8/27 塔2
堆く聳え立っていたかつての塔は、今や足元に放られた幾つもの峰と共に小さく崩れ去っていた。
綾鷹濃い緑茶525ml×24ペットボトルのダンボールタワー。
外気温の上昇と共に静かにその体躯を虚飾へと変貌させていたその塔は、エアコン交換に伴って今や20cmほどのサイズに縮こまっていた。
ダンボール箱をひっくり返す。
一抹の期待も一笑に付すかのように空になったダンボールは何の反応も見せず、すぐに本来の形に畳まれた。
リビングに戻る。
確かリュックの中にはインターン先でもらったラベルを剥がした水ペットボトルがあったはずだ。
焦る体を抑え、思惑通りリュックを漁る手がそれを掴んだ時、若干の安心を覚える。
キャップを取り、一気に飲み下した。
一息つき、デッキチェア(室内)に座る。
困った。
お茶がない。
水をもう一口。
一時期は私に無限の何たるかを示していた綾鷹濃い緑茶525mlペットボトル群が完全に尽きた。
いつ供給量を消費量が上回ったのかは確かではない。
だが、気づいた時には2ダース入のダンボールのストックが1段になり、そして次の定期便を待つ間もなく尽きた。
積み上がるダンボールタワーがその認知を遅らせていた。
上へ上へと伸びゆく空ダンボールは、中身の詰まった本来のストックダンボールに紛れ、実際の数よりも多くの認識を私に与えていた。
冬ごろに消費が間に合わず4段ほど重なっていたの災いした。
部屋を片付け、ダンボールを持ち上げる重みが減っていても、私の中で綾鷹濃い緑茶525mlペットボトルは無限の象徴だった。
誰が呼吸する空気の残量を気にするだろうか。
誰が踏みしめる大地の対荷重を気にするだろうか。
失われるはずが無いという先入観が、その日が迫っている事を気づかせなくさせた。
お茶がない。
私の腹は極めて軟弱かつ軽薄である。
私の期待に応えたことなど過去一度もない。
Web面接中とテスト中に激痛をもたらしたこの腹の事を私は一生信用できない。
だが、そんな私でもわかっている事がある。
水道水を常飲すれば、腹を下す。
私の腹は負の信用にかけては世界一である。
日本の浄水技術を持ってしても、私の腹は故郷から幾許か離れたことによる変化を許容できない。
ペットボトルの水分が必要だ。
私の腹が無限に許容できる綾鷹濃い緑茶が必要だ。
だが、次の定期便までは日がある。
綾鷹濃い緑茶が切れて2日、私の腹は既に弛み始めている。




