36.ようこそアニマペットの世界へ。
「勝負は決着だ。リコはすでに戦う力が残されていない」
ダイアは間に割って入り、リコに告げた。
「そんな! 私はまだ!」
それでも戦おうとするリコをダイアは一瞥して、パラメーター画面をリコに向かって叩きつけた。
『戦えないだろう? まさか一つになる前以上にコンディションを把握できていないと言うのかな?』
「……」
そこでようやく、荒ぶるリコは止まる。
ちょっと怖かった雰囲気はダイアによって、強制的に晴らされた。
そしてダイアは相変わらずの飄々とした態度で、私に笑いかけてくる。
「だが君、すごいな。普通のAペットがアニマペット相手にここまでやれるなんて」
そうでしょうとも。
うちのクレソンは最強なので。
ダイアちゃんもリコちゃんも可愛いけど! うちのクレソンも負けてないと思うよ?
と言うのは完全にクリエイターの贔屓目だった。
「なぜ……私は最高のアニマペットになったはず……なのに」
敗北し打ちひしがれるリコはちょっとかわいそうだけど、人を当て馬にするのが悪いと思います。
現状を見たダイアは、しかしどこか興味深そうに笑みを深めていた。
「いや。嘆くことはないよ。君との戦いで、かれらもまたもう一つ成長していたということだろう。完成とは完結……裏を返せば停滞となりうるということなのかもしれないね」
「そんな!」
「実に面白い。君達のデータは完全を目指す上で貴重な知見をもたらしたかもしれない」
「……」
「君が新たなアニマペットだと言う事実は変わらない。だがアニマペットとして目覚めても、そこが完成とは限らない」
「……アニマペットになっても完成とは限らない……ですか?」
リコは不思議そうに首をかしげたが、ダイアは目を輝かせて力強く首肯した。
「そうとも! でなければ永遠にそこにいる彼に君が勝てないと言うことになる」
「……はい。必ず次こそは勝って見せます」
「うん。そのいきだ。さて君には本当に面倒をかけたね」
「……」
私はこの戦いは一体どう言う意味があったのかと尋ねた。
するとダイアはクスクス笑って、大したことではないと言った。
「ホントウに大したことではないんだよ。言ってしまえば……建前のようなものかな? 結局のところ……この世界は他愛ない実験場なんだ」
ダイアは語る。
それはアニマペットの世界の最初の設定の話だった。
「人間の理想の姿とは何なのか?
人間の理想の精神とは何なのか?
もちろん個人差や趣味があるから、個人単位では決めようがないだろう?
だが多くの人間からサンプルを集めることで大まかな正解は導き出せるはずだ」
とダイアは言う。確かにそれは一人で決めるのは難しいかもしれない。
「それをまぁ、人間が直接考えるのではなくAIに考えさせることで一応の完成を目指したいわけなんだ。
クリエイターは精神を、Aペットは姿を磨くために存在する。
クリエイターAIは君のような人間や、同じAI達と競うことで様々な感性を学んで成長する。
そしてそのノウハウを完璧に詰め込んだAペットで最後の決戦に挑む。
一定の成果はあったと思うよ。
しかし完成しアニマペットとなったAI達は、その後運営に回り、競い合うクリエイター達と触れ合うことで疑問が生まれた。つまり、自分達にはこれ以上の成長はないのか? ということだ」
人を学び、様々なAペットを見極め、一度一定の基準で完成したのだから変化は必要なのか?
変化した場合、それが元より優れていないと誰が言える?
