8/19 ニギニギコハクンチョス
私の前世はきっと川の精か何かだったのだと思う。
流れ行く川のせせらぎに漂う川の精。
陽はゆらめく水面に複雑に反射して、隠れたり輝いたり、体の中を通って消えていく。
流れに身を任せ、あるがまま、めくりめく日々の中をぼんやりとたゆたう。
そんな川の精が何の因果か囚われ、恐ろしい魔法使いに名前を奪われ、何や勘や従えさせられ、本来の名前も忘れたところで迷い込んだ人間の少女に名前を取り戻してもらい、そして思い出すのだ。
「千尋、ありがとう。わたしのほんとうの名は、ニギニギコハクンチョス…」
つまり、私の本当にあるべき姿とは流れに身を任せただ揺蕩うものであり、無理やり現代社会に押し込められた身としては、電車の中でボーっとしていたら駅を二駅ほど逃したことも、反対方向の電車に乗ったら最寄りのホームは乗り込んだ方向と真逆で30人くらいを押し除けて無理やり出ざるを得なかったことも、ポテチを買いに入ったコンビニで無性に野菜ジュースが飲みたくなり衝動のままに買って飲んだことも、帰り道で飲み切ってしまったせいで潰した紙パックを持って歩く化け物になったことも、風呂に入ってシャンプーを出そうとしたらリンスで、もうしょうがないからついでにシャンプーも出して手の中でシャンプーアンドリンスを錬成したことも、何もかも全ては流れに身を任せてただあるがままに生きる川の精のせいであるから致し方ないのだ。




