してくださるさ」
不思議に思う鉱員:
「罰当たりな奴だな。天罰に巻き込まれるのは御免だぜ」
氷蝕罹患者のその男は、気だるげなその男の肩を叩いた。いつかいつかを願うばかりの日々だが、彼らはそれでもよかった。願っていられることがどこか心の救いでもあった。
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【医療資料】氷蝕罹患者
氷蝕とは、この世界に存在する魔蝕の一形態。冷気を帯びており、氷属と呼ばれる魔蝕作用を起こす。
人体に罹患すると、罹患部を中心に温度が低下し、最終的に結晶化、または臓器の凍傷によって死に至る。
作成者:インファンス王都医療センター
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I.N.387 2/10 a.m.0:53 location ファクダン家邸宅
アーマシー・ファクダン:
「それで、ウェル湖の調べはついたのか?」
ファクダン家の使用人:
「はい、ご主人様。ウェル湖は現在時刻でも鉱業の運営がされています。具体的な作業の中身までは判断できませんが、王家の鉱区特例も考慮すれば、なんらかの特別な事情があると推察されます。規模は70人ほどと推定されており、そのほとんどが氷蝕罹患者であると思われます。国議会で宣言していたように、罹患者の社会的地位向上のためかと思われます」
アーマシー:
「そうか、ご苦労」
アーマシーは赤く高級感のある椅子のそのひじ掛けに肘をつき、顎をさすった。彼を当主とするファクダン家はかつての戦争復興にあたって大きく貢献したとされ、王に認められた五家の一つであった。しかしファクダン家は臣忠貴族とも呼ばれる五家でありながら、その影響力を失いつつあった。
アーマシー:
「貴族に禁止を言っておいて、まさかただ鉱業が必要なんてことがあるか、鉱区で最も氷蝕のひどい奴を選べ、今日の朝にはそいつを送り、明日には何をしているか暴いてやろう」
ファクダン家の使用人:
「はい。こちらの方で何名か選出しておきます。ご主人様もお休みになってください。夜も深いですから」
アーマシー:
「そうしたいところだが、現状我が国のその基盤は揺れつつある、早いうちから有力な貴族とのつながりを強くしておくべきだろう。一筆手紙を書いてからにしよう。下がってよい」
ファクダン家の使用人:
「かしこまりました。ご主人様」
I.N.387 2/10 a.m.7:32 location ロイヤル・インファンス郊外
怒る国民:
「罹患者か、最近の国内はこういった害悪がずいぶん増えたものだ。なに突っ立てる! さっさと消えろ!」
氷蝕罹患者の男:
「……俺たちが何をしたっていうんだ。懸命に生きているだけだというのに、氷蝕に罹患した瞬間から、生きることさえ許されないのか」
怒る国民:
「口答えだと、身の程を知れ! *****が!」
その国民はその氷蝕罹患者が連れている子供に石を投げつける。子供にそれを躱す余力はとうに尽きていた。極寒のインファンスにおいて、その夜を外で過ごしたのだ、指先は紫に染まり、口元は言葉さえうまく言えないほど震えている。
氷蝕罹患者の子供:
「やめ、て……い……たい」
氷蝕罹患者の男:
「お前! 何てことしやがる、*****やろう!」
怒り狂った罹患者の男は止まらぬ勢いのままその男を殴った。そして殴られ、二人は取っ組み合いになった。人々が集まりそこに輪ができる。街灯が彼らを照らしている。
――しばらくして、その輪は静まり返った。
氷蝕罹患者の男:
「クソが……」
レンガ張りの道の上に、吐血が散った。服は乱れ、腫れた顔から涙が落ちる。しかし、その男は罹患者の上に乗り、その拳を叩きつけようとしている。
怒る国民:
「お前たちがいけないのだ。この不純物どもが! インファンスの栄光が失われつつあるのは氷蝕に罹患したお前たちが、俺らの暮らしを脅かすからでもある! だから当然だ。鉄槌が下りないのが不思議なくらいだ、そうだ、俺は間違っていない!」
ローブを被った女性:
「もういいだろ! 彼は倒れた、これ以上なにかする必要があるか!」
怒る国民:
