12話 長時間配信 夜
「助けて〜ママ〜」
「はーい」
・ママ!?
・おぎゃあ
・ばぶぅ
「これ、成人男性がやってると思うと鳥肌たちません?」
「あはは……」
・ママを困らせるなよ
・お前がオギャれって言ったんだろうが
・ワイらは言われた通りにしてるだけやから
「俺が風呂入って先輩が場をつないどる間やれって言っとんじゃ。なにが悲しゅうて俺は自分とこのリスナーがオギャっとる姿を見なあかんねん」
「これ、あたしいらなくない??」
「いるに決まってるでしょ、何言ってんすか。ねぇ、みんな?」
・もちろん
・当たり前
・とんでもねぇ、待ってたんだ
本当に何を言っているんだこの先輩は。俺が話すことなくなったから来てもらったわけだし、今の会話だって先輩が来てくれたおかげで発生したんだからいるに決まってるだろ。昨日の黒野先輩といい、なんで俺と関わる先輩はこうも自己肯定感低いんだろう。白沢先輩は例外だけど。てか、よくよく考えたら俺まだ3人しか事務所の先輩と関わったことねぇや。
「いや本当にいろんな意味で俺は淡井先輩に助けられてるんですよ。白黒先輩除いたら事務所で唯一俺と関わりある人なんですから」
「皐月ちゃんって……もしかしてお友達いない?」
「い………ま……すけどぉ?」
・^_^
・(^^)
・ナカーマ
・気にすんなって
「おうテメェら画面越しでよかったな。目の前にいたらしばき倒してたぞタコ共が」
「皐月ちゃん、言い過ぎ」
「俺の地元の方言でみんな大好きって意味なんですよ」
「流石に騙されないよ?」
「やっぱ無理かぁ」
・親子かな?
・母と娘
・息子だろ
「先輩は俺に同期の人とか紹介してくれてもいいと思うんですよね。てか、してくださいよ。もう少しでデビューから2カ月くらい経つのに未だ白黒+淡井先輩以外とチャットですらやり取りしてないの不味くないですか」
女性だけだった事務所の所属Vの中に男性を自称してボイチェン使ってる奴が入ってきたら触れづらいのはわかる、よくわかる。実際、俺は男だし俺と関わった先輩たちを少数とはいえ叩く人たちもいるからな。だが、これほどまでに他の人との関わりがないと、今度は不仲説が流れ始めている。こっちから話しかけにいけばいいのだろうが、悠介くんは初対面の人に話しかけるのが苦手なのだ。
「てことで先輩、同期の方紹介してくださいよ」
「それは青い方?それとも緑の方?」
「青が藍田で緑が萌木であってますかね?」
「あってるあってる」
・ナチュラルに色で呼んでるの笑う
・ママって偶に毒吐くよね
・ゴリラはしれっと呼び捨てしてるし
青い方の先輩が藍田愛梨先輩。青みがかった黒髪のショートヘアと日本人男性の平均身長を余裕で上回るほどの高身長が特徴的なクールでおっぱいのついたイケメン。リアルでも180あるらしい。この人のデビューがきっかけで、うちの事務所内の人たちのカップリングが下の名前二文字から色で表されるのに変わった。
緑の方の先輩が萌木若菜先輩。金髪ロングヘアーの一応森から出てきたエルフ設定がある人。エルフなのに名前はゴリゴリ日本人というのはこれいかに。白沢先輩に引けを取らないどころか勝っている可能性すらあるほどのギャンカスなことと、エルフ設定、メンバーカラーが緑色なことが合わさって、ファンに付けられたあだ名は面のいいゴブリン。一人称が萌木で、周りの人間からも萌木と呼ばれるので、フルネームを知らない人が多かったりする。
「緑の方でお願いします」
「へぇ、なんで?」
「ゴブリン相手なら気使わなくてよさそうじゃないですか」
・後輩に舐められてるぞゴブリン
・先輩として扱われてないぞゴブリン
・後輩にゴブリン扱いされてるの草
・この場にいないのに散々言われてるの笑う
「ちなみになんで愛梨ちゃんはダメなの?」
「ダメってわけじゃないですよ。俺がコミュ障なだけです」
「愛梨ちゃんが怖いの?」
「べつに大きくて無口だから怖いとかじゃないですよ?ただ話しかけるのに少しだけ勇気がいるってだけで……」
「今答え言ったよね」
「………風呂入ってきます」
・逃げたな
・逃げた
・野郎逃げやがった!
