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氷雪の檻と白銀の騎士〜四の姫外伝  作者: 十海 with いーぐる+にゃんシロ
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3.助けを請うはか細き声

 

「ごちそうさま」

「美味かった」


 空っぽになったシャルダンの皿を確認し、エミルは満足げにうなずいた。

 

「よし、ちゃんと食ったな」

「エミル、また腕を上げたね」

「騎士は体が資本だろ? しっかり食って、しっかり体力つけてもらわなきゃな」


 厚切りのサンドイッチと、肉団子のスープ。いかに男二人分と言えど、夜食としてはいささか多い分量だったが、結局三人で分け合ってペロリと平らげてしまった。

 サンドイッチにしみ込んだスパイスと、白菜とカブ、そして鶏肉のうま味の溶けたスープがじんわりと、冷えた体を内側からあっためてくれる。

 後片づけをしながら、ダインは考えていた。正直、気になったのだ。この大雪の中、エミリオはこれからどうするんだろう?

 疑問はすぐに解けた。


「シャル、もうちょっとで交代だろ? それまで待ってる」

「うん!」


 いつの間にやら湯を沸かし、ちゃっかりお茶まで入れていた。要するに、夜勤が開けたら一緒に帰るってことらしい。それを見越した上で弁当を届けに来たとしたら……


(やっぱこいつら、夫婦だ)


 そんなことを考えた矢先。


「あ、パンくずついてる」


 ごく自然な仕草でシャルダンが手を伸ばし、エミリオの口元からひょいとパンくずをつまみとって口に入れた。

 まだ十代の若者だ。これが普通ならたちどころに真っ赤になりそうなもんだが……『よせよ恥ずかしい!』とか何とか言って、大慌てで。

 エミリオは動じる気配も見せず、さらりと


「さんきゅ」


 礼まで言っている。その気負いの無さから伺い知れた。この二人にとって、このレベルのことは日常茶飯事なのだと。


「団長のお嬢さんが、魔術学院に入ったんだって?」

「ああ。初等科にな。飲み込みが早いって、教官も驚いてるよ。徒弟入学の子らと比べて遜色ないとさ」


 徒弟入学、とは個人的に魔術師なり、巫術師に弟子入りしている少年少女が師匠に学ぶ傍ら、学院に通う事だ。基礎が既にできあがっているため、一般の生徒より一歩先んじている。

 四の姫ことニコラ・ド・モレッティは、正式に入学するのに先立つこと一ヶ月、フロウの元に通ってみっちり魔術の基礎を教え込まれていた。今も学院に通う傍ら、ちょくちょく薬草店に出入りしている。


「実際フロウに弟子入りしてるもんな、あの子は」

「それにしたってここ一、二ヶ月のことでしょ?」

「筋がいいんだ。祈念語の書き取りも、もうとっくに俺を追い越してるし」

「あー、それは……」


 口ごもるエミリオの傍らで、さらっとシャルダンが言ってのけた。


「知力のレベルが違うってことですね!」

「う」


 がっくりと肩を落とすダインの背を、エミリオがぱたぱたと叩いて慰めた。 


「この間、うっかり四の姫をお姉さんの三の姫と間違えちゃった。でも、見分けるポイントを発見したんだ!」

「ふーん。で、どこ?」


 シャルダンはこれ以上ないと言うくらい、大らかな笑顔と朗らかな声できっぱりと言い切った。


「胸!」

「……………」

「……………」


 同時にダインとエミリオは、何とも言いがたい表情で銀髪の騎士を見つめた。

 部屋の空気がぴしっと固まったのは、雪のせいだけじゃない。

 二人の微妙な視線を物ともせず、シャルダンは自らの両手で空中に、上から下にすとーんっとまっすぐなラインを描いた。


「こう、四の姫はお姉さんたちと違って、スレンダーって言うか、すとーんっとしてるよね。服もふりふりよりはシンプルなデザインが似合いそうだし……」

「確かにそうだけど。確かにそうだけどさあ」


 ダインはじと目で後輩をにらみ、一方でエミリオは額に手を当て、しばらく考え込んでいた。

 やがて、顔を上げるとぽん、とシャルダンの肩に手をかけ、言った。


「それ、絶対、本人の前では言うなよ?」

「うん、でもどうして?」

「あのお嬢さん、けっこうふりふりとか好きだから!」


 嘘は言ってない。


「そっかぁ。意外だなあ」

「年ごろの女の子だからな!」


(うーむ、何のかんの言いつつ、結果としてシャルダン(あいつ)のど天然暴走を上手く制御してる)


 ダインは思わず知らず唸った。


(さすが付き合い長いだけのことはあるな、エミリオ)


 危険な発言が上手いこと封印され、エミリオとダインがほっと胸をなで下ろしたその直後。


 ガツッ、ガツッ、ガツッ!


 金属の金属の打ち合わされる、鋭い音が響く。外から。さらに言うなら、門の脇の通用口の向こうからだ。

 城門には、大人の背丈よりなお高い扉の脇にもう一つ、通用口が設けられている。鋼鉄で補強された分厚い木の扉で、頑丈な鍵を預かるのは門の警護当番。

 外側には、大きな打戸金ノッカーが取り付けられている。夜間、町を訪れたものはこれを打ち鳴らし、当直の騎士が確認して通用口を開ける。それが決まりだ。


『救いを求む打戸の音、鳴らされし時は一命に換えても開けるべし』

『何人たりとも拒むなかれ』


 今、それが打ち鳴らされた。


 ダイン、エミリオ、シャルダン。三人は、はっと顔を見合わせ、表情を引き締めた。

 雪に難儀しながら、旅人がようやく門にたどり着いたのだろう。防寒用のマントを羽織るのももどかしく、外に飛び出した。と同時にもう一度、ノッカーが鳴った。

 急がなければ。足下にまとわりつく雪も何のその、一足飛びに通用口へと走り寄り、のぞき窓から外を伺う。


「何者だ?」

「助けて。旅の者です」


 か細い声が答える。


「雪で道に迷って、やっとたどり着いたの。お願い、助けて!」


 のぞき窓の向こうでは、姉と弟とおぼしき少女と少年が、ひしと抱き合い、震えていた。

 即座にダインは鍵を外し、通用口を開け放った。


「早く、こっちへ! シャルダン、手ぇ貸せ!」


 鍵をかけ直すのももどかしく、二人を番小屋に運び込む。唇が紫色になった姉弟を暖炉の前に連れて行った。

 二人はほわっと顔をほころばせ、燃える炎に手をかざした。


「もう、大丈夫だからな」

「いいえ。いいえ。いいえ!」


 姉娘が激しくかぶりを振る。


「まだ、お父さんとお母さんが……こ、このままでは、二人とも殺されてしまう」


 ダインとシャルダンは顔を見合わせた。


「殺される、と言ったね。それは、何に? いや、誰に?」


 ぶるぶるる、がくがくと震えながら、姉弟はなおも互いにひしときつく抱き合った。


「大丈夫。すぐに俺達が助けに行くから。だから教えてくれ」

「何に襲われたの、君たち?」


 姉娘が、ぽつりと言った。かすれる声を最大限の努力で振り絞って。

 

「魔物………雪の、魔物」


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