「*****! いいか、罹患者が死ねばインファンスはこれ以上ない栄光を取り戻せる! ラクトレインの反逆者どもが……! その見た目……お前さては、レジスタンスか! この売国奴ども、何しに来た!」
ローブを被った女性:
「……その男と子供をこっちに渡せ、レジスタンスだとわかっているなら、俺たちがどういうやつらかは知ってるはずだろ?」
レジスタンスという言葉を聞いた周囲の人々は、罵詈雑言を彼女に浴びせながら散って言った。ついには馬乗りになっていた男も、唾を吐いてそそくさと立ち去った。街灯の明かりが彼女に陰を作り、その陰が、倒れこんだ男を包んでいた。
氷蝕罹患者の子供:
「お姉ちゃん……お父さんが死んじゃうよ、いやだよ。どうしてこんな目に合わないといけないの? 僕たちは必死に夜を超えたのに、朝日さえ見てはいけないの?」
ローブを被った女性:
「この腐った故郷に残りたいか?」
氷蝕罹患者の子供:
「いやだよ、ここは僕たちの家じゃないもの、寂しいけど、この街は僕がいなくなった方がいいっていうから」
ローブを被った女性:
「そうだな。お父さんは好きか?」
氷蝕罹患者の子供:
「うん」
ローブを被った女性は倒れこんだその男を肩に担ぐと、子供の手をつなぎ、街から去っていった。
しばらく歩き続けた。王都を抜け、山道に入り雪のかかった林に囲まれた道を通り、ついに洞窟の入口にたどり着いた。
ローブを被った女性:
「はぁ、はぁ……よく頑張ったな、ついたぞ。ここがレジスタンスキャンプ、お前たちのもう一つの家だ」
I.N.387 2/10 a.m.11:18 location レジスタンスキャンプ
洞窟の中は想像以上に暖かい。かつての鉱区だったこの洞窟は、レジスタンスの人々によって拡張され、今になっては、数百人は入る余裕がある。
赤髪をしたレジスタンスの一員:
「フェルディア。遅かったな、その人は?」
フェルディア:
「ああすまない、アサナ。傷薬を用意してくれ、街でジェンと話した帰りに見つけた。子供を連れていて、両方ともすごく体が冷えてしまっている。随分とやられたみたいだ」
アサナ:
「街の偵察じゃなかったのか? またジェンと話したって? 言論派といくら語ったところで、埒が明かないだろうに」
フェルディア:
「そういうな……ほら、お父さんは大丈夫だよ、この男の人についていって、焚火を熾してあるから、すぐに温まるよ」
氷蝕罹患者の子供:
「ありがとう。フェルディアお姉ちゃん」
フェルディア:
「どういたしまして」
アサナは子供の父を肩に担いで、その子供に手招きをした。アサナについて行く子供の背中の後を追いながら、フェルディアは街の出来事を反芻していた。夜中に街へ向かったからか、次第に眠気に誘われ、フェルディアもまた、その子供の横について座ると、夢の中に落ちていった。
I.N.386 1/?? ??? location ロイヤル・インファンス
その冬は寒かった。雪原に位置するインファンスといえど、その冬は体験したことのないほどに、寒かった。丁度魔蝕石油の採掘を貴族に許した時期でもあった。そのころだろうか、氷蝕罹患者が増え、インファンスが言いようのない不安に駆られるようになったのは、罪のない氷蝕罹患者を差別し、迫害し、そうして己を保つようになったのは。
第四属の伝令兵:
「フェルディア閣下。王都郊外で武装したテロリストが、人権回復を謳い集団で反旗を起こしたとの報告です。現状は我が小隊が最も近い位置にあり、リーメン公爵からも、向かうように言われております」
フェルディア:
「またか! どういうことだ? 一つ抑えれば一つ増える。平穏な王都が懐かしいな。わかった、即刻向かうぞ、具体的な場所を教えろ」
第四属の伝令兵:
「閣下。お待ちください、どうやら今度のテロには未知の氷蝕に祟られた化け物が出たと民から聞いています。現在は詳細を調査中ではありますが、慎重に向かうべきかと存じます」
フェルディア:
「未知の化け物だと? そんな話軍でも上がっていない。詳しいこともわからないなら、我らが最初に調査隊にでもなってやろう。お前たち、準備はできているな?」
第四属の小隊は一同に返事をした。一行が王都郊外の目的地に近づくに連れて銃撃の音や、クロスボウの矢の風を切る音、民の叫び声、爆破音などが聞こえてきた。
