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ただ、おっさんが夢の中でどっかに旅立ってしまう、世間的には需要が皆無なお話  作者: 加工豚(かこうとん)
【第二章】惑星、恒星、命、輪廻、ヲヂサン、全部回転物です。
34/50

【side三ノ宮貭典】 彼の事情



「金曜の夜の幻想」の歌詞は実は著者の約20年前の黒歴史。

「隣人のトロール」で使われたインストロメンタル曲の方は、20年前のを見て、少し野暮ったかった場所、風って単語を使いすぎたりした場所をさっと治しました。

何が役に立つのか判りませんね。

今ネタになってる。

それをとあるチャットでとある人物に見せたらば、作品にしてくれちゃった方なんかが居たりして、世の中は面白いなぁ。


因みに、カメラの事も、楽器の事も私にはさっぱり判りません。

ググって調べたりしています。


ロシアの緑のトンネル、綺麗ですよね。

あれ、大好きです。









【side三ノ宮貭典】

 彼の事情



(さんの)(みや) 貭典(もとふみ)は現在17歳である。

今年の内に18歳になる高校三年生。

彼の背丈は中肉中背(ちゅうにくちゅうぜい)と云ったところだろうか?

特に端正(たんせい)面立(おもだ)ちと云う事もなく、特に醜悪(しゅうあく)などと云う事もなく、至って平均的な容姿(ようし)、大人しくて、目立たないタイプで、クラスに於ける存在感は薄く、陰で付いているあだ名は、「ステルス」であり、それを彼は未だ知らずにいる。


スポーツが苦手であると云う事もなく、勉学が苦手であると云う事もなく…至って凡庸(ぼんよう)である。


その(よわい)にしては彼は(いささ)かながら枯れた趣味が有って、それは廃墟巡(はいきょめぐ)りであり、カメラを持って(かつ)ての人の気配が僅かに残る残滓(ざんし)遺構(いこう)、うらぶれて打ち捨てられ、あとは朽ちて行くのみ…といった場所等に(おもむ)き一人で散策しながら、風景や、何か彼の心のファインダーに感じ入るものを撮影して、学校の部活で以って、それを現像(げんぞう)したりする。


もう一つの趣味は、これも枯れた趣味と云って良いのでは無いだろうか?

そんなうらぶれた廃墟で、嘗ての風景に思いを馳せながら、風景(それ)に手向ける一把(いっぱ)の花であるかのように、彼は誰も居ない廃墟にて、楽器を演奏するのである。

それは彼の感謝の気持ちでもあり、一種の葬礼(そうれい)でもあり、そして彼の嗜好でもあった。


何時も廃墟に出掛ける時には、首からカメラケースを下げて、幾つかのレンズ


―――それはレンズの上端と下端にカラフルなフィルムを付けたレンズや、撮影した対象がまるで模型の様に見えたりするレンズ―――


をレンズケースに緩衝材を入れて、それを腰の弾帯(だんたい)に装備し、背中には楽器が入った背嚢(はいのう)を背負い、時には草木が深い場所へと立ち入る際には、弾帯に(なた)を装着したりして、そうやって廃墟へと赴く。


彼のもう一つの趣味は、作詞だ。

彼が心を打たれた世の中に発表されていて、(おおや)けなる歌詞が無いメロディーに、彼は密かに自分だけの歌詞を添えて、頭の中で再生したりする。

この間は、そんなメロディー


―――金曜日に映画をやるテレビ番組で、大昔にオープニングに用いられていた「金曜の夜の幻想」トランペットと、ピアノが幻想的な、フランス人作曲家が作曲した、とある曲―――


に自分なりの解釈(かいしゃく)()って、歌詞をつけた。


あの曲には、物悲しくも美しく、あの映画番組のオープニングの染みるような朱色の夕焼けの景色とも相成(あいな)って、何だか人魚が失恋して、泡になって(かえ)るイメージが沸いて、「人魚の失恋」ってテーマで作詞をしたっけ。


と、彼はそう思っていた。

ところで、そんな彼は今まさに廃墟に居る。

(かつ)て鉱山で栄えた町の山の(すそ)、平面では無くて、斜面上に存在する、リフトに乗って運ばれてきた鉱石を選別する施設の、大きなコンクリートの建築物の遺構(いこう)、そこの屋上に立って、本日持ってきた楽器の種類、トランペットを取り出して居た所である。


