うちの母親についての考察3
「…………またか」
「またよ」
思わず呟くと目の前の月乃が重々しく頷いた。
思わず遠い目をした俺は悪くないと思う。
母1人子3人。
ご近所の助けを借りて仲良く暮らしていく日々の中、なんでか沸き起こるトラブル。
まぁ、主に母さんが拾ってくるんだけどね。
トラブル、というか「人」だ。
このご時世にホイホイと「人間」拾ってくるのも如何なものかと思うけど、なんでか見つけてくるのだ。うちの母親は。
ホームレスや迷子ならまだ良い。
いや、ホームレス拾ってくるのはダメだけど、まだ、対処のしようもある。
だけど、母さんの拾ってくるのは………。
権力争いに疲れた某国の王子(変装済み)
記憶喪失の浮浪者もどき(後に人気作家と判明)
拾った迷子はどこぞの名家の子供だし(こいつはちゃっかり幼馴染の座をゲットした)、万事がこの調子でどこのドラマだと突っ込みたくなるような曰く付きばかりなのだ。
その度に巻き起こるドタバタ下町人情ドラマ。
…………もう、いっそこのままシナリオとして持ち込んだら良いんじゃないかと思うくらいの多彩さだ。
ただでさえ本人も父親のわからない3つ子のシングルマザーという特殊設定持ちだというのに。
否応無しに巻き込まれるトラブルが日常になりかかってることにおかしいと思いはしても、文句も言えない。
そもそも、俺たちの存在事態が母親が最初に拾って来た人間トラブルと言えなくもないし。
と、いうか、眉の下がった困り顔で「どうしよう?」って言われたら「捨ててこい」なんて言えやしない。
「で、今回は何?」
「ん………。ちょっと今回は本当にヤバイかも」
俺と同じく慣れてるはずの月乃が困惑顔で言葉を濁す。
「とりあえず、太陽が母さんに聞いて拾った場所の確認に行ってるけど」
そう言ってチラリとリビングの隣の和室を目で示す。
「なに?迷子なら交番に届けたら良いんじゃないの?」
月乃の珍しい様子に首を傾げつつ和室をのぞけば、布団で眠る小さな子供。
髪が金色。目は閉じられててわかんないけど、まぁ、良くあることだ。
「外人?言葉がわかんない?」
「いや、言葉は分かる。じゃ、なくてここ」
隣に立った月乃が指差したのは子供の頭。
ん?フワフワの髪に埋もれててよく見えなかったけど、頭に猫耳ついてる。
一時期流行ったよなぁ。猫耳カチューシャ。
子供がつけてると可愛いな。
「…………あれ、本物だから」
ほのぼの眺めてると、月乃がボソリと呟いた。
「ちなみに尻尾も生えてる」
「はぁ?」
「だから、猫耳尻尾がついてるの。あの子。ちなみに喋ってるけど、口から出てる言葉は日本語じゃないから。意味が頭の中に流れる感じ」
なに言ってんの?って顔で見たら、月乃がやけになったように捲し立てた。
「なにそのラノベみたいな話」
思わずぽかんと自分の口が開くのが分かる。
だけど、若干涙目の月乃が嘘をついてるようにも見えない。
「ただいま〜。やっぱりなにも手がかりなかったよ〜」
その時、玄関から呑気な声が響いた。
母さんの声に玄関を振り返った俺たちの間を素早く何かが駆け抜けていく。
反射的に追いかけた先には母さんに抱きついたさっきまで布団で寝てた子供の姿。
ひしっとしがみつく子供の身長は、母さんの胸に届くか届かないか。
そして、上着の裾から覗く白黒しまのねこしっぽ。
が、明らかに何かの意思を感じさせる動きで不安げにゆらゆら揺れていた。
ちなみに耳もペタリと伏せられている。
「うわ、本当に本物」
思わずつぶやいて凝視する視線の先で、母さんが子供を抱き上げ、慰めるように背中をトントンと叩いた。
「目が覚めてたのね。1人にしてゴメンね。不安になっちゃったね」
あやすような優しい声は慈愛に満ちていて、抱きしめられた幼い頃を思い出した。
後ろに視線をやれば、困った顔で太陽が肩をすくめてみせていた。
「神社の境内で泣いてたらしい。見に言ったけど、手がかりらしいものはゼロ。持ち物も身元を示すようなものもない。名前はセロスティア=ネロ=カイレンドロス、だってさ」
「どこの国だよ」
長い名前に眉間にシワがよる。よく覚えたな、太陽。
「聞いたことない名前だった。少なくとも地球上には無いな」
「そもそも、耳や尻尾がある人間なんて聞いたことないから」
淡々と答える太陽に思わず力が抜ける。
母さんに鍛えられたとはいえ、こいつの動じなさ加減もちょっとおかしいだろ。
「セロ君ね、怖い人達に追いかけられて、一緒にいた魔術師さんがこっちの世界に逃がしてくれたんだって。戻り方は知らないけど、迎えに来るって言うから、うちで待とうって連れてきたの」
子供の髪を撫でながら、母さんがおっとりと教えてくれるけど………。
それって、元いた場所から動かして良かったのか?
