51,みんなと一緒に乗るバスとわくわくが止まらないこと
そのまま五人でおしゃべりをして盛り上がり、気がつくと、消灯時間が近くなっていた。あわててみんなでシャワールームに向かう。
一旦、自分の部屋に戻って、着替えを持って来た郁美が、葉菜に向かって言った。
「瑞希がいなくなったから、蓮沼さん、一人になっちゃって寂しかったって」
蓮沼というのは、郁美と同室の二年生だ。瑞希も、自主退学したのだ。
「じゃあ、郁美ちゃんが戻って来て喜んでいるね」
郁美が、ふふっと笑う。
「そうだといいけど。
あっ、それで、蓮沼さんは、もうシャワーを浴びたっていうから、葉菜ちゃん、私の次に入っちゃえばいいよ。なんなら私の前でもいいし」
「じゃあ、郁美ちゃんの次に浴びさせてもらうね」
「うん」
郁美が、にっこり笑った。
その夜、ベッドの中で、葉菜は、ここに来てからのことを思い返した。
初めは、転校もさることながら、寮に入ることが嫌で嫌でたまらなかった。もともと友達はいなかったし、ほしいとも思っていなかった。
姉さえいれば、それでよかったのだ。それなのに、大好きな姉と離れ、しかも四人部屋で暮らさなければならないなんて、心の底から絶望した。
赤の他人と生活をともにするなんて、絶対にうまく行くはずがないし、ストレスしかないだろうと思っていたのだ。
だが、実際に来てみると、年上のルームメイトたちは、みんな親切で優しかったし、仲良くしてくれる友達まで出来た。
学校ではいろいろ嫌なことがあったし、そのことで、寮の人たちにも迷惑をかけてしまったけれど、ルームメイトたちは、どんなときも葉菜を信じてくれ、今も温かく接してくれている。
一度は寮を去った郁美も、今日、戻って来てくれた。それに、偶然出会い、孤独だった葉菜に優しくしてくれ、今では姉とも親しくなった佑紀乃。
泣きながら、姉とともにタクシーでやって来た日には、まさかこんな未来が待っているとは思いもしなかった。まさか、こんなにたくさん大切な人が出来るとは。
こういうのを、多分幸せと言うのだ。そう思いながら、いつの間にか、葉菜は眠りについた。
1ヶ月後の週末、朝食を終え、身支度を整えた葉菜は、みんなと一緒にバス停へと向かう。見海、瑠衣、郁美は実家へ、淳奈は恋人の部屋に行くという。
淳奈は、アルバイトがバレて以来、彼の部屋でモデルをすることになったのだそうだ。それについて、淳奈は言った。
「結局やっていることは変わらないし、バイト代ももらっちゃってるけどね」
「部屋で二人きりでなんて、なんだかイヤラシイわね」
そう言う瑠衣の言葉に、淳奈はあっけらかんと言った。
「ま、恋人同士だからね、それなりにやることはやってるよ」
寮の前の坂道を下りながら、隣に並んで歩く郁美が言う。
「葉菜ちゃん、バスに乗るのは初めて?」
「うん」
「パスモは?」
葉菜は、肩にかけたトートバッグをポンと叩く。
「バッチリ。スマホに入ってるよ」
最近は、人並みにスマートフォンを持ち歩くようになった。みんなや姉にすすめられて、電子マネーデビューもした。
今日、寮に入って以来、初めて実家に帰るのだ。家には、すでに洋館を引き払った佑紀乃が住み始めている。
今日は姉も帰って来ることになっていて、ともに一泊することになっている。これから、どんな楽しい時間が待っているのかと思うと、わくわくが止まらない。
駅に着き、バスを降りると、それぞれの方向の電車に乗るため、改札を入ったところで、手を振って別れた。葉菜は、途中まで、見海と二人で行くことになった。
ホームに並んで電車を待ちながら、見海がしみじみと言った。
「葉菜ちゃんと一緒に電車に乗ることになるとはね」
「はい」
「葉菜ちゃんが寮に入って最初の週末、すごく心細そうで、一人にして出かけるのが心配だったけど」
「私、そんなに心細そうに見えましたか?」
「見えたよ。お姉さんと別れるときも、小さい子みたいに涙をぽろぽろこぼして泣いていたし」
「あ……恥ずかしい」




