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流星群  作者: こでまり


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9/11

稲田家の闇 前編

鍋島は今西との待ち合わせ場所であるホテル星華の敷地内あるカフェに来ていた。

「どうぞ」

 バリスタの松本が新作だというコーヒーを入れてくれる。

 一口飲むと苦みがなくまろやかな味が口いっぱいに広がり、疲れた身体に染み渡る。

「どうですか?今回、自分で豆から仕入れて焙煎したんです」

「香ばしい香りがして、味は苦みがなくていい」

鍋島は感想を言うと松本は嬉しそうに笑顔を見せた。

「佐伯さんのケーキに合わせたかったんです。今度のイベントで出そうと思っていて」

松本が言う。

「菅田さんから連絡がありました。今回のイベントもかなり力が入っていますね」

鍋島は先日、菅田から聞いた話を思い出す。

「そうです。佐伯さんはケーキバイキングをすると言って張り切っていますから」

凄いですよねと松本が言う。

 毎年春にこのホテルの敷地内で開催されるイベントは町おこしの一環となってこの地域の特産品が野外テントで販売される。その期間のホテル内でも地域の食材を使った料理やスイーツなども販売されるとあってかなり賑わうイベントではある。

 松本とたわいない会話をしているとざわついていた心が落ち着いてきた。

 鍋島は澤谷との話を思い出して頭で整理する。

手帳にまとめた内容を書いていると今西がやってきた。

「鍋島さん、お待たせしました」

「大丈夫だ。収穫はあったか?」

「それが……稲田拓人は確かに貴子の子供みたいです。ただ、貴子は結婚前から付き合っていた男性がいたようで」

「やはりそうか。拓人はその男との子供の可能性があるのか?」

「それが櫛田の爺さんも詳しいことは分からないって言っていました」

今西が言う。

「澤谷さんも同じようなことを言っていたが拓人は貴子が産んだのは間違いないそうだ。それに洋平は稲田家の前当主に言われて貴子と結婚したそうだ」

「洋平は貴子が見染めたんじゃなかったのですか?」

今西が驚いている。

 鍋島も澤谷から話を聞く前までは貴子が洋平を選んで婿養子に入ったと聞いていた。それが結婚前に別の男性とつきあっていたのなら洋平を選ぶ必要はないはずだ。調べれば調べるほど納得できない疑問が増えてくる。

