2話 朝活
「ということで、昨日予告した通り朝活配信はじめまーす」
・おはよう
・なんで朝活?
・早起き偉いやん
・音質悪くね?
「今、キッチンにいるんで音質は許してくださいね」
・料理配信?
・料理男子なん?
・献立なに?
実のところ、俺は朝が絶望的に弱い。
家を出るギリギリまで布団に入っていたいし、基本的に朝食も摂らない。だが、このままでは健康にも良くない。
そこで、朝活配信だ。早起きして、朝食もしっかり摂ることに配信するためという理由を付けることが出来る。
「今から作るのはお弁当です。と言っても、鮭焼いて玉子焼き作るだけで、後は作り置きしてるやつ詰めるだけですけどね」
・なんか所帯じみてるな
・親御さんが用意したやつ?
・ほんとに高校生なの?
・てか、この時間の配信って親御さんに怒られない?
「高校生は本当ですよ。配信時間の心配なら、一人暮らしなので問題ないです」
・本当なんだ
・一人暮らし?
・なんで?
「それは触れちゃいけないやつですね。機会があったら話すかもです」
死んだ母親が親戚との仲最悪で、誰も住んでない家にタダで住ませてやるから二度と面見せるなって言われた話朝からするには重すぎるよな。
視聴者さんに憂鬱な気分で一日を始めてほしくないし、そのへんは追々だな。
「とまあ、そうこうしてるうちにお弁当できたので、後は朝食食べながら駄弁りますかね。一応、お弁当の写真載せときますね」
・クッソ美味そうやんけ
・女子力高くね?
・俺にも作って欲しいわ
・ 朝食は何食べるん?
やっぱり、こういう何かする配信は雑談配信と違って内容をそこまで考えなくていいのが楽だ。
しかも朝活。健康になっちゃうな〜。
「俺の朝食ですか?弁当と昨日の夕飯の残りです」
・主婦かな?
・ただの一人暮らしだろ
食事中って何も話すことがないので、配信にあまり向かないのかもしれない。
いや、どっちかというとVtuberの配信に向かないだけかな?
「家出るまでまだ時間あるんで、適当に質問コーナーでもしますかね」
・好みのタイプは?
・Vになろうと思った理由
・一人暮らしの理由
やっぱ、質問コーナーって最高だわ。話題が向こうからやってくる。歴が長い人が質問コーナーしてるとこ見たことないし、新人のうちに使い潰しとこうかな。
「一人暮らしの理由ってそんなに気になります?話してもいいけど、重い話ですよ?笑ってくれます?ビミョーな空気になりません?」
・あっ…(察し)
・なんかごめん
・重いんか……
・無理せんでもええんやで
「ちなみに、Vになった理由は遊んで金稼ぎたかったからですね」
・クッソ不純やんけ!
・不純すぎて草
・さっきの話との温度差で風邪引きそう
本当は、バ美肉Vとしてなら遥香にバレないから、みんな俺単体で評価してくれると思ったって理由があるけど、身バレしかねないから黙っておこう。
「何かやってほしい配信ってあります?」
・ゲーム配信
・シンプルに雑談
・歌枠
・風 呂 配 信(迫真)
ゲームは本体ないから無理。歌は俺が音痴だからやだ。風呂は論外。どうしよう、全部無理だ。
1番現実的なのはゲーム配信かな?
「ゲーム配信したいんだけどさ、俺ゲーム機もってないんですよね………」
・ゲーム機が………ない?
・ウソ……だろ……?
・PC用のやつやれば?
「しゃーない、今日学校の帰りに買って来ますわ。配信の設定とか何も知らないんで、やれたらゲーム配信やります。無理なら雑談で許してね?ホントに!マジで!やれたらやるから!」
・雑談だな
・やらんやつやん
・行けたら行くと同じやろ
・ほな無理か
「そろそろ、家出る時間なんで配信終わりますね。それじゃ、行ってきまーす」
・いてら
・いってらっしゃい
・俺もそろそろ出るとするかな
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「あっ!悠ちゃん!おはよ!」
通学中に遥香に出くわした。
普通なら、朝から国民的アイドル様のご尊顔を拝めるなんて最高の出来事だろうが、こっちからすれば最低最悪の出来事だ。
「ん、おはよう」
「あれ?悠ちゃん今日はお弁当なんだ」
「まぁな………近くね?」
出くわしてしまった以上一緒に高校まで歩いているのだが、とにかく近い。肩が触れ合うギリギリの距離で隣を歩かれている。
「そう?このくらい普通だと思うけど」
「その普通のせいで、俺がストーカー被害にあったのをお忘れで?」
「うっ………」
「わかったら早く離れなさい」
「むぅ………悠ちゃんのケチ」
渋々だが、遥香は少しだけ俺との距離を空けてくれた。
「むくれてもしょうがないだろ?遥香はアイドルなんだから」
「ならアイドル辞める」
「………は?」
「悠ちゃんと遊べないなら、アイドルなんてやりたくない!」
正直なところ、アイドルを辞められるわけにはいかない。
こいつがアイドルだから、俺は金を貰えているし、金を貰えるから、俺はこいつと友達でいる。
金が貰えないなら、今すぐにでも縁を切りたい。
それに、アイドルを辞められたら、これまでお仕事の関係で減っていたこいつと会う時間が増えてしまう。
そんなことになったら、ストレスで俺の胃に穴が空きかねない。
「じゃあ、わかった。何か埋め合わせはするから。な?それなら文句ないだろ?」
「じゃあ、今日家行きたい!」
今日?家?