フェルディア:
「前線を維持する。盾兵は前で構えろ、確実に前進するため、体制を作れ」
偵察兵:
「フェルディア閣下。よくぞ来てくださいました。テロリストは氷蝕罹患者の集団です。どこからか武器を仕入れたようで、戦力は我らには及びませんが、警戒には値するものです」
フェルディア:
「そうか、偵察部隊は第四属の傘下に入れ、今は俺の指示に従ってもらおう」
偵察兵:
「はい、なんなりと、閣下」
吹雪を切り開きながら、第四属は爆発や投射物に怯むことなく前進する。後ろで構えていた銃撃部隊が、狙いをすまし、彼女の力強い声で濃い霧の中を打ち始める。その制圧力は凄まじかった。
フェルディア:
「……なんの光だ、盾兵、構えろ!!」
奥から差し込む光は氷の反射光であった。氷柱のような形状をしたそれは、盾兵の盾に当たり粉砕した、その破片が彼女の肩を裂いた。
第四軍の盾兵:
「閣下。魔蝕術師です……。お怪我は?」
フェルディア:
「俺はいい……それよりカタリストか、氷蝕罹患者の中に、軍人でもいるのか?」
伝令兵:
「聞いておりませんでしたか? どうやら体内の氷蝕を使って、エネルギーを与えているとか、闇雲に進めば、痛い目をみます。閣下ここは、この付近で前線を維持するのも一手かと」
フェルディア:
「いいや。未知の化け物というのも確認したい。それに多少リスクはあるが、カタリストは早めに処理せねばならないだろう。危険因子が目の前にいるのだ。丁度いい」
第四属の盾兵:
「閣下の仰せの通りに、野郎ども、前進するぞ!」
フェルディアは目を凝らし氷蝕のカタリストを探し出す。霧の奥からは白い光が流々と滑らかに舞い上がり、そこから繰り出される鋭い氷柱を盾兵が受けとめた。光の在処を見逃さなかったフェルディアは卓越した身体能力で、盾兵の影から速やかに移動し、握りしめた短刀で、カタリストの首を斬り裂こうとした。
カタリストの少女:
「いやっ! 近づかないで!」
フェルディア:
「逃がすか! 反逆者!」
アサナ:
「モキネート! 後ろに下がれ!!」
フェルディアの短刀に応えるように、一人の青年がカタリストの前衛を務める。どこで拾ったかもわからない剣では、とても軍に歯向かうなど不可能に思えたが、彼には十分のようだ。
フェルディア:
「お前、よく気付いたな、軍人の出か? 氷蝕のカタリストといい、お前と言い、どうやって軍に対抗しているか気になっていたが、まさか単純な実力か? まぁいい、こんなことをいくらしたところで、お前たちの行いなど、罪を積むことにしかならない」
アサナ:
「どうかな? あんたこそ今にわかるさ。たとえ軍人だとしてもこの体のように氷蝕に祟れば、この国じゃ生きていけないって。僕たちは、正義のために戦っているんだ! あんたのように体裁に溺れて盲目になった奴らに、国を変えられるわけがない!」
フェルディア:
「よくいうな、めでたいじゃないか。その正義がこの略奪を加速させているのが、おかしくないと思わないんだろう? ならば本質は売国奴と同じだ。俺たちが取り締まっている犯罪者と何が違う? 大義名分を掲げたところで、鏡に映るのは先導者ではなく、略奪者の顔だけだ」
モキネートと呼ばれた少女:
「あなた……、その肩、速やかに治療を受けないと、罹患しますよ! それに、この寒い冬の中で罹患すれば、きっと生きていけない」
アサナ:
「モキネート……敵の心配をしている余裕なんてあるか! 僕たちは食料を手に入れないと、この冬を超えられないんだ。ここまで念入りに準備してきた。言論派に妨害されても、こうやって耐えているんだ。モキネート、次の攻撃の準備に入って、逃げるよ」
モキネート:
「うん……アサナ」
フェルディアは悪い予感がし、彼女を止めようとしたが、アサナに巧みに妨害される、氷蝕が彼女を纏い、次の瞬間周囲が凍り付いた。
第四属の盾兵:
「フェルディア閣下! 未知の化け物と思われる動く物体を発見したとの連絡が、そして、それらは国民を襲っている模様! 至急援軍に向かうよう、リーメン公爵からの伝言です。ここは後続部隊に任せ、我らが第四属の主力部隊は至急向かいます」
フェルディア:
「そうか……お前たち、次は俺の手で必ず討ち取って見せる……」