「もう一つ、洋平は再婚だ。貴子と結婚する前に妻子がいたようだ」

鍋島が澤谷から聞いたことを伝えた。

「それは串田さんも言っていました」

鍋島はやはり昔からこの街にいる人間は知っている内容だと思った。

それなら貴子と洋平の結婚した経緯はもう少し調べればもっとわかるはずだ。

「どうやら拓人は貴子の子供なのは確かだが、相手はわからないのと、貴子の子供の父親に、としたのが洋平みたいだ。それも前当主と貴子が決めたことらしい」

鍋島が澤谷から聞いたことを伝えた。

 今西はコーヒーカップを口元に運ぶ途中で止まり、眉間に皺が寄せて振り向く。

「もしかして、貴子のせいで離婚したとか?」

今西が驚きを隠さず聞いてくる。

「前当主に離婚させられたと聞いた」

今西は大きなため息をついている。

鍋島はこれ以上聞き出せなかったと伝える。

「洋平の前妻と子供は離婚後もこの街に住んでいたが貴子の嫌がらせが続いて街を出ていったきり行方が分からない」

鍋島が言う。

「貴子は付き合っていた男がいたのに既婚者の洋平を離婚させてまで結婚したのはどうしてですか?」

「澤谷さんもそこまで詳しくは知らないみたいだった」

 鍋島が言うと今西もその答えを導き出せないでいた。

「鍋島さんたちは別荘火災のことを調べているのですか?」

 それまで二人の前で静かにコーヒーをたてていた松本が聞いてくる。コーヒーの香りが店に充満していた。

「稲田拓人のことを調べていてね」

 鍋島は詳しく説明できないので誤魔化す。

「この人のこと何か知りませんか?」

 今西は昔撮った拓人の写真をタブレットに映し出し松本に見せていた。今西にとってあまり意図しない行動だったのだろうが、それが思わぬ収穫をもたらす。

「この人が稲田拓人ですか?」

 松本はコーヒーをたてながらタブレットを覗き込む。

松本はこの街にきてから二年くらいだ。実物の稲田拓人を見たことがなかったのだろう。

タブレットを凝視している。

「半年くらい前に撮った写真ですが」

今西が伝える。

「僕、この人見たことがあります」

松本が点てていたコーヒーを片付けながら言った。

「どこで?」

 この街で暮らしていればどこかで見ている可能性もある。その為あまり期待しないまま今西は聞いていた。

「東京です。先週コーヒー豆を仕入れに行ったときに見かけました。なんか女性と言い争っているような感じでした」

「先週?」

 今西が聞き返していた。

松本は二人がどんな話をしていたのか思い出せるだけ思い出して話してくれた。

拓人の顔をした男と一緒にいた女の会話はお金の話である人に会いに行けばお金を取れるとかそれで海外に行くと言う話をしていたと話していたそうだ。

その話の流れで稲田拓人と思われる人物の特徴と一緒にいた女性の特徴も話してくれた。

今西はその話をメモしていた。

 鍋島はその様子を静かに見ていたがふと思い出して先程撮った写真を松本に見せた。

「もしかしてその女性はこの人ではないですか?」

松本が嘘を言っているようには見えない。

松本が言っていた女性の特徴に似ていたので鍋島は先程、タナカの家から出てきた女性の写真を見せて聞いてみた。

「そうです。この女性です」

鍋島は注意深く見ていると松本は何かを思い出す。

「あれ? 別荘火災はもっと前ですよね。見間違いかな……」

 松本は言いかけて自信が無くなったようだ。だが、松本は人の顔を判別する能力に長けていることは鍋島自身断言できる。

 先週、本当にこの顔の男が東京にいたのなら、海で発見されたイナダタクトがその人物なのかもしれない。

「ちなみにそれはどこで見かけたのですか?」

 鍋島は僅かな希望をもって聞いていた。

「新宿駅の近くのカフェです」

 稲田拓人が別荘火災前にこの街から出ていったことは一度もないはずだ。それならどうことか?それとも本当に稲田拓人ではない可能性もあるとしたら、どうして同じ顔をしていたのかと考えていた。

