8/2 四分割サレタ高度ナ詐欺電話
その年の夏は妙に息苦しかった。
過剰な熱に世間が辟易したのもあった。
我慢はとうに限界に達し、爆発も目前だった。
府中のウェザーリポートが1200℃を指そうとしていた頃、とある発明が為された。
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私の肉体を見た医者のT氏は言った。
「あー、こりゃダメだ!」
大袈裟にひっくり返ったT氏に、私は少なからず不快感を覚えた。
コンビニに向かう道の途中、デカデカと掲げられた『超絶!絶対的無比超絶技巧超絶絶対安全医院』の看板に釣られて入ってきたものの、ただ腹を見せただけでそう言われては、来たのを後悔するのも当然だろう。
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便利とは、不便が削減された状態である。
また、幸福とは、不幸が削減された状態である。
人類活動の根幹とは、0をプラスに働かせることではなく、マイナスを0に働かせる中で発生するプラスを発明することである。
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信じられないくらい予定がない事に気付いたのは、8/2の午前4時。
課題や車校や就活や他諸々が目白押しになっている今年の8月を思えば、それはオアシスのように輝いていた。
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その発明が一般に普及するまでそう時間はかからなかった。
通常、それがどのような発明であれ一般に普及するまでに実証や検証、特許の取得や資金調達、製品化などさまざまなプロセスを辿るものだが、それが行われる事はなかった。
なんなら専門家による検証の段階でそれは製品化された。
完全に違法だったが、それが取り締まられる事はなかった。
外気温が1200℃のため、全ての電子機器は溶けに溶け、普通に政府が機能していなかったからである。
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「何がダメなんですか。」
椅子の上で器用にひっくり返ったT氏に、私は問うた。「それだけではあまりに不親切だ。」
不満げに言う私に、T氏は椅子の上で半円運動をして元の体勢に戻った。
「音々田部泰造さんね。あなたの体内からとんでもない量の液化ネオンが検出されました。あと何種類かの重金属と、放射性物質。組成だけで言ったらほぼ太陽です。これはダメでしょう。」
T氏は唸りながら言った。
因みに私の名が出てきたが、T氏の名もまたT氏である。
彼についているネームプレートに、そのまま「T氏」と書かれているからである。
おそらくこの病院は狂っている。
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一点マイナスについて語るならば、それはプラスと対極のものとは限らないと言う事に注意が必要である。
相反はするが、それが同一の相にある場合も多々ある。
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予定が全く無いとはつまり、何かをする必要が全く無いという事である。
予定が全く無いとはつまり、家から出る必要が全く無いという事である。
せっかくなので完全に人間を辞める事にした。
生産性を極限まで排してみたかった。
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それは遥か昔、まだ地球の気温が2桁だった頃から考案されていたモノではあった。
しかし今回発明されたものはそのどれとも一線を画していた。
人々はその性能に歓喜し、皆が使った。その盛り上がりようは、iPhone 3Gが発売された時と同じくらいだった。
乗るしか無い。このビッグウェーブに。
実際何人かは、液化した塩の上でビッグウェーブに乗っていた。
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「それの何がいけないのですか!」
私は椅子から立ち上がってT氏に詰め寄った。
これまでの数々の狂気にあてられ、私の中で何かが爆発した形だった。
「耳から火がが出ています。おそらく太陽フレアですね。」
T氏が何かを言ったが、私はそれを気にせず捲し立てた。
「私はこの体で極めて健康に過ごしてきたのです!それがダメだと言われるのならば、あなたは私の健康を否定しているのに等しい!」
私の言葉に、T氏は反発し、うねあって返した。
「何を言っているのですか。あなたの体内組成は生物としての枠組みを外れている。それに健康が太陽の組成によって為されているのもまた問題です。太陽は邪悪だ。そうでしょう。」
その言葉に私は「しまった」と思った。
しまった。邪教だったか。
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全体幸福を考えるのなら、まずは大局を見る事が不可欠である。
一方行のプラスは見ようによってはマイナスになり得る為である。
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パソコンの電源は落とした。
これまでの傾向的に何かしらのゲームあるいは動画を見た結果1日が瞬く間に消滅すると言う事を学んだからである。
ただベッドに横たわり生温かい風を吐き出すエアコンの下で白目を剥いた。
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ただ唯一の問題は、この発明品に液化ネオンや何種類かの重金属、放射性物質が大量に含まれていた事だった。
オゾン層が破壊された事で直接宇宙線を受けても、溶解した鉄を飲み水のようにしていた人類は重金属や放射性物質には余裕で耐えたが、1200℃の熱に晒された事により1500倍にまで膨張した液化ネオンの爆発には耐えられなかった。
人類はほとんど滅亡した。
何割が残ったかと言うと、今のガラケー所持率と同じくらいしか残らなかった。
その発明は「戦後最悪の発明」として人類史に刻まれ、その名が石碑に刻まれた。その発明の名は「詐欺電話ブロッカー」である。
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「せっかく知性を与えたのだ。なぜここまでの個体ができたのか、私はそれを知りたい。」
T氏は空中に浮かび上がり、捩れながら私の脳内に直接語りかけてきた。
今更だが、T氏は人の形をしていない。
漆黒の直方体。
胸のネームプレートは、何かを覆うように貼り付けられている。
おそらくモノリスの類だろう。
あの猿に知性を与えたと言われる外宇宙技術。
だから人の気持ちなど理解できないのだ。
私はT氏をキッと睨み、告げた。
「最強になって詐欺電話に打ち勝つためです。」
笑い声のような音が連続して聞こえた。
さらに激しく捩れたT氏は、震えるようにして分散した。
その表紙に胸元のネームプレートが剥がれ、その内側に書かれた文言が見えた。
掠れていたがそこには「詐欺電話ブロッカー」と書かれていた。
思想は同じだったのか。
私は次元を超えた収斂に歓喜した。
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とはいえ、絶対的なマイナスとは存在する。
多方から見ても常に不幸を振り撒く害悪。
二次元的性質と四次元的性質を併せ持つ諸悪。
詐欺電話である。
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日が暮れるまでベッドの上でボーッとしていたのだが、ここに来て突然私の携帯電話が震え出した。
当時の私は完全に人間性を失い、溶け合ったスライムの如き思考力だったので、普段なら一度スルーし電話番号確認して折り返すところを何も考えずに取ってしまった。
「広告アドブロッカーノゴ案内デス。四分割サレタ高度ナ電話対応云々カンヌン…」
私は電話を床に叩きつけた。




