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7話 炎上

俺が炎上したというよりは、黒野先輩の炎上が飛び火したらしい。先輩の昨日の配信に男性の声が乗ってしまい、その声が朝に会いたいと言っていた俺の声だと思っている方が一定数いるようだ。なんか前にもこんなことあった気がするぞ。


黒野哀

ごめんね

本当にごめんなさい


春色皐月

全然全然!!

気にしないでください!!


黒野哀

気にするよ、ごめん


そりゃ自分のせいで後輩に飛び火したら気にするよな。先輩側だったら俺でも気にするもん。


今回の炎上って要は、先輩の配信に乗った声が彼氏か俺かみたいな話だろ?なら、俺の声ってことにするのも1つの手なんじゃ?いや、でもそれだと、もしも今後俺がボイスチェンジャーを付け忘れるようなことがあったら掘り返されて余計炎上するよな。結局、俺の方から触れない方がいいのか。


「てことで、どうします?」

「どうしよう………」

「そもそも、声の主って誰なんですか?」

「………彼氏」


彼氏かよ。ダメじゃん。身内にもあんまり言わないほうがいいやつじゃん。何処から漏れてV界隈のゴシップ扱ってる配信者にリークされるか分かんないんだから。聞かなかったことにしよ。


「一応、今俺の中に3つの案があるんですよ」


1.ダンマリ決め込む


結構無難な手段だとは思う。ただ、公式から何の声明もでなかったら、いろいろ邪推してくる奴らが湧いてくる可能性が高い。


2.家族の声ってことにする


実家住みならこれが最善だと思う。先輩の場合は一人暮らしなので、家族が遊びに来ているのに配信している点を追及されたときにどうするかが難しいところ。


3.彼氏であることをぶっちゃける


普通に無し。ユニコーンを殲滅する一手。ユニコーンのついでに一般のファンも減るだろうし、多分固定のアンチも湧いてくる。得るものより失うものの方が圧倒的に多い。


「あとは、俺のせいにするのも1つの手ですね」

「それは無し」

「ですよね~」


そりゃ嫌だよな。矛先を俺に向けるだけでなんの解決にもならないし、最悪の場合先輩の方も延焼するもん。


やっぱり、こういう炎上ってどう頑張っても解決できないんだよな。何をもって解決と呼ぶかは人それぞれだけど。批判が0になることなら、アンチからしたら格好の餌食だし、ゴシップ系も取り上げるだろうから、ことあるごとに掘り返されて批判されそう。


「………」

「………」


会話がなくなった。気まずい。炎上をどうするかの話してたんだからこういう雰囲気になるのは当たり前と言えば当たり前だけど、ずっと空気で話すのは流石に辛い。なんか面白い話で場を和ませないと。


「この前、俺のとこに珍凸来たんすよ」

「ふーん……」


話の内容ミスったぁぁぁぁ!!!そりゃそうなるわ、先輩ってマジもんのお嬢様だもん。下ネタとか絶対に嫌がるわ苦手なタイプだわ。男子高校生の対極に位置する存在だわ。なんか別の話題考えないと。


「先輩の彼氏さんってどんな方なんですか?」

「なんで…そんなこと聞くの……?」

「えっいや、ただ先輩の惚気話が聞きたかっただけです」


恋バナなら楽しい雰囲気になるかなとか思ったけど、話の始め方間違えたわ。今この状況で「彼氏さんってどんな人なんすか」とか、ただの嫌味でしかないわ。でも、もうこのまま押し切るしかないよな。


「どうやって出会ったの?告白はどっちから?いつから好きだったの?初めてのデートはどこ?」

「えっ、ちょっと」

「彼氏のどこに惚れたの?昨日はなにしてたの?運命の出会いから今日に至るまで全部聞かせてくださいよ」

「わかった、わかったから!話すから!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「えっ!じゃあ、彼氏さんとは幼馴染ってことっすか?」

「そうだよ〜、小学校からずっと一緒なの」

「はぁ〜いいっすねぇ!ラブラブじゃないっすか!」


俺と真逆じゃん。いいなぁ、幼馴染で相思相愛で愛想つかすこともなく10年以上仲良しのままなんて。聞いた限りだと、彼氏さんは先輩のVtuberとしての仕事も認知した上で偏見はないみたいだし、先輩も幸せそうだ。それだけいい関係が築けているってことなんだろうな。俺もいつか遥香とそんな関係になれたらな……。


「そういう皐月ちゃんは好きな人とかいないの?」

「え、な、なんすかいきなり」

「わたしばっかり話すのは不公平じゃないかな?」


好きな人か…。考えたこともなかったな。遥香は論外だし、歴代の彼女達は向こうから告ってきたから付き合ってただけだし。付き合ってる間に好きになるかなとか思ってたけど、結局好きになる前に別れてるからな。そう考えたら、俺って恋愛的な意味で誰かを好きになったことないのでは?