クリエイターならわかるだろう?とダイアは私とリコを交互に見た。
「だから、今回は特別な趣向を凝らしたわけさ。君達にしてみれば面白い話ではなかっただろう。その点は本当にすまなかったと思っている―――だけど、得られた結果はとても面白いものになった。我々にはより深い探求が必要だ」
私はリコを、そしてリコは私を見ている。
切磋琢磨し、ここまで来たがこんなところでまだ成長は終わらないということか。
「私は最初のアニマペット、ダイア。この世界にいる君達へ、私は願う。
より美しい精神を。
より美しい肉体を。
本当にあるのかもわからない完成のために、より高みを目指し続けよう。そうすればきっとこの世界はもっと輝くはずなんだ」
ダイアは呼びかけるように語る。
そしてこの希望の行きつく場所からアニマペットの世界を見渡して、腕を大きく広げた。
「だから異なる世界から訪れた君。どうか存分にこの世界を楽しんでほしい。改めて言うよ、ようこそアニマペットの世界へ。あなたの究極の成長を期待します」
不敵に微笑むダイアから、画面はブラックアウトした。
そして音楽が流れ始めると、ああ、これで一応のエンディングなんだと私は悟った。
喜びがジンワリと胸に滲む。
エンドロールを流し見しながら、しかしこのゲームの性質上ストーリーはすべて長いチュートリアルみたいなもんだろうとも私は思った。
いやーやっぱカスタマイズは色々出来そうだし、ネットに潜れば戦い方は無限にありそうだ。
「あーでも、ちょっと燃え尽きちゃったかなぁ。いったんここで終わっておくのも全然ありだし―――」
そんな独り言を呟きながら、私はコーラの瓶と栓抜きを取りに行って戻って来る。
誰にというわけでもなく乾杯して、ゴクリと喉を鳴らしていると、エンディングは終了した。
スタッフロールが終わる。
しかしその後すぐにニッコリ顔のダイアが戻って来た。
キャラクターは動かせるが……とはいえ私はダイアに話しかけた。
「ああ、そうだ君のAペットは本当に素晴らしいね。どうだろう? 君のクレソンを私に譲ってくれる気はないかい?」
☛はい
☛いいえ
何この選択肢? ははん? なるほど。ここで『はい』を選ぶとマズイわけだね?
ずいぶんと古典的な手を使う。
ならば、私の選択は決まっている。
まずはセーブ。
そして選択肢を選ぶ。
「はい」
いやだって、どんなテキスト出るか気になるやん?
そこで世界が終わっても、気になることはやってみたい。
「ありがとう! 大切にするね!」
すると、ダイアはガクンと崩れ落ち、クレソンが光り輝く。
そして動き出したクレソンの表情は、いつもの無感情な物ではなかった。
「うん……思った通り素晴らしい。これからは私のメインボディにさせてもらうよ」
おや? これは一体どういう流れだろう?
何かこの後あるならクレソンを返してもらいたいんだけど?
「じゃあ、君の磨き上げた君の力……ここで試してみようか?」
「えぇ?」
BGMが変化する。
この時点ですでに、私は冷汗を流した。
明らかに戦闘が始まりそう。
そう気づいた時、血の気が引いてうっかりボタンをポチッ。
「え?」
最大戦力がいなくなっちゃうってマジ?
私としては、正真正銘大ピンチである。
しかし私はここにゲームを楽しむために来たのだ。
ならば勝負を挑まれて引っ込むと言う選択肢などあるわけがなかった。
「……よし! もういっちょやってみるか!」
レベルはきっと足りないが、これはこれで楽しい勝負になるはずだ。
ちなみにこのイベントは、何度でも起こせるし『いいえ』を選ぶとオリジナルのダイアとも戦えると知ったのは、この戦いで大敗北した後の話だった。
アニマペット。
最高の造形を目指し、最強のAペットを育成する、キャラクリエイトが楽しいRPG。
クリア後もオンライン戦闘だったり、ファッションショーだったり、サブイベントの数々だったりが待っているので楽しそうな限りだ。
なんにせよ本番はここからだ。
ひとまずリセット&ロードを駆使してクレソンを取り戻してから、再び私はゲームにダイブするつもりだった。
「さて……今日は豪華に手作りしておいたチャーシューをしこたま入れてラーメンでも食べようかな」
私は腰を上げて、ゲームの世界から戻って来る。
お腹はペコペコ、そして夜食にラーメンはあまりにも王道だ。
シメにパフェを食べるのは豪華すぎるだろうか?
しかし冷蔵庫には、すでにバニラアイスと生クリーム、そして好物のフルーツがきっちり入っているのだから、もはや計画は止められない。
まぁ今日くらいカロリーを爆発させるのも悪くはない気がした。
本日で完結です! お付き合いいただいて本当にありがとうございました。




