1話 バ美肉Vになった
「はぁ………」
俺の名前は高橋悠介。年齢16歳。どこにでもいる普通の高校2年生。
最近、個人的には結構深刻な悩みがある。
「ため息なんてしてどうしたの?悠ちゃん。何か悩みでもあるの?」
彼女は皇遥香。俺の幼馴染で今をときめく現役バリバリのアイドル。
俺の悩みの大半はこいつが原因だ。
ただ一緒に帰っていただけで、パパラッチに抜かれて家バレしたり、その結果一部の熱狂的なファンの恨みを買ってなぜか俺がストーカー被害にあったり、挙げだしたらキリがない。
今回の悩みも一応こいつが関わっている。
「かなり前だけどさ、遥香の配信で来た質問にもし俺がそういう活動するならVtuberって話したの覚えてる?」
「覚えてるけど、それがどうかしたの?」
「カラーズプロダクション様からお誘いいただきまして………」
「あれ?そこって………」
カラーズプロダクション。
業界最大手でVtuberに興味がない人でも名前は知っている程の有名事務所だ。
これだけ聞けば、いいところしかないのだが、カラプロさんは簡単に言えばバーチャルアイドルグループというやつで、女性しかいない。
「そうだよ。女性Vのアイドル売りが主な事務所だよ」
「受けるの?」
「絶対に嫌だね」
女性しかいないところに男の俺が入っていったら、絶対に叩かれるのが目に見えている。
ただでさえ、遥香の個人チャンネルに俺の声がよく乗るのが気に食わない奴から、腰巾着だの金魚のフンだの言いたい放題言われるのに、これ以上叩かれたくない。
「まず俺男だし、企業Vって基本的に前世の話とかはNGじゃん?遥香と一緒に配信とかもできないわけだし。だから、企業は流石にごめんなさいかな」
「だよね!よかった〜。悠ちゃんがVtuberなんて私から離れるようなことするわけないもんね!」
「高橋、呼ばれてるぞ」
なんか不穏な気配を感じた気がするけど、気の所為だよな。うん、気の所為に決まってる。
それよりも、俺への呼び出しか………いつものじゃなければ嬉しいな。
「それで?わざわざ呼び出して何の用かな?」
俺を呼び出したのは、見覚えのない男子生徒数人。
同学年の男なら流石に顔くらいは覚えているので、おそらく上の学年の人だろう。
「先輩には敬語使えって教わらなかったか?」
「そんなのどうでもいいんで、早く用件言ってくれません?」
「チッ!お前さ、皇遥香の幼馴染って本当?」
「だったら何ですか?」
「遥香ちゃんの連絡先教えろよ」
いつものだ。俺が呼び出されるときは大抵、遥香の連絡先が欲しいか、俺が遥香と仲いいのが気に食わないのどちらかだ。
「嫌です。自分で聞いてください」
「教えてもらえなかったからお前に聞いてるんだよ。な?頼むよ。俺、今回は本気なんだよ」
拒否されているのに諦めない理由がわからない。
連絡先すら教えてもらえない時点で、脈無しだとわからないのか?
「無理です。諦めてください」
「なに?お前、俺が遥香ちゃんとくっつくのが気に食わないわけ?」
別に彼が遥香とくっつくのが気に食わないだとか、遥香にふさわしい男性を吟味しているだとか、そういうわけじゃない。
なんなら俺は、遥香には早く彼氏を作って欲しいとすら思っているくらいだ。
だが、それには問題がある。
「逆に聞きますけど、仮に遥香と付き合えたとして、それを誰にも言わないって誓えますか?」
「え?」
「遥香と付き合っていることが何処から外部に漏れるかわからないんですよ?正式に発表出来るまでバレずに過ごせますか?」
問題というのは、遥香のファンは熱狂的な人たちが多いことだ。
幼馴染の俺ですら遥香と一緒にいるだけで、何故か恨まれてストーキングされるのに、彼氏なんてなったら殺傷事件に発展しかねない。
「現役のアイドルと付き合うというのがどういうことなのか、よく考えてから出直したほうがいいと思いますよ」
「そ、そうか………」
「ご理解いただけたのなら幸いです」
急に会話がなくなってしまった。
なんか気まずいので、俺は足早にその場を去った。
「何の呼び出しだったの?」
「いつものだよ」
「なーんだ。ねぇ悠ちゃん、今日家に行っていい?」
「今日はバイトあるから無理」
「そっか〜」
遥香は残念そうな様子だ。
だが、今日だけは本当に勘弁してほしい。
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遥香にした、カラーズプロダクションからのお誘いを受けないという話。あれは嘘だ。
とっくの昔にお誘いは受けているし、なんなら今日が初配信だったりする。
正直言って、俺は遥香が嫌いだ。
ずっと俺についてくるし、その結果は俺に不利益しか生まない。
友人も気づけば遥香のところに行っている。
彼女ができても、常に遥香が近くにいるからすぐに別れることになる。
遥香といると、誰も俺を俺として認識してくれない。
遥香の幼馴染、遥香のお気に入り、いつも遥香の〇〇で、俺単体では評価されない。
あいつが存在するだけで、俺は俺でなくなる。
縁を切ろうとしたこともあった。
遥香がアイドルになって少しした頃、二度と俺に関わるなと伝えたら、泣きながらアイドルを辞めると言い出した。
事務所としては売れっ子で稼ぎ頭でもある遥香を手放したくないようで、金を払うから遥香との縁を切らないでくれと言われた。
遥香と一緒にいるデメリットより、働かずにお金が手に入るメリットの方が大きいので、今も俺は遥香の幼馴染でいる。
そう思わないとやっていけないのだ。
閑話休題。
「あ゛〜緊張する〜」
パソコンの画面に映っているのは、俺のガワだ。
髪の色はピンク色で長さはロング。ハーフアップにした髪を桜の簪で留めている。桜色に淡い若草色のグラデーションの着物を着た女性。現実の自分とは似ても似つかない姿。この姿で本当にやっていけるのか少しばかり不安になる。
今日は俺の初配信の日。
今、この瞬間から、俺はカラーズプロダクション所属のVtuber『春色皐月』としての活動が始まる。
「あ、あ〜聞こえてますか?」
・聞こえとるよ
・声可愛くね?
