自己紹介
牧田「はい、それでは1限目はみんな知っていると思うけど自己紹介です。面倒と思う人もいるかも知れないけど、これから2年間一緒にやってく仲間なのでスタートとしてやりましょう。」
チャイムが鳴り終わったと同時に入ってきた牧田先生は、先程とは違いハキハキしていた。
人ってこんなにコロコロと変わるものだろうか??
休み時間の10分で何があったのだろうか??
教室内のみんなは先生の言葉よりも、その変化に気がいってしまっていた。
彼女を変えた張本人以外は…。
「じこしょーかいねー!俺は…」
牧田「それでは出席番号順に…」
゛はい、はーい!゛と手を挙げながら立って自己紹介をしようとしたのと同時に、先生も声を発した。
牧田「あ、ご、ごめんなさい」
「へ?いや、出席番号順だよな!悪い悪い!」
そう言って手を挙げた男は席につく。
゛あ、やっぱり牧田は牧田だ…。゛
全員がそう思った瞬間だった。
あまりに印象が強すぎて、先生の名前は誰もが覚えた。
美愛「え、私1番?音無 美愛。出身クラスは4組ね。2年間宜しく。」
あいうえお順から始まるのに自分が1番だったことに驚く美愛。
そういえば、美月達は席が前で揃っているとは思ったがまさか美愛が1番とは。
驚きながらもスムーズに自己紹介を終える美愛を見て美月とルナは顔を合わせて笑う。
少しキツめの美愛の視線を感じたのは気のせいと信じよう。
海凪「はいはい!私はさっきもみんな見てるとこで言ったけど、風野 海凪でっす!1組出身!みんなと同じクラスになったのもきっと運命かな…そうだよね!!てことでよろしく!!」
早口だがしっかり聞き取れた海凪の自己紹介に周りが゛面白い゛や、゛去年もあんな感じだったw゛など笑いに包まれる。
海凪のおかげで場が和んだ時、澄んだような声が聞こえた。
美晴「…柏 美晴。今年度からこの学校。よろしく。」
淡々と告げ席につく。
その子が喋ったことに、いや…自己紹介だから喋るのは当たり前なのだか。
その子の声に。雰囲気に。全員がのみ込まれていた。
ほんの数秒、美晴が話し終え静寂に包まれた。
ほんとに数秒。
それでも皆、長く感じた。
数秒経った後には…
「あ、やっぱり!見たことないと思ったら2年からかぁ〜」
「やっぱめっちゃ可愛い。声も天使みたい」
などと、様々な声が交わされた。
当の本人は自分のことが話されているのに興味なさげに、肩肘をついて頬杖しながら窓の外を見ている。
(あの子が…美晴……私の…妹)
気難しそうな顔をしながら美晴を見る美月にルナと美愛は首を傾げ、軽く手を振り゛おーい?゛と口パクで呼びかける。
我に返ったかのようにはっとして美月はなんでもないと言い笑顔に戻る。
美月とは長い仲である2人はもちろん、違和感を感じ、2人で顔を合わせ首をかしげた。
牧田「えーっと……次は黒龍さんね。
黒龍 鈴さん。彼女は今日は欠席です。」
「あ、知ってるー。去年クラス同じだったけど殆ど来てないよ。不良ってやつ?」
「あ、私も聞いたことある!外でやばいことしてるとか!」
段々ざわつき始めるみんなに先生がまた困った顔をする。
その表情に気づくとほとんどの人が一斉にさっき音楽で騒ぎを止めた、美晴を見たのだ。
美晴は゛なに?わからない。゛と言うように軽く首を傾げる。
その仕草にさえ目を惹かれてしまうのは何故だろう。
少し気まずい雰囲気をとかすかのようにルナが立った。
ルナ「七瀬ルナでぇーっす!出身クラスは4組っ!ルナは勉強苦手だから専属で教えてくれる人探してまぁす♪」
教室に笑いが起こり、ルナは座る直前にみんなに向けピースをする。
美月「ルナはまじで勉強ダメだもんねーw」
美愛「私達が何度助けたことか…」
2人の小言が周りにも聞こえ、さらに笑いが起こった。
ルナ「ちょっとぉ~!!2人ともひどいよっ!
