19,辛辣な言葉と嘘のメッセージ
部屋に入って行くと、見海と瑠衣が、隣同士の机の前に腰かけ、お菓子をつまみながら話しているところだった。こちらを振り返り、泣き顔の葉菜と、一緒に入って来た郁美を見て目を見張る。
「おかえり……」
「おかえり。どうしたの?」
葉菜の肩を抱くようにして、郁美が言った。
「ちょっとおじゃまします」
葉菜は、通学カバンを放り出し、ぺたんと床に座り込む。見海が、郁美の顔を見て言った。
「何かあったの?」
「それが、私にもよくわからないんですけど」
「ああ……」
悲しくなって、葉菜は再び嗚咽する。
「葉菜ちゃん……」
郁美が、横にしゃがみ込んで、葉菜の背中をさすってくれる。
ひとしきり泣いた後、ようやく涙が止まった葉菜は、途切れ途切れに、事のあらましを話した。
「私、絶対にそんなことしていないのに……」
「ひどい……。国語の教科書がなくなったのは本当です。私が一緒に探して、どこにもないから購買部に買いに行ったんです」
郁美が、二人に向かって訴える。見海が言った。
「私たちだって、葉菜ちゃんがそんなことをする子じゃないってわかっているよ」
瑠衣も同調する。
「そうだよ。毎日一緒に寝起きしていればわかるし、この部屋で物が失くなったことなんてないもん」
二人はうなずき合っている。
「でも、いくら言っても、先生も信じてくれなくて。ロッカーの鍵は私しか開けられないって……」
瑠衣が言う。
「やっぱり、その門田っていう子が怪しいね。親しげなふりをして暗証番号を盗み見るなんて、汚い手を使うもんだ」
「ようするに、河合っていう子が黒幕ね。でも、葉菜ちゃんが朽木先生に気に入られたくらいで、そこまでひどいことをするかなあ」
そう言ったのは見海だ。すると、瑠衣がきっぱりと言った。
「女の嫉妬は怖いのよ。河合っていう子、そうとう気位が高そうだから、たとえふやけたおじさんでも、自分以外の子を選ぶのは許せないのよ」
見海が、ぷっと噴き出す。
「ふやけたおじさんって、朽木先生のこと?」
「あんなイケメンの範疇に入るか入らないかわからないような、中途半端な三十代でも人気があるのは、女子高の中だけの話よ」
辛辣な言葉を流れるように言う瑠衣に、郁美もにやにやしている。普段の葉菜ならば一緒になって笑ったことだろうが、今はそんな気持ちになれない。
見海がぽつりと言った。
「でも、明日学校に行くの、しんどいね」
郁美が言う。
「私が同じクラスだったらよかったのに」
ああ、そうなのだ。明日、どんな顔をして教室に入って行けばいいのか。そして、どうやって一日を過ごせば……。
一度は止まった涙が、またあふれ出れる。
その夜、いつものように、姉からメッセージが来た。
―― 今日はどんな一日だった? ちゃんと勉強している? 予習復習を忘れないでね。
ああ、お姉ちゃん……。今日がどんな一日だったかなんて、言えるわけがないし、今は勉強どころではない。
だが、姉に心配をかけたくないし、もしも今日のことが知れたら、たとえ事実無根であっても、姉に大きな迷惑をかけることになってしまう。
葉菜は、涙を流しながら、初めて嘘のメッセージを送った。
―― 見海さんと瑠衣さんと、郁美ちゃんと部屋でおしゃべりしたよ。その後、郁美ちゃんと国語の問題集をやったよ。
二段ベッドの上の段では、今日も外で食事をして帰って来た淳奈が、スマートフォンで動画でも見ているのか、あるいは恋人とチャットでもしているのか、くすくすと忍び笑いをしている。
翌日、学校に行き、郁美とともに一階の廊下を歩いて行くと、よそのクラスの生徒たちが、意味ありげに葉菜を見ては、ひそひそと話し出す。早くも昨日のことが知れわたっているのだ。
暗澹たる気持ちになって下を向くと、郁美が、そっと肩に手を置いて言った。
「負けちゃ駄目だよ。何も悪いことしてないんだから、毅然とした態度でいなくちゃ」
「うん……」
それはそうなのだが……。




