うちの母親についての考察2
「月乃ちゃん、………怒ってる?」
目の前でしょんぼりと肩を落として上目遣いでこちらを伺っている美少女にしか見えないこの人は、現在アラサーの我が母です。
はたから見たら姉妹にしか見られない現状にもそろそろ慣れたけど、現在の状況を人が見たら私がいじめてるように見えるんだろうなぁ……って思うとちょっとつらい。
まぁ、家の中でのやりとりなんで余計なチャチャは入らないんですけどね!
「怒らせるような事、した自覚はあるわけね?」
ため息をこらえて呟けば、薄い肩がびくりと跳ねる。
小さい頃は大きく見えた母さんの背中もいつの間にか追い越してしまった。
一生懸命胸を張って、私達を護ってくれたのは知ってたから、その時はすごく嬉しかったんだ。これからは私が母さんを守ってあげるんだって。
だけど成長とともに気がつく事もある。
うちの母親は結構ポンコツだった。
家事をすれば擦り傷切り傷は日常茶飯事。何もないところで転ぶのも通常営業。
外を歩けば変人ホイホイしてくるし、学校行事ではいろいろやらかすし。
………私たち、本当によく無事で育ったわよね。
「何?母さん、今度は何やったの?」
そんな言葉とともにいつの間にかちかづいてきてた星矢が、ひょいと顔を出して首を傾げた。
フワリと整えられた髪が柔らかな陰影を作り整った顔を甘く彩っている。
茶色の瞳を笑みの形にたわめれば、それを目に留めた女の子達の黄色い悲鳴が飛び交う。
まぁ、家の中なんでありませんけどね!
「………これ、よ」
向かい合って座っていた間のテーブルにちょこんと鎮座する薄い物体。
「ん?この間買ったタブレットがどうしたの?」
「母さんがいつも通り説明書も読まずに適当に触って壊したの」
手短に答えれば、星矢の顔がアチャァーと言いたげに歪み、母さんがますます小さくなった。
本当に。アチャァー、だよね。
母さんは機械音痴だ。その癖新しいものが大好きで、すぐ触りたがる。
そのうえ、基本説明書は読まない。適当だ。
日本の電化製品は優秀でそんな使い方でも大抵は問題ない。
ただ、稀にやらかしてくれるのがこの母でなのだ。
「あ、でも、この間買ったばかりなんだし保証期間内なんじゃない?」
小さくなる母親にどうにかフォローを入れようと星矢が口を開いたけど、それ、地雷だから。
ピクリと頬が引きつるのがわかる。
「そうね。保証書が見つかればね〜」
笑顔で言ったはずなのに、星矢の顔が引きつった。人の顔見てその表情は非常に失礼じゃないかと思うんだけど………。
「………いつもの所に」
「あったならこんな風に問題にしてないんだけどね!?」
「………ごめんなさい」
しょんぼりと謝った星矢が、大きな体を縮めて母さんの背中に隠れようとする………けど、隠れてないから。
「新しいケーキのレシピを調べようとしただけだったんだけど」
困り顔の母さんの数少ない特技はお菓子作りで、小さな頃は手作りおやつはちょっとした自慢だった。
少し大きくなって「なんでお菓子は上手なのにご飯は失敗するの?」と首をかしげる三つ子に、偶々そばで聞いてたご近所さんが転げ回って笑っていたものだ。
母さん曰く「お菓子はグラム単位で全てが書いてあるから」だ、そうだ。
「少々」とか「1つまみ」が意味わかんないらしい。同意できるような、できないような………。
閑話休題。
「………せめて、説明書読んでよ、母さん。それだけでだいぶ違うはずなんだからさ。それでもダメだった時はおかしいと思ったら無駄な足掻きしないで現状維持のまま私達を待つって、前も言ったよね?」
「………はい。ごめんなさい」
すっかり俯いてしまった母さんに罪悪感がじわじわと沸き起こってくる。
「新しいケーキのレシピ」って言ってたし、多分今朝ニュースでやってて私が「食べてみたい」って呟いてたの聴いてたんだろうなぁ、多分。
こっそり作って、驚かせたかったんだろう。
買いに行くには遠い場所で、お取り寄せは1年待ちって言ってたから、似たもの探して再現しようとしたんだ。
「電気屋さんに連絡してみたら、お店の販売記録確認できたから、保証書再発行してくれるって。クレジット機能付きのポイントカード作ってて良かったな。後、買ってまだ1週間も経ってなかったし」
なんだか私まで落ち込んできて、暗い空気がリビングに立ちこめ出した時、太陽登場。
軽く言ってるけど、きっと電話でがっつり交渉してくれたんだろうなぁ。
「………タイちゃん、ありがとう」
うるうる瞳の母さんが勢いよく太陽に抱きついた。
危なげなくそれを抱きとめると、ちょっと苦笑しながらぽんぽんと母さんの頭を撫でる。
それは、べそをかく三つ子に母さんが良くしてくれた仕草だった。
「なんか調べたかったんだろ?月乃にノートパソコンで調べて貰えば?」
突然、こっちに振られて面食らってると涙目のままの母さんが、くるりとこっちを向いた。
「………つきちゃん、お願いできる?」
母さんの頭上で太陽が「仲直り」と口パクしてる。おせっかいめ!
「………いいよ。なにが知りたかったの?」
素直に頷けば、パッと母さんが笑顔になってこっちに近づいてきた。
「あのね、タルトのね……」
手を引いてパソコンの方に誘導されながらも、嬉しそうな母さんの様子にこっちまでなんだか笑顔になってしまう。
あ〜〜、もう。
我が母ながら可愛いなぁ。
こんな顔されると、なんでも許しちゃうよね。
なんて考えてるあたり、やっぱり私もマザコンなんだろうなぁ。
しょうがないよね。
母1人子3人。
大変なの分かり切ってるのに未婚の母を選択してくれて、不器用でも愛情いっぱいに育ててくれたのをちゃんと知ってる。
お気楽な笑顔で大変なことは全部ごまかして、夜中にこっそり1人で泣いてたのだって、知ってるから。
小さな背中が薄闇の中で震えてて、消えちゃうんじゃ無いかって不安になった。
だけど、子供だったからどうしたらいいのか分からなくてひっそり見守るしかなかったあの夜に、私達は早く大人になろうと誓い合ったんだ。
誰よりも大切で大好きな母さん。
まぁ、照れ臭いからなかなか言えないんだけど、ね。
次の日の夕食後のデザートには見事に再現されたケーキが出てきて、とっても美味しかったことを追記しておこう。
読んでくださり、ありがとうございます。
長女、月乃。
しっかり者で学校ではお姉様と慕われる事多数。
しかし突発事項に弱い面あり。現状を受け入れて開き直るまで少々時間がかかる。
母親は大好きだが、ややツンデレ。