松本の話からイナダタクトとあの女性は誰かを脅してお金を取ろうとしていたようだ。

そして海外逃亡をしようとしていたのなら海外行きの航空券を手配したのはあのイナダタクトだろう。

それにしても一緒にいた女性は誰だろうか考えていると佐伯がケーキを持ってやってきた。

「今度の新作です。よければ感想をきかせてほしい」

 鍋島と今西の前に置かれたのは栗のミルフィーユだった。

 鍋島は丁度甘いものが食べたかったので遠慮なくいただくことにした。

「いただきます」

 何層にも重ねられたパイ生地の間に栗のクリームが挟まっている。クリームの中にも栗を砕いたものが入っていて食感を楽しめた。

 鍋島の手が止まる。

 パイ生地だと思っていたのが違っていた。佐伯を見ると気づいたかという笑みを浮かべる。

「クッキー生地と飴細工で栗のクリームを挟んでいるんですよ。なんちゃってミルフィーユです」

 佐伯が笑顔で言う。

 鍋島はもう一度ケーキをみた。パイ生地だと思っていたが違っていた。なんちゃってミルフィーユ……。

佐伯が何の理由もなくこの話をするとは思えない。

 本当の話に嘘の話を巧みに混ぜ合わせるとそれらしき話になるんじゃないか?それじゃあ、何が本当でどこが嘘なのか突き止める必要がある。

早速、鍋島は手帳に箇条書きで要点を書き始める。

「あ~!」

 今西が急に声を上げる。

 見るとケーキの一番上に乗っていた甘く煮込んだ大粒の栗がケーキから落ちていた。

「大丈夫ですか?」

 松本が慌てて取り換えようとする。

「大丈夫です。お皿の上に落としただけですから」

 今西がそっとフォークで栗を拾い上げ口に運び、咀嚼しながら笑顔を見せた。

「すみません。栗を取り損ねました」

 苦笑いする今西を見て何か気づいたように思えたが、すぐに何事もなくケーキを頬張っていた。

 ここでは言えない何かだと長年の付き合いで分かる。鍋島もケーキを食べて佐伯に感想を伝えると佐伯が鍋島のスマホを見た。

「この女性は?」

佐伯が聞いてきた。

「稲田拓人の同級生の家にいた女性です」

鍋島が言うと今西も覗き込む。

「この女性は拓人の知り合いだと思う」

佐伯の言葉を聞いて鍋島は何かが引っ掛かる。

「拓人の知り?」

鍋島が聞き返す。

「拓人と一緒にいるのを何度か見たことがある。確か、拓人の母親が入院している病院の看護師のはずだ」

佐伯の言葉を聞いて鍋島は混乱してきた。

鍋島は先程のアパートの表札を思い出す。

表札にはタナカとしかなかったがあの女性は部屋の鍵を持っていた。

佐伯の話を聞いた時、拓人の恋人かと思ったが拓人の同級生の田原の家にいた。

そしてあの女性は拓人の母親が入院して病院の看護師だという。

松本が言っていた男はタナカだとしたらあの女性とはどういう関係なのか。

何かが繋がりそうではっきりしない。

「稲田拓人を調べているのか?」

佐伯が聞いてきた。

「そうです。詳しいことは言えないのですが、別荘火災で死んだのが稲田拓人ではないと思いまして」

鍋島が説明する。

「どうしてそう思うんだ?」

佐伯が聞いてくる。

「稲田拓人の両親が拓人のDNA検査を拒んでいるので、どうしてかと思って」

鍋島が理由を言う。

「拓人は洋平の子供ではないからだろうな」

佐伯が言う。

「洋平の子供ではない?」

佐伯は何か知っているのではと期待する。

「拓人が生まれる前に東京から数人で遊びに来ていた大学生の一人が貴子と一緒にいるのを街の何人かが見ていたんだ。その二か月後くらい後にその男は急に行方がわからなくなったらしい。警察も調べたが荷物もそのまま残されていたことから行方不明のまま捜査は打ち切りになったはずだ。そのすぐ後に貴子が洋平と結婚した。その頃、噂になっていたのがその行方不明になった大学生が拓人の父親ではないかと言われていてその男は逃げたのだと話になっていたんだ」

佐伯の話に鍋島は澤谷から聞いた話を思い出す。

「洋平は稲田の前当主に言われて離婚して貴子と再婚したと聞いたのですが」

鍋島が澤谷から聞いた話しを確認する。

「洋平は嵌められたと噂があった。洋平は駅前にあった地銀の営業をしていたんだ。その流れで稲田家の資産管理を担当していたらしいが、前当主に騙されて巨額の損失を出したらしい。洋平はその責任を取る為に前当主の言いなりだったと聞いたことがある」

鍋島は佐伯の話にモヤモヤする気持ちを抱えて、コーヒーを飲みほした。

松本が二杯目のコーヒーを淹れてくれた。

今西がこっそりとタブレットを見せてきた。

貴子が入院している病院のHPだ。病院の紹介のページに先程の女性が載っていた。

佐伯は鍋島を見て笑顔を向けてきた。

鍋島はこの看護師を調べたほうがいいと確信する。佐伯は何か知っているはずだ。しかし、確証がないか何か事情があって口外できないのだろう。

「佐伯さん、この女性のことで何かご存知ではないですか?」

鍋島はダメ元で聞いてみた。

「あの看護師は拓人の恋人だと思うぞ」

佐伯の言葉にますます混乱してきた。

今西はまだ病院のHPを見ていた。

「この女医、美人ですね」

今西が言うと佐伯が画面を見て言った。

「貴子の主治医だ。望月病院の院長の娘でかなり優秀だそうだ」

鍋島はその言葉を聞いてやはり貴子は病院を抜け出せなかったのではないかと思い始めた。


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