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おまけ

○月×日

 新しい家族が出来た。お義母様と、二人のお義姉様。仲良くできると良いのだけれど。


○月△日

 私ったら、なんてそそっかしいのかしら。吹きこぼれそうな鍋の蓋を取るように言われて、そのとおりにしたら、あまりの熱さに蓋を放り投げてしまった。指は火傷して、火ぶくれが出来ていた。

「濡らした布巾で包みながら蓋を取るのよ」と、私の火傷した指を冷やしながら、上のお義姉様が優しく教えてくれた。


 同い年なのに、下のお義姉様は何でもできる。私ももっと、しっかりしなくては。


○月■日

 やっぱり、私は駄目な子。お義姉様たちと比べて酷い劣等感。


 お義母様は私が何も出来ない事に怒る。怒られるのも、失望されるのも生まれて初めてで、どうしたらいいのか分からなくなるのだけれど、でも私の事を真剣に考えてくれているというのだけはよく分かる。

 やっぱり頑張らなくてはいけないのだわ。

 お義母様も、お義姉様たちも私のことを思って言ってくれているのだから。





×月○日

 お義母様に叱られて、悲しいはずなのに、どこか嬉しいと思ってしまう。お義母様は私がそそっかしい失敗をすると怒るけれど、たまに上手くできたときにはちゃんと褒めてくれる。

 嬉しい。今までこんなことはなかった。今までは、皆私を褒めるばかりで、誰も本当の私を見てはくれなかったの。お父様ですらそう。だけど、お義母様とお義姉様たちは違う。ちゃんと私を見て、いけないところはきちんと叱ってくれる。とても、嬉しい。

 新しい家族との生活は、とても新鮮で驚きに満ちているけれど、一番驚くのは、私がとてつもなく役に立たないっていうこと。


×月■日

 下のお義姉様に「のろま」と言われてしまった。私は、のろまで愚図で役に立たないって。

 悔しい。確かに今日は失敗をした。

 食事当番だったのに、せっかくの牛肉のオーブン焼きを墨の塊にしてしまって、夕食はサラダとスープとパンだけだった。スープは塩辛いし、パンはろくに膨らまずにカチカチだった。サラダのドレッシングは油の味しかしなかったし。ひどい夕食。

 流石に、お義母様も、上のお義姉様さえも庇ってはくれなかった。

 きっと、下のお義姉様の言う通りなの。のろまとか、ドジとか、そう言われる度に、ああ私って駄目な子ってしっくり来てしまう。

 





□月△日

 お義母様に手を叩かれた。勿論痛かったけれど、それ以上に……

 いいえ、これは確証を得るまでは確かめないと。


□月×日

 どうしよう。私、本当にいけない子なのかもしれない。こんなこと、誰にも言えないわ。

 日記にすら書けない。これは、私の胸の中だけにしまっておこう。





△月×日

 上のお義姉様、もしかして、気付いてる?



△月○日

 確信した。上のお義姉様は、全部分かっている。

 あの、嫌悪と呆れの入り混じった軽蔑の瞳。



 ぞくぞくする。



△月■日

 神様、私は幸せです。新しい家族に引き合わせてくれたこと、とても言葉には言い表せないくらい感謝しています。

 本当に、ありがとうございます。






☆月×日


 まったく、今日はなんていう日なのかしら! きっと一生忘れることはないわ。今日だけは隠しごとなんてしないで、正直に日記を書こう。ああ、まだ私は興奮している!


 ドレスは全く問題なかった。やっぱりお義母様はとても素敵なセンスを持っていらっしゃる。お義姉様たちはとても素敵。

 私みたいなみっともないのっぽじゃなくて、控えめで、華奢で、可愛らしくて……、いつものように劣等感を感じたけれど、私には素敵な靴があるのだからと、自分で自分を慰めたのに、お義母様の言うとおりだった。

 素敵なガラスの靴は、私にはきつすぎて、出掛けに転んでしまった。しかも二回も。ろくに歩けもしない。ギュッと丸めて押し込めた足はとても痛かった。つま先も、それ以上に踵も。

 二回目に転んだときには、使用済みの灰を思いっきり被ってしまったけれど、ただドレスに身を包んだ綺麗なだけの自分に何の面白みも感じなかった私は、ぴんと来た。

 この姿で舞踏会に出席したら話題になること間違いない。みっともない格好のこの私が。こんな灰まみれの姿でお城に上がって、貴族のご令息、ご令嬢たちの視線にさらされるの。

 そこでどんな言葉が飛び交う? 無様? はしたない? それとも、汚らしい? 考えるだけで興奮するわ。

 現実はもっと素晴らしかった。沢山の侮蔑の視線、お義姉様の冷たい眼差し、そして何よりも……王子殿下!

 あの素敵なお方は、私がきつすぎる靴を履いて、ステップに躓くたびに、私の耳元で囁いた。


「ろくに踊ることもできないのか、この薄汚い雌豚が」


 雌豚ですって!

 

 ああ! もしあの方が私の腰をしっかり支えていなければ、私はその場にひれ伏して殿下の靴を舐めていたに違いない。

 夢のような時間はあっという間に過ぎてしまった。

 門限に間に合うためには残念ながら、素敵な靴は脱ぎ捨てるしかなかったけれど、後悔はしていない。

 じんじんと痛む足と、冷え切った馬車内の空気はまるで、極上のデザートのよう。


 もしも願いが叶うなら。


 いつか衆人環視の中、お義姉様の軽蔑の視線を浴びながら、あのお方に考え得るかぎりの言葉で罵っていただきたいわ。


 今日は眠れそうにもない。でも、夜が明けたらお義母様のお叱りが待っているのよね。


 ああ、お仕置きは一体何かしら?

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