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氷雪の檻と白銀の騎士〜四の姫外伝  作者: 十海 with いーぐる+にゃんシロ
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2.もはや夫婦と人は言い

「そろそろ夜食めしにするか」

「そーですね」


 さりさりと雪は降り積もり、白銀に閉ざされた町は静かに更けて行く。

 交代までにはまだ間が有り、番小屋を訪れる者とてなく。正門脇の通用口の、鋼鉄で補強された頑丈な一枚板の扉が外側から叩かれることもない。

 ただ静かなまま時は過ぎ、受け持ち時間もそろそろ半ばを過ぎようとしていた。

 

 ごそごそとダインは持参した包みを開けた。中には厚切りのパンに挟んだベーコンとチーズのサンドイッチが二人分。間に塗り込んだソースはトマトベースで、たっぷりスパイスが利かせてある。

 備え付けのフライパンに載せ、軽く火であぶってパンの表面を温める。程なく、小さな石造りの部屋に美味そうなにおいが漂い始めた。

 そんな先輩の手元を見守りつつ、シャルダンが首をかしげて一言ぽつり、と呟いた。


「……愛妻弁当?」


 ぶっとダインが吹き出すが、当のシャルダンは構わずのほほんと言葉を続ける。


「彼氏さんが持たせてくれたんですよね、それ」

「……」


(こいつは、また性懲りも無くさくーっと爆弾発言かましやがって!)


 にらみつける視線をものともせず、銀髪の騎士は目を細めてうっとりと立ち上るソースの香りを吸い込んだ。


「トウガラシにジンジャー、ニンニクかあ。いずれも身体を温めるものばかりですね。寒い夜にはうってつけだ!」

「そう、なのか?」

「はい。薬草には詳しいんです」

「そっか……」


 単純に味を濃くするためかと思ったが、ちゃんと自分の体のことを考えてくれていたのか。


「あ、お前の分もあるからな」

「わあ、ありがとうございます! 優しくて気の利く人ですね、先輩の彼氏って!」


 曇りの無い爽かな笑顔で『彼氏彼氏』と連呼されると、何やらいたたまれなくなってくる。

 先だってはこいつのこの『彼氏』発言でえらい事になったのだが……。

 文句は言わないでおこう。結果としてニコラの魔術の才能の開花へと繋がったんだから。


「茶、入れるか。コーヒーのがいいか?」

「あ、飲み物なら心配ないです、そろそろ来る頃だから」

「は?」


 飲み物が歩いてくるのか? 問い返そうとしたまさにその時、ほとほとと誰かがドアを叩いた。


「誰だ?」


 規則通りに誰何の問いかけを投げかける。だが答えが帰ってくるより早く、シャルダンがすたすたと歩いて行って扉を開けてしまった。


「おい?」


(まさか、ほんとにティーポットが歩いてきたのかっ?)


 あり得ない想像を、しかし否定しきれず身を乗り出すと……

 ずいっと鍋を持った手が差し出される。ぴたっと被せたフタのすき間から、もわもわと白い湯気が上がっていた。


「……………鍋?」


 続いて、腕、肩と続き、本体が入ってきた。みっしりと灰色の外套を着込んだ、ダインとタメを張るほどのがっちりした体格の青年。頭にも肩にも、白い雪がまとわりついている。

 部屋の中に入ると、青年はフードをとった。短く刈った黒い癖の強い髪と切れ長の細い目、がっしりした顎が現われる。鼻筋の通った精悍な顔立ちには見覚えがあった。


「飯持ってきたぞ、シャル」

「待ってたよ、エミル」

「………なんだ、エミリオか」


 エミリオ・グレンジャーはきちっと背筋を伸ばして一礼した。


「ダイン先輩、お勤めご苦労さまです!」


 そのガタイの良さに反してエミリオは騎士団員ではなく。魔術学院で学ぶ中級魔術師だった。木属性の魔術に優れ、専門は薬草術。

 シャルダンとは同じ辺境の村の出身で、幼い頃から兄弟同然に育った仲だと聞いている。


「暖炉借りていーっすか? 一応保温の呪文かけて来たんスけど、雪が吹き込んじゃって」

「ああ、構わんぞ」

「あざーっす!」


 エミリオは慣れた手つきで持参した鍋を炉にかけて、フタを外した。肉と野菜の溶けたにおいが立ち上る。


「保温の呪文かけても、冷めちゃったんだ?」

「雪までは防げないからな」

「微妙に不便なんだね」

「魔術は万能じゃないから」


 木杓子で中身をかき回しつつ、エミリオは胸を張って言い切った。清々しいほど爽かに、堂々と。


「それに俺、中級だし!」


 ひょい、と傍らに寄り添ったシャルダンが手元をのぞき込む。


「いいにおい……何のスープ?」

「あー、白菜とカブと、鶏ひき肉の肉団子」

「ずいぶんと凝ったもの作ってくるんだな」


 肉団子は手間のかかる料理だ。ひき肉に調味料や野菜、つなぎとなる粉だの卵を混ぜて、練り上げ、食べやすい大きさに丸めなければいけない。適当に具材をぶった切ってぐつぐつ煮込んだだけの野戦料理とはレベルが違う。


「こいつ、放っておくと肉食わないんですよね。だから食べやすく工夫しないと!」

「なるほど……」

「あ、先輩の分もありますんで」

「そりゃ、ありがとう」

「お皿持ってきたよー」


 かいがいしく鍋を混ぜるエミリオと、てきぱきと食器の準備をするシャルダン。ぴたり息の合った二人を見守りつつ、ダインはぽつりと呟いた。


「君ら、幼なじみっつーよりもはや夫婦だな」

「あ、それよく故郷くにで言われてます」

「そーなんだ……」

 

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