央都防衛戦②
第25話です。
「ハルタ後方からの援護をよろしく頼む。ケルビと呼ばれているあいつは恐らくディアブロの幹部だ。トローニと同様に強いことは間違いないはずだ。全力を尽くすが、もし俺がやられそうになったら真っ先に逃げろ」
「もちろん強いのはわかってるし敵う相手じゃないことも分かってる。だからって親友がやられそうになったら見捨てるような器の人間じゃないよ俺は。安心して、タツキを窮地には追い込ませない。俺が後ろから援護するから」
なんて心強いんだ。俺はこんな友を持てて光栄だと思った。奴らの方を見ると、ケルビはいつになったらかかってくるんだと言わんばかりにストレッチをしながらこちらを見ている。俺たちのことを相当雑魚とみなしているようだ。
「ハルタよろしく頼む」
「うん!」
俺は体に風の加護を纏わせた。徐々に体が軽くなり地面から足が離れた。
「ほー、こりゃあ驚いたぜ。ここまで加護を操れるようになっているとはな」
ケルビが目を細めながらこちらをみた。
俺は空中を蹴って奴に向かって行った。彼の前まで来ると剣を抜き斬撃を与えようとした。しかし彼は避けようとする素振りを見せなかった。俺は構わず奴の体を切り裂いた。
振り返って奴の体を見ると、体には切り裂かれた跡ができ、そこから血がゆっくりと流れて出ていた。なぜ避けなかったんだ?
「ふう。なかなかいい腕だ。どうしたそんな考え込んだ顔して? なぜ避けなかったかしりたいのか?」
「そうだ。なぜ避けなかった?」
「これから分かるさ。よく傷跡を見ていろよ」
奴の傷跡を見ていると流れて出ていたはずの血が止まり、傷が塞がり始めた。魔法か? 今までに見たことがない。ということは奴にどれだけ攻撃しても回復してしまうということなのか?
傷が塞がりきる前に剣を振って斬撃を宙に舞わせて、風の斬撃を浴びさせた。
しかし、先ほどと同じように奴の体にできた傷口はみるみる塞がっていく。これでは奴に攻撃する手段が無いではないか。こんな場面に出くわすのは初めてのことで思考が固まった。
「ヒャッハッハ! 好きなんだよなそういう絶望するような顔! さあどうするお前たち? もう勝ち目はないって?」
ケルビが俺たちの事を豪快に嘲笑ってきた。
「そろそろ俺も攻撃しないとな。つまらなくて退屈してきた」
目の前から奴の姿が消えた。どこに行ったのか見渡していると突然目の前に現れた。そしてにやりと笑うと俺の腹に思い拳を叩き込んできた。俺の口からは血反吐が噴き出した。腹に激痛が走った。これ程の痛みを腹に感じるのは元の世界で刺された以来だろうか。
後ろから氷の槍が放たれて奴の体に突き刺さっているのが見えた。ハルタが攻撃した。勢いのある氷の槍に刺されたケルビは後ろへと飛ばされた。それを見計らって治癒魔法を発動させて自分の体を治療した。
「大丈夫タツキ? 援護が遅れてごめん」
ハルタが近寄ってきた。
「大丈夫だ。あいつは速さが異常だ。それにあの体から放たれる攻撃の破壊力は尋常じゃない」
こんな強い奴には勝てない。打開策を見つけることができない。どうすれば?
「どうした加護持ちお二人さんよ。お手上げか? ヒャッハッハッハ」
再び奴の姿が見えなくなった。俺たちは先程のように目の前に現れることを予測していつでも攻撃できる体勢をとった。だが、奴は目の前に現れない。
「そんな毎回目の前とは限らないだろうが」
奴は俺たちの上にいた。見上げる頃には時はすでに遅く、頭に重い拳を当てられて、そのまま勢いで倒れて地面に体がめり込んだ。
体のいたるところから出血し、肋骨などの骨が数本折れているのがわかった。全身に痛みが走っている。
ケルビが足の裏についた何かを取るように足でぐりぐりと俺の頭を踏みつけた。たったの2発でやられた自分が情けなかった。
「加護はどうした? 俺を倒してシーナちゃんを助けに行くんじゃなかったのか? ヒャッハッハッハ」
奴に頭を踏まれながらもなぜ傷が回復するのかの原理を頭の中で考えた。傷の回復は自己の自然治癒、又は魔法による物しかないと学校で教わった。つまり奴はそのどちらかを素早く行っているということになる。自然治癒にしては早すぎるから魔法だろう。でも奴は一度も詠唱の素振りを見せなかった。ということはハルタと同じく無詠唱で魔法が発動できるのか?
