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理を編むエーテル -メリアの不思議探求録-  作者: シラン
第3章 風が運んだ運命の煌めき
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透けて見える?

 街道は、変わらず穏やかだった。


 昼の光は柔らかく、風は一定の調子で流れている。馬車の揺れも規則的で、

身体はすでにそれに順応していた。だからこそ、思考が残る。


「屈折を……調整して……」


 ナディアは小さく呟いていた。視線はどこにも定まっていない。頭の中で、

言葉をなぞっている。


「まだ考えてんのかよ」


 レオンが呆れたように言う。


「え、あ……はい……その……」


 ナディアは少し慌てる。だが、考えることをやめる様子はない。


 少しの沈黙。そして、ナディアはほんの少しだけ身を寄せた。声を潜める。


「つまり……見えるんですよね……?」


 その問いは、すでに確認ではなかった。前提だった。


「理論上は可能です」


 メリアは変わらない。


「だから、その言い方やめろって!」


 レオンが即座に反応する。


「いやそれ、絶対誤解生むやつだからな?」


「理論です」


「理論でもだよ!」


(この流れ、ちょっと嫌な予感がするよ)


 れもんが内側で小さく呟く。だが、メリアには聞こえていても、それを

止める理由が見つからないようだった。


 ナディアはそのやり取りを聞きながら、視線を少しだけ動かした。ふと、

レオンの方を見る。少し、迷う。ほんの一瞬。だが――興味が勝った。


 ナディアは顔を覆った。両手で、しっかりと。隠した、はずだった。


 だが――指の隙間から、見ている。わずかに開いたその隙間から、視線が

確かに向いていた。


 レオンは、それに気づいた。


「おい、今なんかしただろ!?」


 即座に身を乗り出す。


「み、見てません……!」


 ナディアが慌てて否定する。だが、その声は弱い。


「いや、絶対、今、見てたろ!」


「ち、違います……その……!」


 言い切れない。言葉が揺れる。


「見ていません」


 メリアが淡々と言った。


「いや、待て待て待て待て!!」


 レオンが一気に声を張る。


「今の流れで、それは無理があるだろ!?」


「観測の問題です」


 メリアは変わらない。


「観測の問題じゃねえだろ!!」


 ナディアは顔を覆ったまま、動かない。だが、完全に隠しているわけでは

ない。わずかに、隙間がある。


「み、見てません……」


 小さく繰り返す。


「見ていません」


 メリアが続けた。


 二人の声が、重なった。


「見てません」


 完全に同時だった。


 レオンの思考が一瞬止まる。そして、次の瞬間。


「絶対、嘘だろ!!」


 確信だった。


 ナディアは固まる。メリアは動かない。空気が、一瞬だけ止まる。


「いや、おかしいだろ、今のは!!絶対見てたって!!

なんで、そんな息ぴったりなんだよ!余計怪しいだろ!!」


 声が一段高くなる。


 その空気を読んだのか読まなかったのか、メリアは静かに口を開いた。


「人体は機能で決まります。大きさは関係ありません」


 場が、止まった。


(あ、それ言っちゃうんだ)


 れもんが内心で額を押さえる気配がした。フォローのつもりなのだろう。

だが、それはフォローになっていなかった。むしろ、火に油を注ぐ類のもの

だった。


「なっ……!?」


 ナディアの顔が、一気に赤くなる。両手で覆った隙間の奥で、耳まで

色づいているのが分かった。


「いやいやいやいや!なんの話だよ、今の!?余計ややこしくするな!!」


 レオンが声を裏返らせる。何を否定すればいいのかすら、うまく整理できて

いない様子だった。


「事実です」


 メリアは短く返す。訂正するつもりは、まったくないらしい。


「事実とかそういう問題じゃなくて!いや、そもそも何の大きさの話だよ!?」


 レオンが頭を抱える。ナディアは何も言えないまま、両手の隙間から涙目で

レオンとメリアを交互に見ていた。


 馬車は進む。何事もなかったかのように。


 だが、レオンの中では終わっていなかった。


「いや、ほんとに待てって……今のは……」


 ぶつぶつと呟きながら、視線を行き来させる。納得がいかない。だが、

証明もできない。


 ナディアはまだ顔を覆っている。その奥で、わずかに頬が赤い。


 メリアは静かに座っている。最初から何も変わっていない。


 三人の間にある認識は、完全にずれていた。レオンだけが、現実に立って

いる。ナディアは、可能性を信じている。メリアは、どちらにも関与して

いない。


「……いや、ほんとにおかしいって、これ……」


 レオンの声だけが、まだ続いていた。

挿絵(By みてみん)

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