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見えない靄(もや)が一時的に明瞭になる時

今から55年前、玉巻木家宗家の屋敷の大広間で葬儀が行われていた。

広間には玉巻木家一族が揃い厳しい面持ちで座り、生前前宗家当主玉巻木喜兵衛が親しくしていた者達も座っていた

喪主は玉巻木喜兵衛の養嗣子玉巻木寛一

しかし彼はこの場にいないかの様だった。

喪主は玉巻木寛一ではあるが、故玉巻木喜兵衛の妾腹で末子の玉巻木康昭が喪主の様に奉公人を差配し動かしていた。奉公人は玉巻木康昭の指示通りに動いている。

彼は玉巻木喜兵衛に容姿がそっくりで佇まいが凛とし所作が美しい、父を失くし気丈に振る舞う喪主(主役)にしか見えなかった。

本来喪主がやるべき事を喪主に代わり奉公人を差配し動く姿を周囲は期待の眼差しで見ていた。

喪主である寛一はと言うとあらぬ方向を見ては顔を青くさせ震え、奇声を上げ騒いでいる

それを親族は冷ややかな目で見ていたが彼はその一斉に向けられた目線には気がついてはいなかった。

冷ややかな目で見られ晒し者にされ、幽霊の様な存在として扱わてもなお・・・・

武田清峰は寛一の哀れなその姿を武田清峰は声を上げて笑いそうになるのをうを抑えやにや笑いながら

「まるで道化師だな。滑稽だ、結構結構」

言っていた。その言葉を理解しているのはごく一部の者しかいない。

武田清峰の言葉に同調する様に楽しげに談笑する4人の男女がいた。

「上手く行った様だな術がよく効いている」

感心した様に朱鳥勲栄が言うと

烏族(うぞく)の幻惑遮蔽術は他の追随を許さない術です、低級魔族の使う幻惑術が烏族の高い霊力と比べようもありません」

降矢宗円(ふるやそうえん)が、当然だと言わんばかりに言った

「神龍樹の白き守護神の存在もお忘れなく」

萱野善右衛門が牽制しつつ笑いながら言い

「ふふっっ、面白い一人芝居を見せられている様だわ。流石娼妓の子は育ちが違うわね」

孫扇容は含みのある言い方をしている。

皆、寛一の気が触れた様な姿を見世物を観覧するかの様にしていた

寛一のただ事ではない様子を見た玉巻木康昭は、奉公人に寛一を退出させる様に伝え、寛一は奉公人によって連れ出され客間に運ばれた。

降矢宗円と言うのは降矢忠信の父で先々代降矢家当主、萱野善右衛門・朱鳥勲栄・故玉巻木喜兵衛らと数十年来の友人である。

“烏族”とは獣族の一種で鳥類獣族の一族で奉一族の分家奉有家と武田家が烏族である。

幻惑遮蔽術とは、悪しき魔の力を遮蔽し無効化する術で精神を乱し正常な判断力を狂わせるのを遮って防ぎその力の影響下に陥らない様にする術である

烏族は幻覚・混乱・暗示・洗脳等の術を生まれながらに備わっている一族でどの種族よりも優れている。

その術を施したのは奉有義賢と武田清峰だ

萱野家も異能は備わっているが得意とする能力が烏族とは異なる。

萱野家が得意な能力は危機察知・危険回避・遠吠えによる伝達や犬族独自の能力等がある。

遠吠えによる伝達は犬族や狼族なら使えるが他種族だと使えない

幻覚・混乱・暗示・洗脳・魅了等の能力は無いが幻覚・混乱・暗示・洗脳・魅了をかけられた相手をその効果から外す事は出来る




寛一は一応は玉巻木家宗家の当主となるのだが、周囲はそう見なしてはいない。

あくまでも当主の座を継承するのは認めるが、玉巻木家宗家の次期当主、玉巻木家宗家の正当な継承者、玉巻木喜兵衛の血を引く正当な血族。としては一切認めない、と言うのが玉巻木一族の総意だ

寛一はあくまでも玉巻木喜兵衛の養嗣子として迎え入れられた玉巻木喜兵衛の甥で玉巻木喜兵衛の異母弟嘉平の息子、嘉平と娼妓との間に生まれた異分子

と言う認識だ。玉巻木家宗家の後継とされているものの品位に欠け、性格に難があり粗暴な振る舞いをする放蕩息子

これだけでも到底許し難いのだが妻の美津子の矜持を貶め子を蔑ろにし、保崎由利江と言う女に現を抜かし婚外子まで作っていた事が明るみになったからである。

それは水面下で玉巻木寛一、保崎由利江、加島幸助を調べた結果浮かび上がって来たので分かった事で、そうでなければ分からなかっただろう

保崎由利江は、寛一が社長を務める本社で事務員として働いていた。しかも加島幸助の紹介で本社に入社して事務員として働いていたが寛一が人事を動かし異動させ自身の秘書にして側に置いた