突然周りからつるが伸びてケルビがそのつるに引っ張られていく。ハルタの魔法かと思ったがハルタも俺と同様にして辺りを見回している。
「大丈夫ですか? 立てます?」
地面にめり込んでいた体を起こして声の方を見るとテレシア先生が立っていた。
「テレシア先生!」
テレシア先生は空中での状況把握を副団長から命じられていた。
「上から見ていましたが、そろそろ手を差し伸べて助けなければと思ったのです」
「ねぇねぇ。これはタツキくんとハルタくんの戦いだから手を出して欲しくないんだけどなぁ。もし加わるなら君の相手は僕だよぉ〜」
「いいでしょう。あなたの相手をしてから、タツキさんとハルタさんに加勢しましょう」
「フレイヤ先生、空中から見てて分かったと思うのですが俺たちが戦っている奴はどれだけ攻撃をしても回復してしまいます。どうしてか分かりますか?」
「それはタツキさんあなたの頭に答えが出ているのではないですか?」
「俺の考えでは無詠唱で治癒魔法を連続で唱えて回復しているのかと」
「合っていますよ。彼は何度も治癒魔法を唱えて攻撃を無力化しているだけです。彼の治癒魔法よりも早く致命傷を与えることができれば勝てるはずです。私はもう一人と戦わなければいけないので、頑張ってください」
「分かりました。やってみます」
治癒魔法でそれ以外の魔法が使えないから接近戦法なのだろう。あんなに大きな体をしているのも先程先生が言っていたように致命傷を当てられないようにしているためかもしれない。
「ハルタ俺はこれから奴の心臓を狙う。それまでの援護をよろしく頼む」
「分かった! 速いから気をつけろよ」
とりあえず心臓を覆う筋肉を削ぐことから始めないとな。
今出せる最大の速さを出す為に風を自分の動きとシンクロさせる。そして奴へと向かう。体はぼろぼろで痛みが止まない。が、そんなことを今考えている場合ではない。
「やっとやる気になったか」
ハルタによって形成されたつるが地面から伸びて奴の体を拘束する。それに続いて奴の肉体に包まれた心臓をめがけて切り裂いて行く。奴の治癒魔法よりも早く切り裂く必要がある。
「もっと速く、俺の体もっと速くうごけぇぇぇぇえええええ」
「くそっ! 治癒魔法が追いつかない。俺の治癒魔法を見破っていたのか」
奴の筋肉が削がれてれ、ようやく体の内部が垣間見えはじめた所で双剣から異様な音が鳴り出した。
パリッ パリッ パリッ パリン
見ているもの全てがスローモーションと化した。双剣が割れてしまい、紫色の剣の破片がきらきらと輝きながら宙を待っている。あと一振りで奴を殺れたかもしれないっていうのに。ここに来て中古という裏目が出てしまった。
徐々に傷が塞がっていくのが見える。諦めかけていると横からゆっくりと剣が流れてきた。誰のかは知らないが俺はすかさず手に取って奴の心臓部分に突き刺した。スローモーションが終わった。
奴の心臓から血が噴水のように飛び出し、ケルビが悲鳴をあげた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ゛」
「お前のからくりは簡単すぎた。今まで犯してきた罪を償え!」
奴の心臓へと更に剣をねじ込んだ。すると奴はつるに拘束されたまま死んだ。
剣を抜いて見てみると、見覚えがあった。これは以前ノルデンが見せてくれた彼女の剣だ。
「タツキ、ハルタ、二人ともよくやった」
「ノルデンさん! ガリウドは?」
「あいつなら私が裁きを与えておいた。残念だがな。これについては後にまた話す」
「あーあーあーあー。ケルビやられちゃったよぉ。みっともない。僕は消えるとするかなぁ。文書も得られたようだし。あ、そうだタツキくん。シーナっていう子はそのうち空から降ってくると思うから。またそのうち僕たちはまた会うよ、必ず。じゃあね」
トローニは連れていた竜に飛び乗って合図を送ると、竜は空高く飛んでいってしまった。
「ここは深追いしない方がいいでしょう。今はユグドラシルの安全確認が最優先です。私は状況を見てきます」
テレシア先生はそう言うとどこかへ飛んで行ってしまった。
「ノルデンさん、剣ありがとうございました」
「間に合って良かった。あれを逃したらこいつを殺れていなかったな」
ノルデンがケルビの髪を引っ張り顔を見せつけながら言った。
「そういえばさっきトローニは空からシーナ降ってくるとか言っていたけどどういうことなんだろう?」
ハルタが空を見上げながら言った。空には竜が何匹か旋回して円を成している。目を細めて空を眺めていると何か竜から落とされたのが見えた。鳥の糞のように竜の糞かと思ったが、近づいてくるとそれは人だということが分かった。
俺は加護を纏って急いでそれに近づいた。近くまで来るとシーナというのが分かった。落ちてくるタイミングを見計らって彼女の体を自分の腕の中に優しく迎えた。
シーナは静かな寝息を立てて眠っていた。俺から見える範囲では傷がなくて安心した。
「あれ、私はどこに?」
シーナが目を擦りながら起きた。
「痛いところはないか? シーナはディアブロ達に連れ去られていたんだ」
「タツキ? って私タツキにお姫様抱っこされてい……」
シーナの顔が赤らんだ。
「もう少しで地上に着くから。何せ空からシーナが降ってくるものだからね」
「そうだ、私ガリウドさんに突然襲われて」
「もう大丈夫。安全だから」
「タツキ、あなたの体血だらけじゃない。怪我はしてない?」
「なんとか大丈夫だ。シーナを守るためならなんでもするさ」
「私のために戦ってくれていたの?」
「シーナのため、そして央都のためだ」
「いつもありがとうタツキ」
シーナと目が合いお互いに見つめ合う。恥ずかしいさが体に充満しながらも彼女のガラスのように透き通った目を見つめていると彼女の顔が徐々に俺の下へと近づいてくる。そしてシーナが自分の唇を俺も唇へと重ね合わせてきた。一瞬戸惑ったが、シーナの唇はふっくらとしてそこから彼女のぬくもりが伝わって来た。俺とシーナの間にはいつの間にか愛という感情がうまれていた。唇を離すと互いに微笑み合った。
地上に着くとハルタとノルデンが待っていた。
「いちゃいちゃしすぎだぞお前たち」
腕を組んでノルデンが呆れたように言ってきた。
「すみませんノルデンさん」
「タツキとシーナの顔が赤くなってやんの」
ハルタが笑ってきた。
「よし、ひと段落ついたことだし騎士団集会所へ戻ろう。全員歩けそうか?」
俺、ハルタ、シーナはノルデンに頷いた。
俺たちは騎士団集会所へと向かった。ウルドとカナリアのことが心配になったが、彼らなら無事に帰ってくるだろうと思い、その不安は振り払った。
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