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化物に食わせるB級グルメ③

 蒸籠やダッチオーブンをフル活用し、陽が沈むまでの間に200個ものカレーマンを蒸しあげた。グリューワインの方も中型の舟に器代わりに注ぎ入れ、キッチリ一隻分用意出来た。

 朝から会議に料理にと、働き詰めだったマリ達は、既にバテバテ。

 各々地面に直接座って夕食をとる。

 カレーマン完了後にマリが手早く作った肉まんと、水の神殿の料理人が差し入れてくれた魚介のスープ。料理に使わなかった果物等の軽食ではあるが、最低限の動作で食べれる物ばかりなので、とてもラクだ。


「ずっとカレーの匂いを嗅いでたから、肉まんが凄く美味しく感じるっ!」


 マリは、大皿からもう一つ肉まんをとり、思いっきり齧る。フカフカの皮を破ると、ジュワッと甘い肉汁が溢れ出て、顔がニヤけた。グレンが淹れてくれた烏龍茶を飲むと、濃い目でちょうどいい。


「昨日はカレーライス、今朝はカレードリア、昼はカレーうどん……。全部美味しかったけど、この肉まんは優しい味付けだから、一番好きかも」


 向かいに座るグレンは、穏やかな表情で肉まんを食べている。

 彼は三食立て続けにカレー味の料理を出しても問題無さそうだったが、マリやセバスちゃん、そして公爵が厳しくなった。無駄に舌が肥えている所為で、同じ味が続くと飽きてしまうのだ。

 なので、手間が増えてもカレー以外の味の夕食を用意した。食事は活力の源なので、出来る限り美味しく食べれるものを出したい。


 水の神殿の塔から、ヒョロリとした体型の男がこちらに向かって来るのが見えた。プリマ・マテリアのモイスだ。

 彼は敷地内で夕食をとる人々が気になるのか、グルリと見渡している。


「わざわざ外で食べなくても、神殿の中に入ればいいんとちゃいます?」


 マリ達二人が居る焚き木まで来て、しょうもない事を言う男に、マリは肉まんが乗った大皿を差し出した。


「食べる?」


 彼は面食らった様な表情を見せたが、意外にも一つ手にとった。


「未来の最高神官様のお手製の料理、有り難くいただきましょか」


 大きな一口で肉まんを齧り、その細い目を見開く。


「なるほどな。水の神殿のクソババァに飲まされたゲキマズ茶のせいでさっきから吐き気がおさまらんかったが、スッキリしたわ。これが浄化の力か」


 感慨深げな毒舌を吐き、肉まんを全て食べきる。

 味についての感想は無しだ。


 マリはモヤッとして、わざと音を出してお茶を啜った。

 その感情に気付いたか気付いてないかは不明だが、モイスは遠慮なくグレンの隣に座る。ここに現れた時よりも機嫌が良さそうだ。


「そうそう。お二人さんに朗報がありますねん。もう一人の勇者様なぁ、王都に帰ってしまいましたわ」


「あー……やっぱり?」


「同行していた騎士はん達のうち、三人が連絡の為にここまで来てくれはったんですけど、酷いもんだったらしいです。なんせプライドの高い連中ばかり寄り集まってしもうた所為で、皆さんBランク程度のモンスターとは戦いたがらず、馬と御者が犠牲になったらしいんですわ。まぁ、そこからジワジワと死傷者が増えましてね。漸く本気出した頃に勇者殿から有難いお言葉があった……と」


「水の神殿に行く必要はないって?」


「そぅ。遠征部隊のリーダーが決断したなら戻るしかない。結局何のために王都を出たのかと、連絡係三人は嘆いておりました」


 寄せ集めの集団な上に、リーダーがあの温室育ちの坊っちゃまだ。指揮系統がグダグダになりすぎた所為で、大した事のないモンスターにも四苦八苦してしまったのかもしれない。自分がやらなくても、誰かが倒してくれるだろうという気持ちがあっただろうか?

 昨日メッセージをやり取りしていた時、アレックスは戦いもせずに隠れていそうだったが、「ちゃんと立ち向かえ」とでも言うべきだったのかもしれない。やるせなさを感じ、軽くため息をつく。


「……僕達は大丈夫じゃないかな。今日こうして皆で働いて、食事して……。よく分からないけど、仲間って感じがする」


 マリの微妙な表情を、明日への不安と解釈したのか、グレンが勇気付ける様な事を言ってくれた。


「私も……。そんな気がするよ。明日は皆で助け合おう」


 彼に向かってニッと笑い、そう返すと、モイスが冷やかしてきた。


「ここに吟遊詩人を連れて来れば良かったですわぁ。今のお二人のお言葉を歌にのせ、国中に伝えさせんといけませんなぁ」


「や・め・ろ」


「まぁ、冗談はさておき、私、貴女に水の神殿の動きを伝えにきたんですよね。リザードマンの里に潜入しに行った神殿騎士が帰たんで。リザードマン達は今頃スヤスヤ。聖域にたむろってるヤツさん達も、里での異変を知れば、戻る者も出てくるでしょう」


 マリ達の他にも、動いている者達は居る。彼等の隠密行動の成功は、明日の大規模な作成た為の大きな一歩だ。

 明日やらねばならない事をもう一度反芻し、気持ちを引き締めた。




 


 


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