・逃げるな卑怯者!
危ない危ない墓穴を掘るところだった。実際のところ、萌木先輩は初対面の相手でもグイグイいける所謂陽キャ?というやつだ。対する藍田先輩は初対面の相手だと寡黙な女性といった印象。クールで無口なお姉さんと陽キャのゴブリンなら俺はゴブリンの方がいい。
「皐月ちゃん?」
「………」
「本当に行っちゃったの?」
・マジで?
・後は頼みます《春色皐月》
・本当に逃げてんじゃねぇか
先輩には悪いけど、もともとこのために呼んだわけだし、明日からは普通にこれまでどおりの生活が待っているから、今日はゆっくりと湯船に浸からせてもらおうかな。
「うわぁ……」
とは言ったものの、べつに先輩を信じてないわけじゃないが少し不安だったのでスマホで配信を確認しようとしたら、スマホに来ていたおぞましいほどに大量の不在着信に思わず声が漏れた。
発信者は遥香ただ一人。おまけにメッセージアプリにも「なんで電話でないの?」とかそういうメッセージがこれまた大量に来ていた。そりゃいつもなら1時間もすればメッセージに気づいてかけ直したりするけど、流石に怖い。最初は1時間くらい間隔空いてたのに、途中から数分置きとかにかかってきてるもん。こんなのネットの創作でしか見たことないよ。とりあえずかけ直そう。
「もしもし?」
「悠ちゃん……?」
電話をかけたらワンコールで出た。偶々なのかずっと待機してたのか、どちらかは分からないか、遥香なら待機してそうっていう謎の信頼感?がある。
「なんで電話に出てくれなかったの?ほんとに心配したんだよ」
「今日は朝からバイトでさ、スマホ見る暇なかったんだよね。ごめん」
この後、少しばかり他愛もない会話をして遥香との電話は終わった。「もう少ししても電話がかかってこなかったら家に行こうと思ってた」と言われた時は流石に背筋が凍った。
「こりゃもう湯船に浸かってる暇ないかな」
一方その頃配信は
「皐月ちゃん行っちゃったけど何話そうかな」
・第一印象
・会った時の話
「会った時の印象……うーん、べつに普通の男の子って感じだったよ」
・普通の男の子……
・ボイスの収録の日に会ったんだっけ
・姫たちと会う約束してたはず
「あっ、それであんな捨て犬みたいな雰囲気醸し出してたんだ」
・捨て犬……
・可愛いとこあるやんけ
・捨てゴリなのにな
・捨てゴリww
普段の配信より盛り上げられていた。
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「すいません!お風呂長くなっちゃって!」
「おかえり、全然大丈夫だよ」
・捨てゴリが帰ってきた
・おかえり、捨てゴリ
・捨てゴリww
「待って、マジで捨てゴリってなに?何話してたんすか先輩?」
「何って、皐月ちゃんと会った時の話してただけだよ?」
「どうやったらその話から捨てゴリにつながるんですか。捨てゴリってなんなんすか」
本当に捨てゴリって何?なんで俺は風呂入ってる間にわけのわからんあだ名つけられてんの?それはそれとして、風呂も上がったし先輩には感謝してお別れしないとな。
「そろそろ先輩ともお別れの時間ですかね」
「もうそんな時間?」
「1時間ちょっといたんじゃないですかね?」
・もうそんな時間か
・お別れか
・ママ〜
「お礼をしたいんですけど、何か欲しいものあります?」
「逆に何までならくれるの?」
「うーん、次に俺が出すボイスの内容決定権くらいなら」
「じゃあそれで」
・即答!?
・即答過ぎて草
「OKです、じゃあすいません、ありがとうございました」
「こっちこそありがとう、またね」
・ばいばい
・さよなら
先輩のおかげで今日の配信がここまでもって、視聴者も先輩が出てからあからさまに増えた。ありがたい限りだ。
「ということで今日の夕飯ね、1日経ったカレーだよ」
・手抜きじゃねぇか!
・手抜き
・めちゃくちゃ手抜きやんけ
「うっせぇな!1人暮らしで自炊してるとこんなもんなんだよ!」