ヤバい。今朝は家を出る直前まで配信してたから、機材やら何やらを出しっぱなしだ。家に来られたらVのことがバレてしまう。
「本っ当にごめん家は無理」
「え〜、ならカラオケは?」
「今日?」
「もちろん」
カラオケか………。
今日は配信用にゲームを買いに行く予定だったけど、Vのことがバレるよりはマシか。
「まぁ、いいでしょう」
「やった!」
「ただし、クラスの奴らとかも誘って、学校の友達たちと遊びに行ったってアピールするのが条件な」
「わかった!」
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「じゃ、行こっか!」
「ん?あぁ、うん」
俺が言った通りに、遥香は友人をたくさん呼んだのだが………ほとんどが、まともに会話したことのない奴ばっかりだ。
それに、俺の記憶が正しければ、遥香の連絡先を教えてくれと言ってきた奴もいる。
普通に疎外感を感じる。できることなら、今すぐ帰りたい。
「え〜、いいじゃん遊び行こうよ」
ふと聞こえてきた声の方に目を向けると、お姉さんがナンパされていた。
個人的には、面倒くさいから見なかったことにしたい気持ちと気づいてしまった以上は助けないと気になってしまうという気持ちが半々といったところだ。
待てよ?ここであのお姉さんを助けて、そのままこの集団を離れるというのはごくごく自然な流れなのでは?離れることができれば、そのまま帰ってもバレないだろう。
「あ、いたいた。姉ちゃん!」
「は?なにお前?」
「電話にもいっちょん出らんけん心配したんよ?母さんたちも待っとるんやけん早よ行くよ!」
弟のふりをしてお姉さんの手を引く。
よくラブコメとかで、ナンパを撃退する時に恋人のふりをしたりするが、家族のふりをする方がいいと思う。
家族連れの人をナンパするバカなんていないから。
ナンパされている女性を助けたとなれば、集団から一度離れても変じゃないだろう。
このまま適当に姉弟のふりをしながら彼らの視界から消えるまで歩いた後、駅に向かってさっさと帰ってしまおう。
明日、遥香に何か言われるだろうが、それは明日の俺に任せるとするか。
「あ、あの………!」
「あっ!ごめんなさい!もしかして余計なお世話でした?」
もしかしたら、あのナンパを断るつもりじゃなかったのかもしれない。それに、急に知らんガキに腕を引っ張られるとか恐怖でしかないよな。
悪いことをしたな。目先の利益に囚われすぎていた。
「本当にすいませんでした!それじゃ!」
「え?あのっ!」
お姉さんが何か言いたげだが、早くここを立ち去らないとヤバい。
間違いなく追手(遥香)が来ている。
改札さえ通ってしまえば俺の勝ちだ。
そう思いながら振り返ると、遥香がいた。
「悠ちゃん?どこ行くの?」
今からでも入れる保険があるんですか?あるわけないですね、クソが。よかったな明日の俺。お前の出番はなさそうだ。
「ハハハ、もちろん皆のところに戻るに決まってるじゃないか」
「そっか、なら早く行こ?」
遥香はそう言って俺の手を引く。
掴まれたところが痛い。どんな握力してんだよこいつゴリラかよ。
一応抵抗もしてみたが、勝てなかった。
普通に筋力で女の子に負けたのはショックだった。
ちなみにカラオケは、まともに話したことがない奴しかいないので、俺が歌いだしたとたんにシーンとなるわ、俺の隣に遥香が座ったせいで男共の嫉妬の眼差しが痛いわで地獄だった。カラオケって音痴でも許される場所じゃないの?




