表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

蒔いた種の芽吹く時

本日2話目。おまけ、というか蛇足的な何か。


白一色の褥に静かに横たわる少女の姿を憐れに思う。

まだ花開く前の幼き少女だ。

この世界には縁もゆかりもない、無垢なる存在。


そのような者を捜し、連れてきたのは己だと言うのに。

いざ、その存在を前にすれば、幾度も繰り返したはずの迷いがまた湧いてくる。


己が招いた慢心が、今、まさに己の身を滅ぼさんと迫ってきている。

この区切られた空間の束の間の平和も、そう長くは持たないであろうことは分かっていた。

急がねばならないのに………。






この世界を創り出した始めの時より、長い時が過ぎた。

長い長い時の中で、ゆっくりとこの身に満ちていた強大な力は世界に溶け込み、やがて1つになるはずだった。

それこそが、世界を創り出したものの定めであり望み。

だが、それを良しとしないもの達がいたのだ。


もうすぐ、この身は封じられるだろう。

滅してしまえば世界の理が歪み、滅ぶ。

それは、反旗を翻したもの達にとっても好ましい自体ではないが故の「封印」。


愚かな、とは、思う。

全てを創り出した我らを封じて、残るのは荒れた時代だと言うのに。

その時の中でどれ程の命が無駄に散っていく事だろう。


それでも。

反旗を翻されてなお、そのもの達すらも愛しくてならないのだ。

それが、創りしものの宿命。


それゆえに、希望の種を遺そうと、己の半身と共に画策したのだ。

全てはこの世界を救う為に。

我等が封じられることで生ずるであろう歪みを正す力を遺そうと。


だが…………。


「兄者。どうする?」


白く区切られた小さな世界の中。

響くのは己以外の声。

少女から顔をあげれば、その瞳に気遣わしげな光を乗せた金の髪の己の半身の姿。


いつも陽気な笑顔を浮かべる青年の、そんならしくない気弱な表情に、小さく吐息を1つ。


「始めた事はやり遂げねば」

迷いを払うように首を横に振れば、さらりと視界の端を銀の髪が揺れた。


眠る少女の体を覆う薄がけを取り払えば、そこには華奢と言うにもあまりに頼りない裸身があった。


せめて苦痛がないように。

穏やかな心地でいられるように。


あまりにも勝手な願いを込めて術を重ねがけ、きめ細やかな肌に指を伸ばす。


触れて、探って、深く、深く………。

柔らかな身体はどこまでも優しく受け入れてくれた。





そうして、開くはずのない瞳がぼんやりと開き、その黒い瞳に自分の姿が写り込んでいることに気づいた時、感じた衝撃は筆舌に尽くし難かった。


思わず溢れた勝手な願いの言葉を、少女がどこまで理解したのかは分からない。

だけど、少女は、確かに頷き、全てを受け入れてくれた。


胸をつく想いはなんなのか。

溢れそうになるものをこらえて、その体を抱きしめる。

抱きしめているのは自分の筈なのに、抱きしめられているような心地を味わうのは何故なのか。


ふと見れば、どこか痛むような顔をした己の金の半身。

きっと、自分も同じような顔をしているのだと思う。






この世界を救う為の生贄として選ばれた少女。

自分勝手な希望を押し付けたはずの少女は、なぜ、あの時笑顔を浮かべたのだろう。


種を蒔き、そっと元の世界へと戻した少女の未来がどうか幸せであってほしいと願う。


蒔いた種が芽吹くのか、それすらももう己には分からないけれど。


「…………兄者。結界が破れる」

囁かれた言葉に閉じていた瞳を開く。

「ああ、希望はなった。運が良ければ、また再び語る事もあろう」

そっと頷いた時、結界の割れる音を聞いた。


「おやすみ弟よ」

「ああ、良い夢を、兄者」







そうして、創世の双子神は封印と言う名の眠りについた。

世界を円滑に回す為に作り出した半神と言える存在に裏切られての結末。

抗えばより弱き存在達の消滅につながる。

それを良しとしなかった心やさしき創世の双子神は、ただ寂しそうな笑みを浮かべ眠りについたという。


夜を司る月の神と昼を司る陽の神。

世界を護る双子神が眠りについた時、その世界には波乱と言う名の嵐が吹き荒れる。


神なき時代の始まりであった。


己の蒔いた種が、やがて芽吹き、戻ってくるその時まで。

双子神の見る夢がどんなものなのか知るものはいない。








幸せに。

どうか幸せに。

貴女がいつも笑顔でいれるよう、ここで祈っているから。




読んでくださり、ありがとうございました。

ひとまず完結です。

作者の現実逃避で少しでも楽しんでくださった方がいらっしゃったみたいで、ありがたい事です。



創世の双子神。

月神(兄)と太陽神(弟)。

ある意味、時代の流れに押し流された古き神という立ち位置になるのでしょう。

ちなみに、双子神が封印されてからセロ君の生きる時代になるまで300年程のタイムラグがあります。

2人が封印されてからは、気まぐれな半神達の仲間割れによるやりたい放題で地上は大変なことになっていました。


まぁ、創世の神様といえど護りたいものが増えれば無敵ではいられないのです。

そんな3つ子のパパ(笑)の嘆きのお話でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