10/9 怠惰VS勇気
「怠惰」が“それ”を振り下ろした時点で、「勇気」は水面を思いっきり蹴り出した。
波紋。
次ぐ水飛沫。
振り下ろされた特殊警棒は水の中で瞬時に縮み、逆手に持ち替えられたそれを怠惰は振り向きざまに振り抜いた。
バックステップで充分な間合いを取ったと思われたその距離は、怠惰の手の中で伸びた特殊警棒によって無為と化す。
しなりながら命中したそれがもたらす激痛に身を屈める勇気。
好機とばかりに怠惰は距離を詰め、屈んだ頭に前蹴りを放った。
勇気はミートをずらしていた。
正中をずれて擦れる脚先を勇気は左から襲撃する。
怠惰は前蹴りのベクトルを抑えきれない。
2撃。
ほぼ同時の衝撃と共に怠惰は吹き飛ばされ、前蹴りの勢いも相まって思い切り手足を絡ませて転がった。
勇気は追撃の手を緩めない。
走りざまに転がっていた鉄棒を拾い上げ、手の中で回転させて倒れ伏す怠惰に振り下ろす。
怠惰は既に体勢を整えていた。
左手を地面に押し当て、回りながら鉄棒に靴裏を合わせる。
ウインドミルの応用だった。
衝撃分散のため緩く保持していた鉄棒は手の中で弾け、反作用の勢いのままに勇気の脳天に帰る。
咄嗟に腕を振り上げ背後に飛ばしたが、怠惰の足は既に眼前に迫っていた。
防御は間に合わない。
勇気は怠惰の足をモロに食らった。
鼻血を噴き出し後方に吹き飛ぶ勇気。
背中への激痛と共に背後で鉄棒がけたたましい音を立てて転がった。
手足の感覚が痺れたように遠くなる。
起き上がれないままもがく勇気を前に、怠惰は特殊警棒を再度伸ばし、スイッチを入れた。
スパークが走る。
仄暗い空間で、それだけが青白く光を保つ。
勇気は血の混じった痰を吐き出し、鼻を鳴らした。
「高かったでしょ。」
怠惰は一瞬足を止め、特殊警棒を手の中で一回転させた。
「ジモティーで126,000円。」
「セールストークは?」
「必殺!」
特殊警棒が手の中で回る。
バレリーナのように横回転しながら斜めに振り下ろされたそれに、勇気は必死に転がって回避した。
怠惰の連撃は止まらない。
回転はそのまま攻撃速度の速さに直結し、それはますます速度を上げている。
起き上がる隙が発生しない。
耳の横で弾けたスパークは地面に伝播し、赤みと焦げ臭い匂いを発生させている。
勇気は転がりながら上着を脱ぎ両手に絡めると、命中の寸前後中心を盾として電気警棒を受け止めた。
瞬時に燃え上がる上着。
特殊警棒に燃える上着が絡まり、怠惰は舌打ちをしてそれを放った。
その隙に立ち上がる勇気。
互いに構え、ジリジリと距離を詰める。
足へのダメージ以外ほとんど無傷の怠惰に対し、勇気は顔面に食らった蹴撃がなお存在を主張してきている。
ふと、耳に激痛が走った。
先ほどの電気警棒のスパークで火傷していたらしい。
思わず顔を顰めた勇気に、好機とばかりに怠惰が突進する。
身を屈め、タックルの姿勢で勇気の腰に組み付く怠惰。
足が浮き上がり、勇気はそのまま地面に引き倒された。
口から空気が漏れる。
トドメを刺そうと怠惰が拳を振り上げた時、勇気の手の中にあったボールペンが目に入った。
目を見開く怠惰。
上着にずっと入っていたものだった。
引き倒された状態で思いっきり突き刺したそれは怠惰の脇腹に深く入り込み、腹部大動脈を貫通した。
か細い高音を漏らした怠惰は、よろけたように勇気のマウントポジションはずれ、数歩歩いて座り込んだ。
土埃を叩き、勇気が怠惰の前に立つ。
「私は死なない。」
「知ってる。」
「ここで殺したとしても、どうせまた私は生まれ変わる。」
「知ってる。」
「生まれ変わって、絶対に殺してやる。」
「知ってる。」
怠惰の声が薄くなる。
地面に血の海ができている。
「生まれ変わって、また…姉ちゃんの……」
「……知ってる。」
俯いて動かなくなった怠惰を前に、勇気は背を向けた。
……
…と言うことが今日午後イチで就活があった私が12:59に目を覚まして13:00に腫れた目つきでカメラの前に立つまでのあらましであり、また明日の予定が早いために21時に眠りについた私が午前2時に起きてから脳内で行われている戦いの全てである。




