17,あり得ないことと冷たい目
「違います。恨みになんて思っていないし、物を隠しても嘘をついてもいません!」
なんということだ。あまりのことに愕然とし、体が震え、じわりと涙が滲む。
先生が、青ざめた顔で言った。
「今みんなから聞いたことをまとめると、つまり、三丘さんがロッカーに物を隠しているんじゃないかということ?」
「違います!」
葉菜の言葉には答えず、先生は、みんなに向かって言う。
「わかっていると思うけれど、もしも三丘さんが潔白だった場合、これは大変なことよ。それでもあなたたちは、三丘さんのロッカーを改めるべきだと思う?」
結城が言った。
「それで三丘さんの潔白が証明されるなら、確かめてみる価値はあると思います」
「三丘さんの潔白が証明されたとき、あなたたちはどうしますか?」
河合が言った。
「私たち、三丘さんに、心から謝ります。それじゃ駄目ですか? なんなら土下座してもいいですよ」
先生が葉菜を見る。
「三丘さん、どう? あなたのロッカーの中を見せてもらってもいい?」
葉菜は、こぼれた涙を拭いながら言った。
「かまいません。私、物を隠してなんかいませんから」
先生の指示に従い、先生と葉菜と、物が失くなったという数人と、立会人として、クラス委員の結城が、ぞろぞろと廊下にあるロッカーに向かう。
放課後とあって、よそのクラスでは、すでにホームルームが終わっているようだ。廊下には人があふれ、葉菜を待っているらしい郁美も、不思議そうに葉菜たちを見ている。
「暗証番号を打ち込む間、私たちは背を向けていますから、三丘さん、鍵が開いたら声をかけてください」
「はい」
みんなが一斉に、並んでいるロッカーに背を向ける。4桁の数字を打ち込み、ロッカーに掛かっている鍵を解除する。
葉菜は思う。見られたって一向にかまわない。だって、私は人の物を隠してなんかいないんだから。
「解除しました」
葉菜が言うと、みんながロッカーに向き直る。先生が、緊張の面持ちで言った。
「それでは三丘さん、ロッカーのドアを開けてください」
「はい」
葉菜は、ゆっくりとロッカーのドアを開ける。
「あっ、私のお財布!」
真っ先に声を上げたのは大河原だ。信じられないことに、葉菜の教科書とノートを立てかけた横に、ピンク色の財布が置かれている。
それだけでなく、下の段には、見慣れないノートとタオルと、文庫本もあるではないか。
「そんな!」
葉菜は、ほとんど悲鳴に近い声を上げた。そんなはずはない。なんだってこんなものが。
4時間目が終わったときには、こんなものは一つもなかったのに!
「三丘さん、あなたしか暗証番号を知らないのよね」
そう言ったのは門田だ。
そのとき、不意に思い出した。ロッカーを開け閉めするときに、何度か門田が近くにいた。
彼女も自分のロッカーで何か出し入れしていたり、一度などは、気配を感じて横を見ると、すぐそばに彼女がいて、にっこり笑いかけて来たのだ。
あれは、葉菜が暗証番号を打ち込むのを盗み見ていたのではないのか?
「違う! 私じゃない!」
葉菜の目から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
最後尾から教室に入ると、みんなの視線が葉菜に注がれる。大河原が、財布を掲げて言った。
「あったの」
門田も言う。
「私のノートもあった」
河合が、呆れたように言った。
「どうやら謝る必要はなさそうね」
「違う! 私じゃない……」
葉菜は泣きながら、必死に反論するが、みんな冷たい目でこちらを見るだけだ。先生が言った。
「三丘さんとは私が話をします。三丘さんなりの言い分もあるでしょうから、みなさんは、くれぐれも憶測でものを言わないようにしてくださいね」
誰かがつぶやくのが聞こえた。
「人の物を盗っておいて、言い分も何も……」
「さあ、みなさん席に着いて。今日はこれで終わりにします。三丘さんは、この後、先生と面談室でお話ししましょう」