この鉱山も、あの人魚と一緒だな、やがて泡となって消えてしまうのかも知れない…最早人間から必要とはされずに後は朽ちて行くのみであり、今はちょうど夕暮れ時…あの昔のバージョンの金曜日の映画番組のオープニングを想起する様な朱色の夕焼けが彼の双眸(そうぼう)に物悲しさを訴えてくる。


その様な状況で、彼は彼の葬礼であり、彼の感謝であり、嗜好でもある儀式を始める。

さぁ、この廃墟と、この夕焼けに捧げよう。


彼はこの夕焼けとこの廃墟とを人魚の失恋と重ねて、トランペット部分にキッチリと歌詞を合わせて彼の頭の中で作詞した歌詞を、矢張り彼の脳内で、実力派の女性ボーカルの声で再生させながらトランペットを演奏を始めた。








Uh~ 吐息は甘く 暮れて行く空 歩き出せたなら

甘い夏の 夜風に 吹かれた 過ぎ去る 昨日の名残を…


Ah~ 嵐の夜に 呼び止めた指 思い出せたなら

軽いはずみ 重ねた クチビル もぅ一度 この儘でいさせて…


暗いよ 声も出ない Oh~Cry on 海の、中

灯りを 止めた鼓動 泡になれ…


全てを 許せるのなら Oh carry on 引き留めて

この手を 離さないわ 波の中…



~(ピアノ間奏)~



全てを 許せるのなら これほど 愛さない

Just closed mind 夢になった この命…


暗いよ、海の底は さよなら 泡になる

もぅ一度 波になって あなただけ


聞こえる声 語り掛けるの

いつか見た恋…







これは、そんな彼の人生の断片。

打ち捨てられた廃墟に響く、彼が行う葬礼、誰に迷惑を掛けるであろうか。

誰にもかからない。











……

………



現在、彼はとあるバーガーショップに居る。

今度はフルートを持って、あそこに行って演奏しよう。


彼の頭の中のプランでは、今度行く場所、それはとあるロシアの線路に似た場所である。


共産国家のおおらかさなのだろうか?草刈りや枝払いなど一切やらずに、ただ、電車が毎日往復する事で、その部分だけがぽっかりと結果的に草刈りされ、それ以外の部分はまるで「緑のトンネル」の様であり、幻想的な美しさが有る風景。時々、「ロシア」「緑のトンネル」で画像検索して、彼はその場所に思いを馳せていた。


あれと似た緑のトンネルの景色が付近にある事が判ったので、週末に其処(そこ)(おもむ)こう、そう彼は思って、アニメ映画、「隣人のトロール」と云うそれで使われていた、風が通り過ぎる道をイメージしたインストロメンタル曲に、自分なりの歌詞を付けようとしていた。


フルートの音色、緑のトンネルに一陣の風が()っと通り過ぎる風景を夢想して、現在彼は(くだん)のインストロメンタル曲を頭の中で再生させながら、作詞活動に没頭していた…


現在は、メロディーのフレーズとちょうど合う言葉・語数の植物の名前が頭に浮かんできて、それをスマホで検索しては、それがどの様な植物であるのか、花言葉は何だろうか?だとか、メロディーに乗せる和合性の高そうな、イメージを損なわない単語を頭の中で浮かべてはスマホでその単語を調べて、意味に齟齬(そご)が生じはしないだろうか、こっちのフレーズはこの方が万人(ばんにん)に理解が容易になるのではないだろうか、…まぁ、俺の場合、他人に聞かせることは無いんだけれども、でも言葉を用いる以上は、その辺に腐心(ふしん)する事は悪い事ではあるまい…などと、一人、スマホを弄りながら、メモ帳に時々筆記し、時々それをぐちゃぐちゃと塗りつぶしてその塗り潰した文面の上に新しく何かを追記したりしながら、眉間に(しわ)を寄せ、その姿は或いは客観的に見る人間が居たらば、「誰も寄せ付けない気配」に満ちているのであるが、当の彼自身はその険しそうな表情にも関わらず、無我夢中で忘我(ぼうが)境地(きょうち)にあり、他人から問われたならば、「楽しいよ、今。」と断言するであろう状態である。


