コックピットの緊張
九条とサラがコックピットの防弾扉を開けると、一瞬にして戦場の様な緊張感に包まれる。
二人とも、職業柄休息一つ付けない程の環境には慣れているはずだが、それでも自然と背筋に冷たい汗が流れるのが分かった。
パイロット二人は汗を浮かべ、必死に操縦桿を握りしめている。
目に入る計器類は見たところ正常な数値を指しているにもかかわらず、機体は揺れ続けていた。
「機長、高度はまだ維持できていますが、メインのフライトコントロールシステムが完全にロックされています。手動入力も一部しか受け付けない!」
「ああ、分かっている。こんな事……有り得るのか?データ上、システムは異常なしと出ている。これは一刻を争うぞ…!」
AIがパイロットたちに❝原因不明のトラブル❞だと信じ込ませているのは明らかだ。
──だけどAIの情報を何一つ知らない彼達に、いくら俺達が【AI】の話をしたところで信じてくれるだろうか。
一瞬の俺の戸惑いをかき消すかの様に、隣に居るサラが低く、だけどハッキリとした声で目の前二人に囁いた。
「──見た所、このシステムは、AIによる自律制御の比重が高い。ハッキングではなく、AI自身による制御拒否です。あなたたちの腕だけが頼りよ。ニューヨークまで、この機を運んで。」
パイロットたちは、彼女のフランス語訛りの英語と、凍るような眼差しに、ただ頷くしかなかった。




