表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寝落ちで無双〜理不尽にクビにされた社畜が、睡眠スキルで最強の探索者になった件〜  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/58

第58話 浴びる支援は劇薬級

朝のタワマンのリビングに光が差し込み、コーヒーメーカーのランプが緑に変わるいつも通りの朝だ。

カップに注いで一口飲んだが、昨日の夢の世界での消耗がまだ残っているらしい栞は寝室にいて、珍しく起きてくるのが遅い。

俺はソファに腰を下ろしてステータスボードを開いた。

いつも通りの画面だが一つだけ確認したいことがあり、スキル欄を開く。


【睡眠】

【収納】

【身体能力強化Lv3】

【火属性魔法(初級)】

【すり抜け連撃】

【合成】

【以心伝心】


ずっと空白だった【以心伝心】の説明文が、変わっていた。


『効果:睡眠スキルと同期したバディとの完全連携を可能にする。夢の気配が濃いほど出力が上昇する』


不明から説明文が埋まっており、欠片が二十個揃って夢の世界で使い切って初めて意味が分かった。

俺はボードを閉じた。



寝室のドアが開き、髪がまだ少し乱れて目が半分しか開いていない栞が出てきた。

「……おはよう」

「おはよう。コーヒー、淹れるか」

「お願い」

俺は立ち上がってもう一杯淹れ、渡すと栞は両手で受け取って一口飲んだ。

「……体は大丈夫か」

「平気。ちょっとだるいだけ」

ソファに座って少しの間コーヒーを飲みながら、窓の向こうに池袋の朝が広がっている明るい外を見た。

「今日、潜るか」

「当然でしょ」

栞が即答する。

「体がだるくても?」

「動けるわよ。それに、配信も再開しないと」

そうだった。

最深部と夢の世界での空白時間が視聴者には見えていないため、コメント欄が何を言っているかまだ確認していない。

スマホを開くと配信関連や掲示板、あとは烈から一件と通知が溜まっており、掲示板を開いた。


探索者掲示板 寝落ちニキスレ Part.412


1001 名無しの探索者

配信が途切れてる間、何があったんだ

Sランクダンジョンの最深部で電波が切れてたのは分かるけど


1002 名無しの探索者

その後も長かったよな

いったいどこ行ってたんだ


1003 名無しの探索者

戻ってきたらしいけど

スマホに返信してるのは確認されてる


1004 初心者マニア ◆fAnAtIc.Yu

最深部の先に何かあったんだろ

道標の石が最後に反応を止めたのはあそこだったはずだ


1005 名無しの探索者

初心者マニアさん情報持ちすぎでは


1006 名無しの探索者

ていうか最近世界中のダンジョンの魔力密度下がってるってニュース見たか

なんか関係あるんじゃないか


1007 名無しの探索者

まさかな


1008 初心者マニア ◆fAnAtIc.Yu

まさかかもしれないし

まさかじゃないかもしれない


俺はスマホを置いた。

「掲示板、賑やかだな」

「どうせ初心者マニアが何か言ってるんでしょ」

「大体合ってるのが怖い」

栞が呆れたように笑った。



身支度を整えて池袋ギルドへ向かい受付カウンターへ近づくと、顔なじみの受付嬢が俺たちを見て今度は止まらなかった。

ただ深く頭を下げた。

「おかえりなさいませ」

昨日の「行ってらっしゃいませ」の続きみたいな言い方だった。

「ただいまです。今日から配信再開します」

「……はい。お待ちしておりました」

ダンジョンの魔力密度が下がっていることはギルドにも届いているはずで、原因は分からなくても何かが変わったことは分かるのだろう、受付嬢の声が少しだけ違った。

手続きを済ませて転送陣フロアへ向かった。



Sランクダンジョンの入口でドローンを起動すると、コメント欄が一気に流れ始めた。


『戻ってきた!!!!』

『生きてたか!!』

『どこ行ってたんだよ! 心配したぞ!』

『神城さんも無事!!』

『ずっと待ってた』

『配信再開!!』


古参も新規のコメントも流れてくる中、俺は画面の端に流れるコメントを横目に扉に触れた。

指先がじんとする感触はまだある。

「変わらないな」

「そうね」

栞が骨杖を構えた。

「行くわよ」

「ああ」

扉を押し開けた。



空気の密度、足音の吸われ方、魔力の圧迫感。

Sランクダンジョンは独裁者がいなくなっても変わらず、重さが変わっていなかった。

「……ここは別に軽くなってないな」

「独裁者がいなくなったのは夢の世界の話だもの。現実のダンジョンはそのままよ」

「まあそうか」

俺は前を見た。

「じゃあやることは変わらない」

「ええ」

いつも通りだ。

前方から暗紫色の甲殻を持つ四足の魔物が現れたが、三度目の顔でもう動きは分かっている。