何処か、浮き世を逸脱(いつだつ)したかのような、そんな彼の嗜好の根底には、厭世感(えんせいかん)と云う物が、恐らくは有るのだろう。

彼はそう己自信(おのれじしん)を分析しており、だけれども、それでは駄目だろう、折角生まれて、生きて、死ぬなら、生きている間はつまり、暇つぶしだから、悲壮感に満ちて、始終押し黙って大人しく過ごす人生よりも、己の魂が求める、己の欲求に出来るだけ応えて生きて行く方が遥かに良いに違いない、と、そう言う考え方の男であり、最近は(こと)に、とあるチャットサイトで親しくなったとある年上の女性が、人生観の話題になった時に、「生きているのは偶々(たまたま)なんだよ」と、生に対しての偶然、我々は「生かされた」のだから…折角、たまたま生を受けたのであれば…と、その言葉に全く賛同して、益々、愈々(いよいよ)と()って、その己の中に存在する、(ガイスト)の求める(まま)に、そうやってやって行こう、と。

決断を新たにしている最近であったのだ。









夕日 一つ 頬に 乗せた 案山子(かかし)畦道(あぜみち)の雲 の上

何時か きっと 時間 を越え 二人の日々繰り返す


日差し 籠る 深緑の 連れ落ちる川の背の東屋(あずまや)

想い 揺れて 君が 揺れて 孕むような金鳳花(きんぽうげ)


草いきれ 空に溶けて たゆうよな

芝稲穂(しばいなほ) そよぎう けて 示す道筋(みちすじ)


向こう 風に 柳 揺れて 後ろ髪をそっと引い て行く

想い 萌える 草が 燃える 秋の風と赤蜻蛉(あかとんぼ)


風車(かざぐるま) (さっ)と押され 挑むよな

草の波 走る線路 あの日の 仕草


記憶 一つ (はや)く 乗せた 綿毛の蒲公英(たんぽぽ)一雫(ひとしずく)

弾む 様に 歌う 様に 垣根を越えて追い抜く


唄う 森に 初霜(はつしも) ()り 燃ゆる様な落ち葉は色 褪せて

想い 眠る 君が 眠る 似たような空の(した)で…


草の 波に 風の 仕草…









……

………



うん、中々、悪くは無い。

音にキッチリと言葉が合っているし、情景が浮かぶ。

メッセージ性も淡白に過ぎず、主張し過ぎて野暮ったくメロディーをもたつかせる事も無いだろう。

キッチリとはまっているし、とりわけ、フレーズに合わせた植物の名前を出した事は悪い作用にはなって居ないと思う。

言葉の使い回しも、「風」がテーマだからって、風って単語ばかりを使うのは野暮だから、出来るだけ避けた方が良いな、と云う当初の思惑、こうして完成した歌詞を曲に充ててみると、それは正解だったろう、と、確信に至った。

まぁ、だけどもそれは自己満足の境地である。

だけれども、俺はそんな自分が好きだな、と、彼は思うのである。


彼は、バーガーショップのトイレの個室の中に居た。

そこで、先程歌詞を付けたものを、某動画サイトで音楽を見つけ出して、イヤホンで聞いていた。

暫く聞き入っていた。

其処から更に、彼の思考は加速して…色々と調べ上げ、予定を胸算用(むなざんよう)中である。

さぁ、今夜ゆっくりと寝たら、明日は弁当でも作ってこの和製(わせい)「緑のトンネル」へと(おもむ)こう。

植物の色彩に対して、どのレンズを使うか…追加で色彩を加える為に、レンズにフィルムを貼るべきだろうか…

彼が個室で過ごした時間はそうやって存外(ぞんがい)な長時間になっていたのである。

彼がイヤホンを()めてそんな思案のあれやらこれやらに意識を巡らせて居た時にそれは起った。




小さな悲鳴。




───ん?

何だろう?

子供っぽい声だったな。

面倒くさい事で無ければ良いな。───




イヤホンで音楽を聴きながらであるが故に周囲の音への感度が鈍った彼の耳朶(じだ)に聞こえたその、声。




───どうもこのドアの向こう側で聞こえた気がする。

何か面倒事だろうかな?───



続いて、誰かが駆け付ける物音。

この時彼はようやくスマホからイヤホンを外して、それを閉まっていたところである。




「おねぇちゃん、出られない!助けて!」




───…何だろう?

子供が小水用の便器にハマった?

いや、どんな状況だろう、それは。

それに、今このトイレに女性が来ているんだろうか?

男子トイレに女性って、何か余程に火急の事態なんだろうか?

俺はどう振舞えばいい?

