第8話 激情
この世界では魔法が使える者よりも剣を扱うものは少ないのです。
目を覚ますと見慣れない部屋だった。
近くにメモがおいてあるのを見つける。
どうやら、ここは王城らしい。
王に謁見し、報告をするようにといった旨のことが書かれている。
俺は起き上がり、謁見の間に赴く。
部屋から出ると待機していたらしい侍女に案内される。
話が事前にしっかりと通っているためか、スムーズに取り次がれた。
謁見の間は思っていたよりもおとなしめだった。
金ぴかで目が痛い部屋だろうと思っていたが、水の都と呼ばれる街にあるに相応しい王城だった。
少し大きめの噴水が左右にあり、水の巡回している幻想的な壁だった。
「こちらにおわせられるのが、セーゴ・グレイト・エストさまだ」
「セーゴって呼んでくれ」
セーゴは清剛と同じ顔だった。
というかうりふたつだった。
どういうことなんだ?
双子とか?
そんなおもしろ展開なのだろうか。
そうだ、清剛ならベースを弾けるはずだ。
聞いてみよう。
「セーゴ、ベースを弾けるか?」
「お前、王様になんて無礼な。恥を知れ」
「いい」
「ですが、王様」
「下がっていろ」
「はい。ご無礼をお許し下さい」
「んー、ベースを弾けるかだったな。確かに弾けるが、なんで知っているんだ?あまり周知されている事実ではないだろう」
「それは…知り合いにすごく似ているやつがいたんだ」
「そうか、それは人違いだろう。本題に入るが、メローペが出たそうだな。詳しく話してくれ」
単なるドラゴンだと勘違いされていたことから愛が連れ去られるまでの経緯を話した。
「お前はメローペ–炎龍についてどのくらい知っているんだ?」
「知らない」
「そうか。伝承があまり残っていないからな。メローペは7龍の1匹、いや1人といったほうが正確かもしれない。もともとは七人の姉妹だったそうだ。それぞれが罪を犯し、龍にされたという。有名な七つの大罪という奴だ。嫉妬、暴食、憤怒、色欲、怠惰、強欲、傲慢の七つだ。どの龍がどの罪にあたるかは分かっていないが、気をつけるに越したことはないだろう」
「ちょっといいか、炎龍ということは火魔法を使うんだろ?あの龍は雷魔法を使っていた気がするんだが」
「これは、不確かな話なのだが、人間は始め魔法を使えなかった。そのため、他の動物たちと大差なかった。ある日雷が落ちて、木にあたり、その木が燃えた。人はその炎を使うことを始めにして進歩していったという説がある。そのため、炎龍は炎雷龍とも呼ばれる」
「炎と雷か。厄介だな」
「一説では、雷魔法は陰魔法の延長だと言われている。重ねて気をつけることだ。俺としては、騎士団を送る気でいるが、お前は行くんだろ」
「ああ」
「それじゃあ、支援金として1億ヴェル貸そう」
「ありがたく」
王宮を後にし、武具屋へと向かう。
ついでに、先ほどの店による。
「おう、はやいな」
「何がある?」
「いい武器があるぜ」
「武器か!一番良いものを見せてもらえるか?
「ステンレス製の剣が入荷したんだ」
「いくらだ?」
「1億5000万ヴェルだな」
「もう少し安いものはあるか?」
「そうだな。観賞用なら銅の剣、1000万ヴェルで実用なら、青銅の剣、4500万ヴェルだ」
「青銅の剣をもらえるか」
「毎度」
「あとは、防具が欲しい。龍の攻撃でも防げるようなものはあるか?」
「お前さん、もしや、あの炎雷龍に挑むつもりじゃないだろうな?やめておけ。命がいくつあっても足りん。もはや、あれは天災だ。人の身でどうにかできるものじゃあない」
「俺は行く。…女の子を待たせているんだ」
店の主は驚き、しばらく口を閉じる。
「…わかった。ちょっと待っていろ」
店の主が奥に入っていき、布を持って出てきた。
「これを持っていけ。雷電のマントだ。雷魔法を阻害してくれるらしい」
「いいのか?」
「いい。そのかわり、また、店に来い」
店主はそう言って豪快に笑った。
「どうすればいいんだっ!」
俺は、焦っていた。
今ある情報は少ない。
龍が飛んで行った方向だけでは、追い切れないだろう。
だが、じっとしていることはできない。
国に報告をした。
依頼としての討伐を請け負った。
真剣を手に入れた。
素晴らしい防具も譲ってもらった。
できる準備はとうに終えている。
だが、どこに向かえばいいかわからない。
この湧き上がる感情を抑える手段がない。
こうしている間にも愛は危険にさらされている。
俺が守ると誓ったのに…何もできていない。
無力だった。
笑えるほど滑稽だった。
It’s not worth trying.か……戦えば、何かしらはできたはずなんだっ!
