ダンジョン都市スモルリンでEランクに昇格する
聖歴1245年5月10日。太陽は既に南の空に浮かんでいる。
スモルリンと呼ばれるこの街の大通りは、子供から大人まで様々な人たちで溢れている。
その人ごみの中に、腰に一本の剣を差し、少し大きめのバッグを背負っている少女が一人、てくてくと歩いていた。
その少女は、この辺りではあまり見かけない黒髪で、長さは肩にかからない程度で切りそろえられているものの、前髪は目にかかっていて、お世辞にも整えられている髪型とは言えないため、異様な雰囲気を漂わせている。
また、服装もボロボロであるため、一見するとどこかの浮浪児のようである。
そのため、道を歩く人々はその少女とかかわることの内容に、少し離れて歩くようにしていて、少女の目の前には、誰もいないという状況になっていた。
少女は大通りをしばらく進むと、とある建物の前で立ち止まる。
そこは、冒険者という職業の人たちが集まる、冒険者ギルドという場所であった。
冒険者とは、誰でもなることができる職業だ。その仕事としては、街中での雑用や、街の外へのお使いなどさまざまであるが、多くの人の認識では、この世界に存在している謎の場所、ダンジョンを探索することである。
また、冒険者にはランク制度があり、はじめはほとんどの者がGランクから始まり、成果や実績を積むことでランクを上げていく。Eランクになれば、国内の街の移動に税金がかからなくなり、ダンジョンに入ることが可能になる。
そのため、冒険者になった人のほとんどがまずはEランクを目指すことになっている。
ここスモルリンの冒険者ギルドは、お昼時ということもあり、あまり冒険者もおらずガランとしていた。
そのため、ギルドに黒髪黒目の少女が入ってくると、ギルドにいる人の注目を集めることとなる。
「なんだあいつ」「おい黒髪だぞ」
そんなつぶやきが聞こえるが、少女は気にせずに受付に向かっていく。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか?」
「たぶんそろそろEランクになるから確認してもらいに来た」
「……かしこまりました。では冒険者カードの提示をお願いします」
受付の女性は、この黒髪の少女が突飛なことを言ってきたことに対し、疑いの目を向けつつも、その少女のカードを受け取った。
「え~、メイさんですね。現在Fランク。…たしかに、あと少しで昇格のようです。なにか素材などがあるのでしょうか?」
「ここに来るまでに、いくつか魔物を倒してきた。このバッグの中に入ってるけど出してもいい?」
「はい。では、提出をお願いします」
その少女、メイは受付嬢に言われた通りにバッグから、魔物を倒した際に手に入れることの出来る素材や魔石を提出した。
「え?」「おいおい」「うそだろ?」
そのような驚きの声が周りから聞こえる。この驚きは、こんな少女が持ってくるにしては、明らかに魔物の素材や魔石の量が多かったからだ。
「メイさん。これはあなたが?」
「そうだよ」
受付嬢は疑いの目を向けている。
「これだけあれば、Eランクになれるよね?」
「た、たしかに、今のメイさんの貢献度に、これらの貢献度を追加すれば、昇格は可能ですが…」
「おいおいおいおい!冗談じゃねえぜ!」
メイの後ろから、男の冒険者が声を掛けてきた。
「なに?」
「お前みたいなやつが、これほどの魔物を倒せるわけなぇだろ!なぁ?」
と、その男は受付嬢に投げかける。しかし、受付嬢は何とも言えず、黙ったままだ。それを見たメイは受付嬢に質問する。
「もし、この素材が私の倒したものじゃないとしたらどうなるの?」
「…証拠がないのであれば、そのままメイさんの手柄となりますが、もし盗んだなどといった証拠が見つかれば、冒険者の資格をはく奪し、メイさんを逮捕することになります」
「だっておじさん。私が倒したかどうかは関係ないらしいよ」
「てめぇ調子乗ってんじゃねぇよ!」
メイが少し煽ると、その男は殴り掛かって来た。
メイは、男の拳を避けつつ、カウンターで顔面にパンチをお見舞いする。
メイは、体内で魔力を循環させることで発動する《身体強化》ができるので、体に見合わない威力が出る。
そのため、顔面にパンチをくらった男は、鼻を骨折しながら吹っ飛ばされ、後ろにあった机やいすに背中から突っ込む結果となった。
遠巻きにメイたちの様子を見ていた人や受付嬢は、驚きのあまり口をぽかんと開けていた。
メイは、そんな反応をしている周りのことは気にも留めず、受付嬢に話しかける。
「今のは向こうから殴って来たからおとがめなしだよね?」
「……はっはい!急いで換金してしまいますね!」
受付嬢は、急いで作業に取り掛かる。
一方殴り飛ばされた男は、仲間らしき人達に抱えられながらギルドから出ていっていた。彼等にとっては、わずか10歳程度ほどの女の子に殴り飛ばされるというのは、相当恥ずかしいことだろう。
今、ギルドにいた人たちにより、先ほどの男にとって不名誉な噂が広まってしまうだろう。
しばらくたち、受付嬢が作業を完了すると、メイに声を掛ける。
「メイさん、先ほどの素材ですが、すべて合わせまして30000コインになります。よろしいでしょうか?」
「はい」
「それと、今回の納品を持ちまして、メイさんのランクもEランクに昇格させていただきます。Eランクになることで、このドベリン国内では、移動に税金がかからなくなり、Eランクのダンジョンに入ることが可能になります。よろしいでしょうか?」
「大丈夫」
「それと、先ほどの対応に関しましては、謝罪をさせていただきます」
「大丈夫。予想はしてたから」
「…そうですか。本当にすみません。私はティアと申します。今後もメイさんが当ギルドを利用してくれるとしたら、顔を合わせることもあると思いますので、よろしくお願いします。」
「うん、よろしくお願いします」