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62 極悪非道エルフと宴の準備

夕日が落ち地上が闇に包まれる頃、悪魔二人は互いのグラスにワインを注ぎ、乾杯すると互いの顔を見合わせた。

片や死都の墓守、片や言わずと知れた規格外の災厄エルフ。

彼等が共に笑い合っているのを知れば人々は天変地異の前触れだと思うだろう。

そんなことは露知らず、二人は昔話を肴にワインを楽しんでいた。


「ったく、ルドルが来るのは予想外だったな」


クルクルとグラスを回しながら、ルナリアはそう言って溜め息を吐く。


「本当ニナ。アレヲ家政婦トシテ使ウナンテ、ソルリアノ頭ハドウナッテルンダ?」


鎧を着た四本の腕を持つ巨漢を思い出しながら、ナイは苦笑いを浮かべた。


「いや、元々は美少女のミニゴーレムが出来る筈だったんだ」


「…………ハ?」


ワインを飲もうとグラスを傾けた手をピタリと止め、ナイは訝しげに眉をひそめる。

そんな彼の様子など毛ほども気にせずルナリアはゲラゲラ笑いながら話を続けた。


「私が召喚用の魔法陣を書き換えたら、ああなった。いやー、笑えるよな?」


「オ前ハ本当ニ、ドウシヨウモナイ奴ダナ……!」


呆れてふんぞり返る彼を見て、再び笑い声を上げると、ルナリアはベルトからナイフを抜いてナイへと投げ付ける。


「ッ!?何ヲスル!」


咄嗟に首を傾けてそれを避け、ステッキに手をかけるナイ。

しかしルナリアの目はナイの背後に焦点を合わせていた。


「隠れてないで出てこい、人外バカップル」


「おや、気付いておられましたか」

「さすがルナリアさんにゃ!」


悪びれることなく隠れていた壁から姿を現したのは、スカート丈の長いメイド服に身を包みピンクの髪に猫耳を生やした少女、そしてウェイターの格好をした黒髪銀目の青年―――つまりマシュリとホルトだ。


ナイフが飛んできた理由を覚ると、ナイはステッキを机に立て掛け直し、笑顔で背後の二人に向き合った。


「オヤ調度良カッタ。新タナ神話ガ出来タンダ、聞イテイクカ?」


だがナイの顔を見た二人は体を硬直させ、己の目を疑うかのように目をパチパチとさせる。


「ドウシタンダ?私ノ顔ニ何カ付イテイルカ?」


二人の反応が気に入らないのか、ナイはそう言って眉をひそめる。

すると二人は慌てて首を横に振り、黙って何かを否定した。


「喋レナイノカ?」


痺れを切らしたのか、ナイの口調も段々ときつくなってきていく。

そんな時、双方の緊張を一気に崩すような音がエントランスに響き渡った。


見れば粉々になったグラスが床に散乱している。

恐らくグラスを叩き割ったであろう人間に視線を向ける三人。

その視線を一身に受け止めながら、ルナリアはユラリと立ち上がり、マシュリ達の方へと歩いていく。


「にゃ、にゃにを?」


思わず声を上げたマシュリを横目にルナリアは壁に刺さったナイフを抜き取ると、それをベルトに仕舞い、フッと柔らかい笑みを浮かべた。


「話をするなら料理が要るだろ、手伝えマシュリ。ホルトは床のガラスを片付けておけ」


「りょ、了解ですにゃ!」


「承りました」


慌てて厨房へと走っていくマシュリと、理不尽だなぁと笑いながら箒を取りに行くホルト。

そんな二人を見送ると、ルナリアはナイの方を振り返る。


「ナイは座って待ってろ」


「ソウサセテ貰ウ」


機嫌良くグラスを掲げて答えると、ナイは一息にグラスの中身を飲み干した。


「次ノボトルヲ頼ム」


当然のように注文をかますナイに苦笑いを浮かべながら、ルナリアは首を傾げる。


「またワインか?ドワーフから仕入れたウィスキーもあるぞ?」


「ナラソレヲ頼ム」


「分かった。少し待ってろ」


そう言うとルナリアはヒラヒラと手を振り、地下の酒蔵へと歩いていく。

その背を見送りながらナイは今日の出来事をどう話そうか頭を悩ませていた。



$$$



酒蔵のドアを開けて中に入った途端、ルナリアは驚きの余り目を見開いた。


「おいおいおいおいっ!!なんでこんなに数が少ないんだ!?」


思わず悲鳴を上げるルナリア。

しかし彼女の集めていたワインや、常に置いておくよう指示した筈のウィスキーとラム酒等、かなりの数の酒が姿を消しているのだから無理もない。


「クソッ、あの野郎絶対泣かす!」


そう言うや否やルナリアはツカツカと部屋の外へと歩いていく。

行く先は勿論オーナー室だ。



$$$



一方その頃、アイテルは自室で優雅に紅茶を飲んでいた。

煩わしい書類整理に追われることが無いので最近の彼女の起床はかなり非常にのんびりしている。


起きてすぐに二度寝をし、再び起きるとようやく顔を洗う。

そして時間をかけて長い髪をとかすと、気ままに紅茶を飲む。

そうこうしている内にマシュリが夕飯ができたと伝えに来るのが通例だ。


「…………今日も平和ねぇ」


のんびりと天井を眺めながらアイテルは呟く。

昨日襲撃された時点で平和も何もあったものでは無いが、彼女にとってはあの程度は日常に過ぎなかった。

散々喚き散らしていたが、残念ながらアイテルの頭からはそんな出来事は消え去っている。


「ふぅ、紅茶美味しい」


アイテルが今日の夕飯は何だろう?と考えていた矢先、コンコンとドアがノックされた。

恐らくマシュリが夕飯が出来たと伝えに来たのだろう。


「入って頂戴」


静かにカップを机に置くと、アイテルは部屋の外にいる人物に対して上機嫌に声をかけた。

その直後―――。


「入るぞ」


ドゴンッ!!


マシュリにしては冷たく低い声が響くと同時に、ドアが蹴り開けられた。


「る、ルナリア?どうしたのかしら?」


凄まじい殺気にアイテルは体をカタカタと震わせる。


「どうしたのかしら?じゃねぇよ。泣かしてやるからそこに直れっ!!」


そう叫ぶと同時にルナリアは床を蹴ってアイテルに飛び掛かった。


「や、やめて!」


咄嗟に腕を振り回してルナリアを遠ざけようとするが、戦闘に関しては百戦錬磨の彼女に通用する筈もない。

腕を押さえられた一秒後には後頭部を殴られ、アイテルは悲鳴を上げる間も無く気絶し、ルナリアの部屋へと運ばれていく。


ちなみに彼女がしたためていた日記にはこう記してある。

“あの時見たルナリアの目はレイプする男と同じだった”と。

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