もうやだぁ~、次行こ次っ!」
顔を真っ赤にし席に着くと美月と美愛はクスクス笑っている。
それから、自己紹介はスムーズに進んだ。
最後もスムーズに進むと思っていたが……。
◇◇◇
太陽「日向 太陽です!みんな気軽に太陽って呼んでな!出身は4組で好きな食べ物はカレーで部活はバスケで……あっ美月は親友なんでよろしくっ!藤田美月ね!」
美月「ちょっ!!私の分も勝手に紹介しないでよっ!…全く。
もう知ってると思うけど藤田美月です。今の馬鹿と出身クラスは同じ。2年間よろしく!仲良くしてね!」
太陽「なっ……馬鹿ってなんだよ!優しい優しい俺が紹介してやったんだからありがたく思えよ!」
美月「思うか馬鹿!!!」
いつ終わるか分からない2人の痴話喧嘩のようなもの。
゛恋愛感情なし゛と聞いたからか周りからの視線に痛いものはなく、面白そうにふたりを見ては笑っていた。
美愛「はいはい2人とも、仲がよろしいのは分かったからそのへんで終わりにしな。」
ルナ「1限目終わっちゃうよぉーw」
美愛とルナに止められ、ようやく二人の世界から戻ってきたかのように一瞬キョトンとし、慌てて席についた。
海凪「ほーんとに2人って仲がいいんだねー!!どちらかに付き合う人できたらすごいヤキモチ妬きそう~!」
太陽「いや、それはないってー。むしろ応援するし!なっ?」
また海凪が2人の仲について聞いてくる。
美月は少し困った顔をしたものの、すぐに笑顔になり、゛もちろん!゛と言い親指を立ててグッドサインまでした。
美月「そ、それより次いかないと時間終わっちゃうよ??」
なるべく早くこの話を終わりにしたい……そう思い次を急かす。
後ろの席を振り返りさらに急かすと、
「あんた、笑うの下手。見てて疲れる。」
と、私にしか聞こえない声で言われた。
なっ?!と怒りたいところだがその人は既に立っていて何も言えなかった。
慧羅「水無月 慧羅。去年のクラスは…覚えてねぇ、まぁよろしく。」
気だるそうしながら言い終えると席についた。
美月は椅子をズズーっと少し下げてさっきの文句を言うと、゛なんのこと?゛とかとぼけやがった。
はぁ…とため息をついて椅子の位置を戻すと教卓の前を先生から奪い立っている人がいた。
朔「さっき1番に紹介しようとした室井 朔や!ちなみに慧羅くんは俺と同じ2組出身やでー!自分のクラス忘れるとか面白い奴やな!!そういえば今日朝に道で猫に会ってな…」
「「「stopそれは後で聞く」」」
複数の声が一斉に聞こえ朔の自己紹介が終わった。
お喋り好きなのはいいけど時間がないので仕方ない。
瑠伊「代々木 瑠伊です。3組出身で好きなのは女の子。後でLINE交換してね。よろしく」
瑠羽「俺は代々木 瑠羽!瑠伊とは双子で〜あっ俺は5組出身な。好きなのは可愛い女の子!仲良くしてね〜w」
美愛「……見事に言ってること同じ流石双子だわ。」
いつもはこういうことに突っ込まない美愛が珍しく突っ込んだ瞬間だった。
◇◇◇
終盤長く感じた自己紹介だったが無事に終わり、授業時間も10分残っていたので自由時間となった。
先生は職員室へ戻り、教室は生徒だけになった。
ルナ「ねぇねぇっ!ルナ、みんなでクラスのLINEグループ作りたいっ!連絡先も知りたいしさぁ♪」
ルナの意見にほとんどが賛成し、席を立って教卓の前に集合した。
慧羅、美晴、代々木双子を除いては…。
ルナ「はいっ!みんなグループいるぅ〜?あれ、5人足りない…1人は…黒龍さんであと4人はぁ?」
キョロキョロと辺りを確認すると慧羅は……寝てた。
ルナ「ちょっと水無月くん、お、起きて?クラスのグループ…」
ルナが軽く揺すっても起きないのでつい…
美月「水無月起きて!!!!」
と、美月は耳元に顔を寄せて叫んだ。
それにはもちろん驚くのは当たり前で…
不機嫌な顔で慧羅が起きた。
慧羅「うるせぇ…何、ここ動物園?何今の。あぁお前か。どっかの動物かと思った。」