「だって、あんな所に小さな子を1人で置いとけないでしょ?夜になったらどうするの?
別の世界からこっちの世界に移動させれるくらいなんだし、ちょっとくらい別の所にいても見つけられるでしょ」
抱っこしたままリビングに移動すると、子供をそっとソファーに下ろした。
「お腹空いたね〜。すぐ、お夕飯作るから、お兄ちゃん達と待っててね」
そのまま台所に消えていく母さんを子供の視線が追いかけるものの「待ってて」と言われたせいかソファーから立ち上がることはなかった。
「母さん、手伝う〜」
月乃が、母さんの後を追って台所へと消えた。
逃げたな。
自分の常識から外れたもの苦手だもんな……。以外と頭固いから、受け入れるまで、少し時間かかるのはいつもの事だ。
「俺はちょっと調べ物して来る」
太陽がアイコンタクトを残して去っていく。
はいはい。なんとかしますとも。
俺はソファーに座る子供の前に行くと膝をついて視線を合わせた。
警戒したように固まるセロスティアなんとか………セロでいいか。
「はじめまして。俺は星矢。お迎え来るまで、仲良くしてくれよ?」
ニコリと笑顔を浮かべる。
いろいろあるみたいだけど、こんな小さな子が知らない場所で知らない人に囲まれ、不安にならないわけ無いし。
細かい所は、太陽と月乃担当で、俺が好きに動くのはいつもの事だ。
で、俺はこの子に笑ってほしい。
そして、仲良くなった暁にはあの耳や尻尾を触らせてほしい。
「星矢でも兄ちゃんでも好きに呼んでいいよ?母さんが連れてきたんだから、俺たちはもう仲間だ」
俺の顔を髪と同じ金色の瞳がじっと見つめる。
緊張からかヘタッてた耳がピンと立ってコッチに向いてるのが可愛い。尻尾もピタピタとソファーの座面を叩いてるし。
「セロスティア、だ。セロでいい」
ぶっきらぼうな声は澄んで高かった。
「そっか。セロ、よろしくな?」
なんだか嬉しくなってニンマリ笑いながら、隣に腰を下ろした。
「仲良しの記念な。飯前だから1個だけな」
ポケットの中から飴を掴みだして見せる。
自分で食べたり近所のチビどもにやるのに大抵常備してるんだ。
誰だよ、オバちゃん言ったやつ。
色とりどりの包装に目をキョトンとした後、セロは小さな指で赤い物を指差した。
「コレはイチゴ味。甘くてうまいぞ?」
包装を破くと口の中に放り込んでやる。
ちょっと驚いたように目を見開いた後、大きな金色の目がほころんだ。
気にいったみたいだな。
「セロは何才?」
頬を飴で膨らましたセロは手をパーにしてコッチに見せた。口に物が入ってるから、話さないのかな?
しっかり躾されてる子なんだな。
「こっちには1人で来た?他に来た人はいない?」
セロがコクンと頷く。
少し心配そうな寂しそうな瞳にこっちまでせつなくなる。
そういや、怖い人に追いかけられてっていってたっけ。
どう言う状況かは良くわかんないけど、一緒にいた人達の事が心配だよな。
「早くお迎え来るといいな〜」
そっと頭を撫でれば、一瞬ビクッとした後、セロの目が気持ちよさそうに細められた。
う〜ん、かわいい。
そしてサラフワの髪にモフッとしてクニッとした耳の感触が気持ちいい。
気づけば「ご飯できたよ〜」と母さんに声をかけられるまで撫で回してた。
月乃に呆れ顔で見られたけど、セロは気持ちよさそうだったし、そのおかげか懐いてもらえたし、まぁ、良いよな。
その後、迎えが来て帰ろうとした瞬間にセロにしがみつかれ、一緒にセロの故郷に行く羽目になり、お家騒動に巻き込まれたりするんだけど、まぁ、それは別の話って事で。
最後に一言。
母さんの拾って来るものに普通だったものは1つもない。
ま、意外と面白かったりするから、良いんだけどな。
読んでくださりありがとうございました。
次男、星矢。
顔は長男と同じ。
見分けをつけるため髪型を弄っているためちゃらく見えるが根は真面目。
無邪気で思いついたら即行動。母親に性格的に1番似てる。子供や動物に懐かれやすい。
異世界行っても楽しく好きにやってそう(笑