助けたい。
泣きそうになる。
つらい。
絶望に苛まれていると、とある会話が聞こえる。
「さっさと歩け」
「うぅぅ…ひっく…ぅう、ご、ごめんなさいぃぃっ」
「もう一度引きずられたくなければさっさと歩け」
俺はとっさに動いた。
頭の中は一つの考えが支配していた。
よくないっ!
青銅の剣を取出し、突きつける。
が、近くに控えていたのであろう剣士に防がれる。
「な、なんだ!?」
「お前は悪だ。よくない」
ああ、そうか。
俺は一つの考えにたどり着く。
俺はこれまで、アイシクルにいて、こんな光景を見たことがなかった。
それもそのはずだ。王城の近くにある貴族の暮らす区域に来たことがなかったのだ。
こんなことがまかり通っているなんて。
あの少女はおそらく奴隷なのだろう。
首輪がつけられ痛々しい痕がいくつか確認できる。
許せない。
確かにこの貴族は運が悪かったといえよう。
この国では、暗黙の了解として認められていることだったのだから。
貴族は政治に口を出さない代わりに奴隷制度を認める。
今までこの制度が脅かされたことはない。
王の耳までには絶対に入らないようになっていたからだ。
他の高官たちは、貴族の介入を防げるという大きすぎる利点に満足していた。
だから、この貴族も剣をつきつけられ最初に思ったことは、恐怖よりも理解できないだった。
俺は、剣士に切りかかるが、、すべてをいなされ、まったく歯が立たない。
さらには、この近接戦闘に加えて、魔法も発動してきた。
歌を歌うこと。
しっかりとした音程で聞いていることでこちらが安心するような安定した低い声。
素早く的確に音が紡がれていく。
巨大な雷が発生し、俺に落ちた。
落ちたことは見えていない。
あったのだろうという時間が引き延ばされて緩やかな思考になったと感じられるほどに一瞬のすさまじい威力だった。
もはや、立つことはできなかった。
レベルの差だけではないだろう。
俺はこの男に圧倒的に劣っている。
戦術面でも魔法力でも。
経験値の差もある。
途方もない差だった。
周りの嘲笑が聞こえる。
「あいつ弱すぎだろ」
「あれって、Lv.4の雷剣のライガーだろ!」
「まじか!こんなとこで生ライガー見れるとか!」
レベルが2つも違う。
レベルが2つ違うだけでこんなにも強いものだろうか。
「おい、いくぞ」
「すみません、主。今の一撃が奴隷にもあたってしまったようです」
「…いい。捨て置け」
「はい」
やつらはそういって去って行った。
それ以上は何もできず、回復するまでまつことしかできなかった。
5分ほど経ってようやく痺れが抜け、立ち上がる。
さっきの少女はまだ一度も動いていない。
まさか、死んでしまったのだろうか。
近づき呼吸を確かめる。
よかった。
息はあるようだ。
俺は少女をおぶって、寮の部屋へと向かった。
今日から寮の部屋に俺も愛も入っている。
寮の部屋には必要最低限の家具は揃っている。
本来ならば、愛やナナと軽くパーティーをするつもりだった。
部屋には、準備だけがされている。
そんな部屋の状況を見ながら、奴隷の少女をベッドに寝かせるのだった。
こういう貴族は最悪ですね。奴隷をどう扱うかは難しい問題です。
というか、主人公があんまり戦闘で活躍してないような…