ムクっと起き上がると大きく伸びて、゛俺、携帯ないから。゛と言って教室を出てしまった。
美月「な、な、なにあいつ!失礼すぎる!!!」
あれで怒らないのも無理はないとみんな思いながら美月をなだめる。
美愛「それより、私はあっちの方が気になるんだけど……」
美愛が話し出しその方向を指さす。
みんな、美愛を見てからその指を追う。
その先には、瑠伊と瑠羽が美晴の机の両脇にしゃがみこみ頬杖を立ててにこにこしていた。
美晴「あの……何か用?」
当然困るだろう。若干不機嫌そうな顔をしながらそう尋ねると、
瑠羽「いやー、可愛いくて、一目惚れってやつかなっ♪美晴ちゃんって呼んでもいーい?」
瑠伊「双子って女の子の好みも同じなんだよな。」
そう、口説かれてる最中だった。
美愛に言われ全員が見ている中でもお構い無しに続いている。
だが誰も何も言わない。
女子は呆れ、男子はどんな反応されるのか面白半分で見ている。
美晴「…別に呼び方なんてなんでもいいですけど。それと…前。行かないんですか?」
瑠羽「じゃあ美月ちゃんねっ!俺は前行くより美月ちゃんとお話したーい。」
瑠伊「美月ちゃんは前行かないの?瑠羽置いて行こっか。」
瑠羽「えええぇ〜それはないってー。」
行こうと言われ瑠伊に軽く手を掴まれ立ち上がる。
その瞬間チャイムが鳴った。
キーンコーンカーンコーン…キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン…………
瑠伊「あーあ、鳴っちゃった。じゃあこのまま一緒に帰ろ……「行くところあるので。」
瑠伊の言葉を遮りスタスタと歩いて教室を出ていく。
瑠伊「あーあ。連絡先交換しそこねちゃった。」
瑠羽「瑠伊が余計な事するからだろ今のは〜。
ん?なんかめっちゃ見られてる?なになに?」
゛今気づいたのかよ!゛と突っ込みたいのを抑え、みんな苦笑いして誤魔化す。
ルナ「瑠伊くんと瑠羽くんもクラスのLINE入ってー!」
ルナが二人の前に出てスマホを操作し、自分のQRを出す。
2人もグループに入り終えた頃には帰っている人も多くて、代々木双子もすぐ帰ってしまい、いつもの4人しか残っていなかった。
太陽「なんかすっげー個性的なクラスだよなw面白そう」
ルナ「ねー!これから楽しみ楽しみぃ!ルナは全員と仲良くなるよっ!」
美愛「確かに楽しそうっちゃ楽しそうだけど…」
3人が話す中美月は考えていた。
(なんで今…あの子が現れるの…)
3人はどうした?大丈夫?と美月の顔をのぞきこんでいた。
大丈夫!とグッドサインをし帰ろ!と歩き始める。
太陽「……っあ、俺行くところあるから今日は3人で帰って!悪い!」
そういい教室を出ていってしまう。
なんだろーねと話しながら3人も教室を出て新しいクラスのことを話しながら帰っていった。
◇◇◇
その頃屋上では、
美晴「ねえ。携帯、持ってたんだ。」
慧羅「あ?聞いてたのか。そりゃ持ってる。あの場で言うと面倒だからな」
美晴「……わかる。」
慧羅「……。」
美晴「……。」
慧羅「…………。」
美晴「…………。」
慧羅「え、いつまでいるの?」
美晴「知らない。」
そこには、自由時間に出ていった慧羅が寝転んで脚を伸ばしてスマホをいじっていた。
さらに、チャイムが鳴ったのを口実に瑠伊と瑠羽から逃げてきた美晴もいた。
美晴はすぐに帰るつもりだったが教室の机にバックを忘れてきてしまって、すぐ戻って人がいたら面倒だと屋上に来ていた。
2人には会話はほとんどないが何故かお互い居心地の悪さはなく、ただ時間が過ぎた。
美晴「じゃあ。行くね」
そういい屋上のドアを開け出ていった。
閉まる時にガシャンと音がした。
慧羅「…もっと静かに占めていけよ。」
慧羅が少し笑っていたのは誰も知らない。
◇◇◇
美晴は教室に向かう途中で体育館を見つけて中に入っていた。
これでも、中学ではバスケをしていた。