レジスタンスの無線から聞こえる声:
「アサナ! 無事か! こっちは無事に任務を完了した。食料は十分に確保できた。陽動部隊も下がっていいぞ、キャンプで合流しよう。おい? アサナ?」
アサナ:
「……聞こえている。すぐに撤退する。キャンプで会おう」
アサナはモキネートを庇うように前に出て、こちらを警戒し続けた。フェルディアと同じ歩幅で、互いを凝視しながら後ずさりし、ついに霧のような、吹雪のようなそれの中に消えていった。その際モキネートはその陰からフェルディアをどこか心配そうな表情で見つめていた。彼女の敵に対して見せることなどありえない慈悲の表情は、フェルディアの心にまとわりつき、ついに忘れることはできなかった。
I.N.386 ?/?? ??? location インファンス郊外 国軍第四属停留所
フェルディア:
「違うんだ……これは、決して俺は氷蝕に祟ったわけじゃない!」
第四属の盾兵:
「まさか、軍の指揮官が氷蝕に祟っていたとはな。こんな話があるか、それならあんたはレジスタンスと同士討ちしてたってわけだ」
第四属の兵士:
「閣下。そんなまさか、リーメン公爵はご存じでしょうか? これは、重要な問題です。あのガンザルバス家は見つけた罹患者は軍人も関係なく処罰の対象だと」
フェルディア:
「違う! それに、いままでともに戦ってきたじゃないか、それは本当で、それこそが忠誠じゃないか! どうして氷蝕一つでその事実さえ歪めてしまうんだ!」
第四属の盾兵:
「俺たちは罹患者から街を守るために戦ってるんだ! 罹患者のいう事なら聞く義理なんてないだろう。それに、フェルディア、お前はあのとき罹患者のレジスタンスを見逃したという噂もあったんだぞ! それが今となってはお前も罹患者……どうやら噂ではなかったようだな」
フェルディア:
「なんだと、あれは未知の化け物から民を救うためで……」
第四属の兵士:
「だが、結局その化け物だって見つかっていないじゃないか……やはりそういう口実だな。自分だけ生き延びようと必死なだけさ」
フェルディア:
「*****が!! お前たち本気で言っているのか!」
第四属の盾兵:
「そうさ! 罹患者がこの国を崩した張本人だからだ! 今この国で罹患者の味方をするなんて馬鹿見るだけだ。いますぐ、罹患者の隔離区域にでも行って、*****しまえ!」
フェルディアにはとても信じられなかった。あの時の彼らは何だったのか。フェルディアの息が荒くなる、建物の屋根にできた氷柱に自分の顔が写る。ひどい顔色をしている。
フェルディア:
(違う……これは悪い夢だ。心が痛いのも気のせいで、いま俺は、酔っているんだ。この過去を超えようと……だから、きっと次に目を覚ますころには、全部終わっているはずなんだ)
フェルディアは深く息を吸い、そして強い吹雪の中で目を開いた。その暴風は彼女を押しのけ、その降り積もった雪は彼女の感覚を奪った。風を裂くような音と共に、彼女の腹に矢が刺さる。
フェルディア:
「ああっ! *****!! レジスタンスめ! 根絶やしにしてやる! 俺は、俺は正義のために戦っているんだ。そうじゃないと、こんなに苦しい、苦しいんだ……!」
そこは軍人としての彼女の最後の戦場だった。フェルディアの罹患が公になり、それでも彼女は屈しなかった。しかし、第四属を管轄する臣忠貴族のロストワン家も、見て見ぬふりを貫くことはできなかった。そうして彼女は前線に立ち続けた。最も激戦区の、レジスタンス拠点の付近、氷山の中だった。彼女は一人だった、皆、彼女から離れていった。
ついに彼女は歩く理由さえ失った。誰も探そうとはしない。一人山の中で、そこが死に場所にふさわしいとも思えた。
フェルディア:
(これは悪い夢なんだ……手が震えて、こんなに苦しいなら、もうここで……そうだ、全部あいつらが悪いんだ。俺をさんざんに使っておいて、罹患した途端にゴミのように扱って、全部国が悪いんだ。そうじゃないと、まるで俺が……弱者なだけじゃないか)
手が雪を強く握る。しかし冷たくはなく、紫色の指が震えるだけだった。彼女は痛みが欲しかった。自分が生きていると教えてくれるような、この孤独を醒ますような、そんな痛みが必要だった。それが、彼女に唯一火を灯せる、彼女の心が求める温もりだった。