「………いませんね、好きな人」

「好きな人じゃなくてもいいよ?幼馴染とか女の子のお友達とか、皐月ちゃんのお話を聞きたいの」

「幼馴染なら………」

「好きなの?」


あいつといたら俺単体で見られないから嫌いなだけで、遥香個人として見るなら、性格と立場というデカすぎる難点さえなんとかなれば嫌いじゃない。それはそれとして付き合わないけど。 


「まぁ……」

「付き合いたい?」

「嫌ですね。死にたくないんで」

「え?」


付き合ってなくてもストーカー被害にあったし、その結果うつ病にもなった。捕まったストーカーが持っていたカバンの中から刃物が出てきたって聞いたときは血の気が引いた。あんな思いは二度とごめんだ。


「アイドルなんですよ、俺の幼馴染。ほら、日本のアイドルって恋愛禁止じゃないですか。先輩もそれで炎上してるわけですし」

「そうだけど、流石に死んだりはしないんじゃない?」

「そのくらいの覚悟が必要ってことですよ。パパラッチとかもいますから」

「あ、そういうこと」


なんかどんどん話が逸れていってる気がする。先輩の声色も戻ってきたし、そろそろ話戻した方がいいかな。いや、結局俺にできることなんて何もないんだから掘り返さない方がいいな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



3週間後。


結局、先輩は1ヶ月程活動を休止することになった。とはいえ、人の興味というのは案外すぐに薄れるもののようで、2週間もすればSNS上で黒野先輩を誹謗中傷するような書き込みは見かけなくなっていた。


「あ゛〜彼女欲しいよぉ〜」


・アイドルにあるまじき発言で草

・どうした急に

・燃えるぞ


「みんな知ってる?暦の上ではもう夏なんだよ?高校生の夏とか青春真っ盛りじゃん?!青春したいんだよ!恋愛してぇんだよ!」


・マジで言ってんのか?

・燃えるぞ?

・アイドルとしての自覚ないの?


「本気で言ってたら配信上で言わないから。ボイスの収録したときも思ったけど、この声で喋ってるところをリアルであんまり見られたくないんで」


・ボイス?

・今ボイスって言ったか?

・ボイス出すんか?


「あ」


そういえば、配信で告知しとけみたいなこと言われた気がするような。やべぇ、完全に忘れてた。まあ、今告知すればいいだけか。あれ?発売日っていつだっけ?


「そうですね、ボイス出ますね。えーっと、いつだったかな」


・今日

・今日だぞ

・もう発売されてるぞ


「はい、今日らしいです。もう発売もされてるみたいですね。みんな買わないでね」


・買わせろよ

・買うよ?

・もう買ったよ《白沢景》


「毎度の事ながらなんでいるんすかあんたはマジで。てか、なに後輩のボイス買ってるんですか。やめてくださいよ」


・推しのボイスは即買いすべき《白沢景》

・推しだってよ

・よかったな


なんか、週一くらいの頻度で配信に現れてる気がするぞこの先輩。3D持ってるし、専業なんだから収録とかで忙しいんじゃないのか?


「で、ボイスはもうボイスは聴いたんですか?」


・まだ《白沢景》

・聴いた

・よかった


「まだなんだ…」


・聴いてくる《白沢景》

・ワイも

・じゃあの


一気に同接が減った。あれか?みんなで俺のボイス聴きに行ったんか?マジかよあの先輩、配信の話題どころか、視聴者すら掻っ攫って行きやがったぞ。


「みんな居なくなるじゃん、萎えたわ。配信終わります」


・萎えるな

・もう少し頑張れ


「いや、もう配信開始から1時間以上経ってるからね?あと、俺は明日も学校あるんで」


・そういや、学生だったな

・もうそんな時間か


「てわけで、俺はもう寝るんで。おつです」


・乙

・おつ〜

・おつかれ



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ん?」


配信終了後に、何かメッセージが来ていることに気づいた。マネージャーさんからのお怒りメッセージなら気づかなかったことにしているところだが、どうやら黒野先輩からのようだ。


黒野哀

彼氏のことバレちゃった

どうしよう

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