3年で辞めてしまったけど……。
奥にある体育倉庫を開くとギギィーと音がした。
中は真っ暗だったが手前にバスケットボールがありそれを手にした。
軽くドリブルして体育館の中央へ行くと手をあげてボールを投げる。
ボールは綺麗な弧を描いてゴールに決まった。
4月で春とはいえまだ少し寒さが残る中でも、身体を動かすと汗は出てくる。
その場に座り脚を伸ばして右手で顔をあおいだ。
……テンテン。……ーテンテン。…テンテンテンテンテンテン!ドカッ
美晴「いっ……たぁ」
おでこを擦りながら当たったものを見るとボールだった。
シュートを決めたボールがこちらまで戻ってきて見事に顔面直撃。
顔を手でおさえていると、
太陽「えっと……大丈夫?」
後ろを振り向くと太陽がいた。
美晴「……いたの?いつから?」
太陽「あ、えと5分くらい前に……いました。」
美晴「そっか。」
太陽「あ、俺分かる?分からないよね…w」
美晴「日向 太陽。さっき自分で紹介してたじゃない。」
太陽は驚いていた。まさか覚えているとは思わなかった。
教室での事を見てて、興味がないのだと思っていた。
美晴「はい、ボール。バスケしに来たんでしょ?」
しかもバスケをしているということも覚えていた。
美晴「私、記憶力はいいから。」
少し笑っていた。
太陽は少し赤くなり頬を染めた。
さらに、
美晴「ねぇ、あなたのバスケを見てみたい。」
ストレートな言葉にもっと頬を赤くした。
美晴には何か特別な…魅力みたいなものがあると思う。
美晴「……だめ?お願い。」
太陽「いいけど…面白いかはわからないよ?」
そういいドリブルを始める。
したら、美晴は背を向けて歩いて言ってしまった。
思わず゛え…゛と声が漏れる。
いてほしい。そう思った。
もっと知りたいと思った。
太陽「帰っちゃうの?」
思わず出た言葉はまるで行かないでと言っているのと同じだ。
顔を赤くし俯く。
美晴は首を傾げ、
美晴「端っこに行って座って見ようと思って。」
といい端に体育座りで座り腕を組んで膝に顔を乗せて太陽を見ていた。
美晴「あと、バスケはやってても見てても面白いから好き。面白くないとかないから。」
少し微笑みながらそう言う。
美晴は本当にバスケが好きなのだろう。
美晴の笑顔に素直に゛可愛い゛と思った。
美晴「ねぇ、なんて呼べばいい?」
太陽「へ?あぁなんでもいいけど……。」
美晴「…ごめん。呼ばないから。」
太陽「え?」
美晴「無理に呼ばないから。ごめんね。」
太陽が゛なんでも゛と答えたのに対してどうでもいいと捉えた美晴に太陽は慌てて訂正する。
太陽「違う違う!好きな呼び方でいいよって意味!ごめん!」
そう言うと、あーそゆこと。と言うかのように頷き、
美晴「じゃあひゅーくん。私は美晴でいいよ」
太陽「え?ひゅーく?あ、日向だから?あ、え?じゃあ……美月?」
太陽は戸惑っていた。
まさかひゅーくんというそんな可愛い呼び方されるとは思ってなかった。
美晴みたいな子だと特に…しかも名前呼びをオッケーされるとも思ってなかった。
もしかしたらただ人と接するのが苦手なだけ……?
美晴「違うから。面倒なだけだよ人と関わるの。
苦手だからってだけじゃない。」
太陽「え、あごめん。考えてることバレてた…」
美晴「ひゅーくんはいいかなって。特別。」
太陽「俺だけ……?なんで?」
美晴「一緒にいても楽。……楽しいし」
美晴の見せる意外な一面に太陽はただただドキドキしていた。
゛可愛い゛。太陽は美晴に対してこう思っていた。
そして自分だけという、特別というストレートな言葉にまた頬を赤く染めた。
美晴「ひゅーくん。バスケ見たい。」
太陽「あ、うん!」
赤い頬を両手で叩きバスケを始めた。
美晴はずっと太陽の゛バスケ゛を見ていた。
数時間後。
体育館の窓から見える空は茜色の夕焼けだった。
まるで太陽の頬の色のように。