フェルディア:
「――見つけた! お前かぁあ! これで、終わらせてやる!!」
レジスタンスの一員:
「こっちのセリフだ! この……お前……罹患者なのか!」
フェルディア:
「違う違う違う違う!! 俺は祟りになんて屈しない! 俺は罹患者なんかじゃない! 俺は誇り高いインファンス国軍第四属の軍人……フェルディアなんだぁ!!」
赤髪をしたレジスタンスの一員:
「君はさがっていろ……! 僕が引き受ける……あんたは、あのときの、そんな体までなって、彼を殺したところで、無事に山から下りれるとは思えない。どうして立ち続けている?」
レジスタンスの一員:
「アサナ、それにこの暖かさ……モキネートまでいるのか、よかった。アサナ、あいつも罹患している、肩だ!」
アサナ:
「あんた、これ以上戦ったって意味はない! もう引き返せ、僕たちを追いかけても、死ぬだけだ」
フェルディア:
「引き返す……? どこに行ったって、この氷蝕が俺を陥れる……それでも俺はなんだってできる! ここでお前たちを殺せば、みんなに認めてもらえる! そうだ、だから、たとえ凍え死のうとも、まだ引き返すわけにはいかないんだ!」
アサナ:
「そんなのただの自己暗示だ。あんたはあの時指揮官だったはずだ。それなのに認めてもらえるだって? 自らが勝ち取った信頼じゃないのか?」
フェルディア:
「黙れ黙れえええ! お前たちに何がわかる! どうしてこんなに痛いんだ! 冷たいんだ! この風は、俺を一人にするんだ……」
アサナ:
「モキネート……彼女は罹患してからどれくらいたっているんだろうか? わかるか?」
モキネート:
「はい……少なくてももう1か月は経っていると思います。それに、この寒さの中で氷蝕の舞う戦場に居続ければ、悪化して当然です! すぐに治療を受けないと、本当に凍えてしまう」
アサナ:
「もうやめよう……、君も生きていたいから、こうやって戦っているんだろう? 帰る場所が欲しいなら、レジスタンスがある」
フェルディア:
「断る! この俺がレジスタンスだなんて、国家に逆らうなんてこと、軍人としてあってはいけない!」
アサナ:
「だが、君は軍人として扱われているとは思えない。幸い君が強いから生き延びてるだけだ。使い捨ての駒になってまだわからないのか! この国は、真の意味で罹患者を許すことはないんだ!」
フェルディア:
(そうだ……あのときも俺はずっと……けれど、何も得られなかったんだ、そしてたしか……このまま眠りについてしまったんだ。次こそ……目を覚ませば暖かい家に帰れるはずだ……そうでないと、凍え死んでしまうから)
氷蝕罹患者の子供:
「あ! 起きたよ、アサナお兄ちゃん……ねぇ大丈夫? ずっと寝てたよ。もうずっと……まだ昼だったのに、すっかり夜中、はぁ、僕も眠くなっちゃうよ」
アサナ:
「――大丈夫さ、もう眠りなさい……」
アサナは子供を寝かしつけると、フェルディアを火の傍によるように促した。
アサナ:
「すごい汗だ。フェルディア、またあの夢を見ていたのか? もう昔のことだ、気にしなくていいとあれだけ言ったじゃないか? もちろん、責めてるわけじゃない、けど心配だ」
フェルディア:
「すまない。また、心配をかけてしまったな……あれから罪を償ってきたつもりだった。けれど、やはり自分は貴族や軍人という枷に引きずられていたと思うと、どうしても忘れることはできない」
アサナ:
「忘れる必要はないんだと思う。僕たちだって、生きるために罪を犯している。ただ、行きつく先に、なにかいい未来があると信じて……。レジスタンスは君によって変えられた。これからも、君と共にあるだろう。きっと君の力がまた必要になる、その時も僕たちは君について行くよ」
フェルディア:
「ああ……そうだな。ありがとう、アサナ」
フェルディアは立ち上がり、星空を見に洞窟の入口まで向かった。アサナは心配そうについてくる。かつて彼女がこの洞窟に初めて来たときも、同じようにアサナに心配され、二人で星を見たのだった。
初めまして、アヤタカナデです。初投稿につき至らぬ点はご容赦ください。長いとか読みにくいとかは……まぁ許してちょうだい