「行くぞ」

目を閉じた。



コマンド空間に落ちるが、夢の世界ではなく現実のダンジョンだから当然で、灰色ではなく真っ黒な空間だ。

栞が隣に立っている。

「いつも通りね」

「ああ」

コマンド画面が浮かび、白枠があるいつも通りの画面だ。

ポン、と澄んだ電子音が鳴る。



動きは翠嵐の刃の時と似ているが、Sランクダンジョンの夢の気配の中で夢渡り加速の付与がわずかに反応しているらしく速度が違う暁嵐の刃が動いた。

相手の継ぎ目を捉え、装甲貫通(極)の効果が乗っている深淵の魔刃が差し込まれ、一手少なく倒れる。

パチリ、と目を開ける。

「……さらに手数が減った」

「暁嵐の付与が効いてるわね。ここは夢の気配が混じってる」

「Sランクダンジョンの深部だから、夢の気配が濃いんだろ」

「ええ。使えばいいじゃない」

使えるものは使う、それだけだ。

コメント欄が沸いていた。


『帰ってきてもSランクで潜るのかよ』

『しかも昨日より手数少なくない?』

『武器が変わってる! 名前が違う!』

『暁嵐の刃? 深淵の魔刃?』

『神城さんの杖も変わってる!』

『どこで強化したんだ!!』


古参リスナーが解説を始めていた。


『つむぎさんとこ行ったんだろ 絶対そう』

『Sランク素材で強化したやつだな』

『また規格外のもの作ってきた』


概ね正しい。



昨日一度来た道で体が覚えているため、遭遇戦をこなしながら深層へ向かった。

六体目を倒したあたりで栞が言った。

「SP残量、昨日より余裕があるわ」

「武器が変わって手数が減ったからだな」

「このペースなら最深部のさらに奥まで行けるかもしれない」

「今日は様子見でいい。急がない」

「珍しいわね、慎重なこと言うの」

「急いで失敗するより、確実に積み上げる方がいい」

栞が少しだけ笑う。

「社畜時代に学んだこと?」

「……まあ、そうかもな」



石造りの小さな空間であるセーフエリアで短い休憩を取り、壁に背をもたれて水を飲んだ。

隣に座った栞が骨杖を立てながら言った。

「ねえ」

「何だ」

「以心伝心の説明文、読んだ?」

「今朝読んだ」

「夢の気配が濃いほど出力が上昇するって書いてあった」

「ああ」

「つまり、夢の世界に行くほど私たちは強くなる」

「そうなる」

栞が少しの間、杖の先端の白い結晶を見つめた。

「……カルーンが待ってると言ってたわね」

「ああ。また行く」

「次はもっと景色が変わってるといいわね」

「そうだな」

俺は立ち上がった。

「行くか」

「ええ」



昨日引き返した地点を越えてさらに奥へ進むと、通路の空気が変わって夢の気配が濃くなり、暁嵐の刃の付与が反応する感触があって速度が上がっている。

遭遇戦をこなしながらさらに奥へ進むと、視聴者が息を呑んでいるのかコメント欄が静かになっていた。


『昨日の到達点越えた』

『どこまで行くんだ』

『初心者マニア ◆fAnAtIc.Yu 行けるところまで行くだろ あいつらは止まったことがない』


それだけだったので、俺は前を見たまま歩いた。



昨日見た最深部の扉の先からさらに続く通路の奥にある、天井が高く床に紋様が刻まれた広い新しい空間に出た。

SP残量がまだあって戦えるが、今日は探索して終わりにしてここまでだと思った。

「今日はここまでにする」

「分かった。引き返しましょう」

栞が即座に同意し、俺が「今日はここまで」と言えば栞は確認しないという信頼の形がそこにある。



来た道を引き返してダンジョンを出ると夕方の光が差し込んでおり、池袋の街がいつも通りそこにあった。

ドローンを止める。

コメント欄が最後に流れた。


『おつかれ!!』

『今日も最高だった!』

『また明日も来るんだろ?』

『待ってる』

『おかえり寝落ちニキ』


最後の一行を見て、俺は少しだけ口角が上がった。



タワマンへ帰り着き、装備を外してリビングに腰を下ろした。

栞がキッチンで夕飯の準備を始めている包丁の音や、フライパンが火にかかる音がする。

俺はソファに背を預けてステータスボードを開いた。

いつも通りの画面だが、今日新しく気づいたことが一つだけある。

【以心伝心】の下に、文字化けしていてまだ読めない薄く表示されている何かがあり、新しい何かが始まりかけている。

俺はボードを閉じた。

「飯、何だ」

「鶏の照り焼き。文句ある?」

「ない」

「じゃあ黙って待ちなさい」

フライパンが火にかかる音がした。

明日また眠り、選んで起きて拾う、それは変わらない。

それだけでここまで来たし、それだけでまだ先へ行ける。

窓の外に池袋の夜が広がっており、道標の石は収納の奥で役目を終えた静けさの中で静かに眠っている。

俺は今日も目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