取り敢えず、ドアから出よう。

女性が男子トイレに居る状況…

何だかややこしいぞ。

恐らくは向こうも恥ずかしいだろうから、俺が見なかった事にして一旦手洗い場で手を洗いつつ、向こうの会話を掻い摘んで収集して、何か助けが必要だったらばその時に考えるとしよう。───




彼はドアを開けた。




───何だか青い光が地面から出ている。

これはあれかな?

何か新しいトイレ業界の革命か何かなのかな?

演出効果付きの劇場型トイレ?

入る時、こんなじゃなかったぞ?

あれか?

一時間毎に24回、こんな風に光るのかな?

時計みたいに?

そーいえば、今は何時(なんじ)だ?───





果たして、人間が二人いた。

彼はチラッと見やっただけだ。





───さて、手を洗って二人のやり取りを小耳に挟むかな。───





素知らぬふりをして、二人の人間の横を通り過ぎようとした彼は。




「ゴンッ!」




頭に衝撃が走った、次に膝にも衝撃が来た。

壁に頭をぶつけた様な痛みだ。

壁に膝を打ち付けた様な痛みだ。





───何だこれ?

横の二人組が攻撃してきた!?

何の為に??───





衝撃でのけぞって背中側から倒れて行った。

咄嗟に頭を守って首を前に反らせて、両手を頭の後ろに組む。





───柔道の授業が活きた。

人生、何が役に立つのか判らないもんだな。

何方(どちら)が俺に攻撃してきたんだろうか?

地面が青く光って眩しい側に一人。

小学生の…性別、どっちだろ?

地面が眩しくないほうに一人。

此方(こちら)は…背が高いけども、女性だな。

なんかハンサムな女性だ。

そうして、その二人の表情を見るに…

どうも攻撃してきた訳ではないらしい。

なんだろう、これは。───




「────(そうか)!?」




───あれかな?

この二人はエキストラで…

だとしたらば…───





彼はそう思って、女性の方へと向き直り…





「ぇ?なにこれ?カメラ回ってんすか?ドッキリ?モニタリ◯グ?」





彼なりに、ちょっととぼけた様な話っぷりに心がけてハンサムな彼女に話し掛けた。

しかし、話し掛けた彼女の返答は、彼が抱いていた予想を打ち崩す。





「私にも何が起こって居るのか判らない。弟の悲鳴が聞こえて来て此処へ来てみたら…こうなっていて、どうやら、この青い、その…『魔法陣』っぽい物の内側に居る人間はこの半円状(はんえんじょう)のスペースから出られなくなっているみたいだ。君も試して見ると良い。」





彼は少しの間、





───彼女は何を云っているのだろうか?

いや、どっきりの演技を未だ続けるつもりなのかな?

ってかあの小学生は男子だったのか。───




等と思い、起き上がると、彼女の言った事を試すように魔法陣の外周らしき部分へと手を伸ばす。




―――地面に現れた、ようく全体を見回して見たらば、この男子トイレの通路部分をほぼ埋め尽くしている半円状の『魔法陣』この半円の様子だと、もしかしたらばこの『魔法陣』には続きがあって、完全な円形なのかも知れない、そしてその続きのもう一つの半円はもしかすると、建物の構造上、この壁の向こう…女子トイレにも出現しているのだろうかな、これは?―――




その光っている円の外側に向かって立ったまま手を伸ばすと…

まるで地面に描かれた半円の範囲が、そのまま地面から上に向かって垂直に伸びているかのように、その外周部分の空中に触れた手は、まるで壁にでもぶつかっている様に押しても寸分もそれ以上は手が進めないのである。

半円の外側へは出られない、そんな内側に自分は今現在、囚われている、こんな事は現在の技術力で可能だったろうか?

考えてもどうやら、尋常な回答は出て来なさそうである。

彼は少しだけ眼を瞑ると、やがてこの現実世界では考えられないような事象について説明してくれた女性の方へと向き直り、





「人生、諦観(ていかん)って、必要なのかも知れないですよね。」





と、つぶやいた後、その場に胡坐(あぐら)をかいてしまった。

彼は思う。

常々。


考えても仕方の無い事は、考えるだけ、無駄。

次に起こるアクションまで、ようく休んでおく事こそ、肝要(かんよう)である。





やがて、彼がそんな風に開き直って居ると、にわかに青く光る魔方陣とやらの光量が増して行き、その様子を見て何を思ったか慌てたのかはある程度予測出来るのだが、


───何分、論理的ではない領域の考え方だろう、それは。「魔方陣」が転移系の術式であって、まさにそれが今発動しようとしており、()のままでは弟との今生(こんじょう)の別れになってしまうのではないのか…と、懸念した姉が弟の転移先での苦難を案じて付き添い役を買って出た、等と云う突飛な考え方だ。これは無茶苦茶な考え方であって、こんなラノベの今流行りの異世界小説みたいな展開がまず、実在すると言う、とんでもない前提に基づく…破綻した考え方だろう。───