・男ってホンマ?
・聞こえた
・男はいらん
デビューするにあたって、少しでも燃えないように事務所と話し合って、バ美肉Vとしてデビューすることになった。
ボイチェンがあれば、遥香にもバレないしね!
世間の反応としては、女性Vの事務所からバ美肉Vがデビューする物珍しさに惹かれている人と、女性の中に男が入ることが気に食わない人で半々といったところだ。
「配信とか初めてで何もわからないんですけど、とりあえず自己紹介からいきますね!」
「この度、カラーズプロダクション様からデビューさせていただきました。春色皐月!現役DKです!よろしくお願いします!」
・DK?
・ド〇キー?
・バ美肉ゴリラ?
・バ美肉ゴリラwww
「おい待て、誰がバ美肉ゴリラじゃ。いや、それは置いといて、今日の配信内容なんですけど、事前に募集していた質問にいくつか答えたあと、雑談配信になります」
初配信で何をするのか思いつかなかったので、とりあえずQ&Aでお茶を濁すことにした。
「ということで、質問コーナーです。一応、質問者の方のお名前は伏せさせていただきます。最初はこれですね」
Q.パンツ何色?
・初っ端からこれかよwww
・誰だよ質問したやつwww
「はい、パンツはですね。黒のボクサーです」
・男じゃん
・マジで男なの?
みんなやっぱり俺の性別が気になっている様子だ。
「丁度いいですね。次の質問はこれです」
Q.男ってマジ?
・これ
・ほんとにどっち?
・男やろ
・いや、女やろ
「結論から言いますね。マジです」
・うそ……だろ……?
・嘘だッ!!
・やっぱり?
・男はいらん
視聴者たちも驚いている様子だ。
そりゃそういう設定だと思ってた奴がほんとに男だったら驚くよね。
・そういう設定でしょ?
「俺がVtuberである以上証明する方法がないので、ご想像にお任せします」
・なーんだそういうことか
・女ってこと?
・結局どっちなの?
「一応、俺は男を自称します」
・ほな男か
・男だってよ
・自称だから女でしょ
そんなに俺の性別がどっちなのか気にする必要あるの?
Vtuberってリアルの身体とか出せないから、性別とか証明できないの面倒だよね。
「さて、次が最後の質問ですね。これ気になります?」
Q.前世だれ?
・気になりはするけど………
・禁忌では?
・触れちゃいけないやつだろ
「前世の記憶とかないんでよくわかんないですけど、人類だったら農民とかじゃないですかね」
・よかった
・あってはいる
・間違ってはいない
「質問コーナーはこのくらいにして、ここからは雑談パートに入りますね」
今気づいたけど、もしかして雑談配信って初心者には難易度高いのでは?
何の話すればいいのかわからない。
「………雑談って何話せばいいんですか?」
・そこから?
・草
・普段、友達とするような感じで適当に話せばいいんだよ
・友達?
・ダメージ食らってるやついるぞ
友達とするような感じか。
いつも話してる感じでやればいいってことね。
「やっぱさ、事務所に所属したら先輩に挨拶するわけじゃん?」
・いいね
・そんな感じ
・そうそう
「で、俺さ、ディスコで挨拶したわけよ。そしたらね、俺、女やと思われてん。棒も玉もついとるのにさ」
・おっと?
・思ってたんとちゃう
・ちょっと友達過ぎない?
・友達過ぎる(迫真)
ダメじゃん。てか、友達過ぎるってなんだよ。
やっぱり話題が良くなかったのかな、流石に初配信で下ネタは不味かったか。
「じゃあ、俺がバ美肉Vになった理由でも話して配信終わりますね。………気になるよね?」
・気になる
・流石にね
・なんでバ美肉?
よかった、みんな気になってた。
ここで「クソどうでもいい」とか言われたら、泣きながら引退してたわ。
「理由って言ってもね、大したものじゃないですよ。ただ、事務所の人と話した時に普通に男としてデビューしたら燃えますよねーって話してて、バ美肉でデビューしたら面白くね?ってなっただけです」
・そんな感じで決まるものなの?
・軽すぎない?
・さすがに草
・もっとちゃんと説明して
「じゃ、配信終わりますね」
・逃げたな
・逃げたね
・逃げるな!!
逃げるのバレたか。
あ、明日からやる予定のことだけ伝えとかないと。
「逃げる前に1つだけ。明日から平日のみ、朝の7時から8時の間くらいに朝活配信します」
・逃げるの認めたぞ
・朝活?
・健康的だな
「今度こそ、配信終わりますね。おつです」
・おつ
・乙
・おつかれ
思ったより長く配信しちゃったな。
明日から朝活配信だし、ちゃっちゃと飯食って風呂入って寝るか。