それが寛一1人がしたのならまだしも、裏で糸を引き、寛一に彼らの都合のいい様にする為唆した事も調査で判明した。その事が元々寛一に対しいい印象を抱いていない玉巻木家一族の心証を悪くさせ、舅の萱野善右衛門と義兄泰能(やすよし)を始めとした萱野家は激怒した。

舅萱野善右衛門の親しくする友人達の耳にも入ると玉巻木寛一と愛人保崎由利江の関係は瞬く間に広まり、玉巻木家と付き合いのある人間なら知らぬ者はいない。と言う状態になった。

冷ややかな目で見ている参列者の中には自身の息子長男周助・次男春孝・三男寛次郎・四男逸喜もいた。彼らの側に朱鳥勲栄を始めとする朱鳥家と洙家、萱野家や萱野家の縁戚出流原(いずるはら)家ががっちり囲んでいた

子供達は1人1人に専属の乳母がおりその乳母に世話を焼かれていた。子供達は乳母に懐き甘えている。

今まで寛一は屋敷にいる事はほとんどいなく外泊ばかりしている上に名家の出の妻を冷遇し蔑ろにしていた。我が子とは生まれてからほとんど顔を見る事が無く任せっきりになっていた。それでは恨まれても仕方が無い。

子供達の母である美津子はこの場にはいない。今から半年前に亡くなった

妻を亡くし、四十九日を過ぎた頃に愛人の保崎由利江と再婚しようと思っていたが、それは叶わなかった

義父母の反対したのを皮切りに玉巻木家の親族が猛反対たからだ。おまけに義父の喜兵衛から

「どうしてもこの女と一緒になりたいのなら玉巻木家の縁を切り今すぐ出て行け」

と言われ諦めるしかなかった。保崎由利江はその後結婚した

しかし、会うのが難しい程の遠方に引っ越しした訳でもないのと加島幸助に言えば復縁するのは難しく無かったのであっさり復縁した。

保崎由利江と復縁した事も保崎由利江を後妻に迎えたいと思った事も亡き妻に対し申し訳無い気持ちは微塵も無かった。

保崎由利江は既婚者になっていたが、加島幸助に何とか出来ないかと相談したら相手を説得してくれたらしく夫公認で復縁した。しかし義父母の耳に入ってしまった。義父母の怒りは凄まじく舅萱野善右衛門の怒りも相当な物だった。娘は夫に長年蔑ろにされ子を作る時だけ寝室に来て子が生まれてもろくに見もせず子を可愛がろうともしない。屋敷にはほとんど居つかず外泊ばかり

それだけでも腸が煮えくり返りそうな位に憤っているのに四十九日を過ぎた頃娘と孫を散々苦しめ辱しめて来た女を後妻に迎えようとしたのだ当然であろう

しかもこの時点まで寛一は何が悪くどうしてここまで嫌われるのか分からず気付かないでいた。・・・しかし、葬儀が執り行われる時間に広間に入った瞬間、幻惑遮蔽術が作動し霞がかかっていた物が徐々に取り払われ鮮明になってて行った。

寛一にかけられていた術を遮り無効化し、一時的にではあるが魔族が発する悪しき力を浄化し高次聖域と同等の神気が寛一に降りかかり萱野一族や出流原(いずるはら)一族が寛一が危機を察知し魔族が発する悪しき力に気付く様に霊力を送った。その結果、寛一は正常な判断を取り戻し傀儡(くぐつ)(操り人形)の様になっていた状態から解き放たれた。のだが、その代わりに加島幸助と保崎由利江が寛一を操っていた間、記憶が抜け肝心な部分が欠けた状態であったのが支配から解放され失われていた記憶が甦った事で犯してはならない過ちを犯し、玉巻木家や萱野家に泥を塗り妻子を傷つけ亡き妻美津子の矜持を貶めていた事が分かり客間に閉じ込めれた寛一は発狂した様に絶叫し暴れたのだった。


あまりの寛一の状態に玉巻木家宗家の親族は暴れる寛一を縛り上げ病院に入院させた。

寛一は葬儀の日の記憶が全く無い上にそれから1年近くの記憶が無くなっていた

しかし、寛一の試練はまだまだ終わらない











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