3/27 死にたいっちゅー訳ですよ。
春も早々、進学に伴って引っ越しをしたあなたは、人生で初めて一人暮らしを始める。
窓を開け春一番の空気を吸い込むと、肺いっぱいに広がる故郷とはまるで違う匂い。
胸の奥底に残った一縷の寂しさが春の匂いと共に渦巻いてたまる。
時刻は昼頃、ベランダから戻り、時計を見たあなたは昼食どきだと思い至る。
ここ2日は荷解きに手一杯で外食ばかり、1人で好き勝手注文するのはそれなりに新鮮だったが、それはそれとして一人暮らし。
バイトもまだ見つけてない今、外食ばかりでもいられない。
キッチンに1人立つ。
実家から持って来た食料箱を漁り、簡単に作れそうなものがないか探す。
カレー、シチュー、チャーハン…どれもそれなりに面倒くさそう。
何か適当に簡単にできそうな…ああ。
パスタでいっか。
そうしてあなたの手に収まったのがパスタが入った包装だった。
とはいえ一人暮らし、初めての自炊はそれなりに難航する。
鍋をコンロに置いて水を入れる。しかし、どのくらいの水が必要なのか見当もつかない。実家では気づけば母親が全て準備してくれていたため、その一歩手前の工程がまるで分からない。
多すぎるよりか…と浅めに水を張る。
水がじわじわと温まり始めた頃、パスタを茹でるときは塩を入れるという知識を思い出す。
スマホで検索すると「水1リットルに対して塩小さじ1〜2」とあるが、適当に入れた水の量など測っているはずもない。
思うがままに塩をひとつかみ入れる。
思っていたより多く入った気がするが、もう沈んでいった塩は回帰しない。
パッケージから乾麺を取り出し、束になったパスタを手に取る。「一食分約100g」という表記を見ても、量りを持ってきていない今、全く参考にならない。親指と人差し指で輪を作り、このくらいかと束を掴む。
しかし、昨晩からろくに食べていない空腹感が頭をよぎる。
それに乾燥した状態から茹でると水分を吸って柔らかくなる分、かさが減るような気もする。
足りないよりはマシだろう。
さらにもう一掴み追加する。
数分後、茹で時間を計っていたタイマーが鳴り、火を止めてザルにパスタを移す瞬間、目を疑うような光景が現れる。
乾燥していた時にはあんなに細く頼りなかったパスタたちが、お湯をたっぷりと吸い込み、まるで意思を持ったかのように自己主張を始めている。
どう見ても三人前、いや四人前はありそうだった。
実家から持ってきた一番大きな皿に盛ろうとするが、パスタは堆くそびえ立った。平皿一枚では到底収まりきらない量が、鍋の中に大量に鎮座している。
こうして出来上がったパスタの山はやがて黒く染まり、そして頭の上で溢れた。
つまり何かというと、記念撮影の時の私の髪型という訳で。
バイク免許申し込みに次いで私が先送りにした散髪の予約。
前回が成人式だった事から分かる通り、今の私の髪は頭部を覆い尽くすように溢れかえっている。
風に煽られ盛り上がる私の髪の毛、眩しそうに細める目は右目しか見えておらず、ある種妖怪のような様相を呈している。
この惨状は、春の空気すら浄化できそうにない。