内側に居る弟が泣き出しそうなのを見た姉が、魔方陣の外側から内側へと滑り込んだ。





感心だな、彼女(おねぇさん)は。

俺が彼女の立場であったらば、どうするだろうかな?

ちょっと冷たい人間なのかもしれないな、等と考えを巡らせていた。


(さんの)(みや)貭典(もとふみ)と云う男子高生。

彼は、彼以外の他の誰かの身に降りかかる利益、或いは、不利益に対しては、世の中が正常にその働きをしていれば、周囲の監視や批判を避ける為に、実は仕方がなく、人間らしい良心とやらをうわべだけで演じて表面上、(つら)の皮一枚だけ入れ換えたつもりで対応している節があって、それを、その己の本質を自分で自覚している類いの人間であったのだから。


果たして、「魔方陣」は目映(まばゆ)く光り、三人がその眩しさに目を閉じて暫くして…もう、目蓋(まぶた)の裏側で見る光量も低下して安定したし、大丈夫かな?

と、彼が目蓋を開くと、一面の白い世界が広がっていた…まさに、彼は彼が先程思考を巡らせた「論理的ではない領域の考え方」で、「ラノベの今流行りの異世界小説みたいな展開がまず、実在すると言う、とんでもない前提に基づく、破綻した考え方」の方が、今この場に於いては、現実に則しているのかも知れない、と、その考え方を改めていたのだった。


まるで、それ系小説の冒頭のシーンで導入されがちな景色(それ)

トラックだかダンプだかに跳ねられそうな女の子をかばって、自分が危ない目にあったところまでは覚えている、または、女の子が暴漢に襲われていて、それを庇った結果、刃物で刺されたところまでは覚えている。

そうやって意識や何かを失ってから、次のシーンで導入されがちな奴だ。


彼の横には怯えて泣く…どう見ても女の子っぽい小学生の男の()、もとい、男の子。

その子の姉で長身の、「ハンサム」な女性。

この二人には見覚えがある。

当然だ。

先程まで一緒であったのだから。


そして、彼等の斜め後方辺りに、二組の女子。

お互いの手を繋ぎ、片方は絹みたいな真っ白な肌に、美人で良くありがちなアーモンドみたいな形の目を持った、10人中、最低8人は認める美人な女の子なんじゃないのか、と、彼は思う。

もう一人は、そんな彼女よりも少し背が低く、全体的にふくよかな女の子。

発育が順調そうで、とても、その…でかい。

豊かな胸部と臀部を持っている。


新しく見た女の子二人組は、しばし互いに見つめ合い、そうしてから周囲の景色を伺い出す。

三人組の貭典(もとふみ)達と、二人組の彼女達、互いに互いを確認して、三人組と二人組はお互いに視線を交差させる事暫く。

二人組はともに制服姿であった。

まぁ、貭典(もとふみ)も制服姿であるのだが。

よっぽど、仲良しなのか、お互いに手を繋いでいる。


どうやら全部で五人が「転移」してきたのかな?

貭典(もとふみ)はそう結論付けて、周囲の景色を見回した。


そうして彼が目を向けた視線の先…

おおよそ、10m位の距離に、何やら市役所に良く居そうな若くお洒落をしたいが、立場上、掣肘(せいちゅう)を受けてしまうので、それに引っ掛からない範囲での無難なお洒落に抑えた様な女性と、霊体の中年の組み合わせを見てしまったのである!


そう、彼は「見える」タイプの人間である。

今、彼には一体の霊体が見えており、その半透明に透けて見える中年男性…スキンヘッドで、サングラスで、縦にも横にもでかい、まるで戦艦みたいな姿の霊体が…色が透明に近いゆえに、細かくは判らないので有るが、半ばガラスかアクリル化したみたいに透けて見える霊体全体に、緑色のフィルムでも充てたのだろうか、とも思える様なそれは、もしかしたらば、カーキ色の軍服とズボンだろうか?


そんな霊体を凝視してしまっていた。






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